狩野研究室 (動物生態学・行動学)



行動生態学とは

当研究室の研究分野は動物の行動生態学です。行動生態学とは生態や行動だけでなく,生物の進化も視点に入れた統合的な学問分野で,「動物はなぜこのように振る舞うのか?そしてその振る舞いは状況によってなぜこんなにも変化するのか?」という謎を,進化的背景も考慮して解き明かしていきます。行動生態学の基礎概念は「利己的遺伝子」とも呼ばれ,『生物は種のために生きているのではなく,個体やそれが持つ遺伝子に最適になるように振る舞っている』というものです。そして,生物は生存と繁殖という2つの究極的な目的達成のために,どんな方法・戦略を用いているかを明らかにしていくことを目的としています。

研究テーマ

行動生態学の中でも「いかにうまく配偶相手を得て,質の高い子を多く残すか」という繁殖戦略が当研究室の基本テーマです。

とくに,「どのように同性の競争者を排除・出し抜き,魅力ある異性を配偶相手として獲得するか」という同性間競争と配偶者選択,つまり性淘汰(性選択)を中心に研究しています。たとえば,クジャクやグッピーのように♀よりも♂の方が派手な動物はたくさんいますが,それは派手な♂ほど♂同士の競争に強くて♀を独占でき,また♀は派手な♂を配偶相手として好むからだと考えられています。しかし,そのような♂の派手さというのはなにによって決まっているのでしょうか?遺伝子と環境とでどちらが重要なのでしょう?また,♀は派手な♂を配偶相手とすることで,どのような利益を得ているのでしょう?子どもの数,または質でしょうか?さらに,♂は派手な装いをすることで,♀を騙すことはないのでしょうか?あるいは♂の騙しに対する♀の防衛策は?当研究室ではこのような様々な疑問についてそれぞれ仮説を立て,それを検証しています。

また,性淘汰だけでなく,「♀から♂へ,あるいは♂から♀へ,状況により自分にとって有利な性に変わる」という性転換,あるいは♂同士の競争に弱く,♀にもてない地味な♂が起死回生のために繰り広げる代替戦略・戦術など,他の様々なテーマについても探究しています。

研究スタイルは研究室内での飼育実験が中心ですが,必要でありまた可能であれば野外での調査もおこなっています。研究材料としては,現在,野生化グッピーやハゼなど,小型で飼育が容易な魚類を中心的な研究材料としていますが,その他にも身近な昆虫なども研究対象としています。

実際の実験・調査は,配偶行動の観察や,親から子への遺伝要因と育つ環境要因との関連をみるための長期継代飼育実験など,粘り強く地味な努力が必要とされるものが多いのですが,それらのデータをもちいて仮説を検証するときのワクワクした気持ち,そして得られた結果を考察するときの充実感など,それまでの苦労を補償してありあまる研究の醍醐味を味わえるはずです。このような仮説構築→仮説検証のための計画立案→検証作業→解析・考察という一連の研究プロセスを体験することで,科学研究についてはもちろんのこと,現場での一貫した教育プロセスへの応用,または実験・体験学習へのフィードバックなど,教育分野についても多くのことを得ることができると考えています。

当研究室では,このような研究テーマに関心を持ち,一生懸命に調査・実験に励みたいという学生さんの来訪をお待ちしております。

図. 画像は実験に使用している沖縄産野生化グッピー。上の派手な2個体が♂,下の地味な個体が♀。同じ♂でも,鰭の長さやスポットの大きさ・数など,派手さが異なる。