教材・教授法・授業実践データベース


天然放射性核種を用いた放射化学実験法(XⅡ)-ゼオライトと凝集剤を用いた地下水からの放射性核種の分離 NEW

著者 大西和子、小林陽太、鎌田正裕
掲載雑誌:日本化学会「化学と教育」 vol.68, 40-43, 2020
https://doi.org/10.20665/kakyoshi.68.1_40
対象:中、高校、大学

ラドン222やその子孫核種である鉛214,ビスマス214などが,湧水や井戸水に代表される身近な地下水に含まれていることは少なくない。しかし,その濃度は放射能泉の泉水と比較すると非常に希薄であるため,安価な測定器でその存在や減衰を確認しようとすると,多量の地下水を扱う必要がある。本研究では粉末のゼオライトを沈殿凝集剤PAC(ポリ塩化アルミニウム水溶液)と組み合わせて使用することで,多量の地下水から効率よく放射性核種を集める方法を開発した。本方法で使用する試薬は安全性の高いものであり,開発された教材は,学校近隣にある地下水を利用した探究学習用の課題としても活用が期待できる。

活性炭と地下水を利用した、自然放射線を測定する安価で安全な教育用実験 NEW

著者 大西和子、魚野由希子、鎌田正裕
掲載雑誌:日本科学教育学会「科学教育研究」Vol.43,No.4,pp.451-456,(2019)
https://doi.org/10.14935/jssej.43.451
対象:中、高校、大学

身近な地下水(湧水、井戸水等)にはごく微量のラドンが溶け込むことが知られている。このラドンを直接集めるため、ラドンを吸着する活性炭を用い、大量の地下水を処理することで、微量のラドンを回収することが可能である。この手法によって身近な地下水に含まれる微量な放射線を測定することができる。安価な簡易放射線測定器を用いて連続測定を行うことで、泉水に含まれる放射性核種の半減期や放射平衡を学ぶことができる。

天然放射性核種を用いた放射化学実験法(XI)-ゼオライトによる放射能泉からの放射性核種の分離 NEW

著者 大西和子、國仙久雄、鎌田正裕
掲載雑誌:日本化学会「化学と教育」vol.66, 302-305, (2018)
https://doi.org/10.20665/kakyoshi.66.6_302
対象:中、高校、大学

山梨県の増富温泉の泉水中にはラドン222以降のウラン系列の核種が含まれている。本研究では,粉末にしたゼオライトを用いて,泉水中の鉛214やビスマス214などを分離し,ゼオライト上でそれらの核種が時間とともに減衰する様子を,安価な測定器を用いて簡単に確認できる実験法を開発した。本実験で扱う放射性物質の量はごく微量で,また酸やアルカリのような危険な薬品を一切使用しないので,学校現場での活用が期待できる。

研究領域としての物理教育 NEW

著者 新田英雄
掲載雑誌:日本物理学会誌,71-1, pp.40-43,2016
対象:高校,大学

米国では,物理,化学,工学,生物学,地球科学,天文学といった,理工学の各研究分野固有の教授‐学習過程を対象とする研究領域が成立している。これらを総称して「専門分野を基盤とした教育研究」(Discipline-Based Education Research:DBER)という。DBERに属する各研究領域は背景となる教育学,心理学等の知見や研究手法においては共通部分を多く持つが,立脚している学問分野の専門性に直結した領域固有性を有している。例えば,正しい概念形成が大変難しいとされる作用・反作用の法則を学生にどのように理解させるのかは物理学固有の教授‐学習過程の問題であり,したがって物理教育研究の対象となる。
DBERは各専門分野の教育のための単なるカリキュラム開発や授業法の開発を目的としているわけではない。「研究」と呼ぶからには,過去に積み上げられてきた研究成果に立脚した,オリジナリティーと発展性を有するものでなければならない。また,定量性,再現性,予言性も,自然科学の研究には必須の要素である。もちろん,研究成果が文化・文明や社会の発展に資するものでなければならないのは当然である。本論文では,米国での発展を追うことにより,物理教育研究とは何をする研究領域かを簡単に紹介する。

FCI とピア・インストラクション型授業にみられるジェンダー差 NEW

著者 金森大和,新田英雄
掲載雑誌:物理教育,65-3, pp.139-144 (2017)
対象:中学,高校,大学

高校力学分野の授業で行った力学概念理解度調査FCI,ピア・インストラクション,ワークシートへの記述等から得られるデータに基づいて,ジェンダー差を分析した。その結果,英米と同程度のジェンダーギャップ値があること,顕著なジェンダー差を示す誤概念があること等が分かった。また,ジェンダー差の大きい誤概念に焦点を当てて授業を行うことによるジェンダーギャップ値の変化を調べた。

物理教育におけるコンフリクトマップの実践的研究 NEW

著者 太箸良介,新田英雄
掲載雑誌:物理教育,66-2, pp.99-104 (2018)
対象:中学,高校,大学

生徒の概念変容を目的としたコンフリクトマップの有効性を調べるための実践的研究を行った。作成したコンフリクトマップに基づいて少人数に対する授業を行い,素朴概念から正しい科学概念への変容がどのように生じ,保持されるのかを発話に基づいて調査した。実践から,理解度を考慮して修正したコンフリクトマップは生徒の素朴概念を正しい科学概念に変容させるのに有効であることが示唆された。

形成的評価の活用は概念理解と学習姿勢を向上させるか NEW

著者 西村塁太,新田英雄
掲載雑誌:物理教育,66-4, pp.243-248,2018
対象:中学,高校,大学

筆者の一人が開発した小テストと個票による形成的評価システムの活用度と,物理概念の理解や学習姿勢の向上度との関係を,力学概念調査紙FCI,学習姿勢調査紙CLASS,小テストおよび形成的評価アンケートを複合的に用いて分析した。その結果,形成的評価の活用度が高い生徒群において,概念理解および学習姿勢がともに向上していることを見いだした。

An Alternative Learning Gain Based on the Rasch Model  NEW

著者 Hideo Nitta and Takuya Aiba
掲載雑誌:The Physics Educator,1-1, pp.1950005-1-1950005-7,2019
対象:高校,大学

Using the Rasch model for the pretest–posttest analysis, a learning gain, the “Rasch gain”, is introduced as the simple difference of the estimated ability parameter for students. It is shown that, although the Rasch gain strongly correlates with the normalized learning gain introduced by Hake, the Rasch gain has advantages over the Hake gain as a scientific measure.

ピア・インストラクションにおける生徒間相互作用の分析 NEW

著者 後藤敬佑,新田英雄
掲載雑誌:物理教育,67- 4, pp.227-234,2019
対象:中学,高校,大学

ピア・インストラクション(PI)における議論で,生徒間の相互作用がどのように機能しているのかを示すことを目的として,「物理基礎」で実践したPIの議論の発話プロトコル分析を行った。分析の結果,議論が「PI成立型」,「未解決型」,「分裂型」,「PI失敗型」,「リーダー主導型」の5つに分類でき,PI成立型と非成立型とでは議論前後の正答率に有意な差があること,生徒の理解度と問題の正答率とが対応しているわけではないことが見出された。また,誤概念に基づく発言によってPIの議論が収束せず終了したケース,良くない影響を与えたケースなど,具体例で議論の実態を明らかにした。

新たな概念調査紙と評価方法の開発 NEW

著者 新田英雄
掲載雑誌:物理教育,68-3, pp.195-198,2020
対象:中学,高校,大学

概念調査紙を授業前後の物理概念の理解度調査に用い,Hake の規格化ゲインによって授業効果を評価する手法が日本でも定着してきた。しかしながら,米国で開発された調査紙群は日本の教育課程と整合していないため使いにくい等の問題点が指摘されている。一方,規格化ゲインにも問題点があることが指摘されている。本論では,これら問題点を解決する方策として,日本型の新たな概念調査紙を開発し,それを Rasch モデルや項目応答理論によって分析する方法について論じる。

学習者主体の理科授業の開発 ―次世代中核的理科教員の養成を目指して― NEW

著者 植松晴子, 佐藤尚毅, 松本益明
掲載雑誌:東京学芸大学紀要 自然科学系, 70, 15-29, 2018
対象:大学

変化の速い現代社会において必要な問題設定能力・問題解決能力の育成には、理科における観察・実験が有効であると考えられる。理科教員として学校現場での中核的役割を担う教員養成カリキュラムの開発を視野に入れ、大学の実験・演習授業を知識・技能の伝達に重点が置かれた受動的なものから、学生が主体的に関与する能動的なものへと改革するテーマを開発し実践した。

認証標準物質を用いて環境試料の放射能濃度定量を行う放射線教育用教材の開発

著者:佐藤公法,中島輝
掲載雑誌:RADIOISOTOPES 巻:67 ページ:583-589 発行年:2018 対象:中学・高等学校

認証標準物質を用いて環境試料の放射能濃度定量を行う放射線教育用教材の開発を行った。この教材では,放射性セシウムの一般食品の基準値程度の低い放射能濃度を定量できる。様々な土壌試料と食品試料の137Cs の放射能濃度を定量する試みを,東京学芸大学大学院修士課程正規授業で実践した。その結果,土壌の汚染や食品の安全に関して受講者の理解が進んだだけでなく,放射線災害に対するリスク認知の主観性や対策の公平性の観点からも意識向上が図られていることがわかった。

放射線数え落としによる放射線強度距離逆二乗則からの逸脱に与える影響 - 中学・高等学校の理科教員養成の試みを通して -

著者:佐藤公法,村上英興,高下泰嗣
掲載雑誌:東京学芸大紀要 自然科学系 巻:69 ページ:157-163 発行年:2017 対象:中学・高等学校

放射線外部被ばく防護の三原則の一つである放射線強度の距離逆二乗則(放射線強度が距離の二乗に反比例して減少すること)を実践するための最適な実習環境について考察した。測定時間,関心領域,バックグラウンド,放射線源強度が放射線強度の距離逆二乗則に影響することがわかった。とりわけ放射線源強度が強くなると,パイルアップによる放射線の数え落としが発生するため,測定データが逆二乗則から大きく逸脱する。本研究で用いたような放射線計測システムを講義室レベルで用いる場合,計数率で4 count per second(250 count per minute)程度の低線量環境で実習を行うことが望ましいという結果が得られた。

中学校および高等学校理科教員養成のための高度放射線教育カリキュラムの開発

著者:佐藤公法,村上英興,竹内達哉,安見周平
掲載雑誌:RADIOISOTOPES 巻:66 ページ:633-640 発行年:2018 対象:中学・高等学校

中学校及び高等学校の理科教員養成のための放射線教育カリキュラムを提案する。このカリキュラムでは,コンクリートなどに含まれる40Kから放出されるγ 線エネルギーの測定,物質中のγ線透過率の測定など,これまでのカリキュラムより実践的で高度な内容を取り扱う。このカリキュラムの特徴の一つは,放射線計測システムとしてCdZnTe半導体検出器を教材に用いることである。CdZnTe半導体検出器は安価で小型であるだけでなく,取り扱いも簡便であるため,放射線教育用カリキュラムへの使用に適している。もう一つの特徴は,γ 線源として,表示付認証機器である放射能標準γ線源を教材に用いることである。これにより,講義室での高度放射線教育カリキュラムの実践が可能になる。

「放射線外部被ばく防護三原則の実験指導」に関する教材開発と評価:中学校理科教員を対象に

著者:佐藤公法,竹内達哉,安見周平
掲載雑誌:東京学芸大紀要 自然科学系 巻:68 ページ:83-90 発行年:2016 対象:中学校

放射線外部被ばく防護に関する実習を講義室レベルで実践する中学校理科教員を対象とする研修用教材を開発した。開発した教材では,放射線や放射線計測の基礎事項の概説に加えて,放射線外部被ばく防護三原則である(1)距離による防護,(2)時間による防護,(3)遮へいによる防護について講義と実習を行う。この教材を用いて学部生,大学院修士課程学生,現職教員に対して研修を行った結果,ほとんどの研修参加者が放射線外部被ばく防護三原則の実験指導を行うための知識や技術を習得できたという結果を得た。

万人に効果的な教授法はあり得るか

小林晋平
工学教育、61(3) pp.80-84、(2013)、対象:高・大

著者は群馬工業高等専門学校において、高校レベルの「力学基礎」「物理」、および大学教養レベルの「力学」「電磁気学」「熱力学」「Fundamental Mechanics(英語による力学の講義)」などの講義を担当したが、5年間(当時)連続して学生から「ベストティーチャー」に選ばれた。著者が担当したクラスの成績は他クラスよりも常に有意に高かったが、学生アンケートなどをもとに、その理由が「難しさの分解」などの、これまで高専や理工系大学では意識されてこなかった教育の視点や方法にあることを分析した。

光の軌跡を用いた物理法則に対する大域的な観点を育成するための授業

小林晋平
東京学芸大学紀要自然科学系 第69巻 55-90頁(2017)対象:大

自然現象を理解する際には、通常は力のやりとりや近接相互作用のような局所的なメカニズムからのアプローチがなされる。運動方程式に代表されるこうした「局所的アプローチ」に対し、物理学には「大域的なアプローチ」も存在する。その典型が最小作用の原理である。作用に基づいて自然現象を理解することは、保存則と対称性の結びつき、すなわちなぜ自然が「美しいか」を明らかにすることに繋がる。ここではそうした大域的なアプローチとはどういうものか、また局所的なアプローチとどういった関係にあるのかを理解させる授業として、「光の進み方」を用いることが有効であること、また大学生に限らず、小中高校生にもそれを伝えることは十分可能であり、そのための具体的な授業展開法を考案した。

