ドメスティック・バイオレンスの実態とアプローチ

             N類人間福祉課程 カウンセリング専攻      宮崎 七月

 

 

第一章 本研究の意義

 

 

第一節 本研究の目的

 

 最近、ドメスティック・バイオレンス(以下DVという)という言葉をよく聞くようになった。調べていくとDVは昔から存在していた。しかしそれにはDVという名前はもちろん付いていなかったし、むしろDVは公認されていた。父親、夫が娘や妻を「所有」するのは当たり前の事と考えられていた。

 

 しかし、男女平等が叫ばれるようになった現代だからこそDVという言葉が出てきているし、このことが問題視されている。

 

では、なぜこのような事が起こってしまうのか。DVを起こしてしまう男性の心理状態とはどのようなものなのか、またどのような状況下で起こるものなのか、それらのことを調べてみようと思った。

 

第二節 ドメスティック・バイオレンスの定義

 

 DVとは、「親密」とされている関係における男性から女性への「暴力」を言う。DVを「夫婦間暴力」と訳している文献を散見するが、後述のように、DVは現存する女性差別の社会的現れである。暴力を振るう者、すなわち「親密」とされている関係にある、または、そのような関係にあった男性には、婚姻関係のある同居中・別居中の夫に限らず、内縁の夫、離婚した夫、婚約者、現在交際中の恋人、過去に交際していた恋人などを想定している。

 

「暴力」についても、殴る、蹴るといった身体的暴力に限らず、言葉やジェスチャーで暴力を振るうとほのめかしたり(脅迫、威嚇)、女性の人格を辱めるようなことを言ったり(言葉による暴力)、女性には小遣い程度の僅かな金額しか渡さない(経済的暴力)、女性の行動の自由を制限する(社会的隔離)、性行為を強要する、避妊に協力しない(性暴力)などの態様も含まれる。また、DVは「親密な」関係にある者の間で起こることから反復的・継続的に行われるところに特徴があるので、女性のいくところ常につきまとってその行動を監視したり、勝手に家に立ち入ったり、いやがらせや無言電話を執拗にかけるといった、ストーカー行為がなされることも少なくないが、これもDVの一態様である。

 

 このように、DVとは「身体的暴力に限らず、女性の言動や思考を萎縮させ、女性の身体の安全や尊厳を脅かす力の行使」といえる。

 

 

第三節 ドメスティック・バイオレンスの本質

 

 DVという用語自体は女性運動の中から発生した言葉であり、比較的最近耳にするようになったが、現象としては、実はきわめて古くから記録されている。中世ヨーロッパやイギリスにおいては夫が妻に身体的制裁を加えることが許容され、「妻は夫の所有物である」という見方をされた時代が長く続いた。

日本に目を向けてみれば、封建的な「家」制度の中で、妻、情勢は政治的・経済的優位な家父長に対して絶対的な服従を強いられ、家父長は自分の命令に従わせようと妻、女性に対して暴力を振るい、暴力を振るわれる妻、女性も耐え、また「家」制度に支えられた社会も家父長や男性の暴力に対して寛容であった。

戦後、両性の平等をうたった現憲法が制定されたが(24条)、約50年経過した現在に至っても、女性に対する男性の暴力がなくなったわけではない。すなわち、いまだに性別役割規定 「男性は家族を養うために外に出て働く、男性には行動力が求められ、攻撃的な性格が望ましい」「女性は男性が働いている間家を守り、家事・育児に専念する、女性には細やかな気配りや従順さが求められる」 にそった価値観が根強く残り、女性に従順さを求めるために男性が暴力を振るうことを正当化する考えを持つ男性も少なくなく、社会自体が夫、男性の暴力に厳しい目を向けているとはいえない。

 

このような社会の中で、夫に暴力を振るわれた妻が110番通報すれば、警察は「夫婦喧嘩だから」と夫の暴力を軽視するとともに、家庭と言う私的領域内で発生した事件であるとして「法は家庭に立ち入らず」あるいは「民事不介入」の姿勢を貫くということが、最近では改善されつつあるとはいえ、まだ多数見られる。また、被害者に暴力の責任の押し付け、誰にも相談することなく沈黙し、男性からの暴力に耐えつづける。

 DVの実態を知らない人々は「暴力を振るうのならば逃げればいいのに」と言う。しかし、妻や女性に経済力がない場合が多く、夫や男性からの暴力に耐えつづけ、DVの被害を隠してしまう。これが女性に対する人権侵害でないといえるだろうか。DVは決して私的・個人的な問題ではなく、女性に対して従順を求め、男性の暴力に寛容な、男性優位の社会構造に起因する、女性に対する著しい人権侵害であって、われわれ社会全体で考えなければならない問題なのである。

 

 

第二章 DVの背景

 

 

第一節        社会的背景

 

 

アメリカおいて,社会学や家族社会学の分野で家庭内での成員間の暴力を研究課題として扱うようになったのは1970 年代後半からである。その社会的な背景としては,ベトナム戦争へ突入や,それにともなう市民による反戦運動や学生運動の勃発,また市街地での暴動などの頻発があげられる。さらにはケネディ大統領の暗殺やキング牧師の暗殺といった事件もあげられる。こうした暴力的な事件の頻発が,人々の暴力に対する関心を集めていた。

このような社会情勢から,社会学者たちは不平等や葛藤,暴力,といった問題に焦点をてるようになった。家庭内での暴力が問題としてとりあげられた背景には,後述する女性たちによる反レイプ運動やバタードウーマン運動の影響も大きい。

 

こうした時代の流れの中で,社会学者は家庭内での暴力について理論的に究明をしようと試みる。Gelles (1993 ) によれば,家族の構造はすなわち社会制度であり,それゆえ社会学的なパースペクティブが重要になってくるという。心理学的パースペクティブは暴力の原因を個人的な資質に見るため,社会制度としての家族のもつ固有の特徴のある構造を無視しているとし,また、フェミニズム的パースペクティブは家族の制度と暴力と虐待とをジェンダーとジェンダーに起因する関係のみに焦点を当てているとしている。しかし家族は社会における最も暴力的な社会制度であり,家族は暴力を高い確率で産み出す社会制度であると見なすべきであると主張する。

