『じぶんノート』の作り方 〜こころのメンテナンス〜

 

                                     保健管理センター 浅香真知子

 



誰でも落ち込んだり、イライラするなど、こころの調子をくずすことがあります。そこから、うつ病や不安障害(社交不安障害、パニック障害、PTSDなど)、不眠症、摂食障害などのこころの病気にならぬように、日頃から自分自身で予防できるとよいと思います。私たちはどのように、こころをメンテナンスすればいいのでしょうか。自分のこころと向き合い「じぶんノート」を作る。…こころとの上手なつきあい方を紹介します。

 

まず、感情のチェック。自分の感情の傾向をつかんでみましょう。怒りやすい?落ち込みやすい?…感情は常に移り変わるし、思い出しにくいものです。自分の感情の動きをとらえる習慣を身に着けてみましょう。感情の日記を書いて、日々のこころの動きを振り返る時間を持つことをおすすめします。長時間かけて特別なことを書かなければ、なんて気負いはいりません。その日にあった出来事(問題)を記し、それによって自分はどんな感情をもっているかを1行〜数行でよいのです。たとえば、表1の感情を参考に当てはめてみてください。

 

1 感情の一覧表(例)

怒り

失望

疲労

苦情

傷心

不安

退屈

悲しみ

楽観的

優越感

軽蔑

好奇心

恐れ

悔しさ

罪悪感

喜び

苛立ち

孤独感

嫉妬

不信感

嫌悪感

拒絶感

驚き

憎悪

幸福感

満足感

ゆううつ

欲求不満

被害感

 

 

次に、考え方のチェックをしてみましょう。こころの調子をくずしやすい考え方には以下のようなものがあります。これらは、自分を苦しめる極端な考えです。

1.    オールorナッシング思考:少しでもミスがあれば、完全な失敗と考えてしまう。

2.      一般化のしすぎ:たった1つのよくない出来事があると、世の中のすべてを当てはめてしまう。

3.      こころのフィルター:たった1つの良くないことにこだわって、そればかりクヨクヨ考え、現実を見る目がくらくなってしまう。

4.    マイナス化思考

5.      結論の飛躍:根拠もないのに悲観的な結論を出してしまう。心の読みすぎ。先読みの誤り。

6.      拡大解釈と過小評価:自分の失敗・落ち度を過大にとらえ、長所を過小評価する。

7.    感情的決めつけ:「こう感じるんだから、これは本当のことだ」と思い込む。

8.      すべき思考:強くあるべき、美しくあるべき、優しくあるべき、等。

9.      レッテル貼り:極端な形の「一般化のしすぎ」。ちょっとしたミスで「自分はダメ人間」と思う、等。

10.   個人化:何か良くないことが起こった時、自分に責任がないような場合にも自分のせいにしてしまう。

などなど。

ある出来事(問題)と自分の感情の関連を考えたときに、そこに上記の考え方が潜んでいないかをチェックしてみましょう。

 

 

さらに一歩進んで、この出来事(問題)の解決方法を考えてみましょう。

こころを苦しめる問題には2種類あります。結果が変えられる問題と結果を変えられない問題です。

 

A)結果を変えられる問題→努力すれば何とかなる。やり方を変える、工夫してみる、…解決するには行動を変えてみるのです。つまり、行動療法です。とりあえず、初めの1週間は強化週間、実現可能なレベルで具体的な目標を設定して徹底的にやってみる。いうならば、「シュウカン法(習慣を週間で変える)」です。確かにエネルギーのいることですが、まずはダメでもいいからやってみよう!

B)結果を変えられない問題→行動では改善しないので考え方を変える。つまり、認知療法です。じつは、こちらのほうが、なかなか難しいのです。そこで、考え方を変えるには「ツッコミ法」がおすすめです。日頃、みなさんは頭の中で自分と会話していませんか?たとえば、「うまくいかないな」とか「もうだめだ」という言葉が自然にうかんでしまう。こんなふうに、自然と頭に浮かぶ言葉がマイナス思考ばかりだと問題解決から遠のいてしまいます。そういう時は、「おいおい、ホントにそうなのか?」とツッコミを入れてみましょう。そして、悪く考える理由を挙げていく、次に、それに対する反論を考える。このように自分の頭の中で会話することによって、マイナスの考えをできるだけ、現実的なプラスの考えに転換していくのです。

 

専門的には「シュウカン法」は行動療法、「ツッコミ法」は認知療法といいます。世の中の出来事(問題)の多くは、ABの両方の側面をもちあわせており、解決法もその両方を組み合わせた認知行動療法であることが多くなります。ひとつの出来事(問題)をさまざまなとらえ方ができ、その解決にさまざまなアプローチができるようになれば、こころのメンテナンスの腕がグッとあがります。

 

こんな「じぶんノート」(表2)を作ってみてはいかがでしょうか。


 

2 じぶんノート(例)

出来事(問題)

感情

考え方

問題の種類

解決法

時間が守れない、遅刻ばかりだ、ダメ人間だ

ゆううつ

罪悪感

一般化のしすぎ、レッテル貼り

A

 

 

B

「シュウカン法」

明日から、朝、30分早く起きよう。夜のうちに準備しよう。

「ツッコミ法」

ホントにダメかな?…遅刻は朝だけ。単位をおとしているわけじゃない。単位をおとしているわけじゃない…これから改善すれば大丈夫。挽回しよう

パソコンのデータが消えてしまった、もうだめだ、間に合わない

失望

苛立ち

不安

オールorナッシング思考

B

 

 

 

 

 

 

 

A

「ツッコミ法」

ホントにダメかな?…バックアップしてなかたっけ。元の資料は残っているかも。…どうしてもだめなら、きちんと先生に説明しよう。相談しよう。…ここまでのデータを作ったのは自分だ。

「シュウカン法」

もう一度、やり直せる。

 

 

 


 

<参考>

厚生労働省『こころもメンテしよう 〜若者を支えるメンタルヘルスサイト〜』

デビッド・D・バーンズ『いやな気分よ さようなら 〜自分で学ぶ「抑うつ」克服法〜』