日本の相互作用型授業と物理教育研究

新田 英雄
物理教育 Vol. 64 (2016) No. 3 pp.204-208

教育の知見は,あらゆることが再発見されていると言われてきた。戦後日本における物理教育研究の歴史は,1953年に刊行され始めた物理教育学会誌に刻まれている。過去の本学会誌を概観してみると,日本の物理教育研究の特色は,実験開発にあることがわかる。このことは,物理教育国際会議において,Stray Catsが開催してきた実験演示が,また最近ではLady Catsの簡易実験ワークショップが,会議の名物としてすっかり定着していることからもうかがい知ることができる。
一方,授業法に関する研究は,実験開発に比べれば少数にとどまっていた。ただし,1962年という早期に,相互作用型授業の先端的な研究が発表されていることは注目に値する。藤島は,理科学習への興味を調査し,理科嫌いをつくっているのは内容の問題なのか,それとも授業法の問題なのかを明らかにするため,2つのクラスで講義型授業と,グループ学習型授業とを並行して実施した。そして,グループ学習では「驚嘆するほど生徒の学習意欲ができてきた」「物理的事象への理解が深まり,問題解決の能力が日毎についてきた」等,生徒の態度が大きく変化しただけでなく,成績も向上したことを報告している。しかしながら,この藤島の研究は,発展していくことはなかった。
また,いわゆる生徒が持つ生活経験に根差した素朴概念がいかに強固であるかも,半世紀以上も前から指摘されていた。例えば柏木は,等速直線運動している物体にもかかわらず進行方向に力が働いている(力を持っている)と考える生徒が多いことに気づき,指導を丁寧に行ったが,その後に実施した試験で,予想よりもはるかに正答率が低かったことを1957年に発表している。柏木は言う。「この考査で半数の者が物体の進む方向に力を記したことは,十分注意して授業で扱っただけに意外な結果でいささか失望させられた。何人かの生徒には説明の仕方がなお不十分であったのかも知れないし,その時ぼんやりして聞いていなかった者もあったには違いないが,それが全体の半数にもなるとはどうしても思えない。むしろこのことは4か月たつ間に教育効果をけしてしまう程力に関する誤りの根が深いことを示しているのであると思う。」つまり,1957年という早期に,柏木は,生徒がもつ素朴概念が非常に強固であり,十分注意を払った授業でも生徒に定着させることが困難であることを発表していた。残念ながら,柏木の素朴概念に関する問題提起が,日本における物理教育研究の大きな流れとなって発展していくことは,やはりなかった。
日本における物理教育研究の転機は,2006年に東京で開催された物理教育国際会議であるといえる。同会議を契機として,米国流の物理教育研究(PER, physics education research)の潮流が,日本の物理教育界にも流れ込んできたのである。最近では,Redish著,本学会監訳による「科学をどう教えるか」の出版によって認知科学の基本的な知見や相互作用型の授業法,授業評価法等のPERの基礎が広く紹介され,多方面に影響を与えている。これらの背景の中で,日本においても,ピア・インストラクション,相互作用型演示実験講義(ILDs,Interactive Lecture Demonstrations),チュートリアル,探究による物理(PbI,Physics by Inquiry)などの相互作用型授業法への取り組みが研究ベースで行われ始め,本誌に報告されるようになった。
ところで,日本においても,これらPERの影響による研究のかなり以前から,主に小学校,中学校の理科教員らの自主的な研究サークルによって,独自に相互作用型の授業法が開発され実践されてきた歴史がある。これらの授業法は,塚本が「仮説実験授業」との関連で論じているように,様々な面でPERによるものと共通する部分がみられる。これら日本独自の授業法に関する報告は本学会誌ではほとんどなされていないが,特に玉田泰太郎のいわゆる「玉田方式」と板倉聖宜の「仮説実験授業」は,1960年代から,実践記録をはじめ多くの文献が刊行されている,確立された授業法である。今後,PERの潮流の中で,日本における相互作用型の物理教育研究をさらに発展させていくためには,これらの授業法を再評価し,物理教育研究の中に位置づけていく必要がある。

「振り返り」を導入したピア・インストラクション型授業

西村 塁太, 新田 英雄
物理教育 Vol. 62 (2014) No. 1 pp.7-12

文科省がアクティブ・ラーニングの導入を推進する方針となって以来,相互作用型授業に関する研究や実践が盛んに行われている。その中でも,Mazurによって開発されたピア・インストラクション(PI)は,カリキュラムや設備の大幅な変更を必要とせずに,幅広く適用することのできるアクティブ・ラーニングである。また,クリッカーと呼ばれる無線回答集計システムを用いることで,データの収集と教育効果の数値化が容易にできる。
本研究グループでは2008年度から,東京学芸大学附属高等学校の生徒を対象に,大学院生を授業者としてPIを導入した物理授業(PI型授業)の実践的な研究を行ってきた。そして,クリッカーからのデータによってPIの効果を定量的に表すことができること,FCIによる事前・事後調査等によってPI型授業は一定の効果が得られることを,数値的に示してきた。
2012年度からは,生徒のメタ認知を促進することを目的として,新たに「振り返り」を導入したPI型授業の実践を行ってきた。また,教科書の活用を図るための「予習」を導入した。なお,これらの導入に際しては市川伸一の「教えて考えさせる授業」を参考にした。本論では,まず「振り返り」を導入したPI型授業がどのような授業であるかを示した。続いて,PIの効果を数値化するための量であるPI効率やHakeの規格化ゲイン(以下Hakeゲイン),「振り返り」および「予習」の数値的な評価を用いて,実践結果の定量的分析を行った。「振り返り」を数値化するための変数としては「内容の深さ」と「文字数」を用いることを試みた。原論文は
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pesj/62/1/62_KJ00009263146/_pdf
よりダウンロードできる。

素朴概念の分類

新田 英雄
大学の物理教育, 13 (2), pp. 91-94. (2007), 対象:大

生徒は,物理を学ぶ前から,物体がどのように運動するかを予測し得る程度に,運動の規則を認識している。だからこそ,キャッチボールをしたり自転車をこいだりできるのである。認知科学によると,それらの個別の運動現象に関する知識は,経験を積む中でカテゴリー別に記憶がまとめられていき,概念となる 。たとえば「力を加え続けない限り,物体はやがて止まる」というよく知られた素朴概念 は,おもちゃを動かしたり自転車を滑走させたりといった多くの経験の中から帰納された概念といえる。このような概念は,身の回りの様々な運動を予測したり説明したりすることに役立っているという意味で,科学的に正しいニュートン力学とは異なるものの,一種の「運動の法則」の役割を果たしている。
生徒が物理授業を受ける前から有しているこれらの素朴概念は,正しい物理法則の理解の妨げとなる場合がある。たとえば,「力を加え続けない限り,物体はやがて止まる」という素朴概念を持つ生徒にとって,ニュートン力学の「等速直線運動をしている物体には力がはたらいていない」という基本法則は,自分の考えと矛盾しているように感じられる。このような概念の競合が生じている場合,それを明快に解消させる形で学習が進まない限り,力学を正しく理解することは難しい。矛盾が残されたまま授業が続くと,素朴概念の寄せ集めとしての「運動の法則」と,教室で教えられた運動法則との,2つの知識体系を持つ生徒が育ってしまう。この場合,自分の経験と矛盾する科学的知識は試験が終わるとともに捨て去られ,結局は知覚経験に基づく素朴概念だけを維持することになる。言い換えると,力学を本当に理解させるためには,生徒が素朴概念を築き上げる根拠となった現象や経験事実を,力学によって一貫性のある形で再解釈させ,力学の運動法則の方がより合理的かつ強力であることを納得させなければならないのである。このような概念変容を必要とする教育は,知識を持たない白紙の状態の生徒に何かを教えるよりも困難な作業である。
この,困難な作業としての物理教育を成功させるためには,生徒がどのような素朴概念を持っているかを教師がよく知っていることが必要条件となる。実際,長年教えてきた物理教師は,それらを経験的に知っているものだが,若手教師は,生徒の素朴概念を知らずに授業をしてしまう場合が多い。実際の授業を担当する前に,生徒の持つ素朴概念をある程度知っておくことは,物理教員を志望する学生や若手教師にとって有益であろう。そこで本論では,力学に関する主な素朴概念を,分類表としてまとめた形で提示することを試みる。下に得られた分類表を示す。詳細は原論文
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pesj/60/1/60_KJ00007943563/_pdf
に譲る。

表1: 素朴概念の分類表

考察の原理
 経験原理 内容 自分の経験をもとに運動を考察する
初学者の考え方 物体の運動を予測するとき,その状況に近い自分の経験を検索して参考にする。特に力の概念は五感に強く依存する
線形応答の原理 内容 原因の大きさと結果の大きさはだいたい比例する
初学者の考え方 物体に加えた力と生じる速さは比例する,など。比例係数の役割は認識されている場合とそうでない場合がある
運動の因果性原理 内容 すべての運動にはそうなる原因がある
初学者の考え方 運動の原因を説明して満足する
自己中心座標 内容 自分の目で見ている立場の座標で考える
初学者の考え方 慣性力を実際の力と区別できない
力の種類
内なる力 内容 運動する物体は力を持っている
初学者の考え方 質量や速さが大きいほど大きい。最初の向きに特別な意味があると考えることもある
重力 内容 物体の落下しようとする傾向
初学者の考え方 離れて働く力は理解しがたい
摩擦力 内容 面の接触によって生じる,動きを妨げる性質
初学者の考え方 摩擦が力の一種とは思えない
力の作用
動かす力 内容 「内なる力」を与え,力の向きに運動を引き起こす
初学者の考え方 力を与えた向きと運動の向き及び速度の向きは一致する
動かし続ける力 内容 運動を維持するために加え続けられる
初学者の考え方 外力または動力源によって力を加え続けないと動き続けることはできない
つりあう力 内容 競合する2つの力がはたらいている物体が静止しているとき,その2力は等しい
初学者の考え方 止まっているときに力がはたらいているとは思えない
貫く力 内容 外力は中間の物体をすり抜けて伝わる
初学者の考え方 つながった物体を分けて考えることができない
力によらない作用
支える 内容 落下を妨げる
初学者の考え方 机の上に置かれた本は単に支えられているのであって,力が加わっているとは思えない
妨げる 内容 運動を妨げる作用
初学者の考え方 物体の進行方向にある障害物は単に運動を妨げるのであって,物体に力を及ぼすとは認識されない
抵抗する 内容 加えられた力に抵抗する
初学者の考え方 壁を押したときの反作用力は力と認識されず,押されたことに抵抗しているだけ
運動の規則
力の供給 内容 運動には「内なる力」を供給するための力が必要である
初学者の考え方 等速直線運動のときの合力がゼロになるとは思えない
消えゆく 内容 物体の「内なる力」は徐々に失われる
初学者の考え方 内なる力は自発的に失われていく場合と,まさつなどで失われる場合がある
力の優勢 内容 重い・大きい・頑丈な物体の方が大きな力を相手に及ぼす
初学者の考え方 衝突後の相手の速さや壊れ方で大きさの優勢が決まる
遅れる 内容 原因が結果をもたらすまで時間がかかることがある
初学者の考え方 重い物体を押すときなど,力が加わっても加速度が生じるまでに時間がかかる
ガイドされる 内容 経路に沿って運動する
初学者の考え方 どのような力が加わっているかという考察は行われない
片対数方眼紙の改良が実験授業にもたらしたこと

荒川 悦雄, 鴨川 仁
大学の物理教育, 13 (2), pp. 91-94. (2007), 対象:大

自然対数仕様に改良された最新の片対数方眼紙を理科系学部学生向けの物理学実験授業に導入したことを、使用例を示して説明した。単純な手順によって、指数関数の定量的な解析ができるため、数学の学習歴に不安のあった学生らにとっては、履修上の励ましとなることがわかった。進んだ学生らにとっては、どのように改良が施されたのかを証明したくなる気持ちがわくこともわかった。片対数方眼紙の仕組みに関する数学的な理解の作業と学生実験授業で行いたい物理学的な現象の記述という作業とを分離することができたうえ、これらの作業の順序を交換することもできるようになった。

磁力による作用反作用及び運動量保存の実験

西慶 悟, 新田 英雄
物理教育, 55 (2), pp. 135-137. (2007), 対象:中~大

作用反作用の法則は,中学校レベルの学習内容であるにもかかわらず,高校生はおろか大学生,さらには教育者側にすら理解されていない場合もあることで有名な物理法則である。教育上の観点からすると,作用反作用の法則は,生徒を「わかった」という気にさせにくい物理概念の典型例といえるだろう。 作用反作用の法則に関する説明の多くは,机の上におかれた本のように,接触する2物体間にはたらく力(本論では,このような力を「接触力」と呼ぶことにする)に基づいている。そのため,重力のように離れてはたらく力(本論では,このような力を「遠隔力」と呼ぶことにする)に対する作用反作用の法則の理解が難しくなっている。「机に置かれた本にはたらく重力の反作用は,机が本に加える垂直抗力だ」とする典型的な誤りは,「遠隔力」に対する理解不足も一因と考えられる。一方,運動量保存の法則に対しても,多くの説明が, ボール同士の衝突といった「接触力」を及ぼし合う例を用いている。そのため,万有引力やクーロン力のような「遠隔力」で相互作用している物体間には,運動量保存則が成立しないと誤解している生徒もいる。以上のような問題を解決するには,「遠隔力」で相互作用する物体の運動を実験し,その中で作用反作用の法則と運動量保存則が成り立っていることを生徒に示すのが理想的である。しかしながら,筆者らの知る限り,衝突時の力積を求める実験や,バネばかり,ゴムひもを用いた実験はあるものの,「遠隔力」による実験例はない。そこで筆者らは,ネオジム磁石の磁力の強さに着目し,その引力によって力学台車を運動させる実験を開発した。その結果を解析することにより,作用反作用の法則と運動量保存の法則が運動中も成立していることが確かめられることを示した。

Calculation of Potential Energy Concerning “H + Cl2 → HCl + Cl” and Production of CG movie for Learner to Acquire Its Image with Structures of Reactants and Reaction Profile NEW

Akira IKUO, Yosuke KOJIMA, Yusuke YOSHINAGA and Haruo OGAWA
Journal of Computter Chemistry, Japan, 15(1), pp. 1-6 (2016)、対象:高・大・教

H + Cl2 → HCl + Clの反応について量子化学計算に基づき遷移状態近傍の構造変化に対応するポテンシャルエネルギー変化を求め2Dおよび3DのCG動画を作成した。
詳しくは,http://doi.org/10.2477/jccj.2015-0005

A basic experiment program of physical chemistry utilizing PC - Determination of heat of dissolution of NaCl – NEW