Gelles はStraus とともに,家族はそもそも暴力を産み出す傾向にあるいうことを主張した。その機能は次のようなものである。

@ 家族の接触時間の長さは成員間の葛藤を引き起こしやすい。

A 家族以外の人よりも家族成員との相互作用が大きい。

B 家族の介入の度合いは強く,その裁ち切りも強い反動を生む。

C 家族成員の興味は多様なため,本質的に葛藤が起こりやすい。また意見の不一致の解決は勝者と敗者を産み出す。

D 家族成員であるというだけで,価値や態度や行動などが絶対的な権力として押しつけられる。

E 家族成員の年齢や性別が異なるため,世代間・性別間の争いが起こる可能性が高い。

F 家族は年齢や性別による決められた役割や責任を持つ唯一の社会制度である。

G 現代家族は私的な制度であり,そのためプライバシーが高く,社会による統制は低い。

H 子どもは自分の意志で家族成員になったわけではない。集団から離れたり相反する意識をもてば葛藤が起こるのも当然である。

I 家族の中には出産,育児,高齢化,といったような多様な変化変遷があり,不安定である。また成員の感じるストレスは他の成員にも伝わる。

家族が本来的に暴力を発生させやすい機能を持っているとした上で,Gelles はさらにfamily violence と社会構造との関係は明確でありかつ強固なものであると主張する。

 

 

第二節        初期の社会学理論

 

 

ここでは家庭内の暴力を社会学的に分析をしようとしてきたいくつかの理論について説明をしていきたい。

 

一般システム理論(General System Theory )

暴力は個人的な病理ではなく,家族システムから生産される。

結婚をした夫婦や家族はシステムの一部であるとみなされる。システム理論では家族の成員がそのシステムを構成しており,成員は家族の安定のために家族内での役割をはたすものであると説明している。 

 家族内に暴力が発生すればすべての成員がその暴力の原因となるし,また暴力の影響も受ける。さらに暴力が暴力を引き起こす機能もあるとしている。家族というシステムは社会文化的なシステムの一部であり,社会文化的なシステムに何らかの変化があれば,家族システムはその影響を受けざるを得ない。

家族内が安定していても,雇用の減少による経済的な変化や,社会的につくられるジェンダーといった家族外部からの影響を受けることにより,家族のシステムや成員は変化をせまられる。その変化の過程において成員間にストレスや葛藤が発生し,それを安定させるために暴力が安定装置として働く

 

・資源理論(Resource Theory )

資源理論とは,個人が社会的,個人的,経済的な資源を持てば,その資源の持つ力によって他人をコントロールできるというものである。

しかしGoods (1971 )によれば実際に多くの資源を持つ人間は,あからさまに権力を行使しないという。

この理論をfamily violence に適応させた場合,次のような説明をすることができる。家庭の中で妻や子どもをコントロールしたいと考える夫が,学歴が低く,低賃金の労働にしかつけないというような低い社会資源しか持たない場合に,妻や子どもを支配するために暴力という資源を活用するというのである。

 

・社会交換理論(Exchange/Social Control Theory )

妻への虐待や児童虐待を,損失と利益の原則を用いて解釈しようとしたのが社会交換理論である。

人は行動するときに現在の状況の中で予測できる行動の中から,自分にとってより利益のある行動を選ぶ。この利益と損失の割合を考えた上で家庭内で虐待されている妻が,夫のもとに居続けるかどうかをまず判断すると説明している。

Pfouts (1978 )によれば,虐待される妻は自分の置かれている状況が虐待という損失よりも利益があるのかどうかを判断する。その判断をもとに,自分や子どもが生きていける可能性がどこにあるかをさらに判断する。

たとえば,夫に経済的に依存をしつつ虐待も受けている妻が,夫を家から追い出したり夫のもとから離れて生活することは,結果として虐待されることはなくなるが,夫と離れることによって,経済的なサポートが一切なくなり生活をすることが困難になってしまう。この場合後者の方が自分にとって損失になってしまうと判断し,女性は虐待的な関係に居続けようと決定するのである。

 

・暴力の文化理論(Subculture of Violence Theory )

社会の規範や価値観が暴力的な行為に意味合いを持たせるため,そうした規範や価値観のもとでは暴力行為が認められやすい,という理論。

ある特定の文化や社会では暴力をふるうことが生存するために必要な行為であり合法的に認められていることや,アメリカの文化が暴力を容認する文化であることなどから,家庭内での暴力について説明をしている。

 

 

 

第三節  アメリカでの原因と結果

 

 

 DVに関する研究は大別して二つあり、一つは男性の暴力行為を生起させる原因の研究で、他は暴力行為が女性に与える結果の研究である。

@     DVを生起させる原因

 

@加害者側の原因

 

<生理学・神経生理学の原因>

 暴力や攻撃性は、生理学や神経生理学の観点から研究されており、Reiss&Roth1993)やvan der Kolk1994)は、テストステロンなどのステロイド・ホルモンの変化、セロトニンやド−パミンなどの神経伝達物質の変化などをその原因としている。また、記憶や注意や言語に関する神経生理学的欠陥が、時に辺縁系に障害を起こすことが、暴力や攻撃行動に晒された子ども達の所見から明らかだとMiller1987)は報告している。

 

<アルコールの原因>

 攻撃的行動にはアルコール飲酒が深く関与しており、KantorStraus1987)や他の研究者のデータでは、batering2585%と知り合いによるレイプの75%に、アルコールがからんでいる。アルコールの中枢神経系に及ぼす影響、セロトニンなどの伝達物質との相互作用、アルコール濫用の遺伝子レベルへの影響などが、攻撃性と関連があるといわれている。(Plomin 1989

 

<精神病理と人格傾向>

 バタラー(殴打者)に中には、反社会的人格障害や境界例人格障害やPTSDなどがしばしば見られ、精神病理と人格障害の出現頻度は高い(Hamberger&Hastings 1986Dutton 1994Hart1993)。Holtzworth-Munroe&Stuart1994)は、バタラーを3要因(@身体的暴力と性的・心理的虐待の頻度と高度、A暴力の般化性、B精神病理性あるいは人格障害性)でタイプ分けし、一般人と比較したところ、性的攻撃的男性には、反社会的傾向(Malamuth 1986)非同調性(Rapaport&Burkhart 1984)衝動性(Calhoun 1990)超男性性(Mosher&Anderson 1986)などが見られた。またBarnett&Hamgerber1992)は、バタラーに低い社会化と責任性の欠如が認められると報告している。

 

<社会的学習>

 O’Leary1988)は、「人は他者の行動とその結果を観察し、何が適切な行動かという概念を形成し、それを行動に移し結果が良ければ、その行動を継続し社会的行動を学習していく」と述べている。暴力行為によって、バタラーに溜まった攻撃性や緊張は解消され、気分は良好になり、争いや議論は停止し、その上バタラーへの罰則も課せられないため、DVは長らく悪いことと見なされなかった。また、このような社会的学習が起こる過程で、社会的情報のプロセシングが歪み、男性は男女の相互作用の場面を性愛化したり(Abbey 1991)、女性の行動に否定的な意図を汲み取り怒りや軽蔑でもって行動する(Holtzworth-Munroe 1992)と言われてきた。

 

 

A二者関係の原因

 

