「脳の“ここち良い”をさがそう」 〜ドーパミンと仲良くする〜 @身体運動編

 

                                          
                                                              
                                                               保健管理センター 大森 美湖

 


2020年のオリンピック東京開催が決まり、TVや記事でアスリートたちを目にする機会が増えました。アスリートたちの目標に向かう姿勢は、感服や時に感動をも起こすほどです。高い目標に向かうことの困難さは、誰もが想像できますが、それらを達成できる人の脳内ではどんなことが起きているのでしょうか。

ドーパミンという脳内物質を知っていますか。脳に快感や覚醒をもたらす重要な物質です。人間ではストレスがかかると、脳内でまずPOMC(副腎皮質刺激ホルモン-βリポトロンピン前駆体)が合成され、それが酵素の働きでエンドルフィンとACTH(副腎皮質ホルモン)に分解されます。エンドルフィンは心のストレスを和らげるとともに、脳に快感をもたらすドーパミンの働きを促します。一方ACTHは体のストレスを癒すとともに集中力を高める作用があります。マラソン選手が長い距離を苦しそうに走っていても、実は脳内ではPOMCが多量に分泌され、ACTHによる集中力と、ドーパミンによる快感とで、「もっと、もっと」とランナーズハイの状態になっているのです。

脳内の神経系の中で、精神系だけを走るA10神経という神経があります(下図)。ドーパミン系神経、報酬系神経とも呼ばれ、脳幹の腹側被蓋野という場所から出て、視床下部から怒り・恐怖などの感情の制御に関わる扁桃体や、記憶に深く関わる海馬、欲求の実現に向け指令を出す側坐核、大脳辺縁系を経て、人間らしい精神活動や創造の働きに重要な前頭連合野と、記憶・学習を総合する側頭葉へ入って終わります。ドーパミンはここ以外にも存在しますが、A10神経で最も活躍しているのです。

アスリートほどのストレスでなくとも、我々一般人でもスポーツ領域、学問や創造活動の領域で同様の快感体験は可能です。皆さんも過去には、受験勉強といえども覚えることが楽しくなり時間を忘れて机に向かった経験はあると思います。我々が抱える問題は、それが長く持続しないことでしょう。思考や意欲がダウンした時は、激しい運動でなくとも、散歩やウォーキングで大きな筋肉を動かし、周囲の景色を楽しんで五感を刺激することも、報酬系の活動を活発化させたり、ひらめきを生むことにつながります。また他の好きなことで快感を感じた勢いで、苦手なことに取り組んでみることも手でしょう。脳が快感状態になり、自分の力を発揮できるよう、色々な工夫でドーパミンと仲良くしたいものです。

 





(参考文献 「脳を鍛える50の秘訣」斎藤茂太 成美文庫、

「『読む、書く、話す』脳活用術」茂木健一郎 PHP研究所) 

A10神経図「脳を鍛える50の秘訣」より.jpg図「脳を鍛える50の秘訣」斎藤茂太著 成美文庫より)













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