Akira Ikuo, Yusuke Yoshinaga, and Haruo Ogawa
Chemical Education Journal (CEJ), Vol. 15(2) (Serial No. 29), Registration No. 15-112 (2014)、対象:高・大・教

塩化ナトウムの溶解熱をPt-100センサーを接続したデーターロガーにより測定し,エントロピー計算により水和数を導出する迄を到達点として専門実験プログラムを開発した。プログラムは熱量の測定原理の習得ばかりでなく,データの解析に基づく物理化学的考察(熱力学的な系の取扱)や,Excelを利用した統計処理技術などの技能の獲得がなされるように配慮される。
詳しくは,http://www.edu.utsunomiya-u.ac.jp/chem/v15n2/112Ikuo2/Ikuo112.html

CG Teaching Material Based on Quantum Chemical Calculation: An Approach to the Electronic Textbook of Basic Chemistry Linking Chemical Experiments NEW

Akira Ikuo, Yusuke Yoshinaga, and Haruo Ogawa
Chemical Education Journal (CEJ), Vol. 15(2), Registration No. 15-109 (2014)、対象:大・教

Walden反転のモデルとして,クロロメタンの水酸化反応について量子化学計算に基づきCG教材を作成した。
詳しくは,http://www.edu.utsunomiya-u.ac.jp/chem/v15n2/109Ikuo/Ikuo.html

Development of experimental program for acquisition of equilibrium concept: from a standpoint of energy concept NEW

IKUO Akira, ICHIKAWA Maki, YOSHINAGA Yusuke, and OGAWA Haruo

化学IIの教科書の調査に基づき,エネルギーの視点から平衡の概念獲得のための実験学習プログラムを開発した。そこにはBr2の気液平衡,N2O4とNO2の平衡やダニエル電池の実験やそれらの熱力学的計算が含まれる。
詳しくは,http://www.edu.utsunomiya-u.ac.jp/chem/v13n1/05_1p4_6.pdf

燃料電池を題材とする実験プログラムの作成と実践 NEW

生尾 光,岡田修一,吉永裕介,小川治雄
科学教育研究, Vol. 33(3), pp. 201–213 (2009)、対象:小・中・高・大・教

エネルギー概念の視点から捉える燃料電池を題材とした実験学習プログラムを作成した。そこには,光合成と燃焼,水の電気分解とその逆反応を利用する燃料電池,さらに発展としての光エネルギーの利用が含まれる。
詳しくは,http://doi.org/10.14935/jssej.33.201

中・高等学校での化学における実験スキルの分析と有効数字を活かす実験スキル教材の開発 - 鉄の燃焼反応を例に - NEW

小川治雄,高野博維,生尾 光,吉永裕介,藤井浩樹
東京学芸大学紀要 自然科学系, Vol. 61, pp. 29-46 (2009)、対象:中・高・大・教

中・高等学校での「理科」や「化学I・II」の新教科書を主な対象として,実験スキルの分析を行いその階層を4つに大別した。また,有効数字を基に,可能な限り必要な実験スキルを含む鉄の燃焼の実験を開発した。
詳しくは,http://hdl.handle.net/2309/107112

教師教育用学習プログラムの開発: 食塩を題材とする実験プログラムを例として NEW

生尾 光, 吉永裕介, 小川治雄
科学教育研究, Vol. 32 (1), pp. 39-55 (2008)、対象:小・中・高・大・教

現職の小・中学校教員を対象とした食塩を題材とする実験学習プログラム(溶液,構造,状態そして質量と体積)の紹介を介し,実験学習プログラムの作成の方針および方法,作成,そして,試行と評価の結果を報告した.
詳しくは,http://doi.org/10.14935/jssej.32.39

パソコンを活用した物理化学実験 - KClの溶解熱の測定 -

生尾 光, 吉永裕介,長谷川貞夫,小川治雄
東京学芸大学紀要 自然科学系, Vol. 59, pp. 27-35 (2007)、対象:高・大・教

デジタル温度計により塩化カリウムの溶解熱を測定し,エントロピー計算により水和数を導出する迄を到達点として専門実験プログラムを開発した。プログラムは熱量の測定原理の習得ばかりでなく,データの解析に基づく物理化学的考察(熱力学的な系の取扱)や,Excelを利用した統計処理技術などの技能の獲得がなされるように配慮される。
詳しくは,http://hdl.handle.net/2309/70830

連載 一歩踏み出す勇気!理科授業で使える面白教材4 スチールウールでカイロを作る NEW

小川治雄, 生尾 光
楽しい理科授業, 7月号, 裏表紙及び見返し, 明治図書 (2007)、対象:小・中・高・大・教

前もってスチールウールを鋏で混ぜやすい程度の大きさ(約5mm幅)に切ってほぐしておきます。ビンに所定量のスチールウール,すりつぶした活性炭(冷蔵庫の脱臭剤),食塩を入れ,そこに水を加えてよくかき混ぜます。ビンに触れて暖かくなってくるのを確認しましょう。内容物をティッシュペーパーで包み,更にビニール袋で包装します。ゼムクリップで外から数箇所温度調節のための穴を開けてカイロのできあがりです。反応前後で磁性をもつ鉄(Fe)が主に酸化水酸化鉄(Ⅲ)[FeO(OH)](磁性を持たない)に変化するため,磁石と水に浮かぶ手製のアルミ船で確かめることができます。
参考:https://www.meijitosho.co.jp/edudb/detail.asp?code=06491_A03

USER-FRIENDLY CG VISUALIZATION WITH ANIMATION OF CHEMICAL REACTION: ESTERIFICATION OF ACETIC ACID AND ETHYL ALCOHOL AND SURVEY OF TEXTBOOKS OF HIGH SCHOOL CHEMISTRY NEW

Akira IKUO, Yu IKARASHI, Tetsuya SHISHIDO, Haruo OGAWA
Journal of Science Education Japan(科学教育研究), Vol. 30(4), pp. 210 -215(2) (2006)、対象:高・大・教

酢酸とエタノールのエステル化について量子化学計算に基づきCG動画を作成した。
詳しくは,http://doi.org/10.14935/jssej.30.210

物理化学実験-アボガドロ定数の測定- NEW

生尾光,江沼直樹,寺谷敞介,長谷川貞夫,宍戸哲也,小川治雄
化学教育ジャーナル(CEJ), Vol. 8(2), 採録番号8-10 (2005)、対象:高・大・教

天日塩の劈開による容易で再現性のある試料調製と、個別対応のX線回折データを精度良く読みとるプログラムNAZCAを組み合わせることにより学生実験向けのアボガドロ定数を求める実験プログラムの提供が可能となった。
詳しくは,http://www.u-gakugei.ac.jp/~ikuo/avogadro/avogadro.html

物理化学実験 -安息香酸のアルミナへの吸着- NEW

小川治雄,井出裕子,生尾 光,長谷川貞夫,寺谷敞介
東京学芸大学紀要 第4部門 数学, 自然科学, Vol. 52, pp. 13-19 (2000)、対象:大・教

吸着現象を液相系で捉え,分光法を用いての定量や吸着種の解明までを到達点とした専門実験プログラムを開発した。プログラムは,機器測定操作とその原理の習得ばかりでなく,データの解析に基づく物理化学的考察(分子や系の挙動に関するイメージを数学的手段を用いて実験により検証)や,コンピュータ(PC)操作による統計処理技術などの技能の獲得がなされるように配慮される。
詳しくは,http://hdl.handle.net/2309/35942

コンピュータ顕微鏡でみる化学反応 -水と二酸化炭素の反応- NEW

生尾 光, 市川朋美, 寺谷敞介
Journal of Chemical Software, Vol. 6(2), pp. 45-54 (2000)、対象:高・大・教

水と二酸化炭素が反応して炭酸を生成する反応において,一分子の水より二量体の水のほうが二酸化炭素と反応しやすい。この二つの反応について半経験的分子軌道法(MOPAC)により量子化学計算を行った結果,非経験的分子軌道法のそれをよく再現し,十分信頼性のある反応プロフィールを描くことが分かった。計算結果に基づきコンピュータグラフィクス(CG)を作成し,動画にした。
詳しくは,http://doi.org/10.2477/jchemsoft.6.45

「理科室の安全な管理の仕方と安全な実験方法:薬品の管理・取扱・廃棄の方法と物質領域の実験で必要とされるスタンダードテクニックの習得」に関する教材開発と評価

中野 幸夫、吉原 伸敏
東京学芸大学紀要自然科学系,67,pp239-252(2015), 対象:小

本論文では,小学校の理科室の日常的な安全管理や安全に理科の実験を行うために必要な知識と経験を教員に修得させることを目的とし教材開発を行った。小学校の理科室にある薬品の正しい管理・取扱・廃棄の方法と物質領域の実験で必要とされる基礎的な実験手法,標準的な実験器具の取扱い,一般的な実験手順などのスタンダードテクニックの習得を目標として教材は作成された。本研究で開発した教材は,主に➀薬品の管理・取扱・廃棄の仕方,➁上皿天秤の正しい使い方,➂酸素ガス発生と燃焼後の気体分析の実験の3つの題材について講義・実習実験を行う構成となっている。この教材を用いて教員研修を実際に行った結果,ほとんどの教員が安全な理科の実験を行うために必要な知識・経験を得て,物質領域の実験で必要とされるスタンダードテクニックを習得したという結果が得られた。

探求活動における実験の正確性

長谷川 正, 安間 貴, 山崎 裕子
化学と教育, 51, pp.193-194(2003), 対象:中~大

インターネットにより容易に探求活動のモデル実験を入手できるようになっており学校現場での理科教育においても活用されているが、探求活動として実験を行う場合には、インターネット上で記載されている実験結果を利用するだけでなく実験方法について十分考察し、実験の精度と正確性に注意しないと誤った結果を導くことを実験に基づいて指摘し、学校現場での理科教育の在り方について述べた。実際の例として、白い卵と赤い卵の殻中の炭酸カルシウムが78.6と55.5%と白い卵の方が多いという実験結果 があるが、これを実験条件を検討して行ったところ、卵殻の粉砕法と酸の濃度に依存して炭酸カルシウムの含有量が変わることが明らかとなり、適切な実験条件にすれば白い卵も赤い卵の殻中の炭酸カルシウム量は実験誤差内で同じであることを明らかにした。

スモールスケールの有機合成実験:酢酸ブチルの合成とプラモデル用セメダインの作製

長谷川 正, 今瀬 禎宏, 山崎 裕子
化学と教育, 45, pp.43-44(1997), 対象:高・大

スモールスケールで酢酸とブタノールより酢酸ブチルを合成し、これを単離するための学校現場で簡単に作成できる蒸留器を考案した。また、得られた酢酸ブチルを溶材としてポリスチレンを溶かしプラモデル用セメダインを作る教材も開発した。酢酸及びブタノールを各1mLと濃硫酸0.5mLを試験管に入れ、120℃のオイルバス中で10分間加熱した。反応混合物を水5mL中に注ぎ、静置後スポイトで水層を取り除き、再度水5mLを加えて洗浄してから水層を除いた。5%炭酸水素ナトリウム2mLで2回、水5mLで2回洗浄し、得られた有機物に塩化カルシウム1粒を入れて減圧蒸留し0.6gの酢酸ブチルを得た。これに0.06gの発泡スチロールを溶かしプラモデル用セメダインを作製した。

簡易ハンドバーナーを利用した実験教材としての金属の精錬

長谷川 正, 後藤 顕一
化学と教育, 43, pp.660-661(1995), 対象:高・大

簡易ハンドガスバーナーを利用して、高等学校では教材化できていなかった金属の精錬の実験教材を開発した。木炭に半径約5mm深さ約5mmの穴を空け、この穴の中に一酸化鉛0.50gを入れ、ハンドガスバーナーの強い炎で約2分間強熱すると0.28gの金属鉛が得られた。

簡易ハンドガスバーナーの作製

長谷川 正, 山崎 裕子, 後藤 顕一
化学と教育, 43, pp.596-597(1995), 対象:高・大

プラスチック製二方コックを利用して、ガスおよび空気の量を調節することができるハンドガスバーナーを安価に自作する方法を考案した。

化学平衡に関する実験の教材化:シクロヘキサノンとモルホリンの反応

長谷川 正, 山崎 裕子,新井 君男
化学と教育 , 43, pp.586-587(1995), 対象:高・大

高等学校化学の教科書には、反応生成物の一部を反応系外に除去して平衡を移動させる方法が記載されている。この方法は合成化学的に有用で、実用的な方法であるにもかかわらず、実験教材がなかった。そこで、簡単に自作できる実験装置を考案し、シクロヘキサノンとモルホリンからエナミンを合成する反応にこの装置を利用して、副生成物として生成する水を系外に除去することにより化学平衡の移動を視覚的に捉えることができる実験教材を開発した。

アルキメデスの原理を用いたスモールスケールで行う固体の密度測定

長谷川 正, 山崎 裕子
化学と教育 , 43, pp.516-517(1995), 対象:中~大

高等学校の化学の教科書には物質の性質として固体物質の密度が記載されているが、小結晶の密度を求める実験教材がなかったので、固体物質の密度をスモールスケールで浮遊法により求める実験教材を開発した。実験例として食塩の密度測定を示した。ジブロモエタン2mLを試験管に入れ、これに食塩結晶1粒を入れると表面に浮くので、クロロホルムを1滴ずつ加え静かに振って混合し、溶液中に結晶が留まるようにする。この混合溶液1mL取り、その質量を測定売るとそれば結晶も密度に相当する。

修正液ホワイトをつくる - アクリル酸エステルの共重合 ?