男性が女性に暴力を振るう場合、両者の関係性やコミュニケーションの有り方などが原因となる。女性との情緒的なかかわりができるまでは、男性は身体的な暴力を差し控えるが(Walker 1979)、同棲や結婚や妻の妊娠をきっかけに、男性にパートナーをコントロールできる特権意識が芽生え、その結果女性は関係性を解消する力さえ奪われてしまうと言う。女性側でも、最初の暴力をたまたまの例外として許し、それが結果的に男性の暴力を強化する(Giles-Sims 1983)。Shotland1992)は、12回目のデート・レイプで、男性は性的出会いをパートナーの意志または性的親密さと誤解し、欲望するときはいつも親密になる権利があると確信し、その強制的で性的な出会いを無害化してしまうと言う。このように両者の認知の違いとコミュニケーション・スキルの貧困という二者関係が、暴力を長期化させる原因となる。 

 

 

B社会的原因

 

<家庭・学校・教会など>

 暴力やセックスの犯罪者や加害者は、親から十分な養育や監督を受けず、身体的虐待や無視や親との離別などを多く経験している。虐待や両親間の暴力に晒された子どもの1/3は、長じて暴力的な大人になっている(Widom 1989)。学校もまた、ステレオタイプな性役割や暴力の行使を容認し強化しており、暴力行為を支持する社会化に関与している。学校のスポーツ・クラブでは、コーチや先輩による暴力が容認され、攻撃的な若者を引きつけている。教会や軍隊などでも、女性への暴力が巧妙に組織化されてい

 

<メディア>

多くのフェミニストたちは、ポルノや漫画が女性を対象物化したり、女性への性的暴力を容認していると抗議している。Eron1982)は、小学校時代にテレビで暴力番組を多く見た子どもは、暴力や犯罪行為に走りやすいと述べ、メディアでの暴力暴露と反社会的・攻撃的行為の発生には、かなりの相関があると報告している。

 

<法制度>

 欧米では、妻は基本的に夫の所有物と見なされ、妻を身体的に折檻する夫の権利は、1824年にミシシッピ−州の最高裁で覆されるまで認められ、1870年代でやっと子どもの保護運動と呼応して、妻を叩くことは犯罪だと見なされた。また、既婚女性へのレイプも、始めは夫の財産を犯した罪で処罰の対象にされた。婚姻法はもともと、妻による性関係の暗黙の同意と夫による服従の強制のもとに成り立ち、今日のように婚姻レイプを認めることは有り得なかった。

 

 

 

第三章 DVに対する予防と介入

 

 

第一節 予防

 

@ コミュニティでの予防

 

これは主に学校で行われる予防プログラムであり、性的暴力やレイプ教育プログラムは大学生レベルで、暴力防止プログラムや葛藤解決プログラムは中・高生レベルで行われる。例えば、Jaffeら(1992)は、英米の中学生を対象に「デート中暴力予防介入プログラム」(大グループでの問題提起と小グループでの討議)を行い、プログラムの前後一週間と六週間後に質問紙で回答を得て、この肯定的な変化を報告している。次に、BWや夫婦間の暴力を目撃している子どもたちには、いつでもどこでも電話一本でSOSを出せるホットラインが不可欠である。長期の深刻なDVを予防するには、コミュニティに次のような機関や機能を展開することが重要である。

@     DVに関する情報センター 

A     DVについての専門的な相談・治療機関 

B     DVに関する心理・教育的プログラムを行う公的機関 

C     女性の権利擁護を推進するアドボカシ−機能 

D ピア・カウンセリングや自助グループの育成機能。

 

 A メディアでの予防

 

 1994年メディア広告委員会は、家庭内暴力予防基金(FVPF)と協力して「虐待に対する自覚を公的に呼び覚まし、個々人が虐待を減少させ予防する行動に動機づけられるようにデザインされた公教育的キャンペーン」を行い、その効果を発表した。アメリカTV暴力研究(Mediascope 1996)では、TVにおける暴力的な問題解決を否定し、非暴力的な代の替案を公表し、暴力に関する社会的なメッセージを伝えている。

 

 B 司法での予防

 

暴力行為に対する刑法上の罰則が確立すれば、犯罪を予防する効果は増大するという制止理論に基づけば、司法における暴力の予防的介入は不可欠である。DVに対する強制逮捕、高い起訴率、保護命令の厳密な執行などが、予防的介入として有効である。

 

 

第二節 被害者への介入

 

@ 個人レベルでの介入

 

Taylor1995)によれば、ニューヨーク市で911番の電話をかけてくるBW250人のうち、43%はカウンセリングを希望し、42%は誰かに自分の心情を語ることを望み、実際に2/3の女性はカウンセリングを受けていると言う。カウンセラーの判断を交えない態度(non-judgemental attitudes)が、今までと異なる暴力的でも批判的でもない対人関係を体験され、それがDVからの回復の力になる。カップル・カウンセリングについては、暴力進行中は禁忌で、不和または軽度の暴力レベルであれば、攻撃性を中心にデザインされたカップル・カウンセリングは有効である(Panら 1994)。Foaら(1991)は、ストレス接種訓練(暴力のコントロールのために、認知行動技法と弛緩技法を組み合わせる)、長期暴露法(恐怖に直面させるために、想像上でレイプ場面に晒す)、支持的カウンセリングなどを比較すると、治療直後の効果は明白であるが、三ヵ月後では暴露法がPTSDに最も効果的だったと報告している。

 

A コミュニティ・レベルでの介入

 

Plichta1995)の調査では、アメリカで1200ヶ所シェルターと1800BWのためのプログラムがあり、コミュニティ・レベルでの有効な介入になっている。これらのプログラムには、ホットライン、一時的シェルター、集団と個人のカウンセリング、権利擁護、社会的サービスの照会と擁護、BWの子どもたちへのケアやサービス、過渡的住居、就労訓練などが含まれ、プログラム効果が研究されているが、利用者と非利用者と統制群の比較が困難なため、統一的な効果は得られていない。しかし、概して言えば、シェルター利用前後で暴力や怪我の程度が減少したり、うつや恐怖や不安やバタラーへの情緒的愛着が軽減したり、自己コントロール感覚が拡大し、生活の質や社会的支援に対する満足度が上昇している。また、Gondolf&Fisher1988)は、シェルター退所後のポジティブな生活設計を予測する要因として、経済的自立、社会的サービスの利用可能性、介入に対する自己判断、バタラーの受療可能性などを挙げている。Tutty1995)は、シェルター退所後にソシャル・ワーカーがBWを定期的に訪問援助すると、三ヶ月後には対人支援評価スコアが高くなり、六ヵ月後には自尊感情が増加したと報告している。このように、コミュニティを基盤にしてBWを支援することは、間接的にコミュニティに対して暴力の啓蒙・教育を行い、コミュニティのシステムを改革し、女性をエンパワーすることに繋がる。

