JSL研修報告

平成22年度 第1回JSL研修の分科会報告

第1回の研修会では、分科会に分かれて参加者と講師が日々感じている問題について話し合いました。今回研修に参加いただけなかった方々も、同じような悩みを抱えていらっしゃるかもしれません。各分科会の報告から何かヒントが見つかるとよいのですが...。

第1分科会 近田由紀子先生(浜松市立瑞穂小学校)

 グループ①は教育委員会国際交流協会民間団体または経験年数の長い、実績のある先生方のグループで、本当にリーダーシップがどの方もとれるような素晴らしいメンバーでしたので、とても充実した協議ができました。
 ここでは、広域な散在地域での体制づくり、連携と人材の育成という二つのテーマで協議を進めましたが、これは別物では無くてどちらも両輪で進めて行かなければいけないものだ、ということが分かりました。困難と思われることとして、教員、保護者、地域住民それぞれの意識に問題があるのではないか、それらをつなぐための手法はあるのか、と考えると、地域として外国人支援の必要感が乏しいのではないか、ようはその必要感をどう引き出していったらいいのかだ、というところで人材育成と深くかかわってきます。そのどうやって引き出すかで、やはりアクションをまず起こすこと人間関係を、少しずつ構築していくこと、そして研修プログラムを充実していくことではないのか。
 研修プログラムでは面白いものを教えていただいたんですが、リスクマネージメントという研修で、どんなリスクがあって今何が必要なのかを、外国人に特化して考えるのではなくって、学校の教育課題として全体を見渡して考えると、外国人の課題が中に含まれて、大切なことなんだということを、管理職、教員、その他の方でも、抵抗感がなく、考えてもらえるようになるのではないかということでした。 
 それから全く違う、多言語の環境の体験をしてもらうことも良い研修になるのではないか、また、専門性を高める為の研修もきちんと行って、人材の育成、引き継ぎ等をやはりきちんとしておかないと、うまくその地域の活性化にもつながっていかないのではないか、ということでした。
 何にも増して、やはり顔を知ることからではないか、ということで、出来るところからとにかくいきましょう、っていうことです。メンバーの一人はメモにアクション×3と書いていました。期待したいと思いますし、また、素晴らしいメンバーが集まっていましたので、これからもここのネットワークも大事にして、学び合っていきたいですね、ということで話しが終わりました。

第2分科会 菊池聡先生(横浜市立いちょう小学校)

 第二グループの方は小中学校の学校の職員の方々、またNPO等の支援者の方々、特に多文化とか国際というところについて、日頃向き合っているところの方々のグループだと思います。普段抱えていらっしゃる悩みなどを話していただきました。まとめると、母語について・在籍学級との関係性について・学習障害について、の3点でした。
 まず、私の勤務校である横浜市のいちょう小学校でのことを話しました。母語については、子どもたちの自尊感情を高揚させるための支援ということに置き換えて、親子コミュニケーションを促すための支援を中心に行っているという事例をお話ししました。皆さんからいただいた感想には、少し母語を入れると、日本語だけで日本語を教えるよりも子どもたちが安心して学習が効果的に行えたよ、といったものがありました。
 在籍学級との関連性では、在籍学級と取り出される子どもたちが、一緒に勉強しているということがその子に与える安心感であったり、心の隙間を埋めるような支援をしているという具体的な事例を、少し映像を見ていただいてお話ししました。そういった取り組みには、日頃から担任の先生とのよりよい関係づくりが必要だ、または学校全体でどうやってその課題を共有していくかといった話しがありました。
 最後の学習障害の事ですが、個に応じた有効な支援という視点で、考えられた時点で専門家に関わっていただきながら、どこでどんな支援を行っていくのが効果的なのか、という見極めを早めに行い、やっているということをお話ししました。しかし、問題行動が見られないお子さんや学習ができない子がたくさんいるので、あいかわらず国際学級の方で、疑いのある子どもたちを見ざるを得ないという現状がある、というお話もありました。

第3分科会 黒須陽子先生(宇都宮市立清原東小学校)