長谷川 正, 臼井 豊和
化学と教育, 42, pp.256-257(1994), 対象:高・大

高分子化合物が身近な物質であることを理解させるために、アクリル酸エステルの共重合物を用いて高校生が日常使用している修正液ホワイトをつくる教材を開発した。アクリ酸ブチル7.5g、アクリル酸エチル2g、アルリル酸0.5gを酢酸エチル10mLに溶かし、AIBN0.05gを加えて水浴上で15分間加熱し、得られたポリマー溶液4gを酢酸エチル4mLに加え、撹拌後二酸化チタン10gを加え、更に、酢酸エチル4mLを加えると修正液ホワイトが得られる。

「化学と教育」誌に掲載された身近なものづくり

長谷川 正, 大野 弘, 土屋 徹, 妻木 貴雄
化学と教育, 42, pp.264-266(1994), 対象:中~大

「化学と教育」誌に掲載された論文から身近なものづくりの教材として利用できる実験を抽出し、実験法をまとめて示した。取り上げた題材は、鏡、活性炭、化学会路、温熱パッド、線香花火、ガラス、乾電池、アルマイト、セッケン、液晶温度計、紙、ゴム風船と指サック、粘着テープ、スライム、スポンジ、偏光フィルム、砂糖、豆腐。

プラスチック製注射器を利用した便利な実験器具

長谷川 正, 山崎 裕子
化学と教育, 42, pp.428-429(1994), 対象:小~大

小学校から大学までの理科および化学実験でプラスチック製注射器をピペッター、簡易濾過器、簡易ビュレットとして活用する方法を開発した。

スモールスケールの有機合成:酢酸エチルの合成と精製

長谷川 正, 今瀬 禎宏, 臼井 豊和
化学と教育, 42, pp.702-703(1994), 対象:高・大

ガラス管で簡単に簡易蒸留器を自作する方法を考案し、酢酸とエタノール各2mLを用いて酢酸エチルを合成し、自作した簡易蒸留器を用いて蒸留して精製までを行う実験教材を開発した。

ブンゼンバーナーを利用したガラス細工用バーナーの作製

長谷川 正, 山崎 裕子, 臼井 豊和
化学と教育, 42, pp.704-705(1994), 対象:中~大

高等学校までの化学の実験室にはふいご式ガスバーナーが備えられているところが少なく、ガラス細工を行うのが難しかったが、簡単にしかも安価に自作できるブンゼンバーナーに取り付けるアダプターを考案し、これと水槽用空気ポンプを利用してガラス細工用の細くて強い炎を作り出す方法を開発した。このガラス細工用バーナーを用いるとパイレックス製試験管を加熱してふくらますことも可能である。

スモールスチールの有機化学実験:ニトロベンゼンの合成と減圧蒸留による精製

長谷川 正, 今瀬 禎宏
化学と教育 , 42, pp.834-835(1994), 対象:高・大

ガラス管を用いて簡単に微量物質を減圧蒸留する装置を自作する方法を考案し、ベンゼン1mLを混酸によりスモールスケールでニトロ化し、この自作した微量物質用減圧蒸留装置を用いて精製する方法を開発した。

簡便な食塩単結晶作成法 液体拡散結晶化法の応用

長谷 正
化学と教育, 41, pp.44-45(1993), 対象:高・大

食塩の結晶は教材として広く使われているが短時間で教材用の結晶を作成する方法が開発されていなかったので、結晶を作る簡便な方法として液体拡散結晶化法を応用した方法を開発した。三角フラスコにエタノール100mLをいれ、これに飽和食塩水10mLを三角フラスコの底まで入れたスポイト用ガラス管を通して静かにエタノールと食塩水が混じり合ってしまわずに層となるように加えガラス管を静かに引き抜いた。一晩室温下で放置し、生じた結晶をろ過して集めた。

共重合の有用性を理解するための身近な製品の製造を含む高分子化学実験教材 -アクリル酸ブチルの共重合体を用いたセロハンテープの製造-

長谷川 正, 岡 陽子, 臼井 豊和, 川口 健男
化学と教育, 41, pp.46-49(1993), 対象:高・大

共重合の有用性については高等学校化学の教科書に記載されているが、実験教材が開発されていなかった。そこで、AIBNを重合開始剤としてアクリル酸ブチルとアクリル酸とアクリル酸エチルより共重合体を合成し、これを用いてセロハンテープを製造し、単重合体、2成分の共重合体、3成分の共重合体を用いた場合の製品の性能を比較することにより、共重合の有用性を理解する実験教材を開発した。

塩化鉄(Ⅲ)によるフェノールの呈色反応に及ぼす共存塩の影響

長谷川 正, 臼井 豊和
化学と教育, 41, pp.200-201(1993), 対象:高・大

フェノール類の呈色に対する陰イオンの影響については高等学校で利用し得る文献には記載されていなかったので、高等学校化学実験で良く使用する塩を用いて呈色に及ぼす塩の影響を調べてまとめた。呈色は、共存する塩の共役酸の影響は受けないが共役塩基の影響を受けるものがあり、次のようにまとめられる。(1)ほとんど影響を及ぼさないもの:ハロゲン化物、硝酸塩 (2)退色を起こすもの:硫酸塩 (3)変色を起こすもの:酢酸塩、炭酸塩。

PLCの作成とPLCによる合成ニトロベンゼンの精製

長谷川 正
化学と教育, 41, pp.337-338(1993), 対象:高・大

高等学校でもTLCを定性分析に用いているが、物質の分離には利用していない。シリカゲルを厚く塗布したPLCの簡単な装置の自作法を示し、PLCの利用の例として合成したニトロベンゼンの精製に利用する方法を示した。

毛管を利用した簡便な液体分離法-分液漏斗を用いない少量の液体の分離-

長谷川 正
化学と教育, 41, pp.544(1993), 対象:高・大

環境保全の観点から、学校での実験のスモールスケール化を進めるために、簡単にガラス管で自作できる毛管を利用した少量液体の分離法を開発した。

TLCを用いた有機定性分析

長谷川 正, 臼井 豊和
化学と教育, 41, pp.620-621(1993), 対象:中~大

高等学校の有機化学実験で一般的に活用できるTLCの発色法をまとめ合成サリチル酸誘導体の官能基分析を例として有機定性分析への応用法を示した。発色剤等としては、硫酸、紫外線、ヨウ素、塩化鉄、ブロモフェノールブルー、ドラーゲンドルフ試薬、2,2'-ジフェニルピクリルヒドラジル、2,4-ジニトロフェニルヒドラジン、アリザリン、ニンヒドリンの調整法、使用法、適用できる化合物、スポットの色をまとめて示した。

薄層クロマトグラフィ-の原理に関するCAIプログラム

長谷川 正, 後藤 顕一, 臼井 豊和
化学と教育, 41, pp.775-776(1993), 対象:高・大

TLCによる物質分離の原理を理解するための高校生・大学初年度学生向けのCAIプログラムを開発した。プログラムは、①TLCとその原理、②TLCシミュレーションから成り、②は固定相と移動相間の分配割合を指定して模擬実験を行い展開後の物質の分離の様子を調べるプログラムである。

高等学校における天然物を教材とした有機化学実験 -香辛料からのオイゲノールの単離-

長谷川 正, 臼井 豊和
化学と教育, 40, pp.118-119(1992), 対象:高・大

身の回りにある物質を教材として用い生徒の化学への興味関心を高める試みとして、市販クローブ粉末から天然フェノール類の一種であるオイゲノールを単離する実験教材を開発した。市販クローブ粉末1.00gにヘキサン10mLを加えて撹拌後、シリカゲル1.0gを入れた簡易カラムクロマトグラフィーを用いてヘキサン10mLで展開してから、次いで、ベンゼン15mLで展開した。ベンゼンを留去すると0.129gのオイゲノールが得られた。オイゲノールはTLC上で塩化鉄(Ⅲ)により暗紫色に呈色した。

アルケンの一般的な性質を理解するための高等学校化学実験教材:スチルベンの反応

長谷川 正, 臼井 豊和
化学と教育, 40, pp.186-187(1992), 対象:高・大

シス-トランス異性体の物理的・科学的性質の類似点・相違点を理解する実験教材として、c-およびt-スチルベンを用い、臭素化と還元(水素化)を行った。臭素による臭素化の実験条件の検討も行い、臭素化物であるdl-およびmeso-ジブロモ体を得、meso-体の脱臭化によりアルキンであるジフェニルアセチレンを合成する教材を開発した。

光で色がつく-簡便な光化学反応実験

臼井 豊和, 長谷川 正
化学と教育, 40, pp.232-233(1992), 対象:小~大

光量計としてトリス(オキサラト)鉄(Ⅲ)酸カリウムを用いるときは暗室でこの物質を合成し、試料の調整も暗室で行わなければならないが、光が反応を起こすエネルギー源となることを定性的に理解するために、明るい場所でトリス(オキサラト)鉄(III)酸カリウムを作り光反応を行う方法を開発し教材化した。塩化鉄(Ⅲ)六水和物(約0.05g)を50mLの水に溶かした溶液とシュウ酸カリウム(約0.1g)とo-フェナントロリン(約0.03g)を希硫酸50mLに溶かした溶液を用意し、光反応を行う直前に両溶液を必要量試験管に分取して混合し光照射を行った。

フェノ-ル類の塩化鉄(Ⅲ)試験における酸による呈色の妨害

長谷川 正, 臼井 豊和
化学と教育, 40, pp.780-782(1992), 対象:高・大

フェノール類の塩化鉄(Ⅲ)による呈色は高等学校の教科書に記載されているが、酸により呈色が著しく妨害される場合があることには注意が払われていなかったので、フェノール、サリチル酸、サリチル酸メチルの呈色に対する酸の影響を定量的に調べた。サリチル酸メチルの呈色はサリチル酸の呈色に比べ酸による妨害を受けやすいことも明らかにした。

Cautionary Note Regaeding Phenol Color Test by Ferric Chloride in Acidic Solution

T. Hasegawa and T. Usui
J. Chem. Edu. , 69, pp.840(1992), 対象:高・大

アスピリン中のサリチル酸からメタノール中硫酸触媒存在下でサリチル酸メチルを合成する実験が教材として利用されており、反応混合物中に塩化鉄(Ⅲ)を加えて呈色反応を見ることによってサリチル酸メチルの生成を確する実験教材がJCEに報告されている。しかし、サリチル酸とサリチル酸メチルの塩化鉄による呈色が酸の影響を受けるので、これらの化合物の定性分析を行うときに注意が必要であることを指摘した。

身近な製品の製造を題材とした高等学校高分子化学実験 -アクリル酸ブチルの重合とセロハンテープの製造-

長谷川 正, 岡 陽子, 臼井 豊和, 川口 健男
化学と教育, 40, pp.864-865(1992), 対象:高・大

高分子化合物が日常生活に関連したごく身近な物質であることを理解できるような実験教材として、ポリアクリル酸ブチルの合成とそれを用いたセロハンテープの製造を題材とした実験教材を開発した。試験管にアクリル酸ブチル3mLとAIBNを0.015g、酢酸エチル3mLをいれ、空冷損電サーを取り付けて10分間加熱後、トルエン3mLを加えてから料理用アルミカップに移して混合物が糊状になるまで溶媒を蒸発させた。この混合物を自作簡易テープ製造器でセロハンの上に塗布してセロテープを作成した。

塩化鉄(Ⅲ)によるフェノール類の呈色反応

長谷川 正, 臼井 豊和
化学と教育, 39, pp.456-457(1991), 対象:高・大

高等学校の教科書にフェノール類の塩化鉄(Ⅲ)による呈色が記載されており、フェノール類全てが例外なく呈色するように受け取られがちである。しかし、この呈色は溶媒の影響を受けることを、水溶液中とエタノール存在下でのフェノール類の呈色挙動を調べてた:フェノール、p-クレゾール、p-クロロフェノール、p-ニトロフェノール、カテコール、サリチル酸は水溶液中で塩化鉄(Ⅲ)により青~赤紫に呈色したが、p-アミノフェノール、p-メトキシフェノール、ヒドロキノンやp-ヒドロキシ安息香酸は呈色しなかった。また、40%エタノール水溶液中では、カテコールとサリチル酸以外は抵触しなかった。高等学校教科書にはフェノール類全てが塩化鉄(Ⅲ)により呈色すると誤解を招きやすい表現がなされているので適切な表現に改めるべきであることも提言した

塩化鉄(Ⅲ)によるフェノ-ル類のTLC上での呈色挙動

長谷川 正, 臼井 豊和
化学と教育, 39, pp.686-687(1991), 対象:高・大

フェノール類の呈色が溶媒の影響を受けることを踏まえて、有機物の定性分析に利用されているTLC上における19種類のフェノール類の呈色について検討し、水溶液中での呈色挙動とかなり異なるので定性分析に当たっては注意が必要であることを明らかにした。

太陽光を利用したスチルベンのシス-トランス異性化反応

長谷川 正, 大神田 淳子, 臼井 豊和
化学と教育, 38, pp.448-451(1990), 対象:高・大

t-スチルベンをベンゼンに溶かし試験管に入れ、太陽光の当たるところに放置して、シス体へ異性化させカラムクロマトグラフィーにより単離することにより、シス体とトランス体の物性の違いを理解する実験を教材化した。

簡便な単離操作法としてのフラッシュクロマトグラフィー

長谷川 正, 臼井 豊和
化学と教育, 38, pp.460-461(1990), 対象:高・大

t-スチルベンの光異性化によりシス体を単離するのにフラッシュクロマトグラフィーを利用した実験法を示し、フラッシュクロマトグラフィーを高等学校化学実験へ導入できるようにした。フラッシュクロマトグラフィーは通常のガラスカラムと金魚用エアーポンプを用いて行えるようにした。

理科室の明るさ調べ-初等教育における光化学反応教材の実践-

長谷川 正, 城戸 律雄, 臼井 豊和
化学と教育, 37, pp.658-659(1989), 対象:小・中

既に開発したトリス(オキサラト)鉄(Ⅲ)酸カリウムの光化学反応を、光と明るさの関係を定量的に捉え、中等教育以降の光と物質の変化に発展させ得る実験教材として用い、小学校6年生を対象に「理科室の明るさ調べ」として実践した。トリス(オキサラト)鉄(Ⅲ)酸カリウムとo-フェナントロリンを含む溶液を試験管に入れて理科室の異なる場所に放置して光反応させ、赤変した溶液の内で一番色の薄い溶液と同じ濃さになるように他の溶液を水で薄め、試験管内の溶液の高さを測ることによって理科室の場所による明るさの違いを相対的に求めた。