 

 

第三節 加害者への介入

 

 @ 司法レベルでの介入

 

 1970年代に連邦政府は女性に対する暴力に注目し、1984年に「家庭内暴力に関するアメリカ法務長官の諮問委員会」が女性に対する虐待の調査を始め、1994年には「暴力犯罪取り締まりの女性に対する暴力法案および法律施行法案」ができた。バタラ−や保護命令違反者の逮捕、虐待ケースへの警察・検察・裁判所の共同責任、コンピューターによる警察・検察・法廷のコンピューター・システムの協力などが推進された。ミネソタDV実験(Sherman 1984)では、逮捕によってその後六ヶ月以内での新しい暴力は減少したと報告され、強制的あるいは令状なしの見込み調査がアメリカに行き渡ってと言われている。しかし、その後この実験が追試され、Garnerら(1995)は逮捕に対する一定の評価を下せないと述べている。また、起訴に関しては、Ford1983)が述べているように、犯罪・司法システムがDVへの介入に積極的であれば、起訴率は高くなり、DVの減少のためには有効な意味を持つ。最後に、保護命令はさまざまな命令から成り、民事事件の過程で発行さる拘束命令、危険を感じている被害者の要求によって発行される保護命令、訴訟手続き中または執行猶予中に刑事裁判所から発効される非接触命令(原告、家族、友人なども含まれる)などがあり、これらに違反すると新たな犯罪となるものもある。保護命令の効果についても、まだ一定の評価がでておらず、Grauら(1984)は、被害率と保護命令の有無との相関はないが、被害者に与える心理的な効果はあると述べている。

 

A グループ・レベルでの介入

 

 バタラーの治療は、始め裁判所の命令によって、刑務所内で性犯罪者への強制治療として行われたものが、バタラーに広がった。ボストンのEMERGEAdams&McCormick 1982)やDuluthモデル(Pence&Paymar 1993)があり、認知行動的、社会学習的、暴力の性別分析的アプローチなどが取り入れられるが、その効果については一定の評価がまだない。また、カップル・セラピーの適用についても慎重でなければならず、裁判所の命令による強制的治療例や暴力の酷いケースについては除外されている。カップルをシステムとして治療するカップル・セラピーの場合、バタラーの責任が曖昧にされる点で疑問視もされている。

 

 

第四節 アプローチ

 

@     家族暴力(Family Violence, FVと略す)のアプローチ

 

 Strous,Gelles,Steinmetzらは、FVFamily Violence)に関する社会科学的研究の最先端をなしてきたが、バタード・ウーマン(以下BWと略す)運動が社会的な注目を集めるようになって以来、アメリカの国立精神保健研究所主導で大々的に研究を行った。彼らの主張はまず、夫婦間暴力、親の子どもへの暴力、子どもの年長者への暴力、兄弟間暴力などが、かなり高い頻度で起こることである。Straus1979)は、CTS(葛藤戦術尺度)を作成し、既婚カップルから男女をランダムに選び、前年度に各人が取った葛藤解決戦術(静かな話し合いからナイフや拳銃を使う戦術まで)を尋ねて、CTSで配偶者虐待(Spouse Abuse)の程度を測定した。夫から妻への暴力は128%、妻から夫への暴力は117%で、「典型的な男性は、女性よりも攻撃的で暴力的であるが、もっとも一般的な状況は、両者とも同じ程度に暴力を行使することである」と述べている。Strausら(1980)やGelles&Straus1988)は、現代のアメリカ家族で起こる暴力の原因を三点挙げている。第一点は家族の構造である。貧困な労働条件、失業、経済的安全の脅かし、不健康などのストレスに晒されている家族は、互いに暴力を振るう家族環境を生み出し、さらに家族暴力が外から何らチェックされない構造が第一の原因である。第二点は、メディアや民族史(昔話など)を当して、家族が暴力を受け入れる文化の承認になっている点である。GellesStraus1988)によると、1/4の妻と1/3の夫は「夫婦で叩き合うことは、止む得ないこと、普通のこと、良いことだ」と回答している。また、Straus1983)やStraus1980)は、両親が暴力が暴力を振るうのを見て育った男性は、普通より三倍妻を殴り、十倍妻を虐待し、「それぞれの世代は、暴力的な家族の当事者になって暴力を学習する。すなわち暴力が暴力を生む(beget)のである」。第三点は、社会や家族システムにおける性差別の問題である。Strausらは(1980)は、「暴力こそは、最も力のある家族メンバーが行使し、」自分自身の優位性を正当化する手段である」と規定し、「妻優位家族」「夫優位家族」「民主的家族」で見ると、妻は夫優位家族でしばしば殴られ、民主的家族で一番暴力が少ないと述べている。

 

 

 

A     フェミニストのアプローチ

 

Dobash1979)は、「妻に対する暴力」(Violence Against Wives)を著し、これが多くのフェミニスト社会科学者に影響を与えてきた。彼女達はまず、異性愛のカップルにおこる暴力的な行為に対して男性も女性も暴力の行使においては同等であるというStrausらの見解に反対している。なぜなら、Strausらのデータ−はCTSに基づいており、これは先に暴力を振るわれ傷つけられた側の、自己防衛としての暴力が抜け落ちている。また、スケールで測られる暴力は、一つの連続体としてはあまりにも広すぎて、異なる種類の暴力を区別できないというのである。そこで、フェミニスト社会科学者たちは、公的な犯罪統計や司法裁判所のデータや病院統計を利用している。1982年の全国犯罪調査では、配偶者間に起こった暴力犯罪の91%は、夫または前夫から妻に向けられた暴力であり、妻や前妻から夫への暴力はたったの5%である(Browne,1987)。Berkら(1983)は警察の記録を調査して、9495%のケースで女性がけがを負っており、男女共にけがしている場合でも、女性の方が三倍の重篤なけがを負っている。病院データでも、女性は圧倒的に受身の側である(Kurz 1987 ,McLeer&Anwar 1989)。

 次にDobashらは、batteringに関するインタビュー調査を男女に行い、夫が妻を自分の意に添わせようとする時にbatteringが起こり、109人のBWのインタビューから、結婚依頼苛めや孤立化によって妻がコントロールされ続けている実態が明らかになった。同様の実態は、Walker1984)のインタビュー調査でも明白である。フェミニスト社会科学者たちは、男性の暴力行使は女性をコントールする一つの手段である結論している。さらに、妻をコントロールするための夫の身体的虐待は、歴史的にも体制(重荷裁判所)が許し認めてきたことがある。たとえばイギリスの“common law”では、夫は「親指より細い鞭」でなら妻をたたいてもよいとされ、アメリカでは夫の「妻の折檻する権利」、「妻を矯正する権利」、「カーテン・ルール」(カーテンを引いて秘密に暴力を行使する)などが認められていた。

