中西 研究室

連絡先 中西 史 Fumi NAKANISHI fuminaka@u-gakugei.ac.jp

Tel & Fax 042-329-7513



研究テーマ 花と根から見た被子植物の適応戦略

我々に身近な陸上植物の中でも,被子植物はその形や花弁や葉,茎の動き,生産する物質(たとえば色素や香気成分)の多様性において,他の植物群(コケ植物,シダ植物,裸子植物)を大きくリードしています.これらの形質は,移動性を持たない植物が陸上という環境で生き抜くために,様々な試行錯誤の結果獲得した形質といえるでしょう.

中西研究室では,被子植物の「根が作り出す色素,及びその修飾酵素の機能」と,「環境シグナルによる開花の制御機構」という2つのテーマで被子植物の生き残りをかけた戦略にアプローチしています.

 

環境シグナルによる開花の制御機構

花を咲かせる植物にとって,「有性生殖器官である花をいつ咲かせるか」ということは,受精効率を高め,個体数を増やし、更には遺伝的多様性を高めるために非常に重要な問題です.そのため,多くの被子植物は,光や温度といった環境シグナルを利用して,花芽の分化時期や開花時期を調節し,花粉の媒介者が活動する時期・時刻に,同種の個体が同調して花を咲かせるメカニズムを確立しています.そのとき花弁は,巧みな開閉運動を行うことで,雄しべや雌しべを包みこんで保護したり,反り返って花粉の媒介者を導き,受粉の手助けを行っています.

我々の研究室では,概日リズムによって開花制御が行われるアサガオを中心に,環境シグナルが細胞に対しどのような変化を引き起こすかを調べることによって,開花制御の機構を解き明かそうとしています.現在は細胞骨格のアクチンフィラメントに注目し,開花過程における配向や修飾の変化について実験を行っています.


根が作り出す色素,及びその修飾酵素の機能

根は,地中に広がって地上部を支えるとともに,水や無機塩類を吸収し,地上部へと運びます.一方,地中には様々な細菌やカビ,草食動物が生息し,根に攻撃を仕掛けていますが,「水や無機塩類を吸収する」部位では,地上部のような物理的な防御を備えることができません.その代わり光合成によって作られる炭水化物とエネルギーを素に様々な物質を根に蓄え,化学的な防御として役立てています.私たちが染料や香辛料,医薬品として利用する物質には根由来のものが多いのも,そのような理由からだと考えられます.

アカネ科の植物はその名のとおり,赤い色素を根に蓄えていますが,その中にはDNAの配列に変化を引き起こす lucidin という物質が,糖を結合した不活性な前駆体として蓄えられています.我々の研究室では,前駆体からlucidinへの変換が,傷害部位においてβ-primeverosidaseという酵素によって行われることを明らかにしました.現在この酵素について酵素学的な特徴や,遺伝子のクローニング,活性制御等についての研究を行っています.