実験教材としてのトリス(オキサラト)鉄(Ⅲ)酸カリウムの光化学反応

長谷川 正, 阿良田 吉昭, 清水 敏夫, 岩崎 和彦, 守部 淳一, 臼井 豊和
化学と教育, 36, pp.194-195(1988), 対象:高・大

エネルギー資源問題が高等学校の教科書でも取り上げられているのに実験教材がほとんどなかった。そこで、トリス(オキサラト)鉄(Ⅲ)酸カリウムの光化学反応を利用して光による物質の変化を視覚的に捉える実験教材を開発した。シュウ酸カリウムと塩化鉄(Ⅲ)より合成したトリス(オキサラト)鉄(Ⅲ)酸カリウム三水和物(71.2mg)とo-フェナントロリン(31.3mg)を水に溶かし全量を100mLとし、6本の試験管に5mLずつ分取して照射時間を変えて15W白色蛍光灯で光照射すると、照射時間に伴って赤変した溶液の色の濃さが増大することが視覚的に判別でき、光により物質が変化することが理解できる。

高校生物におけるシロイヌナズナABCモデル突然変異体の花器官の観察を通じて実感する発生遺伝学の実践 NEW

郡司 玄・安永 真理子・Ferjani Ali
東京学芸大学紀要. 自然科学系, 第73巻, pp.79 - 88, 2021年
http://hdl.handle.net/2309/00173474
対象:高等学校

本実践報告ではモデル植物シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の花器官ABCモデル変異体に着目し,遺伝学および遺伝子発現調節,さらには器官発生を教えるための教材として活用した事例を紹介する。これらを選んだ理由は,単一の遺伝子変異が花器官発生に及ぼす影響が目に見えてわかりやすいことから,基本的な遺伝学の考え方や遺伝子発現と発生に関する実感を生徒に持たせやすいと考えたからである。今回は高校1 , 2 年生の生徒を対象に特別講義を実施し,ABCモデル変異体の観察実験を行った。その結果,生徒は変異体観察からABCモデルを構築する過程を追体験し,「遺伝子」という目に見えない実態を花器官の表現型という形で実感することができた。それらを踏まえ,シロイヌナズナABCモデル変異体を教材として活用する方法について,展望を述べる。

葉からの栄養生殖にすぐれたRorippa aquaticaを用いた高等学校の課題解決型探究活動の実践事例 NEW

郡司 玄・安永 真理子・Ferjani Ali
東京学芸大学紀要. 自然科学系, 第72巻, pp.13 - 21, 2020年
http://hdl.handle.net/2309/159753
対象:高等学校

葉からの高い再生能力が特徴であるアブラナ科イヌガラシ属Rorippa aquaticaの栄養生殖の教材(郡司ら,2019)を用いた高等学校における実践事例を報告する。本実践では、まず高校1年生の生徒を対象に生物の生殖に関する実験や観察を行ったことがあるか調査したところ,ほとんどの生徒は教科書のみの学習にとどまっていることがわかった。そこで,R. aquaticaを理科探究活動における課題研究の実験材料として導入した。その結果,生徒たちは植物の特殊な栄養生殖の性質について主体的に学ぶことに成功した。さらにR. aquaticaを用いた実験は比較的容易であるため,生徒の主体的な活動を重視する場合においても活用しやすい実験材料であることが示された。

アブラナ科植物 Rorippa aquatica の再生能力に注目した栄養生殖の教材化と授業実践 NEW

郡司 玄・天野 瑠美・金子 真也・Ferjani Ali・木村 成介
生物教育,第60巻 第3号,pp.137-147,2019年
https://doi.org/10.24718/jjbe.60.3_137
対象:中学校理科

本研究は無性生殖の栄養生殖を学ぶ実験教材の開発を目指し,アブラナ科イヌガラシ属の多年生草本植物であるRorippa aquatica(以下、R. aquatica)に着目した。R. aquaticaは栄養生殖能力が高く,切断した葉を湿潤条件で2週間程度おくだけで葉片の根元側(基部側)の断面に新しい個体を再生する。この過程は経時的な観察も容易なため,生徒実験の教材に適していると考えた。今回はR. aquaticaの簡便な栄養生殖法と観察法を確立し,中学校第3学年において教育実践を行った。実践授業は理科第 2 分野「生物の殖え方」の学習単元において行われ,生徒はR. aquaticaの葉の栄養生殖実験及び経時的な観察を行い,全ての生徒が観察に成功した。本研究の調査によりR. aquaticaは生徒が興味を持ち,また本単元の学習理解に有効な実験教材であることが示された。

International river environment education that combines simulations with specimens from different times and regions. NEW

Shigeki Mayama, Matt Julius, Karthick Balasubramanian, Kazuhiro Katoh and Hiroshi Omori
Impact, 2021(3), pp. 73-75 (2021)  対象:中、高

今日の先進国と途上国の河川水質を比較すると、先進国では水質は比較的良好であるが、途上国では汚染された河川が多い。しかし、かつて先進国が河川の汚染に悩まされていた過去の時代、途上国の河川はきれいな状態であった。つまり、先進国と途上国では河川の水質の歴史は逆である。我々は人間の活動が河川環境に与える直接的な影響を子供たちに理解させることで、環境問題の解決に貢献できる教育の実践を試みている。この目的達成のため、仮想環境と珪藻を使った“SimRiver”というシミュレーションソフトウェアを開発し、日本、インド、米国のそれぞれ同一河川河川で過去と現在に採集した珪藻標本と組み合わせることにより、理科のコンピテンスとグローバルコンピテンスを同時に育成するプログラムを開発し授業実践を行った。今後、国際間での意見交換を増加させることで、さらなる教育効果が期待される。

SimRiver(シムリバー)とMushiRiver(ムシリバー)―オンライン・ツールを使った国際河川環境教育― NEW

真山茂樹、加藤和弘、里見研悟
昆虫と自然 56(7), pp. 32-33 (2021) 対象:中、高

我々のグループが開発してきたSimRiverは、バーチャルの河川環境を作成し、その水質状態を珪藻から知ることができるソフトウェアであり、高い評価を受けている。一方、珪藻は顕微鏡で観察することで初めて観察できるミクロの生物であり、SimRiverで仮想的に作り出した水中のマクロの様子はわからない。そこで、4つの水質(きれい、少し汚れている、汚れている、ひどく汚れている)に生育する底生無脊椎動物、いわゆる「川虫」を3Dで表示し、それを探索するソフトウェアを開発した。実際に河川から川虫を採集し、6方向から写真撮影し、それを基にメッシュによる川虫の3Dモデルを作成した。また、河川の風景を作成し、そこに川虫の3Dモデルを置きゲームエンジンであるUnityでプログラムを作成した。SimRiverの学習に相補的に利用することで、相乗効果が期待される。作成したプログラムはインターネットからダウンロードして使用が可能である。

Diatoms make the world happy: educational outreach using diatom-based activities in the classroom NEW

Shigeki Mayama
Diatom of The Month, July 21 (2021)
https://isdr.org/diatoms-make-the-world-happy-educational-outreach-using-diatom-based-activities-in-the-classroom/
対象:大

大学等の研究者が、自らの研究分野の内容を一般社会へ普及させるアウトリーチ活動について珪藻を例に解説した。しばしば、特定の研究分野から学校に対し、特別授業という形で提案が行われている。しかし、学校には年間のカリキュラムがあり、いつでもそれらを受けいられるわけではない。対象とする学年の理科のカリキュラムにあった内容で、その単元が実施されるときに、その単元の流れの中で授業を行うことが大切である。また、使用する教材が良いだけでは授業は成立しない。その教材が効果的に使われる授業案が必要である。このためには、対象となる学校教員との綿密な連携が成功の鍵となる。また、現代は知識だけを紹介するのではなく、生徒のコンピテンシーをどのように伸ばすかを考慮すべき時代である。珪藻であれば、珪藻を教えるのでなく、珪藻を使って生徒に何を学んでもらうか、明確な目標を持つことが大切である。実践例を紹介した。

インドの教科書に見られる環境問題

真山茂樹、里見研悟
Karthick Balasubramanian、生物教育, 59, pp. 191-96 (2018)、対象:小、中、高、大

今日、インドでは水質汚染、大気汚染、騒音、ごみ問題などの環境問題が各地で生じている。これは人口増加、個人消費の増加、工業化、インフラ整備の遅れなど、人々の生活や社会の変化が主たる原因とされる。本稿ではインドの今日の教育システムの概要を述べた後、環境問題が扱われる3年、4年、7年、10年の教科書(日本の小学校3年、4年、中学校1年、高等学校1年に相当)の内容を紹介している。3年、4年は理科という教科はなくEnvironmental Studyであり、7年と10年はScienceである。4年と7年の教科書ではページ数の約1割が環境問題にあてがわれている。本稿は近年経済発達が著しいインドの環境の現状と、その一対策としての教育方法を伝え、日本の子どもたちが海外に目を向け、国際問題に関心を持ち、また日本の過去の環境と比較することで、グローバル・コンピテンスを育成するための一助となる資料である。

理科コンピテンシーを育成するための非理科生を対象とした授業実践

湯浅智子、高橋修、真山茂樹
東京学芸大学紀要自然科学系, 70, pp. 63-72 (2018)、対象:大

新学習指導要領で示されている育成すべき資質・能力の育成には、「主体的・対話的で深い学び」が必要とされ、その学びを実現するために、探求型活動を取り入れたアクティブ・ラーニングの手法を用いた授業の実施が求められている。このことを受けて、東京学芸大学では、そのような授業を円滑に進めることのできる力を持った教員を養成するためのカリキュラムの再編が進められている。本研究では、アクティブ・ラーニングの手法を用いた授業を通して、主体的・対話的な活動の意義や有効性を実感してもらい、探求型活動を積極的に取り入れる姿勢、および授業構成を工夫する力の育成を目指す授業実践を試みた。また、アンケートにより、学生がアクティブ・ラーニングの活動を行う際の不安点を調査した。その結果、受講者の半数が、実践的な経験が不足しているがゆえに、アクティ ブ・ラーニング活動を取り入れることに不安を感じていることがわかった。

多摩川における過去と現在の珪藻から示される水質の変化ー珪藻を教材として河川環境の変化と人間活動の関係を学ぶ授業プログラムの開発に向けてー

里見研悟、真山茂樹、齋藤めぐみ
東京学芸大学紀要自然科学系, 70, pp. 31-53 (2018)、対象:高、大

過去の河川環境を代表する試料として、1982年に多摩川全域から採取された17の珪藻標本を国立科学博物館のコレクションから選定し、当時の河川水質を識別珪藻群法により評価した。さらに、これらの試料が採取された地点から、2016 年に現在の珪藻試料を採取し、同様に水質を評価した。1982年の多摩川では、永田橋から下流の地点では汚濁指数 が概ね2.5~3.7となり、有機汚濁が激しかった過去の河川状況を反映した結果が示された。一方、2016 年では、永田橋から下流の地点では汚濁指数が1.9を下回り(丸子橋堰上を除く)、水質が改善された今日の状況を表す結果が示された。本論文には、観察された全109種の光学顕微鏡写真、分類が難しい5種については走査電子顕微鏡写真が掲載されている。また、水質判定に必要な識別珪藻群Aと識別珪藻群Bの種類の改訂版リストも掲載されており、読者が珪藻の同定や珪藻を用いた水質判定を行う際に有用な情報を提供する。

平成21年高等学校学習指導要領に対応した生物分野の教科書に見られる用語の研究

渥美茂明、笠原恵、市石博、伊藤政夫、片山豪、木村進、繁戸克彦、庄島圭介、白石直樹、武村政春、西野秀昭、福井智紀、真山茂樹、向平和、渡辺守
生物教育, 60, pp. 8 -21 (2018)、対象:高

平成21 年3 月に改訂された高等学校学習指導要領で 設けられた科目「生物基礎」と「生物」では、分子生物 学の新しい知見を取り入れるように定められるとともに、科目の大枠を単元構成で、そして単元ごとに取り上げるべき内容が、最低限の例示に止められたものとなった。その結果、取り上げる話題に教科書間の差が生じ、それはページ数の極端な差に現れた。本研究では評価者の属性に留意した「用語」の評価を試みた。あわせて、教科書間の「用語」のゆらぎを解消すべく推奨語を選考することを目標として研究を行った。その結果、大学教員、高校教員では重要度が異なる用語が存在し、さらにそれらは高校生に対して実施された先行研究の結果とも異なるものが存在することが明らかとなった。また、同じ事物を指すにもかかわらず、複数の標記存在する、ゆらぎのある用語200語を提示し、推奨する語を提案した。さらに、単元毎に用語に関する問題点の解説を行った。

教員養成における理科の資質・能力の育成を目指す授業プログラムの開発

真山茂樹、松本益明、小林晋平、生尾 光、原 健二、狩野賢司、岩元明敏、佐藤尚毅、高橋 修、湯浅智子、佐藤公法、平田昭雄、葛貫裕介、三井寿哉、村上 潤
東京学芸大学紀要自然科学系, 69, 印刷中 (2017), 対象:大

今日、資質・能力を高めることのできる人材を育成することが教員養成に求められるようになった。旧来型の知識を与え理解させるのみの授業ではなく、学生が自ら考え、判断し、そして表現できるようになる教育を行うことが必要とされるが、そのためには、大学教員の授業における指導法の工夫が必要である。この工夫には学生が主体的、対話的に学ぶ指導方法の導入が必須である。本研究では、東京学芸大学の学生に対し実施された様々なアクティブ・ラーニングの要素を含んだ授業に対するアンケートを実施し、学生の反応と意見を分析した。学生の意見には主体的、対話的に学ぶことのメリットが多く記されていたが、そのような学びの前には確かな知識がないと形だけで終わってしまう、グループの相手によって効果が違うなど、アクティブ・ラーニングに対する本質的な意見も多く含まれていた。これらの結果も踏まえて教員養成における11の指導案を提案した。