 

B 心理学的アプローチ

 

@バタードウーマン症候群(Battered Woman Syndrome )

家庭内で夫や恋人から暴力を受けた女性がなぜ逃げることができないか,ということが心理学的な側面からも分析されている。心理学者であるWalker が提唱したバタードウーマン症候群(Battered Woman Syndrome )は,暴力的な関係から逃げ出すことの出来ない女性の心理状態について詳しく説明している。Walker は1975 年から4年間にわたり,暴力を受けてきた女性約1200 人に面接を行い,夫や恋人という親しい男性から受けた暴力について聞き取り調査をした。「被虐待女性たちが示した共通点に重点をおき,そこから一般論を引き出した。本書で紹介する話は面接で聞いた多くの話の典型的な例である」と述べているように,女性たちが暴力をふるわれる状況と,それによる心理的なダメージとは共通し,それにより女性たちがいっそう夫のもとから逃げ出すのが困難であることや,夫のもとに居続けてしまうということを明らかにしている。彼女の研究によりそれまで信じられてきた夫による暴力に関する神話についても,事実とは異なるということも明らかにされた。

 

彼女が提唱した理論は二つある。ひとつは「暴力のサイクル」理論であり,もうひとつは「学習された無力感(learned helplessness )」である。

暴力のサイクル理論とは,夫が妻にふるう暴力には一定の周期があるというものである。緊張が高まる第一層,爆発と虐待が起こる第二層,穏やかな愛情のある第三層,という三層が周期的におとずれる。長い間暴力がふるわれるのではなく,暴力のあとにハネムーン期とよばれる時期があり,そこでは夫が自分の暴力を詫び,もう二度と暴力をふるわないと妻に誓う。女性はパートナーの訴えを信じ,今度こそ暴力のない関係を築けるだろうとし,関係を切ろうとはしなくなる。しかし愛情深い時期は長く続かずまた深刻な暴力が起こる,というサイクルを繰り返しているのである。

 

しかし女性たちが逃げ出さないのはこのサイクルのせいだけではない。女性たちは暴力をふるわれ続けることによって,逃げ出すことができない心理状態に追い込まれていくのである。それが「学習された無力感」である。夫から暴力をふるわれた最初のうちは女性たちも抵抗をこころみる。しかし,その抵抗によって夫からの暴力はさらに深刻になり,こうしたことが何度も何度も繰り返されているうちに,自分には逃げ出す力がないのだと信じ込むようになる。自分がどのように行動すればよい結果が得られるか,という人間が生活をしていく上での予測や選択ということができず,どのような状況にあっても無力であり無抵抗な状態にある。そのため,被害女性たちは,暴力をふるう夫のもとから避難をし,そこから自分自身で方向性を定め,どのような生活をおくるかという決定をすることも困難なのである。

 

しかし気をつけなければならないのは,それは殴られる女性たちが本質的に無力で無抵抗なのではないということである。この女性たちの無力感は頻回な暴力を受け続けることによって「学習された」性質なのである。

 

Walker はバタードウーマンがなぜ暴力をふるう夫のもとから逃げ出すことができないのかを,暴力のサイクル論と学習された無力感によって説明した。さらにWalker はバタードウーマンの心理学的な症状が外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder 以下PTSDと省略)と同様の症状が見られることから,PTSD の中でもバタードウーマンに特に見られる症状を特化させ,それをバタードウーマン症候群と名付けた。

 

PTSD はアメリカの精神医学界が名付けた診断名であり,それは主に戦闘や自然災害,レイプなどの限局性外傷事件の被害者に対する診断である。その主たる症状は三つあり,神経の高進状態を呈する過覚醒症状,被害者が体験した事件を再体験する侵入症状,無感覚な麻痺状態に陥る解離症状である。

 

Walker は,バタードウーマン症候群はPTSD の下位診断名にあたるとし,同様にバタ

ードウーマンに共通する心理学的な症状をいくつか記述し,自身の提唱したバタードウーマン症候群は次の点で有効であることを主張している。具体的には次の通りである。

 

@PTSD と呼ばれている心理学的症状のパターンが認められる部分がある。PTSD

とは,バタードウーマンが経験してきた身体的な性的なそして(あるいは)心理

的な攻撃によるトラウマが繰り返しあらわれることによっておこる症状のことを

さす。

A フェミニストによる女性に対する暴力についての理論的説明と一致する。

B バタードウーマンが犠牲者にされていたところから回復をする手助けのための適切な介入プログラムの発展に有効である。

C バタードウーマンのサポートをする人たち(医療,心理学,法律の専門家)に受

け入れられる。

 

A 複雑性PTSD

この女性たちが暴力を受け続けることによって,夫のもとから逃げられず,また自己決定能力がきわめて低くなってしまう状態について,Herman (1992 ) はその著書『心的外傷と回復』の中で,心理学的な支配として述べている。

虐待者が人間を完全にコントロールする方法とは,「心的外傷をシステマティックに反復して加えて痛めつけることである。それは無力化と断絶化を組織的に用いるテクニック」であり,「心理的コントロールの方法は恐怖と孤立無援感とを注入して被害者の『他者との関係においてある自己』という感覚を破砕するように」デザインされているのである。 

 

Herman はバタードウーマンを人質や政治的囚人,強制収容所の生存者たちと同じように監禁状態にある被害者として扱っている。政治的囚人や強制収容所の生存者たちと異なり,夫や恋人から暴力をふるわれる女性たちは物理的な障壁によって逃亡を遮られているわけではない。にもかかわらず女性が逃げられない見えない壁が存在しているとHerman は指摘している。

しかし,Herman は「学習された無力感」をバタードウーマンに適応させるのは間違っていると指摘している。彼女たちは決して夫に対して報復しようという意志を捨てたわけではないという。彼女たちが学習しているのはむしろ次のようなことである。

被害者はこれまでに加害者による深刻な暴力を幾度もふるわれている。また被害者が自主的な行動をした場合,加害者に妻の夫に対する不服従と見なされてより深刻な暴力をふるわれる。このように何らかの失敗や自主的な行動をすれば恐ろしい仕打ちが待っているし,反撃をすればさらに暴力をふるわれ,命を落としかねないということを学習している。

どのような行動をとろうとも暴力をふるわれるという結果から,被害者は危険な状態にある限り,反撃をこころみようとはしなくなる。

被害者は「絶対に加害者の支配から逃げられない」という思いが強く働き,被害者は加害者を全能の神だと信じるという極めて異常な絆をつくりだしてしまうケースもある。

 