 グループ③は、指導員の先生が二名と大学関係者が二名、あと国際学級担当の教員が私を含めて4名でした。課題として挙げられたことは、学校の体制作りに課題があるということ、日本語の具体的なカリキュラムを知りたいというもの、日本語教室の役割、日本語教室が学校内でどのような存在かということ、指導と評価について、子供たちが多学年にわたってクラスに来てしまう難しさ、母文化の尊重する教育をどうしたらいいのかなどでした。その中で主に話し合われたことは校内の体制作り、ということでした。
 その話し合いの中で、時間割をそろえるということもとても大切なことである、それによって、子どももすごく成長するのではないかということを事例や実践からアドバイスしていただきました。また、現実には時間割をそろえるというのはとても難しいことなので、そろえられない場合は、どうやって効率よく教科指導をしていくのかの、具体例を先生方に出していただきながら話し合いを進めました。
 その中で学校の中で日本語教室はどのような存在かということが、話題に上がりました。日本語学級の認知度を高めていくことで、いずれは時間割をそろえていただけるようになったり、日本語学級の子どもたちを在籍学級の方で大切に扱ってくれるような流れになるんではないかといった話し合いも持たれました。それにはやはり私たち担当の側から担任の先生や学校の管理職や教職員の先生方に、日本語教室について伝えるアプローチが必要だ。私たちから情報を発信していくことによって子どもの指導によい方向に流れるのではないか、という風な話し合いの結論に至りました。
 また、親子で言葉が全然できなくなってしまって、コミュニケーションを取れないというような事例があるそうです。そういった問題が、子どもの非行につながったりするので、小さいうちから母子間のコミュニケーションをどういう方法で取るかということを、家庭で考えていってほしいってことを、学校側担任、子どもに関わる教員がアプローチをしていかなければいけないんではないか、という話し合いをやりました。
 そのための用法としては、子どもの能力をはかるスケール的なものがほしい、後はどの地域でも使える日本語指導の指針が欲しい、指標が欲しいというようなことも話題に上がりました。

第4分科会 濵村久美先生(新宿区立大久保小学校)

 私のグループは初年度、二年度の教諭と指導員の三人のグループで、モチベーションが上がらない、効果が遅い、というのがテーマでした。それには二つの事が大切であろうという話になりました。
 まずは実態把握の大切さで、担任の先生との情報交換をしよう、親との情報交換をしていこう、子どもが将来に日本語の必要性を感じないようなのでその辺の情報を集めようといったことと、それと教材を工夫しようということで、話し合いを進めました。
 モチベーションを挙げるのに効果的なものの一つはゲームで、「書き順が治らなかった子が急に書き順気をつけるようになったのはDSのおかげだった」という例や、「学年別漢字トランプ、部首かるた、漢字すごろくはとてもいい」といったことを話しました。
 作文や会話に関しては、目的意識、相手意識がとても大切なので、やりたくなる、書きたくなる相手を選んでやる、先生たちにインタビューやアンケートしてみるなど、目的意識をもてる活動を設定するのが大切ではないかという方法も出ました。
 また、それと授業の時に母語をちょこちょこっと話してやると、すごく気持ちがあったかくなるのか、盛り上がるのでちょっとした母語を活用するのも良いのではないかということを話しました。

第5分科会 高橋理恵先生(豊島区立池袋小学校)

 私のグループは日本語担当教師3人、指導員3人で話し合いをしました。
 限られた時間の中でどう力をつけていくかという課題については、今澤先生がおっしゃった先行学習が有効ではないか、特に高学年の場合にはかなり効果が上がる、というようなお話になりました。それにはまず年間計画や指導書などで進度を確認しないと先行学習ができないので連携は大事だという話になりました。また、限られた時間ですので、その中で記憶に残る学習をさせることが必要です。手作り教材で印象付けたり、ワークシートで定着を図ったりして、教室に行った時も思いだせるようにする。クラスと同じノートを使い、担任の先生も見られるようにして連携も図るという意見が出ました。また、家庭学習も行い、限られた時間でも学習が連続していくようにしたいという風にまとまりました。
 連絡については、ファイルやソーシャル・ネットワーク・サービスで連絡を取った、メールは電話よりも時間的に自由がきいてよいのではないか、という意見もありました。また教科のテストを日本語学級でやった場合に、この印が付いているときは自力で出来た、この時には読んであげたというようなことが担任に伝わるようにするとよいという話も出ました。支援団体ではコーディネーターが学校の年間指導計画をもってきたり、学級の様子を伝えてくれたりするというところもありました。学校との連携がうまく図れず、子どもが指導員さんになついているのを甘えていると思われてしまうというちょっと深刻なお話も伺いました。ただ、日本語指導者は子どもの最初の味方になるので、子どもがそれを必要とする段階では話を聞いてあげることも大事ではないかとお話がありました。担任の先生にも今はこういう段階です、とお伝えし連携を図りたいということになりました。
 日本語が話せるようになると勉強をしたがらないお子さんについては、教科、特にクラスでやっている内容については強い動機づけが持てると思いますので、それをアレンジしながらやっていくことが子どもを日本語に結び付けていく強い動機づけをもたせていくことにつながるのではないか、という話になりました。
 それから、子どもというのは、先生に教わった事は忘れても、子ども同士で勉強したことは忘れない。別の子が間違えて自分はちゃんとできたことは覚えている、ということがありますので、子ども同士の学び合いの場所をつくるということも良いのではないかと思います。

第6分科会 今澤悌先生(甲府市立新田小学校)