大学教育における主体的な学修を促す授業への挑戦:「生物学演習」におけるアクティブラーニング化4年間から見えたもの

真山茂樹
東京学芸大学紀要自然科学系, 68, pp. 55-64 (2016), 対象:大

「生物学演習」において、アクティブラーニングの要素を取り入れた授業を4年間実施した。学内から採集した多数の裸子植物の葉や球果を用い、形態的に類似した種類間の相違を、植物体を手にとって見る、触れる、嗅ぐなどにより学生自身で修得することを目的とした。教師は学生に考えさせる質問を行い、最終的な正解は言わず、大学構内に植栽された実物の木を見に行き確認するよう促した。最終試験は実用的な能力を評価するため、野外のコースで実際に植栽されている樹木を用いて実施した。試験後に実施した調査から、学生は楽しく受講し、授業後も野外で植物の観察や比較を行い、身近な発見をしていたことが明らかとなった。また、植物を見ることが習慣化し、さらなる学びを求めるようになっていた。一方、主体的に学んだ頻度が最終試験の得点とほとんど結びつかないことも判明した。主体的な学修で身につくとされる能力について、評価と合わせて考察した。

中学校理科で「川と共存するまち」を創造する-SimRiverを活用したストーリー性のある環境シミュレーション

村上 潤、真山茂樹
環境教育学研究, 25. pp. 39-52 (2016), 対象:中

SimRiverを活用したアクティブラーニングを取り入れた中学生用の学習指導案を作成して授業を行い、その効果を検証した。2時間の授業を通して、生徒たちは「SimRiverにおいて創造した『まち』の首長」となり、具体的に目に見える社会のストーリーを作った。また「まちの財政は厳しい」という条件を付加することで、より現実味を持たせると共に、社会科などの他教科と融合した学習の可能性を視野に入れた。授業前後のキーワード分析では、「川の環境」に関わる言葉の割合が授業後に大きく増えており、川に関する意識の高揚が認められた。また、事後調査で、川との共存や環境保全に対する努力を表す回答がなされたことは、生徒の能動的な学習活動が良好に機能した結果と考えられる。

年月を経て変化する河川環境を学び考える環境教育の実践的研究-高等学校における標本観察、シミュレーション、ビデオ教材を組み合わせた授業-

小境久美子、真山茂樹
東京学芸大学紀要 自然科学系, 67, pp. 33-34 (2015), 対象:高

人為影響とそれに呼応する河川環境の関係を学び、科学の視点から環境に対する意思決定ができることを目的として、教材と授業法を開発した。授業前に採集しプレパラート化した珪藻と、1980年に同じ場所から採集し作成した珪藻プレパラート、人間活動と河川水質と珪藻群集間の関係を学べるシミュレーションソフトウェア、過去の汚染された川のビデオと写真を教材とし、これらを用いた授業案を作成し授業実践した。授業の事前・事後に生徒が記述した回答文を使用して、教材及び授業そのものを計量テキスト分析により評価した。その結果、生徒の河川環境に対する意識は授業後に、より具体的かつ建設的なものへと変容したことがわかった。また、長期間かけて変化する環境を授業時間中に理解するための教材について考察を行った。

ショウジョウバエを用いた変異原性試験の教材化

高森久樹、 田部井淳、 本橋晃
東京学芸大学紀要 自然科学系, 64, pp.153-176 (2012), 対象:中・高・大

ヒトの歩行から速さ,ストライド,足裏の長さを測定し,相対歩幅,無次元速度を求め両者の関係を一般化し,それを基に恐竜の高等学校生物「 有性生殖 遺伝子と染色体」において「 単性雑種」、「伴性遺伝」を探究活動で扱うとするとショウジョウバエはもっとも良い材料といえよう。しかし、実際に遺伝実験を実施するためにはいくつかの難点がある。難点の一つは、ショウジョウバエは飛翔力が強いので、不慣れな生徒が扱うと多数の個体が逃げてしまい、実験結果に誤差を生ずるばかりか、衛生上の問題や野外のショウジョウバエ集団の遺伝子頻度を変えてしまう恐れがある。 そこで本研究では、外見上は野生型と変わりなく、胸部間接飛翔筋に異常があるため飛べない突然変異 Act88F を利用した遺伝実験を開発したので報告した。

Progress toward the construction of an international web-based educational system featuring an improved "SimRiver" for the understanding of river environments

Mayama, S., Katoh, K., Omori, H., Seino, S., Osaki, H., Julius, M., Lee, J.H., Cheong, C., Lobo, E.A.., Witkowski, A., Srivibool, R., Muangphra, P., Jahn, R., Kulikovskiy, M.., Hamilton, P.B., Gao, Y.H., Ector, L., & Tri R. Soeprobowati.
Asian Journal of Biology Education, 5, pp. 2-14 (2011), 対象:中・高・大

河川環境に関する世界の人々の意識向上を目指し、人間活動と水質の関係を珪藻を用いて理解するウェブベースのプログラムシミュレータであるSimRiverを多言語で開発した。従来の研究では既に、SimRiverを教室で使用することの利点と、必要とされる幾つかの改善点が明らかにされていた。本研究ではソフトウェア自体とソフトウェアを使用する授業の両方で改善が図られ、その有効性がアンケート調査によって評価された。その結果、SimRiverの改良版と新しい指導案を使用した学習活動は、学習者に以前よりも効果的に河川環境の理解を促進させると同時に、さらなる学習への動機づけを深めたことを示唆した。今回開発した多言語版では、国際的に河川環境に関するコミュニケーションが行えるよう、ストリーミング動画、ビジュアルツール、および授業後に活動を報告できるレポートシステムよりなるモジュール教材をウェブ上に構築した。

Trial of educational computer simulation software 'SimRiver' for assessment of river water quality for environmental education in schools (韓国語)

Lee, J.H., Cheong, C., Kwon, N.J., Kim, Y.J., Park, H.G., Mayama, S., Katoh K. and Omori, H.
Environmental Education, Korea, 24(1), pp. 40-48 (2011), 対象:中・高

シミュレーションソフトウェア“SimRiver”の韓国語版および韓国語ナレーション付きの動画を用い、韓国の環境教育における教材の使用とその可能性を調査した。調査対象となった韓国教員は78人であり、事前にSimRiverを用いた授業について研修を行った。調査の結果、SimRiverプログラムが『非常に簡単』あるいは『簡単』と回答した教員は84.4%で、ほとんどの教員がSimRiverは初めて触れても簡単に操作でき、理解しやすいソフトウェアと答えていた。また、90.9%が面白いプログラムと答えた。さらに93.6%が、実際の授業時間にSimRiverを使用したいと答えた。SimRiverを他の教員に紹介したいかとの問いに対しては、『非常に思う』と『思う』と回答した教員は合計57.7%であった。また、SimRiverに付随するモジュール教材を有用と答えた教員は93.5%であった。

SimRiver, environmental modeling software for the secondary science classroom

Hoffer, J., Mayama, S., Lingle, K., Conroy, K., & Julius, M.
Science Scope, 34(5), pp. 29-33 (2011), 対象:中・高・大

河川環境は通常は長い年月を経て変わるものである。このため、授業時間内で、その変化を実体験することは不可能である。しかし、コンピュータを利用したシミュレータなら、その変化を容易に知ることが可能である。本論文は人間活動による河川水質の変化をミクロの生物である珪藻を通して知ることにより、河川環境に対する意識を向上させることを目的としたシミュレーションプログラムSimRiver (var. 4)について、その操作および特性を交えて紹介したものである。

学芸の森 私の植物

真山茂樹
東京学芸大学出版会 (2010), 対象:大・一般

東京学芸大学キャンパス内に見られる29の植物を題材に、読者自身が自らの手でオリジナルな本を完成させることにより、植物に対する深い興味と関心を引き出すことを意図して作られた未完成の本。内容は1枚の選りすぐった植物写真と補助写真1枚、200字程度の文、フリースペース、質問2題、植物の在所を示す地図、追加情報を見るためのQRコードよりなる。学習者は植物を探し観察した後、フリースペースに自分の得意な分野の形で表現を行う。もちろん観察記録でもよいが、俳句、詩、デザイン、音符、遊び、料理など、自分に合った表現をする。質問2題はQRコードでアクセスできるウェブページを見ることで、初めて答えることができる。

高等教育における生物多様性学習のためのデータリソースとしてのSimRiverの活用

真山茂樹、渡辺 剛、加藤和弘、大森 宏
環境教育学研究, 18, pp. 23-37 (2009), 対象:大

元来SimRiverは人間活動と河川水質と珪藻群集の関係をシミュレーションすることにより、河川環境に対する意識向上を目的として作成されたウェブベースのソフトウェアである。しかし、シミュレーションプログラムの根幹をなすデータベース機能を活用すると、高等教育における生態学の演習に対して、有用な生物群集のサンプルを提供することが可能である。本論文では、SimRiverのプログラムが発生するサンプル特性をシミュレーションを多数回繰り返すことにより解明し、それが実際の群集に類似することを明らかにした。また、そのサンプルデータを用いた多変量解析(クラスタ分析、TWINSPAN、主成分分析、除歪対応分析)の例を紹介した。

中学生の河川環境に対する意識を高めるための授業プログラム研究-SimRiverを組み込んだ環境教育の実践-

中村美穂、真山茂樹、加藤和弘
環境教育学研究, 17, pp. 61-78 (2008), 対象:中

公立中学校において川の環境について理科教員と社会科教員が連携して授業実践を行い、その結果を分析した。授業は水環境を考える導入に始まり、公害問題深刻であった過去の日本の河川の写真を見せながら展開した。水質判定の話題を提供し、その後、指標生物である珪藻について説明を行った。次にSimRiverを用いたシミュレーションを実施し、最後にまとめを行った。授業後のアンケート調査では自由回答文を計量テキスト分析した。TWINSPANでは生徒は回答特性により4つの集団に分けられた。それらは、A:環境について関心が深まった、B:ハードに関心があったが環境についても関心を示した。AとBで全体の2/3を占めた。残りの1/3は、C:シミュレータの操作は簡単であると答えたが記述文が少なく環境について関心の高まりがわからない、D:操作は簡単と答えたが記述が無い、であった。

珪藻による河川の水質判定シミュレータ"SimRiver"の試用と評価

真山茂樹、加藤和弘、大森 宏、清野聡子、国府田かおり、押方和宏
生物教育, 48, pp. 10-20 (2008), 対象:中・高

SimRiverは人間活動、河川水質、珪藻群集間の関係理解を増進することを目的として作られたシミュレーションソフトウェアである。SimRiverを用いた授業を高校2クラス、中学1クラス、および中高生公開講座で実施し、生徒の反応をアンケート調査により解析した。多くの生徒はシミュレータを用いた授業を好意的に思った。初心者にとって珪藻の同定は難しいが、シムリバーに組み込まれた同定サポートシステムは生徒の作業時間を短縮した。双方向性学習を伴う本教材は生徒の動機付けに効果的であり、学年や学習歴に係わらず、授業の目的を彼らに理解させることができていた。しかし、自由記述文に対するTWINSPAN分析からは、約4割の生徒はシミュレータそのものに関心が向き、本来の授業内容へ興味を抱いていないことも示された。このため、シミュレータを使用する学習本来の目的を達成するための改善方法を提案した。

小学校理科に新しい形で遺伝子に関わる内容を導入する-その理念と方策

真山茂樹、中西 史
東京学芸大学紀要自然科学系, 59, pp. 43-48 (2007), 対象:小

バイオテクノロジー時代の社会が要請する遺伝子に関わる教科内容を、小学校理科に導入するための問題点およびその解決策を考察した。平成17年度に本学生物学教室教員が学芸大学附属小金井小学校および教員養成カリキュラム開発研究センターと実施した共同研究を踏まえ、「DNA」や「設計図」の用語を使用することは避け、小学生が理解できる言葉として「情報」を用いることが適当と考えた。動物教材による扱い方を示し、メダカを取り上げた板書例を示した。また、配偶細胞と受精のシーンの観察が難しい植物教材では、メダカと植物を並立呈示することを提案した。また、ルーペの正しい使用法が難しい子どもに対して、立体写真を例示し、その教材としての可能性を述べた。

教員養成系大学の特徴を活かしたサイエンス・コミュニケータの育成

真山茂樹、高橋 修、湯浅智子
科学教育研究, 31, pp. 380-390 (2007), 対象:大

教員養成系大学の3,4年生がTAとして活躍する中高生対象の公開講座を4年間実施した。内容は多摩川をフィールドとし、化石放散虫と現生珪藻群集から、過去と現在の環境を考えるというものであった。公開講座実施後のアンケートでは「内容は高度であったが理解できた」という回答が毎年大多数を占めた。内容が高度であれば、理解できないのが普通であるが、そうでなかった理由をアンケート結果のクロス解析から考察した。その結果、鍵となったのは、中高生に対する学生の活動であったことが強く示唆されした。東京学芸大学の学生は2年間かけて卒業研究を行い専門性を高める一方、教育実習を6週間体験する。また、教育学の授業により教育の本質を学んでいる。このような資質を持った学生に、専門知識と教育活動を融合した場を与えることにより、教員養成系大学において効果的にサイエンスコミュニケータの養成が可能であると考えられた。

ミクロの生物が解き明かす水の環境-珪藻を用いた河川と湖沼の水質調査

真山茂樹
図説学力向上につながる理科の題材-「知を活用する力」に着目して学習意欲を喚起する-生物編、 岡崎惠視、 藤沢弘介(編)、 pp. 70-73, 東京法令出版 (2006), 対象:中・高

珪藻は水圏生態系では最大の生産者でありかつ種数も多い。その多さゆえ、様々な水環境に対して指標となる多くの種を生み出している。珪藻を用いた水質判定は感度が高い反面、種の同定が難しく、学校教育で珪藻を使用することは通常困難である。SimRiver(シムリバー)はこの問題を解決した教育用シミュレーションソフトウェアである。本書はSimRiverを用いた学習方法とドリルがセットになったもので、人間生活と河川環境との関係を珪藻により理解するための方法を紹介した。

美術分野と生物分野の連携展覧会の報告とその考察. 異分野との連携実践「ケイソウ展-珪藻、知と美の小宇宙」1

鉄矢悦朗、真山茂樹、大隅理恵、福井奈美子、山田修平、押方和広、渡辺 剛、渡邉篤史
東京学芸大学紀要芸術・スポーツ科学系, 57, pp. 109-117 (2005), 対象:大・一般