さらには,支配者である男性は心理的な支配を完全なものとするために,女性のもつ他者とのつながりを断ち切り,女性が唯一繋がりを持つ人間を自分だけにするという方法をとる。女性は最初,そうした行動を男性の単なる嫉妬心であり,女性を愛している証拠だと思うことが多い。しかし次第に行動がエスカレートしていき,気がついたときには絶対的な支配者となっている,という過程は,バタードウーマンたちの証言に共通する事柄である。物理的な暴力とこうした心理的な支配から,女性たちの自尊心や自己決定をする能力は失われていく。

 

Herman は児童虐待やバタードウーマンのように,繰り返し暴力をふるわれてきた被害者たちに共通してみられる症状があるとし,その症状が見られる場合,PTSD ではなく複雑性PTSD という診断名をつけるべきだとしている。なぜならばPTSD の診断基準は前節でも述べたように,戦闘や自然災害,レイプといった限局性外傷事件の被害者からとられたものである。Herman はPTSD ではなく複雑性PTSD という新しい診断名が必要であることを次のように述べている。

 

長期反復性外傷の生存者の症状像はしばしばはるかに複雑である。長期虐待の生存者は特徴的な人格変化を示し,そこには自己同一性および対人関係の歪みも含まれる。幼年期虐待の被害経験者も同一性と対人関係とに類似の問題を生み出す。さらに,彼らは特に繰り返し傷害をこうむりやすい。他者の手にかかることもあるが,自分で自分に加えた傷害もある。現在のPTSD の叙述では長期反復性外傷のあらゆる表現型をとる症状発現を捉えることもできていないし,捕囚生活においておこる人格の深刻な歪みも捉えそこなっている。

 

こうした診断名をつけることにより,なぜ暴力を受けた女性たちが被害者として扱われるのかがいっそう明らかになる。

特にこのバタードウーマン症候群や複雑性PTSD やといった診断が効果を発揮するのは,夫からの度重なる暴力の結果に夫を殺害してしまった妻が犯罪者として逮捕されたときである。この場合,被告である女性が夫を殺害するにいたった経緯を心理学的な状態をもとに弁護することにより,罪状が軽くなったという事例もある。

 

心理学者によるこれらの診断名は暴力をふるわれている対象を限定し,どのような暴力がふるわれてきたかを明確にしたといえる。

ただしこの診断名をつける,ということには注意を払う必要がある。診断という個人の症状に対して名付ける行為は,社会的な問題として考えなければならない夫や恋人からの暴力を,個人の問題としてとらえやすくしてしまう。

 

Herman は,心理学者による診断が被害者に非があるとする誤ったレッテルをはってきたことについても言及している。

家庭内で暴力をふるわれた女性が逃げ出せない理由を,女性自身の人格的な障害だとする診断がなされたという事実もある。女性が虐待的な関係に居続けるのは,女性がマゾヒスティックな性的嗜好の持ち主であり,虐待行為を通じて快感を得ているというものである。

実際に「マゾヒスト的人格障害」という診断名をDSM Vに追加すべきだという議論がなされたこともあったという。

 

さらに注意すべき点は「症候群」という言葉から個人の病理としても捉えられやすくなり,暴力をふるわれる原因を女性自身がつくっているのではないかという見方をされる可能性もあるということである。また一方,夫から暴力をふるわれても,すべての女性がバタードウーマン症候群やPTSD に特有な症状が見られるとはかぎらない。暴力の被害にあっているにもかかわらず,特有な症状が見られないために,事実が否認されてしまうことは避けなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第四章 援助制度のあらまし

 

 

 DVケースの場合は、法的手続きに入る前に、夫からの暴力から逃れるための避難場所や生活資金の工面、住まいの確保を必要とする場合が多い。婚姻関係の有無にかかわらず、また離婚した後でも、執拗な追及が続く場合があり、同様の配慮が必要である。

  

 

第一節        緊急避難所

 

 

 実際に暴力を振るわれている場合には、被害者の身の安全を確保し、また離婚手続を開始するためにも、別居することが必要である。

 実家や友人宅に身を寄せることも考えられるが、一番最初に捜す場所でもあり、発見される可能性が高い。親や友人を争いに巻き込む可能性もあり、執拗に追跡する夫らの場合には実家や友人宅は適当ではない。追求が厳しい場合には公的緊急避難場所や民間シェルターを利用することの方が安全である。シェルターは、夫らからの追跡を防ぐために避難場所は秘密にされており、通勤通学も認められない。

 なお、緊急避難場所は受入人員が充分でないので、公的避難場所を希望しても入れない場合もあるが、その場合には民間シェルター等が紹介してもらえる。いずれにしてもそのような避難場所の情報をつかみ、現実につなげてくれるのは福祉事務所なので、福祉事務所に相談をしておくことである。

 

@       公的緊急避難場所

ア 女性相談センター・婦人相談所

 東京都の場合には、女性相談センターが単身の女性と母子のための緊急一時保護所を運営している。道府県では婦人相談所が緊急一時保護所を運営している。

 利用手続は住所地の市区町村の福祉事務所を通じて行われるので、あらかじめ、福祉事務所に相談しておくことが必要である。もっと夜間や休日などで緊急の場合には、警察署、交番等通じて直接に保護を求めることも出来る(ただし、休日明けに福祉事務所の所定の手続が必要である)

 利用期間は原則2週間であるが、落ち着く先が決まるまで多少弾力的運用がなされている。

 食事や日用品は支給あるいは貸与されるので、着の身着のままでも駆け込める。費用は無料であるが、金銭の支給はないので、所持金も預金等もなければ、福祉事務所を通じて生活保護の申請手続きに入ることとなる。

 なお、女性相談センターでは、電話相談や面接相談(要予約)にも応じている。外国人の面接相談では通訳をつけることも可能である。

  イ 母子生活支援施設

 ここでも、緊急一時保護を行っている。この場合も福祉事務所に相談しておくことがよい。

  ウ 児童相談所

 18歳未満の児童の一時保護所がある。シェルターに同伴できない男子などを持つ場合には児童相談所に一時保護を依頼することが出来る。無料で食事や日用品衣類などの支給貸与がある。児童相談所や福祉事務所に相談すること。

 

A民間シェルター

 民間シェルターは、NGONPOによって運営されている緊急一時避難施設である。

 東京都内には、7ヶ所の民間シェルターがある。所在場所は明らかにされていない。利用料金はおおよそ一日2000円である。所持金が十分でなくとも、入所後すみやかに生活保護の手続を申請して利用料金を支払うことも可能であり、公的機関とも連携し公的福祉制度の手続の申請などの様々な援助をしてくれるところが多い。施設によって多少内容は異なるので、電話などで問い合わせをしておくとよい。福祉事務所を通じて紹介されることもある。 

