H2426年度科学研究費 研究報告

1.研究テーマ・目的

研究費目:基盤研究(B)平成2426年度(課題番号:24330259)

研究題目:聴覚障害児が苦手とする文および文章の読みにおける方略の個人差に関する研究

目  的:近年、生活の中でのインターネットや電子メールの利用は日常化しており、「読む」ことによる情報収集の重要性が一層高まっている。聴覚障害児・者が社会生活を営む上でも、文字情報の活用は必要不可欠であるが、現状では日本語の読みを苦手としている聴覚障害児は多く、学力向上や高等教育機関への進学、あるいは職業選択にも影響している。現在、聴覚障害者を主たる対象とする特別支援学校(以下、聾学校)では、障害の重度化・重複化が顕著であり、発達障害をあわせ有する子どもの存在も指摘されるなど(大鹿・濱田, 2006)、読む力の個人差が大きく、個に応じた指導方法の考案が急務の課題となっている。個に応じた指導を行う上では、一人ひとりの子どもの読み能力や読み方の特徴を的確に把握することが必要不可欠である。しかし欧米等(Marschark & Spencer, 2003)と比較して、聴覚障害児を対象とした日本語の読み能力の発達や評価に関する研究は限られている(長南・澤, 2007; 澤・相澤, 2008, 2009)。特にこれまでの研究では、主にペーパーテストを利用した得点や成績のデータに基づいて、「読んだ結果どの程度の理解に達したか」の分析や評価に止まっており、子どもが「どんな読み方をしているか」、「どのように読み進めているか」といった読みのプロセスについてはほとんど解明されていない。読みのプロセスを明らかにするための方法の一つとして、眼球運動や反応時間を計測する方法がある。この方法は、読み活動中の注視点や注視時間、理解に要した時間などを測度として、文や文章の読みプロセスを詳細に分析することが可能であり、多くの心理学的研究で使用されている。聴覚障害児は受け身文、やりもらい文などの特殊構文の理解や、文章の論理的な読解に困難のあることが指摘されており(我妻, 2000; 相澤・左藤・四日市, 2007; , 2009)、さらに独自の読み方(方略)を用いるなど読み能力の個人差が非常に大きい。特殊構文を読むプロセスの特徴や、読解力の高い子どもと低い子どもの読みプロセスの違いを検討することは、聴覚障害児における困難の要因を解明する上で非常に重要であると考える。本研究では、眼球運動および反応時間の測定という手法による読み活動中の認知的処理の分析を通じて、聴覚障害児の読みにおける方略の特徴や個人差の要因を明らかにすることを目的とした。

(1)聴覚障害児が苦手とする文の中で、格助詞の理解や受動文の理解を取り上げ、読み活動中の視点および解答の正誤や解答に至るまでの反応時間の分析を通じて、構文の認知的処理の特徴や個人差を明らかにする。

(2)推論を必要とする文章読解課題を実施し、読み活動中の視点の分析を通じて、文章読解における認知的処理の特徴や個人差を明らかにする。

(3)読書力検査等を実施し(1)・(2)の研究から得られた個々の子どもの読み方略の特徴との関連を明らかにする。

2.研究の内容

1.聴覚障害児の文理解方略に関する文献的考察  2.聴児の能動文・受動文理解について1

3.聴児の能動文・受動文理解について2     4.聴者の能動文・受動文理解について

5.聴覚障害者の能動文・受動文理解について   6.聴覚障害児の能動文・受動文理解について

7.聴覚障害児の文章理解に関する文献的考察   8.聴覚障害児の文章理解について1

9.聴覚障害児の文章理解について2

3.研究組織等

研究代表  澤 隆史(東京学芸大学教育学部)

連携研究者 長南浩人(筑波技術大学障害者高等教育研究支援センター

      相澤宏充(福岡教育大学障害児教育講座)

      林田真志(広島大学大学院教育学研究科特別支援教育学講座)

研究協力者 M田豊彦(東京学芸大学教育学部)      大鹿 綾(日本学術振興会特別研究員)

      稲葉啓太(東京学芸大学大学院教育学研究科) 長濱圭吾(東京学芸大学大学院教育学研究科)

      白石健人(東京学芸大学大学院教育学研究科) 澤田瑞季(東京学芸大学教育学部)

      赤羽紗央里(東京学芸大学教育学部)

