■ハナズオウ
 ■マメ科


花(4月撮影)

●日本の伝統色に蘇芳(すおう)色があります。少し紫がかった暗赤色で、今昔物語の中では「蘇芳色なる血〜」という表現も使われています。ハナズオウは花の色が蘇芳色に似ていることから名付けられました。実際はそれほど暗い色ではありませんが、やや紫がかった色は春咲く花の中でも目を引きます。蘇芳は茜や紅と同じく植物から得る色で、奈良の正倉院には、その原料となるスオウ(ハナズオウに近縁の植物でインドからマレー諸島に分布)の芯材が保管されています。

●今日、私たちは色を自由に使って、ものを描いたり、染めたりすることができます。これは19世紀にヨーロッパで化学染料が発明されたことに始まります。しかし、それまでの時代は、もっぱら植物や動物から染料を得ていたのです。茜はアカネの根から、紅はベニバナの花から、藍はアイタデの葉から、紫はムラサキの根から得た染料です。また、海外ではエンジムシのようなカイガラムシから染料を得ることも古くから行われていました。

日本で用いられていた「赤」のうち、茜色と紅色は国産の植物を材料として得ることができました。しかし、蘇芳色の材料であるスオウは日本には育たないため、いつの世も海外から輸入をしてきました。ですから、蘇芳色は昔は貴重な色。正倉院に芯材が残されるのも納得ですね。

●スオウの花はナント黄色。しかし、樹木の芯にブラジリンという赤色系の色素を含みます。ちなみにハナズオウは中国が原産で、こちらの蘇芳色の花びらは残念ながら染料の原料にはなりません。蘇芳染めでは、スオウの芯材を煎じて色素を出し、そこに糸や布を浸し、明礬や木灰を使って媒染を行います。


実(4月撮影)

●ハナズオウはスオウと同じマメ科の植物で、サヤエンドウのような実を生じます。春になっても、落ちずに残る枯れた実がたまにあるので、探してみてはいかがでしょうか。


(4月撮影)

 ■ 戻る


Copyright 2012: S. Mayama. All rights reserved.