 

B     子どもがいる場合

 子どもを同伴する場合、女性センターや婦人相談所の緊急一時保護所では、女子であれば特に制限はないが、男子の場合には運用上小学生までという場合が多い。中学生以上の男子は、児童相談所の一時保護を利用することになる。児童相談所では、通学の安全が確保できない状態の場合には教育指導員の指導を受けることが出来る。

 民間シェルターでは、それぞれ内容が異なるので、あらかじめ問い合わせておくとよい。

 

C     外国人の場合

民間シェルターの場合には、利用資格に制限はない。

公的支援施設の場合には、在留資格があれば利用できる。オーバーステイの場合には、強制退去日が明確であり、特に認められた者は利用できる。都は、オーバーステイの場合には、女性の家「HELP」につなげている。「HELP」では、一時避難場所の提供のほか在留資格の申請手続等の援助も行っている。

 

 

第二節        長期的な避難場所

 

 

 夫からの執拗な追求を逃れるために身を隠すということは、住まいを変え、仕事も変えなければならない。ただちに次の仕事に就き自活することは困難である。しかし、離婚前でも生活保護受給は可能であり、他にも様々な公的な援助制度があるので、福祉事務所やシェルターの相談員に相談することが必要である。

 

@       母子生活支援施設(旧母子寮)

児童福祉法に基づく施設である。単身女性や18歳未満の子を持つ母が利用できる。離婚前にも利用可能である。独立の一室が利用でき、食事は自炊である。利用料金は収入に応じて負担することとなる。入所中に仕事に就き通勤することも可能であるし、子どもを学校に通わせることも可能である。また指導員がいて母や子供の相談にのってもらえる。

 

A       都営住宅の母子アパート

 住所が東京都であり、母と18歳未満の児童だけで、内一人は義務教育終了前の世帯である場合に一定の基準以下の世帯の収入の場合には、入居申込みができる。福祉事務所や都福祉局子ども家庭部育成課ひとり親福祉係へ相談すること。

 

B       民間のアパートを借りての生活

 転居資金は生活保護を受けていれば、引越し費用契約締結にかかる費用等は支給される。生活保護を受給していない場合には母子福祉資金(貸付金)が可能である。

 一番問題なのは、賃貸借契約の保証人であるが、市区町村の福祉事務所や民間シェルターでは協力的な不動産屋をもっている場合があるので、ともかく相談してみることである。

 

C       子どもの就学について

 住民票を移さないでも就学は可能である。教育委員会へ事情を書いて届け出れば、就学を認めてくれる。

 

 

第三節        経済面での援助制度

 

 

 生活保護、児童扶養手当、児童育成手当は離婚前後にかかわらず受給可能な制度である。その他にも東京都母子福祉資金貸付金制度や生活福祉資金貸付金制度がある。ただし、この制度は原則として保証人を必要とする。

 

 

@       生活保護制度

 世帯毎(人数や年齢など)に厚生大臣が定めた基準により算定した生活費が世帯の収入を下回る場合にその不足分を扶助するものである。離婚前で夫がいたとしても実際には同居不可能であり、見を隠している事情がある場合には受給不可能である。扶助の内容は、生活・住宅・教育・医療など7種類があり、世帯の必要によって受給される。いちがいには言えないが、平成12年度で全く収入もなく家を出た場合に、東京都の場合には、例えば母と義務教育にある子2人の世帯の生活費がおおよそ17万円位である。それに住宅費補助(限度額69600円)が支給される。

 生活保護の手続は一般的には住民票が必要とされるが、実態に基づくので確かに申請地で居住していれば可能である。DVケースの場合には住民票を写すと所在が発覚するおそれがあり、賃貸借契約書や間借りの事実を証明すればよい。 

 

A       児童扶養手当(国の制度)

 18歳に達する日以後の最初の331日までの間にある子どもがいる母子家庭に支給される手当である。

 離婚前のDVケースの場合には父に一年以上遺棄されている児童として支給対象となるので、一年という受給開始時期の問題は生じるが、何回か家を出ている場合には、始期について弾力的解釈をされる余地がある。

 手当の支給は扶養人数による所得制限があり、また一人目の子どもの手当額は、所得に応じて異なる。平成10年度については、所得により、一人目月額42,139円の場合と一人目28,190円の場合があり、5,000円、三人目以降は3,000円である。

 なお、生活保護が支給されている場合には、支給されない。

 

B       児童育成手当

 都内に住所があり、18歳に達した日の属する年度の末日以前のこどもがいる母子または父子家庭に支給される。所得制限がある。

 離婚前の母子家庭は、父に一年以上遺棄されている児童として対象になるので、受給申請の時期については児童扶養手当と同様の問題が生じる。

 平成10年度の手当の額は、一人13,500円である。

 この手当は生活保護と併給可能である。

 

C       児童手当

 母子、父子家庭であるにかかわらず満6歳の子を育成している家庭に支給される手当である。額は一子二子は5,000円、三子は一万円である。児童扶養手当と併給は可能である。

 所得制限がある。

 

D       外国人の場合

 生活保護や児童手当、扶養手当等の制度については、日本人の夫と法律上の婚姻をしている場合には、適用の可能性がある。特に子どもがいる場合には制度を利用できる。

 

 

 

第五章    日本の統計内閣府男女共同参画局 

 

 

 

1.相談件数

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(1)相談の種類別件数

 

 

 

 

 

 

 

 

総件数

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成15年

 

 

 

 

 

 

 

 

(構成割合)

4月

5月

6月

7月

8月

9月

 

来 所

6,649

30.1%

968

1,102

1,134

1,178

1,124

1,143

 

電 話

15,091

68.4%

2,186

2,544

2,551

2,670

2,503

2,637

 

その他

333

1.5%

46

64

48

62

42

71

 

合 計

22,073

100.0%

3,200

3,710

3,733

3,910

3,669

3,851

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(2)性別相談件数

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総件数

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成15年

 

 

 

 

 

 

 

 

(構成割合)

4月

5月

6月

7月

8月

9月

 

女 性

21,997

99.7%

3,189

3,702

3,720

3,896

3,654

3,836

 

男 性

76

0.3%

11

8

13

14

15

15

 

合 計

22,073

100.0%

3,200

3,710

3,733

3,910

3,669

3,851

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(3)被害者の年齢別相談件数

 

 

 

 

 

 

 

総件数

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成15年

 

 

 

 

 

 

 

 

(構成割合)

4月

5月

6月

7月

8月

9月

 

20歳未満

191

0.9%

24

21

35

55

29

27

 

20歳代

3,374

15.3%

526

550

577

584

572

565

 

30歳代

7,094

32.1%

932

1,175

1,229

1,260

1,218

1,280

 

