自然の豊かな海浜地域における
児童の自然との関わりと水生小動物に関する概念形成

○本村 輝美 三瀬 一也 杉山 健太郎 平田 昭雄
MOTOMURA,Terumi MISE,Kazuya SUGIYAMA, Kentaro HIRATA,Akio

キーワード:自然環境,実体験,遊び,概念形成,水生小動物.

本研究において筆者らは,国内では極めて自然環境に恵まれていると判断される二カ所の海浜地域(G地域:長崎県対馬・五島,Y地域:愛媛県南予)の公立小学校に在籍する第5学年児童を対象に質問紙法による調査を実施し,両地域の児童の水生小動物との関わりや水生小動物に関する認識およびそれらの関係についての比較検討をおこなった.以下にその概要を報告する.

■海の生き物との関わり

両地域の児童たちの水生小動物との関わりについて検討したところ,フジツボ,イソギンチャク,クラゲ,ウニ,ウミウシ,ヤドカリ,といった全ての調査項目において,G地域の方が海で実物に触れたことがあるという児童の割合が高かった.一方,これらの小動物に対して見たことも触ったこともないというG地域の児童の割合は,これら全ての項目においてY地域のそれの約1/2であった.因みに,G地域は離島で海に面した土地が多いのに対し,Y地域は海岸から遠くはないものの山を越えて数キロメートルほど内陸に入ったところに位置する土地である.当然のことながら,砂浜や磯で頻繁に遊ぶといった児童の割合はG地域の方が圧倒的に多い.ところで,前報において筆者らは児童の主として陸生小動物との関わりに注目し,それらが明らかに地域の自然環境に左右されることを見出しているが,海洋性の水生小動物との関わりに関しても同様のことが言えることがここから明らかになった.

■実物に触れるということの意義

次に,両地域の児童たちが上記の小動物を見たり触ったりした経験の有無およびそのときに気づいたこと等についての記述を検討したところ,見るだけの体験しかしていない児童は色や大きさ,形などの概して形態的な面に関する記述にとどまる(全体的に気づいたことが少ない)のに対し,実物に触れるといった体験のある児童は触れたときの状況や感触,さらにはそのことによる変化などについての記述が顕著に多かった.つまり,児童は実際に,直接的にこれらの小動物に触れる機会を得ることで,少なくとも見るだけの関わり方とは比較にならない程の多くの情報を獲得するとともに,後々まで鮮明にそれらの情報は記憶しているということが明らかになった.

■児童の遊びと科学概念の形成

海の生き物に関するA〜O計15項目の設問(次表参照)に対する児童の回答を検討したところ,砂浜でよく遊んでいる児童はそうでない児童に較べてA,E,G,H,K,L,Oの計7項目において正答者の割合が高く,磯でよく遊んでいる児童はA,H,I,J,K,Mの計6項目において正答者の割合がそうでない児童に較べて高かった.先の議論を考え合わせると,自然の豊かな海浜地域においては児童の遊びに代表されるような自然環境との関わり方がそこに生息する水生小動物に関する科学概念の形成に少なからず影響を及ぼしていることがここから示唆される.

表:海の生き物に関する設問項目内容

A エビの仲間は脱皮する
B イカやタコの仲間は頭・足の2つの部分から出来ている
C カニの足は全部で10本
D タコには骨がある
E ウミウシは貝の仲間
F アサリやハマグリは必要なときにだけ足を出す
G イソギンチャクは植物
H イカは卵生ではなく胎生
I ウニは口を持っている
J ヒトデの腕の下には多数の足がある
K ヤドカリは一生同じ殻で生活する
L タコは周りの様子に合わせて体の色を変える
M クラゲの中には電気を流すものがいる
N 魚は浮き袋を持っている
O 魚は全て集団で行動する

*本調査では各記述の正誤が尋ねられた.

<註>
1)本村・杉山・高根沢・平田(1998):「児童の小動物との関わりと自然環境」,日本理科教育学会第48回全国大会要項,p.173.
2)杉山・高根沢・平田(1997):「児童の遊びにみる自然との関わり方の地域間比較」,日本理科教育学会第36回関東支部大会研究発表要旨集,p.44.