3回 1111

 

電気力はどれくらい強いか

 

2回で学んだように,点電荷と点電荷の間に働く力は,式(2.2)のCoulombの法則で表される:

                               (2.2

ここで,比例係数は

                     (2.4

であった.この力の大きさは,果たしてどれくらいなのだろうか.

 

ところで,ある量が「大きい,小さい」とか,「強い,弱い」とか言うときに,私たちが無意識にしていることがある.無意識に,基準となる量を想定しているのである.例えば,「あの人は背が高い」とか「あの人はやせている」とかの表現には,スタンダードな中肉中背の大人を想像し,それに比べて表現するわけである.( より正確には,「日本人の大人として」と言うべきであろう.)

では,「ある力が強いか,弱いか」と言ったとき,何を基準とするべきであろうか.

もちろん,私たちがすぐに想像できる力を基準にするべきなのである.それは,重力である.

例えば,「1kgの物体の重さはどれくらいか」と問われれば,ダンベルとか本とかの,1kgに近い重さを持つ物体を手に持ったときの手ごたえを,頭の中でイメージすることで,理解できるであろう.1kgの重さを支えることを想像するとは,「地球が質量1kgの物体を引っ張る力とつり合う力」をイメージしたことに相当する.すなわち,

という大きさの力を,感覚的に理解したわけである.このような,身近で感覚的理解ができる対象を基準として,他の量の大小,強弱などを理解していくことになる.

 

では,重力と電気力の大きさを比較してみよう.ただし,地表付近の重力を表わしている

ではなく,万有引力

                              (3.1

がふさわしいだろう.これは,Coulomb力と同じく,距離の自乗に反比例している.

なお,比例定数G万有引力定数と呼ばれるもので

で与えられる.

 

さて,質量と電荷量がそれぞれおよびである,物体1と物体2があるとする.2物体は,点として扱えるとする.このとき,この2物体間にはたらく電気力と万有引力との比をRegとおくと

                       (3.2

となって,距離に依存しなくなる.

では,この比を,電子について求めてみよう.

電子の持つ電荷は,マイナスであるが,その大きさは素電荷と呼ばれ,有効数字2桁で

e=1.6×10-19[C]

で与えられる.また,電子の質量は

me=9.1×10-31[kg]

で与えられる.これらと,kG の値を代入すると,

を得る.この大きさの圧倒的な違いに注目してほしい.

電子は質量が小さいので,せめて陽子と陽子で比較してみよう.陽子の質量は電子の質量の1836倍なので,上の値を(1836)2=3.37×106で割ればよい.すると,

を得る.これでも,想像を絶する比であることは変わりない.

つまり,ミクロな世界では,電気力は重力よりはるかに強い.日常生活で電気の力を意識しないで済むのは,原子分子などにおいて,電気力が強いがゆえに,プラスとマイナスの結合が切れにくく,単独で存在することがほとんど無いことによる.一方,重力はすべてが引き合うだけで打ち消しあうということが無い.したがって,大きな物体になると重力だけが目立つことになる.

 

 

 

問:

The Feynman Lectures on Physics Vol.IIに次のような記述がある.

If you were standing at arm’s length from someone and each of you had one percent more electrons than protons, the repelling force would be incredible.  How great?  Enough to lift the Empire State Building? No!  To lift Mount Everest?  No!  The repulsion would be enough to lift a “weight” equal to that of the entire earth! (1-1 Electrical forcesより抜粋)

このことを計算で確認せよ.なお,上述書の日本語訳はファインマン物理第3巻「電磁気学」にある.