■ボケ
 ■バラ科


花(1月撮影)

●梅でもなく、桃でもなく、ボケの花は5枚の花びらを、丸く壺のように重ねた独特の花を咲かせます。赤、白、桃色、ぼかしの入ったものなど、さまざまな色のものがあり、園芸植物としても人気があります。

ボケは小振りの木ですが、そのわりには大きめの、ジャガイモ大の果実が実ります。色は黄色で硬ささや匂いは同じボケ属(Chaenomeles)のカリン似ています。生食は無理で、カリンと同様、果実酒にします。


実 (9月撮影)

●木瓜と書いてボケと読みます。平安時代に中国から渡来した植物で、当時の書物『本草和名』や『和名類聚抄』に、木瓜の和名として「毛介(もけ)」が紹介されています。この「もけ」が転じて「ぼけ」になったようです。ただし、今日、中国では木瓜はパパイヤを指しています。

(3月撮影)

●家紋の一つに木瓜があります。これはボケではなく「もっこう」と呼びます。家紋は日本固有のロゴデザインのようなものですね。木瓜は家紋の中でも5本の指に数えられるポピュラーなもので、さまざまな変形があります。

「もっこう」の由来は諸説あり、唐から輸入された御簾(みす)の帽額(もこう:御簾の縁取りの布)に施された「か紋」(中国の紋章で鳥の卵が産みつけられた巣からデザインされたもの。ここでいう「か紋」は「家紋」ではありません。「か紋」の「か」は「あなかんむり」の下に「果」という字を書きます)とするものが有力ですが、ボケやキュウリの断面に由来するという説もあります。

ボケは木瓜と書きますし、キュウリ(胡瓜)も木瓜と書く場合があります。特にボケの種子の入っている部屋の壁(合着した心皮の壁) の形は「もっこう」によく似ています。上述の有力説では「帽額か紋(もこうかもん)」が短縮され「もこう」となり、その当て字として「もっか」と発音できる「木瓜」を使用したと考えられています。

●今日のキュウリは3心皮性のものが多く、ボケは5心皮性なので4片に割れた家紋の「もっこう」とは数が異なります。しかし、栽培植物では、品種改良で心皮の数は変化します。ボケも果実を割ると5室でなく6室に種子を見ることもしばしばあります。また、両植物の渡来は平安時代で、家紋の起源の時代に充分間に合います。

●家紋は精錬された究極のデザインです。有名な家紋「五三の桐」は3枚の葉の上に、5つ花が付いた花序の両側に3つ花が付いた花序が並ぶデザインです。キリは対生の芽を形成しますので、本来、花序に付く花は偶数のはずなのです。家紋は必ずしも本物そっくりではないのです。


●ここでは「もっこう」の由来の特定をするつもりはありません。それよりも、混乱が起きるほど、昔の人は日常生活の中で、植物の実の中もしっかり見ていたことに注目したいのです。

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