東京学芸大学の生物分野の著者の研究室と、美術分野の4研究室のコラボレーションにより「ケイソウ展」を実施した。その企画・準備段階から、学生への指導、学生の作業、展示内容、異分野間での連携作業に対する分析結果を示した。会場構成とインスタレーションを環境プロダクトデザインの研究室が担当し、会場を美術作品コーナーと科学展示コーナーに分割した。美術作品コーナーでは珪藻をモチーフとした金属工芸、グラフィックデザイン、授業で作成した作品が展示され、科学展示コーナーでは珪藻の電子顕微鏡写真の立体写真、光学顕微鏡による珪藻アートプレパラート展示、来場者自身が行うポータブル電子顕微鏡による珪藻観察、珪藻土の利用、珪藻の立体モデルなどが展示された。科学展示コーナーも美術分野による見せ方の工夫が行われた。ケイソウ展を振り返り、異分野連携をよりよく実施するためのスキームの改善案を示した。

A novel approach to the popularization of diatomology: An exhibition of diatoms, presented as a fusion of science and art (4)

Mayama, S.
Diatom, 21, pp. 61-70 (2005), 対象:大・一般

珪藻は通常、一般の人々にとって馴染みの薄い生物である。珪藻について一般市民の意識を高める試みとして、東京学芸大学の美術分野と連携して展覧会を実施した。会場には珪藻の形態学的な美しさをモチーフにした芸術作品、珪藻の様々な生物学的・応用的側面の説明、珪藻のステレオグラム、光と走査型電子顕微鏡を伴う珪藻スライドと標本を展示したグラフィックディスプレイなどが展示された。アンケート調査より、珪藻の形態的美しさが来場者に強く印象づけられていること、展示のグラフィックデザインと空間配置が、珪藻の様々な特徴に関する情報の取得を容易にしたこと、また、訪問者の光と電子顕微鏡の操作による珪藻の観察が、珪藻の全体的な関心を高めたことが示唆された。さらに、本展覧会は珪藻をよく知らない一般市民に対し、珪藻の情報を広める効果的な方法であったことが明らかとなった。

珪藻による河川の水質判定シミュレーターSimRiverの作成

加藤和弘、真山茂樹、大森宏、清野聡子
日本教育工学会論文誌, 28, pp. 217-226 (2004), 対象:大

生物群集の種組成と環境条件の関係をモデル化するプログラムを利用し、生物の種組成と生育環境、あるいは人為的影響との関係を学習するための教材を開発することを目的とした。著者らのフィールド調査データの多変量解析により、河川産珪藻群集の種組成と環境条件を対応づけるモデルの開発を行った。平行して流域環境と水質を対応づけるモデルの開発を行い、これらを統合した環境学習のためのシミュレーション教材“SimRiver”を提案した。教材利用者はモデル河川の環境条件を設定し、その条件下で予測される種組成に基づきコンピュータの画面上に表示される珪藻の同定および計数を行って、その結果を用いて水質評価を仮想体験する。珪藻の同定作業は実際には煩雑だが、本教材では作業画面と連動した電子珪藻図鑑を用いて行えるように工夫した。本教材の適切な利用法、あるいはその利用を組み込んだカリキュラムの検討が今後の課題である。

A video program showing the procedure for collection and observation of diatoms used for evaluation of river water quality. In: Kitano, H. et al. (eds) Biology Education to Nonbiology Majors

Mayama, S., Ueyama, S., Mayama, N. & Kobayasi, H.
Proceedings of the 15th Biennial Conference of the Asian Association for Biology Education, pp. 184-189, AABE, Tokyo (1996), 対象:中・高・大

従来、高校生を対象とした、珪藻による水質判定のための採集方法、処理方法、観察方法を説明する適当な教材は無かった。水質判定のための珪藻を用いたドライラボが開発されているが、そこでは試料採集から顕微鏡観察までの一連の過程は示されていない。本研究では、この過程で従来使用されている様々な方法をレビューし、その中から簡便で安全な方法を選び、それらをビデオ教材化した。本ビデオは珪藻について実際の採集と観察方法、および生物学的基礎的情報を知らない生徒に対し有用である。本ビデオと河川水質判定のためのドライラボ教材を組み合わせることで、水環境と珪藻との関係の、よりよい理解が期待される。

児童・生徒の受粉と結実についての理解度

真山茂樹、小林 弘
東京学芸大学紀要4部門, 34, pp. 109-120 (1982), 対象:小

受粉と結実に関して、小学校5年生、6年生、および中学校1年生(32校、56学級、合計2,145名)を対象として質問紙による調査を行った。設問内容は、児童・生徒の記憶している知識から答えることのできるものを2題、その知識を基に思考することによって答えられる応用的な問題を3題とした。統計学的分析の結果、以下のことが明らかとなった。1)受粉と結実に関する知識度は、学年が進むほど高くなる。2)その知識度の増加に対し、教育は効果を与える。3)習得した知識の汎用化はあまりされないが、学年が進むごとにその割合はわずかずつではあるが増加する。4)問題解決に関して男女差が存在し知識度は女子が、類推力は男子が勝る。5)受粉と結実の授業では、植物教材を多く扱った方が児童の知識度を高めることができる。しかし、類推力に関しては、その数との間に顕著な関係は認められない。

教職大学院における教科領域導入モデル―専門領域横断型の授業デザイン― NEW

高橋 修・佐藤尚毅・藤本光一郎・中西 史
東京学芸大学紀要、71、123-132、2021, 対象:大学

高い専門性の獲得と教育実践力の向上の双方を目的として、東京学芸大学教職大学院「サイエンスフロンティア特論」の授業で、「大洋底の堆積物」を題材として実践を試みた。この教科領域導入モデルは、ひとつの地球科学的な現象をさまざまな視点や角度からとらえ、複数の専門領域を横断させて内容を構成したものであり、教科専門の教員がチームティーチングで授業を行うことによって専門性の高い授業を展開することができる。教職大学院におけるこれからの教科専門の役割は、習得した専門的知識を活かしながら、子ども達の発達段階に応じて自身の授業をデザインすることのできる能力、子ども達の興味や関心を引き出す授業を展開していくことのできるスキル、それらを育成することにあると考える。また、実践的な学びを通して教科の知見を再構成していく力の育成など、教科専門と教科教育が有機的に機能したチームティーチングの新たな仕組みも必要であろう。

砂岩の間隙率と続成作用の進行を中学生はどう関連付けて説明するか ―水に浸した砂岩から出てくる泡を用いた間隙率の推定― NEW

湯浅智子・高橋 修・真山茂樹
地学教育、72、129-139、2020, 対象:中学校・高等学校

中学校2年生を対象に、砂粒のパッキングの状態に関する授業実践を行った。水を入れたコップに新生代第四紀、新第三紀、中生代白亜紀の砂岩を順に沈め、出てくる気泡を観察しその量を比較することで、生徒は砂岩中の間隙の存在とその容積の差異に気づき、続成作用の進行と間隙の大きさの変化を結びつけ、続成の過程を思い描くことができた。さらに、砂岩と花崗岩のつくりの違いが引き起こす風化の素因についても言及することができた。

理科コンピテンシーを育成するための非理科生を対象とした授業実践 NEW

高橋 修・湯浅智子
東京学芸大学紀要、71、123-132、2018, 対象:大学

新学習指導要領で示されている育成すべき資質・能力の育成には、「主体的・対話的で深い学び」が必要とされ、その学びを実現するために、探求型活動を取り入れたアクティブ・ラーニングの手法を用いた授業の実施が求められている。このことを受けて、東京学芸大学では,そのような授業を円滑に進めることのできる力を持った教員を養成するためのカリキュラムの再編が進められている。本研究では、アクティブ・ラーニングの手法を用いた授業を通して、主体的・対話的な活動の意義や有効性を実感してもらい、探求型活動を積極的に取り入れる姿勢、および授業構成を工夫する力の育成を目指す授業実践を試みた。また、アンケートにより、学生がアクティブ・ラーニングの活動を行う際の不安点を調査した。その結果、受講者の半数が、実践的な経験が不足しているがゆえに、アクティブ・ラーニング活動を取り入れることに不安を感じていることがわかった。

教員養成における理科の資質・能力の育成を目指す授業プログラムの開発 NEW

真山茂樹・松本益明・小林晋平・生尾 光・原 健二・狩野賢司・岩元明敏・佐藤尚毅・高橋 修・湯浅智子・佐藤公法・平田昭雄・葛貫裕介・三井寿哉・村上 潤
東京学芸大学紀要、69、55-90、2017, 対象:大学

平成29年告示の小学校、中学校学習指導要領では児童、生徒の資質・能力を高める教育が記された。その達成のためには学校教員が変容するだけでなく、教員養成においても資質・能力を高めることのできる人材を育成することが求められている。このため大学では旧来型の講義のような知識を与え理解させるのみの授業ではなく、学生が自ら考え、判断し、そして表現できるようになる教育を行うことが必要である。理科においては探究の過程を修得することでこの目的の大部分を達成できると考えられる。しかし、短い授業時間の間で、これを行うためには、大学教員の授業における指導法の工夫が必要である。この工夫には学生が主体的、対話的に学ぶ指導方法の導入が必須である。本研究では、東京学芸大学の学生に対し実施された様々なアクティブ・ラーニングの要素を含んだ授業に対するアンケートを実施し、学生の反応と意見を分析した。

地域の特色ある自然環境を活かした自然にかかわる心の育成 NEW

高橋 修・栗田克弘・村上 潤・湯浅智子・中野義勝
東京学芸大学紀要、69、143-155、2017, 対象:小学校・中学校

理科の学習を通して道徳的な心を育てるための4つの道徳教育プログラムについて概説した。これらの道徳教育プログラムには、環境教育における道徳的心情の育成に関心を持つ教育者、とくに体験的アプローチを用いる教師にとって有効であると思われる手法が用いられている。子ども達は、自然環境を大切にすることをどのように学び、その学びにどのような要因が関与するのか?体験教育に携わるもの、特に教師には、児童・生徒に適切な価値観と道徳観を獲得させるためのスキルとツールが必要である。私たちは、体験を通して、児童・生徒個々人がどのように環境価値(environmental values)を開発し、どのような要因がこの開発に影響を与えたかを議論した。私たちの道徳教育プログラムは、郷土の文化や自然環境からの体験を通じて、自然、人間、および食文化に関する道徳心を育むために有効であると考える。

都会で見られる露頭を題材にした環境教育―神奈川県生田丘陵に分布する更新統を例に― NEW

吉澤健吾・高橋 修
東京学芸大学紀要、63、41-52、2011, 対象:中学校

中学生のための、問題解決型学習法(PBL)に基づく、都会の環境下での環境教育に関する学習プログラムを開発した。本研究では、神奈川県川崎市の生田丘陵に分布する鮮新統を例に、3つの実験観察(有孔虫化石の抽出、砂の粒度分析、およびローム層中の造岩鉱物の観察)を行なった。1) 上総層群飯室層は、底生有孔虫の種構成で示されるように、浅海域に堆積した地層であると考えられる。2) オシ沼砂礫層は、よく分級された砂粒子からなり、現世の堆積物との比較から、海浜に堆積した地層であると考えられる。3)多摩ローム層は、鉱物組合せとその岩相から、陸成の火山灰層と考えられる。これらの結果は、生田緑地をつくる地層の堆積環境が、浅海域から沿岸へ、最終的に陸上へと移り変わったことを示唆する。生徒達は、これらの活動をとおして、楽しんで学習に取り組めただけではなく、彼ら自身をとりまく環境の変化に関心を持つようになった。

ピストンコアサンプルを用いた大洋底堆積物の授業実践―海辺と大洋底の堆積物の比較― NEW

高橋 修・栗田克弘・村上 潤・湯浅智子
地学教育、60、13-22、2007, 対象:中学校

理科の授業を修学旅行や校外学習における野外活動などと関連づけ、地質学的な時間や空間を考察し類推するための一連の学習指導をおこなった。そのうち本報告では、大洋底ピストンコアサンプルと生徒自身が実際に観察した海岸付近の堆積物とを比較することで、それらの堆積物の差異について考えさせることを目的として実践を行った。その結果、生徒たちは、大洋底にも堆積物が存在し、海岸の堆積物が鉱物粒と貝殻の破片でできているのに対して、大洋底の堆積物は有孔虫などの生物の遺骸で主に構成されていることを理解することができた。

海水準変動にともなう三角州の形成・発達過程の実験と教材開発:中学校理科を対象に

西田尚央、宮口真木子、小笠原 隆、松川正樹
地学教育, 69, pp.113-123(2017), 対象:中・高

地層の特徴やその形成過程に関する学習では、実験によって砕屑物粒子の移動や堆積過程を観察することは効果的な手法の一つである。本研究の主な目的は、簡易実験水槽を用いて三角州の形成過程や将来の変化の可能性を考察することをねらいとした教材および授業を開発し、授業実践を通じてその評価を試みることである。授業実践の結果、クラスの半数以上の生徒は海水準変動にともなう三角州の形成過程の特徴を理解することができた。一方、一部の生徒(約 20%)は理解が不十分であった。したがって、ここでの課題をふまえた改善によって、より理解しやすい教材として活用できるようになると考えられる。

レプリカグレーティングを用いた『星の色と温度の関係』の小学校における授業実践

唐井 美沙栄, 土橋 一仁, 傅幸 朝香, 五島 正光
地学教育, 58(5), pp.165-181(2005), 対象:小

We carried out an experimental lesson with 155 grade 4 students. The purpose of the lesson was to determine if the students can understand the color temperature relationship of fixed stars (i.e., that red and blue stars have low and high temperatures,respectively), using observations of electric bulbs driven at different voltages. As a result,98% of the students easily understood the color-temperature relationship during the lesson,and 87% maintained the correct understanding of the relationship up to 5 months later. We therefore conclude that it is possible to teach young children the color-temperature relationship of fixed stars.

