●コブシの白い花が咲くのは3月中旬。ようやく寒い冬ともお別れです。コブシは開花する前に、つぼみの先端を一斉にいっせいに北の方に向けていることがあります。コブシより少しだけ早く開花するハクモクレンや、ネコヤナギでも同様の現象が観察されます。これは、日のよく当たる南側に面したツボミの付け根付近の組織が、北側の組織よりもよく成長し、結果として先端が北側に傾くために起きるのです。このように、植物のある部分が特定の方角を示すものを方向指標植物と呼んでいます。
●果実は幾つかの実が集合した形状をとるため、ごつごつした感じがあります。これがコブシの名の由来になりました。漢字では「辛夷」と書きますが、中国では「辛夷」モクレンのことを指します。
実 (10月撮影)
●世田谷にある学芸大学附属高校。元はといえば大学の本校でした。ここの文化祭の名前は「辛夷祭」です。構内にコブシの木はたくさんあるのですが、どうして、その名前が付いたのかはわからないそうです。
●昭和初期の作家、堀辰雄の「大和路・信濃路」の中に「辛夷の花」という短編があります。春の半ばに降る雪の木曽路を走る汽車の窓から、彼にだけ見えない山の端にまっしろい花を群がせた辛夷に対する嫉妬と、脳裏をよぎる遙かなる美へのあこがれが、叙情豊かに表わされています。私は中学の時に国語の教科書でこの文を読んだのですが、当時、コブシの花を見たことがなく、この花への想いが強く残ったことを覚えています。