第8回 120

 

電流と磁場

 

磁場の定義

 

家庭の冷蔵庫には,たいていマグネットクリップでメモが貼り付けてあるように,私たちの身の回りには,磁石がたくさんある.その歴史は静電気と同様に古く,実用化という意味では方位磁石へ応用されたわけであるから,電気よりも古い.

しかし,磁力の本質が解明されたのは,それ程古い話ではなく,1820年にデンマークのOerstedが,偶然,電流による磁針の振れを発見したことから始まった. その発見に刺激されたAmpèreは,電流と電流の間にはたらく力を調べた.その結果,直線電流と直線電流の間にはたらく力は電流の強さに比例し,直線間の距離に反比例することを発見した.すなわち,直線の単位長さあたり

                                                                               (8.1)

なる力がはたらく.

さて,この力と磁石を動かす力は,どのように結びつくのだろうか.電流が磁石を動かす力,要するに磁力を発生させる源として,磁場というものを直線電流は発生させているとまず考えることができる.そして,その一方で,電流は(他方の電流が発生させた)磁場から力を受けるために,(8.1)式の力がはたらくと考える.すると,(8.1)は,まず直線電流が磁石を動かす力の源である磁場(磁束密度と呼ぶ)

                                                                                 (8.2)

を発生し,その磁場によって,電流I’が,力

                                                                                  (8.3)

単位長さ当たりに受けている,と2つの式に分離して考えることができる.

 

 

 

ところで,力はベクトルであるから,向きはどちらか,という問題を考えなければならない.力は直線電流の流れる方向nに対して垂直方向に働くので,磁束密度Bの向きB内で磁石のN極の向く向きと定義する.電流の流れる向きを持ち,長さがΔs のベクトルをΔs と表すと,向きまで含めた電流と磁場と,電流の長さΔs 部分に働く力の関係

                                                                          (8.4)

と表せる.

この式は,磁場(磁束密度)の定義式と考えることができる.すなわち,磁場以外の一切の力が働いていないはずの直線電流I(8.4)式にしたがって力Fを受けたとするならば,そこにはBという磁場が存在することになる.

 

Biot-Savartの法則

 

さて,(8.2)式に戻る.この式は,電流が磁場を発生することを表していることは表しているのだが,「直線電流」という,極めて特殊な電流のつくる磁場しか与えていないという意味で,全く一般的ではない.下図のような,一般的なくねった電線を流れる磁場は,どのように表せるのであろうか.また,何本も電線がある場合や,一般に太陽風や溶液中のイオン流のように線上にない空間的な電荷の流れとしての電流がつくる磁場はどうなるのだろうか.この答えを与えてくれるのが,Biot-Savartの法則である.

                                                           (8.5)

ここに,は観測地点,r’は「電流素片IΔrの位置ベクトルで,ΔBは電流素片IΔrrにつくる磁束密度を表している.したがって,電流の全体がつくる磁場を求めるためにはすべての電線の小部分(素片)からの寄与を加えあげなければならない.

もちろん,Biot-Savartの法則を使えば,直線電流のつくる磁場(8.2)式が導かれる.この意味で,(8.5)式は基本的な式である.

 

Q1.Biot-Savartの法則を用いて,直線電流のつくる磁束密度を求めよ.

Q2.半径Rの円上を電流Iが流れている.このとき,円の中心を通り円に垂直な直線上における磁束密度を求めよ.

 

なお,電流密度jを用いると,

(ΔVは位置ベクトルrでの微小体積)と考えてよいので,(8.5)式は

と書き直すことができる.これは,より一般的な形であり,電線を流れる電流以外の,例えばプラズマ中の電流がつくる磁束密度を求める際にも用いることができる.