40歳代

4,025

18.2%

619

725

702

719

581

679

 

50歳代

2,545

11.5%

357

410

394

483

470

431

 

60歳以上

1,412

6.4%

219

224

259

235

224

251

 

不 明

3,432

15.5%

523

605

537

574

575

618

 

合 計

22,073

100.0%

3,200

3,710

3,733

3,910

3,669

3,851

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(4)加害者との関係別相談件数

 

 

 

 

 

 

 

総件数

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成15年

 

 

 

 

 

 

 

 

(構成割合)

4月

5月

6月

7月

8月

9月

配偶者

婚姻届出あり

18,766

85.0%

2,681

3,044

3,216

3,324

3,166

3,335

婚姻届出なし

1,466

6.6%

173

264

241

293

255

240

婚姻届出不明

807

3.7%

201

184

117

118

85

102

 

離婚済

1,034

4.7%

145

218

159

175

163

174

 

合 計

22,073

100.0%

3,200

3,710

3,733

3,910

3,669

3,851

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(5)都道府県別相談件数

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

総件数

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成15年

 

 

 

 

 

 

 

 

4月

5月

6月

7月

8月

9月

 

北海道

505

79

77

111

95

77

66

 

青 森

427

65

86

55

85

64

72

 

岩 手

169

39

31

28

21

26

24

 

宮 城

166

30

31

20

26

34

25

 

秋 田

305

44

46

71

50

57

37

 

山 形

86

15

9

13

23

11

15

 

福 島

407

78

59

75

43

74

78

 

茨 城

207

33

36

21

30

42

45

 

栃 木

270

32

43

64

40

45

46

 

群 馬

628

48

100

173

111

94

102

 

埼 玉

1,302

158

226

202

224

215

277

 

千 葉

1,222

170

227

203

243

191

188

 

東 京

3,803

592

621

636

648

673

633

 

神奈川

1,558

254

272

260

251

247

274

 

新 潟

217

36

31

29

43

37

41

 

富 山

303

61

59

40

73

36

34

 

石 川

325

50

41

51

54

47

82

 

福 井

100

18

19

19

25

10

9

 

山 梨

99

7

22

23

20

9

18

 

長 野

445

70

80

77

88

66

64

 

岐 阜

171

18

28

27

26

36

36

 

静 岡

209

31

30

36

34

40

38

 

愛 知

702

84

109

90

104

170

145

 

三 重

370

56

45

60

71

55

83

 

滋 賀

528

58

100

67

109

95

99

 

京 都

397

66

72

69

57

60

73

 

大 阪

2,092

287

393

343

368

344

357

 

兵 庫

604

77

67

127

125

109

99

 

奈 良

225

35

40

43

36

34

37

 

和歌山

239

29

28

53

45

40

44

 

鳥 取

118

15

20

15

35

17

16

 

島 根

273

56

37

46

49

45

40

 

岡 山

487

70

81

80

96

75

85

 

広 島

314

39

52

58

50

46

69

 

山 口

247

35

24

49

47

37

55

 

徳 島

211

25

38

37

39

37

35

 

香 川

203

18

36

30

35

40

44

 

愛 媛

152

12

18

28

37

30

27

 

高 知

118

13

23

19

14

27

22

 

福 岡

404

94

75

44

64

62

65

 

佐 賀

137

21

18

20

36

16

26

 

長 崎

240

24

48

45

48

43

32

 

熊 本

243

20

74

36

44

26

43

 

大 分

103

18

12

14

22

11

26

 

宮 崎

127

22

16

27

20

15

27

 

鹿児島

233

40

36

40

52

39

26

 

沖 縄

382

58

74

59

54

65

72

 

全 国

22,073

3,200

3,710

3,733

3,910

3,669

3,851

 

 

(6)施設の種類別相談件数

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

施設数

総件数

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平成15年

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(構成割合)

4月

5月

6月

7月

8月

9月

婦人相談所

47

16,049

72.7%

2,327

2,622

2,692

2,865

2,680

2,863

女性センター

13

4,744

21.5%

680

842

810

836

785

791

福祉事務所

20

690

3.1%

119

123

121

108

118

101

児童相談所

8

522

2.4%

67

109

93

90

80

83

その他(県庁等)

15

68

0.3%

7

14

17

11

6

13

 

合 計

103

22,073

100.0%

3,200

3,710

3,733

3,910

3,669

3,851

 

 

第六章 まとめ

 

 私が女性センターで聞いた話によると、ここ最近DVの相談件数は増え続けているということだ。その中でバタードウーマンである女性の人柄は「いい人」が多いという。

 自分の財産をバタラ−に注ぎ込んでしまったり、暴力に耐え切れなくなるまで我慢をし、自分でない第三者(ここではほとんどが子ども)に暴力が及んだ時初めて相談に来たり、逃げだそうときめる。

 それに付け加えて暴力を振るわれていると意思決定が出来なくなっていく。このことは女性が一人の人間として扱われなくなるのと一緒のことであると私は思う。女性が暴力によって身体だけでなく、心理的にも深い傷を負っていくのだ。

また、現在「DV防止法」の見直しも必要とされている。現在の法の対象として、事実婚も含めた配偶者間だけの法律になっている。しかし、妻の相談相手の殺害という事件も事実起こってきていることも考えて、法律の中でも「元配偶者」「交際相手」「子ども」そして「その家族」も保護対象としていかなければ、凶悪化するDVにも対処できなくなってくると思う。

 DVはもはや他人事としては片付けられない社会現象にまで発展してきている。DVを扱った漫画や小説など幅広く見られるようになっている。DVはただの夫婦喧嘩ではないし、恋人同士の喧嘩でもない。立派な暴力で犯罪であることが一般的な意見となるようにこれからも社会のなかで考えを広めていかなければならないと私は思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

参考文献

 

 夫・パートナーの暴力(アディクションと家族 家族機能研究所)

  『ドメスティック・バイオレンスに関する刑事法的問題』 岡田久美子

  『日本のシェルター・ムーブメント 第一回駆け込みシェルター・ネットワーキング札幌シンポジウム』 近藤恵子

  『米国におけるDVに関する研究レヴュー』 高畠克子

  http://www.city.shinjuku.tokyo.jp/division/231900josei/center/harada.pdf

  『ドメスティック・バイオレンス 防止法全面施行をまえに』 原田恵理子

 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ss/sansharonshu/361pdf/matusima.pdf

  『ドメスティック・バイオレンスという用語が持つ意味 先行研究からの研究』

   松島京

 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ss/sansharonshu/351pdf/nakamura.pdf

  『アメリカにおけるドメスティック・バイオレンス 加害者教育プログラムの教育』

   中村正

 内閣府男女共同参画局 (グラフ)

 


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