H2729年度科学研究費 研究報告

1.研究テーマ・目的

研究費目:基盤研究(C)平成2729年度(課題番号:15K04544

研究題目:聴覚障害児を対象とした書く力の評価システムの開発に関する研究

目  的:近年、インターネットや電子メールの利用は日常化しており、「書くこと」による情報発信の重要性が一層高まっている。聴覚障害者が社会生活を営む上でも、文字情報の活用は必要不可欠であるが、現状では日本語の読み書きを苦手としている聴覚障害児が非常に多く、高等教育機関への進学や幅広い職業選択の困難における大きな要因となっている。それ故、「書く力」の育成は聾学校での指導における重要課題の一つとなっているが、「読む力」に比して「書く力」については、客観的な評価指標が確立していない。学校教育においては、子どもが書いた作文を教員の印象や主観によって評価する場合が多く、評価の観点や基準に教員間の差やズレが生じやすい(勝又・澤, 2000; , 2009)。また、教員による添削が指導の中心であり、その観点も曖昧で客観性や一貫性のある方法が確立していない。特に教員の印象による評価と実際に書かれた文章の特徴との関連性については明確な知見がなく、表現(語彙や文等)の使用や誤りが評価に及ぼす影響については、ほとんど未解明である。それ故、子どもの文章で使用される語彙や構文の特徴から書く力を推定できる評価方法の考案することは、年齢や発達段階に応じた支援を行う上でも有益であると考える近年、テキストマイニングの手法を利用した文章の多次元的解析の方法や、文章の完成度や発達段階を自動的に評価するための自動作文評価システムの開発などが進みつつある。テキストマイニングの手法は、専用のコンピュータソフトウエアや独自のプログラムを活用することで、大量のデータを対象に語彙の頻度や共起数、助詞などの機能語の使用箇所や頻度、文の長さ等を計測し、各文章の特徴や文章間の差異を量的・質的に分析できるという長所がある。この手法を利用することで、聴覚障害児の書いた大量の文章を様々な観点から分析することが可能となる。聴覚障害児を対象とした作文評価の難しさを解消するために、教員が行う評価結果や評価の際に重視している観点と、実際に子どもが書いた文章の特徴との関連を分析することは有効である。文章の特徴を詳細に分析し、ある年齢段階で子どもが使用する頻度が高い語彙、構文の種類や文の長さ、文章構成のパターンを明らかにし、その結果を教員の評価と対応づけることで、子どもが実際に書いた文章から直接的に書く力を評価できるシステムを開発することができると考える。本研究では、聴覚障害児の書いた文章の計量的分析の結果と教員による評価結果の関連性を分析することで、聴覚障害児の書く力の評価方法を開発することを目的とした。具体的な検討項目として以下の4点を挙げた。

(1)聴覚障害児が書いた文章をテキストマイニングの手法を利用して語彙の使用、構文の特徴、文章の構成の観点から分析し、その発達的特徴や個人差を明らかにする、

(2)聾学校教員および一般成人を対象として聴覚障害児の文章の多面的評価を行い、(1)で明らかにした文章の特徴や発達との関連について検討する。

(3)聾学校教員を対象に書く力の評価における観点や方法についてアンケート調査を行い、教育指導上有効である評価方法について明らかにする。

(4)聴覚障害児用の文章表記力総合評価システムを試作する。

2.研究の内容(論文等)

1作文評価の観点に関する研究

新海晃・澤隆史・林雄大 2016 聴覚障害児の作文に対する評価の観点に関する一研究−聾学校教員の意識に基づいて− 日本特殊教育学会第54回大会発表論文集, P7-49USBメモリ)

2.教員による作文評価の実際に関する研究

新海晃・澤隆史・林雄大・大川正貴 2017 聴覚障害児の作文評価における評価観点の特徴−印象評定による分析的評価を中心とした検討−.日本特殊教育学会第55回大会発表論文集, P1-31CD-ROM

3.言語要素に基づく作文の分類

澤隆史・新海晃・相澤宏充・林田真志 2016 聴覚障害生徒が書く文章の特徴について:多次元項目に基づく作文の分類.東京学芸大学紀要総合教育科学系U,67,135-144.

4Random Forest法(RF法)による作文の多次元分析

澤隆史・新海晃 2016 多次元項目による聴覚障害生徒の作文力評価に関する研究.東京学芸大学教育実践研究支援センター紀要, 12, 89-96.

5.クラスター分析による作文の多次元分析

澤隆史・新海晃・相澤宏充・林田真志 2017 多次元項目に基づく作文の分類と評価 : 聾学校小学部児童と中学部生徒の作文を対象として.東京学芸大学紀要. 総合教育科学系 Vol.68 no.2 p.193 -202

6言語要素の使用に関する因子構造と評価との関連

澤隆史・新海晃・相澤宏充・林田真志 2018 聴覚障害児が書く作文の特徴と評価との関連 −言語要素の使用傾向が評価に及ぼす影響−.東京学芸大学紀要総合教育科学系U,69,211-220.

