現代の家族と子育て研究プロジェクト

平成12年度中間報告

2001年3月

 

研究目的

 少子高齢化社会の中で、子どもを産み育てることは必ずしも容易ではありません。変動する雇用情勢や家族形態の中で、どのようにすれば健やかに子どもを育て、健全な家族生活を維持できるのかが大きなテーマとなってきます。本研究では子どもをこれから持とうとするご夫婦にアプローチして、子どもの出産、子育てを経験していく中で、どのように家族関係が変化し、子どもや親が成長していくのかを探ります。

 

研究方法

 妊娠中の妻とその夫に対して質問紙調査とインタビュー調査を行いました。質問紙調査は、地域の保健センター、病院、医院などを通して直接ご夫婦に依頼し、郵送、直接手渡しなどによって個別に回収しました。質問紙の内容は、妊娠の様子、生活への満足度、夫婦関係の様子、家事の参加度、子どもが生まれた後の生活の様子、育児の分担などです。

平成12年7月より開始し、現在も継続中です。

 

研究結果

 平成13年2月までの集計で、以下の機関をとおして配布しました。

 

                          配布数

A病院両親学級                    122

B市両親学級                          83

C産婦人科                             22

D産婦人科                             80

E医大病院                             51

その他                                    42

                               400

 

結果の分析

 現段階で、女性、男性それぞれ400名弱からの回答が得られました。

 年齢は、女性は20代後半から30代前半に集中しており、最頻値は31歳でした。男性もほぼ同様に、20代後半から30代前半および後半に多く、最頻値はやはり31歳でした。妻と夫の就労状況は図1,2のとおりです。女性は専業主婦が5割で、フルタイムの仕事をしている人が、2割でした。産休中の人も8%いましたから、トータルするとフルタイムの人は2割を越えるでしょう。一方、男性はフルタイムで仕事をしている人が圧倒的に多く9割ちかくをしめています。

つぎに、質問の具体的な項目の分析に入っていきます。

 

 妊娠を希望していたかどうかを尋ねた結果が図3のとおりです。9割以上の男女にとって望んでいた妊娠ですが、細かく見ると微妙な差があります。「とても望んでいた」人の割合に注目すると、僅差ですが、妻以上に夫は子どもを望んでいたことがわかります。妻が考える夫の希望度よりも実際、夫は希望していて、また、実際妻が感じる以上に、夫は妻が子どもを望んでいたと考えているようです。

 

 また、図4をみると、7割あまりの人たちは、子どもを持つことを夫婦で話し合っています。そのうち妻の20%、夫の25%は「十分話し合った」と考えています。

 

 妊娠を知ったときは複雑な気持ちです(図5)。もちろん、9割以上のほとんどの人がうれしいと答えていますが、それと同時に、不安も抱いています。「どちらかというとそう」の選択肢まで含めると、妻の5割、夫の4割が不安に感じています。女性のほうが多少この割合が高いようです。

妊娠後の夫婦変化は、図6に示したとおり、半数以上の人たちが妊娠前と変わらないとしています。その一方で、女性の4割強、男性の4割弱の人は、妊娠することによって夫婦関係がよくなったとしています。その反対に、妊娠後、夫婦関係が悪くなったと感じている人はほとんどいませんでした。

 妊娠後の心境の変化は図7,8に示したとおりです。

 9割以上がお腹の赤ちゃんをいとおしく感じています。その割合は、女性のほうがやや高いものも、男性も自分のお腹のなかにはいないわりには、高い数値となっています。

親になるという実感は、男女とも「どちらかというとそう」まで含めると、8割以上が抱いています。その数値は男女でほとんど変わりません。

次に、現在の生活についてどう感じてるかたずねました。図9に示したとおり、「毎日が面白くないと感じている人は、全体の2割以下です。女性のほうが段背に比べるとやや多くなっています。

 

 

10をみると、順調に育っているか不安を感じている人は多く、8割ほどいます。女性のほうがやや高くなっています。

子どもが生まれると、育児などの仕事が増えますが、その前に男性たちはどれほど家事に参加しているのでしょうか。男性と女性に尋ねました(図11)。

食事の後の食器洗い、風呂掃除、洗濯物を干すの3つに限って調べてみると、「ときどきする」も含めれば、風呂掃除と食器洗いは半数以上の男性が参加しているようです。洗濯物に関しては4割前後となっています。男性と女性の評価はほぼ合致しているのですが、やや男性の評価の方が高いようです。つまり、男性としてはやっているつもりでも、妻から見るとそうでもないというケースが多少は存在しているようです。

次に、パートナーに対する満足度を調べました(12)

「まあ満足」という表現まで含めると大多数を占めるので、「満足」とはっきり答えた人のみで比較します。すると、思いやりという点では6割程度あり、妻から男性の思いやりを評価するほうがやや高いものの、男女差はそれほど多くはありません。しかし、それ以外の家事の分担、コミュニケーション、性生活をみると、男女差が大きく表れました。つまり、男性が妻のことを「満足」と評価する割合に比べて、女性側からの夫に対する評価のほうが厳しくなっています。とくに、家事の分担は、男性が妻に対して65%が満足しているのに、その逆、つまり女性は男性の家事分担について3割弱しか満足していません。コミュニケーションや性生活についても、男性の満足度にくらべて女性の満足度が低くなっています。これはどういう意味を持つのか、慎重に検討したいと思います。

 

