児童の遊びにみる自然との関わり方の地域間比較
○杉山 健太郎A 高根沢 伸友A 平 田 昭 雄B
SUGIYAMA, Kentaro TAKANEZAWA, Nobutomo HIRATA, Akio
東京学芸大学教育学部A 大阪大学人間科学部(文部省内地研究員)B
- 小学生 自然環境 遊び 実体験 性差 地域間格差
本研究で筆者らは,次のような3種の地域の公立小学校に在籍する第5学年児童を対象に質問紙法による調査を行い,児童達が遊びを通してどのように自然と関わっているかについての地域間の比較検討を試みた.
- U(urban):大都市近郊の住宅密集地(東京都練馬区および国分寺市)
- T(town):地方都市の市街化地域(栃木県宇都宮市および黒磯市)
- R(rural):田畑や山林の多い農山村地域(岐阜県中津川市および恵那市)
以下に,その結果の概要を報告する.
■児童達の身近な遊びの場について
- U,T,Rの3地域における児童達の身近な遊び場について,概ね次のような分析結果を得た.まず,住宅密集地であるU地域では公園,児童館・公民館等,放課後の校庭,グラウンド,家に近くの道路,空き地がこの順にしかも圧倒的上位を占めている.これに対して農山村のR地域では,家の近くの道路,放課後の校庭,グラウンドがこの順で上位を占めるが,魚のいる川がこれに続き,以下,公園,空き地,森や小さな川,泳げる川がこの順に挙げられている.一方,市街化が進む地方都市のT地域では公園,家の近くの道路,放課後の校庭,空き地,グラウンドがこの順に上位を占め,魚のいる川,泳げる川がその後に続いているが,全体としては散らばりが大きい.すなわち,R地域の児童達には川を中心とした自然との関わりの豊富な遊び場が身近に存在するのに対し,U地域の児童達には自然との関わりの極めて乏しい遊び場しか存在せず,両地域のほぼ中間程度の自然環境下にあると捉えられるT地域の児童達にはR地域に存在するような自然との関わりの豊かな場所をも含む多様な遊び場が身近に存在している.
■自然に関係した遊びの頻度の比較
- 調査対象となった3地域における児童達の遊びの内,とくに自然との関わりの深いものに着目して比較検討したとこる,概ね次のような結果を得た.まず,「一年間で何回もした」という児童の割合でとらえると,草遊び,昆虫の捕獲,川の生き物の捕獲についてはU地域<T地域<R地域の順に高くなっている.次ぎに,「したことがある」という児童の割合をこれに加えてとらえると,草遊び,野の花摘みについてはU地域<T地域<R地域の順に高くなるが,昆虫の捕獲,川の生き物の捕獲,川や海で泳ぐについては順位の逆転が見られ,T地域≦U地域<R地域の順となる.因みに,野の花摘みと川や海で泳ぐについて「一年間で何回もした」という児童の割合は,U地域<R地域≦T地域の順となっている.ところで,木登りについては他の遊びと異なる傾向が認められる.つまり,「一年間で何回もした」という児童の割合ではU地域>T地域≧R地域の順で,これに「したことがある」という児童の割合も合わせるとU地域≧R地域>T地域という順になっている.
■自然に関係した遊びに関する性差について
- 本調査の結果を男女による性差の観点から分析してみたところ,草遊び,野の花摘み,昆虫の捕獲,川の生き物の捕獲については3地域間の相違は認められず,前2者については何れの地域においても女児の方が男児よりも体験している者の割合が高く,後2者については同様に男児の方が女児よりも体験している者の割合が高かった.これらに対し,川や海で泳ぐについては次のような性差に関する地域間の相違が認められた.すなわち,U地域では性差はほとんど見られないが,T地域およびR地域では「一年間で何回もした」という者の割合において女児の方が若干多い.また,木登りについても性差に関する地域間の相違が認められている.すなわち,「一年間で何回もした」者の割合,あるいはこれに「したことがある」者を加えた割合の何れにおいてもT地域およびR地域では男児が女児を上回っている.しかし,U地域においてはこれが逆転し,僅かではあるが女児が男児を上回っている.これは意外な結果であった.