 グループ⑥でもまず悩みを出していただきました。
 教科内容をどう理解させるかという点では、まずは在籍学級で学ぶ前に内容をつかませていく先行学習が有効ではないかということ、それによって、在籍学級の中で少しでも分かったとか、内容が理解できたと思えるようなことをやっていくということを話しました。目標設定では、その子の今の日本語の力ではここまで、もう少し豊かな表現を理解させていきたかったらここまでという形で高めていくという話がありました。
 文字指導では、日本に来て四カ月ほど経った子どもたちが、まだひらがなカタカナも読み書きがままならないという悩みが出されました。子どもたちの能力や個々に持っているものが非常に多様なので、まだ時間がかかっているのではないか。中には会話が出てこない子もいるということでしたが、今言葉をためている沈黙期で一気に話す時期が来るかもしれない。あとは保護者と通訳の方を交えて話し合う機会をもって、母国にいた時の教育歴や成育歴を聞きとる中で、様子を見、そのうえでまだ難しいなら、能力的な問題や学習障害、もしかしたら心理的なものもあるかもしれない。なのでもう少し指導続けながら一つ一つその要因を考えていったらどうか、という話し合いがなされました。
 もう一つは語彙不足の話でした。外国籍の子どもたちが多く、友だち同士でも母語が通じる環境でなかなか語彙が増えていかないということでした。日本人の子どもたちや教師を巻き込んだ活動を多くもつ、読み聞かせや音読の中で語彙を増やす、読み聞かせでも言葉遊びや、その物語をもう一度話してもらうなどの活動をするという話もありました。高学年の子どもについては、一年生の漢字や簡単な言葉からではとても追いつかないので教科につながるような言葉を教えた方がいい。授業にいきるような言葉から増やしていったらどうかという意見も出ました。

第7分科会 傍士輝彦先生(東京学芸大学附属世田谷中学校)、郡司英美先生(宇都宮市教育委員会)

 グループ⑦は主に中学校に関わっている方々のグループです。やはり話題の中心は中学生に独特の、生活指導がらみのJSLの子どもの世話。それから、進路・進学のことです。
 日本に来る一部のJSLの子どもの背景は複雑なものもあり、そういった子どもが、家庭環境が厳しいなどの理由で日本語環境に慣れない。したがって生活指導上の面倒が出てくるし、当然進路や進学にも響いてくる。そういった、結構現実的な問題があります。
 小学校と一番違うところは、三年間しかない、ということです。そして受験を避けて通れない。もしなんとか受験を突破しても、その先には単位が待っているので、一年後には厳しい状況の子どもが増えている。下手をすれば辞めてしまう。どうしようか、というような悩みを、みなさんそれぞれの立場から話していただきました。
 行政とか制度とかいろいろな問題がある事ですので、我々だけは解決には至らない。例えば、高校進学も大事だけれど、その前に他の職業訓練校などで日本語環境にまず慣れて、そのあとで進学、ということを考えても遅くはないのでないか、という私の体験の話もいたしましたし、郡司先生からも基本的な支援の仕方などの資料が配られて、悩みをみんなで共有して議論していくという形の会になりました。
 中学高校となるとなかなかコミュニケーションもとりにくいけれども、その中で何とか保護者との関係をうまく作ったり、教員を含んだ、進路指導や進学指導への関わり方なども話題に上りました。

第8分科会 和田玉己先生(九州大学留学生センター)

 グループ⑧は日本語指導員の方、協力者の方のグループだったんですが、大きく三点が課題として挙げられました。
 日常会話ができるようになったけれども、少しでも教科のお手伝いはどういうことができるだろうか、っていうことについてが一つです。
 あともう一つは本当にゼロで来た人に、どうやって効率よく教えればいいだろうか、ということ。そして、限られた時間で、日本語、外部からのサポートと担任の先生や教頭先生との連携をどうして行ったらいいかということが出ました。皆さんから解決策などを伺っていて出てきたことは、結局は外部者である指導員の私たちが担任の先生を巻き込んだり、他の事務の方を巻き込んだりしながら、どれだけ学校の中に入り込んで関係をつくっていけるかが課題だと言うことで、そうやって入り込んで色々協力していくことが、実は一番効果的な効率のいいことになるのではないか、という話に最後落ち着きました。

第9分科会 赤羽寿夫先生(東京学芸大学附属国際中等教育学校)

 私どもの分科会は、それぞれ日本語指導を担当されている先生の方から、普段の日本語指導ではなくて教科指導をするためにはどういうことが必要か、どういうことを考えていかなければならないか、というようなある程度初期指導が終わった子たちの話を進めていきました。
 その中での結論なんですが、学習は学校がやるべきことであって、学校の先生方に頑張ってもらうというのが一番一つの結論でした。ただ、そこでもう日本語指導の先生たちは何もしないのではなくて、評価者ではない立場で子どもたちとしっかりと教科を一緒に楽しくできるような環境、またはそのための準備等を進めていくことが子どものためになる大事なことではないか、というような話し合いがありました。

△ ページ上部に戻る