次に、出産する前の現在の生活に比べて、子どもが生まれてからの生活がどのように変化すると思うか、自分自身とパートナーのことを想像してもらいました。図13から図16までをみると、明らかに女性のほうが大きく変化するということを前提としています。「そう思う」と「ややそう思う」を加えると、9割以上の人が睡眠時間と自由な時間が減ると考えており、7割の人が仕事の時間も、5割強の人が友人との交流も減ることを予想しています。それに比べると男性の負担は軽いと考えているようです。特に、仕事の時間が減ると考えている人は3割に過ぎず、「男性は仕事」という考えが強く表れています。かろうじて男女で等しいのは家事の分担で、「ややそう思う」まで含めれば、男性も女性に劣らず、家事が増えることを予想しています。

 

また、これらに共通した興味深いパターンがみられました。それは、男性と女性の間での予想のずれです。いずれの項目を見ても、妻の負担については、妻自身が想像するより、男性の評価は大きく、妻の自己予想よりも高く、妻の負担増を予想しています。それと逆のパターンが夫の負担について見られます。男性自身が予想する負担増に比べて、女性が考える夫の負担増は少なくなっています。

 これは何を意味するかというと、お互い、パートナーの負担について、男性は女性により多くを予想し、女性は男性にあまり期待していないということです。子どもが誕生することによって、妻はかなりの負担が増えることを覚悟しています。それに比べれば、男性の覚悟はそれほど大きなものではありません。ことに仕事に関してはいわば男性の「聖域」であり、家庭の事情でそう簡単に減らせられないということのようです。そのような前提で、パートナーにはどの程度期待してるかというと、女性は夫にそれほど大きなものは期待しておらず、男性は妻に子育ての作業の多くを女性以上に期待しているということが言えるようです。

 また、出産による肯定的な変化について、図18にまとめました。

7割以上の人が出産によって自分が成長し、生活に充実をもたらすと考えています。また、6割強の人が、夫婦の会話も増えるということを期待しています。果たして、実際に子どもが出てきてからはどうなるでしょうか。出産後の調査と比較するのが楽しみです。

 

次に、男性の子育て参加について、男性はどれほど関わろうと思っているか、また、女性は男性にどれほど子育てを期待するかを尋ねました。

 図19と図20を比較してみると、男性はかなりはりきっているようです。「多少は関わる」という選択肢まで含めれば、ほぼすべての男性が入浴や子どもと遊ぶこと、子どものしつけなどについて関わろうと考えています。「たくさん関わる」という選択肢に限ってみても、8割以上が子どもと遊ぶこと、7割が子どもの入浴、6割強が子どものしつけに積極的に関わろうという姿勢を見せています。

 一方、妻はある程度、夫に期待しているものの、夫自身の自負にくらべれば低いものです。入浴や子どもと遊ぶことは9割以上が期待しているものの、3割の女性は、食事やオムツの交換、子どものしつけなどに、夫の協力をそれほど期待してません。ことにその差が大きいのが父親のしつけです。このあたりが、子どもが生まれて実際にはどうなるか、またそのことの子どもの発達への影響など、興味深いところです。今後の調査によって明らかになるでしょう。

子育ては、当事者である両親以外にも、まわりの人からとても多くのサポートが必要です。9割の女性は、夫以外に相談できる人がいると答えいています。次に図21ではその内訳を見てみました。一番多いのが自分の母親で、7割の女性が当てにしています。次いで学校時代の友人、夫の母親、自分の姉妹と続いています。

 

 

 

現在の生活の満足度を調べたものが図22です。「まあ満足」という回答まで含めれば、ほとんどの項目が8割を越えており、満足度は比較的高いといえるでしょう。「満足」という回答のみを見ると、男性の満足度が女性に比べて比較的低いようです。特に、仕事や余暇、自分の親が際立っています。

この値が出産後どう変化するかについて、今後検証してゆきたいと思います。

 


面接調査

 アンケート調査と平行して、面接調査も行いました。アンケートに協力していただいた方にコンタクトして、できればご夫婦そろって1時間ほど、インタビューをします。半構造的に、質問紙のような内容のことをさらに具体的に深めて尋ねました。

まだ10ケースほどですので、結果を報告できる段階ではありませんが、今後も続けてゆきます。

 

平成13年度の計画

 これまで行ってきた質問紙調査、面接調査を継続して行います。

    出産前夫婦への質問紙調査

    出産前夫婦への面接調査

 

さらに、以下のことを計画しています。

    出産後3−4ヶ月の夫婦に対する質問紙調査(郵送法)

    出産後3−4ヶ月の夫婦に対する面接調査

    出産後夫婦に対するサポートグループ

 

 

現代の家族と子育て研究プロジェクト

・メンバー

       東京学芸大学 生活科学学科

            田村 毅(代表者)

            倉持 清美

            中澤 智恵

       日赤武蔵野短大母性看護学系

            及川 裕子

                     木村 恭子

            島根医科大学医学部看護学科

                     岸田 泰子

            東京学芸大学大学院生

                     増田 典子

            東京学芸大学大学生

                     持田 恭子、北原 玲子、阿部 隆次、内野 香織、谷口 顕子

 

・事務局

       184-8501 東京都小金井市貫井北町4-1-1

            東京学芸大学 生活科学学科児童学研究室

       電話:042-329-7438,7433, 7441

            Fax: 042-329-7444

       E-mail: kosodate@u-gakugei.ac.jp

       URL: http://www.u-gakugei.ac.jp/~kosodate/