レプリカグレーティングを用いた『恒星の色と温度』の授業の実践

五島 正光, 土橋 一仁
地学教育, 58(1), pp.1-12(2005), 対象:高

We report results of an experimental lesson to teach effectively the relationship between the color and temperature of fixed stars, given to 68 tenth-grade students in Japan. Students were instructed to use a replica grating to observe the spectra of electric bulbs powered at different voltages, and were given leading questions to help them understand how the spectra change according to the voltage (i.e., the temperature of filaments of the bulbs). The lesson revealed that about half of the students misunderstood the black body radiation in two specific aspects. First, they often confuse the change of color and that of brightness. Second, they tend to misunderstand the Planck distribution, as if the red side of the spectrum becomes weaker at higher temperature. To prevent these typical misunderstandings, we suggest that the color-temperature and temperature-brightness relationship should be taught at the same time, and that students are shown typical incorrect images of the Planck distribution.

恒星の色と温度を体感させる デジタル分光カメラの開発

土橋 一仁, 菊池 紘之, 五島 正光, 濤崎 智佳, 森 厚, 上原 隼
地学教育, 57(1), pp.1-13(2004), 対象:小~高

We have developed a simple spectrometer for teaching astronomy. The spectrometer utilizes a digital camera and replica grating and can be fabricated easily and at low cost, without special knowledge of astronomy. In this paper, we describe an elementary school experiment using the spectrometer, i.e., assessing the spectroscopy of small lamps powered at different voltages. We show how children are able to determine the color,spectrum,and temperature of the lamps using the spectrometer, and how they can deduce, based on their experience, the relationship between color and effective temperature of fixed stars.

Digitized Sky Surveyを利用した『暗黒星雲博物館』の作成

上原 隼, 土橋 一仁, 神鳥 亮、佐藤 文男
地学教育, 55(1), pp.13-22(2002), 対象:高

全天を網羅する光学写卓効データベースであるDigitized Sky Survey Ⅰを利用して、天の川全域(銀緯±40°以内の全銀河面)における星数密度分布を調べた.これをもとに、いくつかの暗黒星雲の画像を作成し,暗黒星雲の新しい教材としてインターネット上で公開した.暗黒星雲博物館と名付けたホームページ(http://astro.u-gakugei.ac.jp/DCM/index.html)に,得られた暗黒星雲の画像を解説’捏共に掲載する.現実の暗黒星雲の正確な分布をかつてない広さで描き出し、インターネットで誰でも手軽に閲覧できるようにした点に、この教材の特徴がある.学校教育・社会教育の場で広く活用されることを望む.

インターネットを活用した天文教材の開発 -The Digitized Sky Surveyと暗黒星雲-

神鳥 亮, 土橋 一仁, 上原 隼, 佐藤 文男
地学教育, 54(2), pp.61-73(2001), 対象:高~大

本稿で紹介した暗黒星雲の実験教材は,①教材を安価かつ短期間で製作でき,容易に実験授業に導入できること,②実験を比較的短時間で行うことができ,かつ解析に高度な天文学・物理学の知識を必要としないこと,の2点に留意して開発した学生実験テーマである.本教材の大きな特徴は,解析の基となるデータにインターネット上で広く公開されているDSSを,解析手法にスターカウント法を採用したことである.これにより,手軽に実践することができる学部低学年向けの天文教材を開発することができた.本稿で紹介した暗黒星雲の実験教材が,様々な教育現場で活用されることを望む.

学部教育における学生実験テーマの開発 -太陽定数測定器-

土橋 一仁、林 良一, 喜久川 功, 大村 浩
地学教育, 51(6), pp.237-249(1998), 対象:大

本稿で紹介した「太陽定数測定器」の開発にあたっては,①2桁以上の高い精度が容易に達成できる実験器を作ること,②実験器の作製が容易に,かつ低価格で行える「実用的な実験テーマ」を作ること,③天文学科・物理学科を含む理工系の広い分野での学部教育に活用できること,などの点に留意した.この実験器の特徴は,光検出部に太陽電池を導入し,かつ絶対校正用の日射計のパラメーターを丹念に測定することにより,太陽の照射量を迅速かつ高い精度で計測することが可能になったことである.  6章で述べたように,我々はこの「太陽定数測定実験」を,東京学芸大学および大阪府立大学における実験に導入し,高い教育効果があることを確かめた.ここで紹介した実験が,各地の学部教育で広く活用されることを望む。

恐竜の体重測定と食物量 -骨格標本と縮尺モデルの差の考察に基づいて-

松川 正樹, 小荒井 千人, 柴田 健一郎, 中西 亮平
地学教育, 59(3), pp.89-100(2006), 対象:

大英自然史博物館モデル,カーネギー自然史博物館モデル,フンボルト大学自然史博物館モデルの三つの縮尺モデルとも完全に精密なものでなく,恐竜の体重を推定する実験で使用するモデルとして,どれがふさわしいか断言することはできない.体重測定の教材として恐竜の縮尺モデルを用いるとき,その縮尺モデルがどのような方法で復元されたかが把握でき,できるだけ細部まで精密に復元されているものが好ましい.しかし,そのようなモデルを求めることは現段階では不可能である. したがって,縮尺モデルと復元の基になった標本との問に,どの程度の差があるのかを把握した上で,この実験を行うことが必要であろう.また,山中白亜系の瀬林層から産出したオルニトミムス類(山中竜)の体重を測定した. これは, 日本から見つかった恐竜の体重を初めて見積もった値である.さらに,近年求められた動物の体重と所要エネルギーの関係を用いて,恐竜の体重から恐竜が必要とした食物量求めることができることを示した.そして,恐竜の大きさを実感するために,求めた食物量を身近な食べ物に置き換えた.

足跡からの絶滅生物の推理と「知識の引き出し」の拡大 -翼竜の教材化と実践に基づいて-

相場 博明, 八幡 麻衣子, 松川 正樹
地学教育, 55(2), pp.27-36(2002), 対象:

化石教材のうち,恐竜の足跡からその足跡をつけた動物の速度を見積もる実験教材は,いわゆる「動」的な実験として位置づけられている. しかし,恐竜の歩行跡の化石の産出がまれな日本では,比較的多く産出しているゾウやシカの歩行跡を用いて,実験できる可能性がある.筆者らは東京都日野市の多摩川河床に広がる更新世の地層から,大型四肢動物の歩行跡を発見した.これを教材化するために,まず素材の足跡化石を研究し,それに基づき教材化の可能性を検討した.その結果,筆者らが発見した足跡はゾウの足跡で,ほぼ南から北へ向かった2列の歩行跡である.足跡化石を印した動物の大きさ,年齢や歩いた速度を見積もるために,ケニアの現生のアフリカゾウや東京多摩動物園のアフリカゾウやアジアゾウと比較した. 2つの歩行跡を印した動物は,胴体の長さがそれぞれ175cmと161cmで,群れを構成していた5-6歳ほどの2匹の個体であると推定される.この素材研究に基づいて,足跡を残した動物の足の数については, ヒト,イヌやネコの足の運びの様子,歩行跡の幅,歩角の大きさなどを実験的に調べて,それらと比較することで推定が可能である.また,足跡化石のサイズから,現生の大型四肢動物との比較が可 能である.さらに,「恐竜とかけっこ」の教材化の手法を用いると足跡から歩行速度の導きが可能でもある.この足跡化石は,東京から報告されたまれなゾウの足跡で,連続歩行のものとしては極めて学術的価値が高く,その地学教育-の利用価値も高いものと評価できる.

足跡化石を基に動物を動かそう -恐竜の方法をゾウに応用して-

馬場 勝良, 松川 正樹, 小荒井 千人, 林 慶一, 伊藤 慎
地学教育,  53(6), pp.269-281(2000), 対象:

化石教材のうち,恐竜の足跡からその足跡をつけた動物の速度を見積もる実験教材は,いわゆる「動」的な実験として位置づけられている. しかし,恐竜の歩行跡の化石の産出がまれな日本では,比較的多く産出しているゾウやシカの歩行跡を用いて,実験できる可能性がある.筆者らは東京都日野市の多摩川河床に広がる更新世の地層から,大型四肢動物の歩行跡を発見した.これを教材化するために,まず素材の足跡化石を研究し,それに基づき教材化の可能性を検討した.その結果,筆者らが発見した足跡はゾウの足跡で,ほぼ南から北へ向かった2列の歩行跡である.足跡化石を印した動物の大きさ,年齢や歩いた速度を見積もるために,ケニアの現生のアフリカゾウや東京多摩動物園のアフリカゾウやアジアゾウと比較した. 2つの歩行跡を印した動物は,胴体の長さがそれぞれ175cmと161cmで,群れを構成していた5-6歳ほどの2匹の個体であると推定される.この素材研究に基づいて,足跡を残した動物の足の数については, ヒト,イヌやネコの足の運びの様子,歩行跡の幅,歩角の大きさなどを実験的に調べて,それらと比較することで推定が可能である.また,足跡化石のサイズから,現生の大型四肢動物との比較が可 能である.さらに,「恐竜とかけっこ」の教材化の手法を用いると足跡から歩行速度の導きが可能でもある.この足跡化石は,東京から報告されたまれなゾウの足跡で,連続歩行のものとしては極めて学術的価値が高く,その地学教育-の利用価値も高いものと評価できる.

「恐竜とかけっこ」の授業実践と改良

小荒井 千, 松川 正樹
地学教育, 52(1), pp.23-30(1999), 対象:

高校と大学で授業実践を行った.実験はおおむね成功し,好評であったが,改善点が2つ見出された.(1) 歩いたり走ったりしてデータを取るときに,ストライドとスピードの関係はそれぞれの歩き方走り方でのトップスピードで測定しなくてはならない.十分に加速するためには助走路の長さが15m以上は必要であることが分かった. もう一つは,腰骨までの高さの測恵である.測定時に間違った部位を測定してしまうことがあるので注意を促す必要がある.(2) 実験を発展的なものにするために,恐竜の足跡化石を直接観測して実験を行った.生徒は足跡化石に直接触れながら足跡の測定をし,より大きな興味をもって実験に臨んでいたようだ.また,足跡化石は比較的平面であるためコピー機を用いて複製することができた.恐竜の足跡化石は一般には入手困難であるが,博物館の資料を使用して実験を行うことも可能であろう.

「恐竜とかけっこ」の教材開発

松川 正樹, 小荒井 千人, 榊原 雄太郎
地学教育, 50(6), pp.217-227(1997), 対象:

ヒトの歩行から速さ,ストライド,足裏の長さを測定し,相対歩幅,無次元速度を求め両者の関係を一般化し,それを基に恐竜の歩行速度を求めることができた. 最低でも1グループ15人はどの人により得られたデータを解析して,恐竜の歩行や走行の速度を秒速何m という絶対速度によって求められる実験に学生は,驚いたようである.この教材では,学習者が自身の歩行や走行の速度を計時し,その時のストライドや足裏の長さを測定して,解析し,恐竜の歩行や走行の速度を見積もることができるので,学習者は恐竜が歩いたり,走ったりした様子を体感することになる.恐竜の歩く速度を見積もる理論に関しては,学生には理解されにくいようである. しかし,この理論が十分に理解されていなくとも,体を動かしてデータをとり,非常に簡単な計算により恐竜の歩行速度が求められることや,それを基に恐竜が残した歩行跡について科学的に解釈できたことに興味をもったようである.今回はすべて手作業でデータを処理したが,パソコンを使用して測定値を入力しグラフを作成し,恐竜の足跡のデータを入力すると直ちに歩行速度を求め表示させることも可能である(図16).受講した学生は,さまざまの種類の学科に属し,グラフや計算の作業になれていないようであったが,ほぼ時間内に実験が進められた. 高校の授業でも利用できるものと思われる.地学分野には, 1回のみに起こった事象の解釈を行うことが特徴の一つに挙げられている(松川・林,1994).二つの並んだ歩行跡の解釈には, きめ細かいデータの入手,それらの積み上げと論理性が必要となり,この実験により地学を通して残された記録より動物の基本的な機能を理解する方法の特徴が示されよう.二つの並んだ歩行跡について,単なるストーリーを考えるのではなく,科学的証拠と論理展開により解釈を導き出すことが科学としての地学を理解する上で最も重要な点である.恐竜足跡化石を用いて恐竜の歩行速度を求める実験は,化石を「動」的なものにする教材として適当であるだけでなく,地学を通して自然を理解する場合の進め方の特徴の一つ(松川・林, 1994)を十分に表していると言えよう.

Learning Visual Illusions as an Approach to Overcoming Child's Misconception about Mass and Shape NEW

著者:Katsuhiro Goto and Shu Matsuura
掲載雑誌:Forma 36(1) 25-29 2021
対象:小学校

概要:Many elementary students have a well-known misconception that when the shape of an object changes, its weight also changes. To overcome this misconception, students need to rethink critically on their sensory judgments about shape and weight. In this viewpoint, examples of the visual illusions were introduced to let students be interested in their restriction of visual recognition. In this study, we hypothesized that discussions on the visual illusion are effective for elementary students to understand the volume and weight of objects correctly. Pre- and post-class tests showed that the students in the class who experienced the visual illusions and discussed them made significant improvements in overcoming misconception about the weight of the object.

Communication Robot as a Weekly Online Quiz Presenter NEW

著者:Shu Matsuura, Satoe Kon, and Sakura Kuwano
掲載雑誌:LNCS 12769, Universal Access in Human-Computer Interaction, Access to Media, Learning and Assistive Environments.
12769  138-153 2021
対象:小学校

概要:To add a humorous interface to online quizzes for elementary school students, we demonstrate a video of a humanoid robot as a quiz presenter. The quiz was a fun way to learn various related knowledge starting with eating habits. The purpose of using a robot was to make the quiz interesting for students of all grades in elementary school and for them to enjoy the quiz with their parents. The video was a short quiz that lasted a few minutes wherein the robot interacts with a human voice, presenting the viewer with a multiple-choice quiz. We distributed one robot-video quiz every week for six months, obtaining the following results. The number of students who responded to the quiz decreased sharply in the first month and stabilized at ~10% of the total number of students in the school. At first, most of the comments were about the quiz’s difficulty, but gradually, most of the comments became about quiz’s contents, suggesting the viewers established interest in the quiz topic. Many comments about the robot as a unique entity with its personality suggest that the viewers empathetically accepted the robot’s existence.