3.研究組織等

研究代表  澤 隆史(東京学芸大学教育学部)

連携研究者 相澤宏充(福岡教育大学障害児教育講座)

      林田真志(広島大学大学院教育学研究科特別支援教育学講座)

研究協力者 M田豊彦(東京学芸大学教育学部)  

喜屋武睦(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程・日本学術振興会特別研究員DC

新海 晃(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程)

林 雄大(東京学芸大学大学院教育学研究科)  白石健人(東京学芸大学大学院研究生)

H30〜R2年度科学研究費 研究報告

1.研究テーマ・目的

研究費目:基盤研究平成30R2年度(課題番号:18H01039

研究題目:聴覚障害児に対する個別適応型の日本語文法学習教材の開発に関する研究

目  的:聴覚障害児に対する日本語指導では、補聴機器による聴覚活用を基本としながら、手話などの種々の手段を利用したコミュニケーション中心の指導が展開されてきた。一方近年では、聾学校を中心としてコミュニケーション活動に基づく指導に加え、日本語の習得に特化した指導実践がしばしば報告されている(河野, 2013; 木島, 2013)。この方法は、自立活動や朝学習の時間の中で特定の文法項目を取り上げ、理論の説明と反復練習による構成的な指導を行うことで日本語知識の定着を目差すものであり、第二言語習得や日本語学の理論を援用した実践が展開されている。このような取り組みは、視覚教材やプリントなどを活用した学習の工夫によって、基礎的な文法項目の理解力向上に対して一定の成果をあげている(河野, 2012; 坂口・澤, 2017)。しかし、学習が基礎的なレベルにとどまり発展的内容まで扱いにくいこと、指導時間が限られ特定の項目に学習が偏ること、学習した知識が定着しにくく他の文法項目に般化しにくいことなど、様々な問題を抱えている。さらに学習指導要領改訂などにより学校での学習内容が増加したことや、聾学校に通う児童生徒の障害の重度化・多様化が顕著なことで学習グループの編成が難しいなど、指導に要する時間や労力がその効果に反映しにくい状況になりつつある。学校などで使用されるプリントや市販の問題集では、「格助詞」「動詞」などの文法項目ごとに内容がカテゴライズされていることが多い。また難易度の設定が不明確である、課題に使用される文表現が不自然である、特定の語彙が繰り返し登場するなど、子どもが興味を持って持続的に取り組むことや、日本語の習得状況に応じて文法項目の種類や難易度を柔軟に調整することが困難であると考える。特に聴覚障害児を対象とした教材は、基礎的文法項目の学習に限定されたものが多く、そのことが発展的内容の学習を妨げているともいえるだろう。このような状況を改善するためには、日本語の学習をある程度独力で進められ、自主的・意欲的に学習できる課題設定や、個々の子どもの能力にきめ細かく対応し、文法の基礎的項目のみでなく応用的項目まで扱えるような学習教材の工夫が求められる。さらに作成した学習教材をより広く活用するためには、ICT機器を利用して学習教材を組み替えられることや、プリントなどの形でも使用できるといった柔軟な枠組みが必要であると考える。本研究では、一人ひとりの聴覚障害児の日本語能力に応じた学習課題を呈示し、自主的に学習が進められる「日本語文法学習教材」を開発し、その有効性と課題について検証することを目的とする。

2.研究の内容(論文等)

1.聴覚障害児のへの日本語指導の観点

澤隆史 2020 聴覚障害児の日本語習得を巡る課題と展望−聾学校での指導の観点から−.東京学芸大学紀要総合教育科学系,71,429-440.

2.聴覚障害児の語彙の理解・産出に関する研究

澤隆史・新海晃・大川将樹・相澤宏充・林田真志聴覚障害児における複合動詞の理解−複合動詞の構造による理解の差異−.東京学芸大学紀要総合教育科学系,70,417-428.

澤隆史・新海晃 2020 聴覚障害児における動詞の使用に関する一研究―意味の限定性との関係から―.東京学芸大学教育実践研究, 16, 141-146.

3.日本語文法項目の使用と難易度に関する研究

澤隆史・新海晃・大鹿綾・村尾愛美・相澤宏充・林田真志(2021)小学校教科書における日本語文法項目の使用傾向−聴覚障害児への文法指導を踏まえて−.東京学芸大学紀要総合教育科学系,72,249-260.

澤隆史・新海晃・村尾愛美・大鹿綾(2021)聴覚障害児の作文における使用からみた日本語文法の難易度─文法指導における難易度段階の提案─東京学芸大学教育実践研究,17,67-76.

4.日本語文法教材の作成       こちらのページをご覧ください。

 

3.研究組織等

研究代表  澤 隆史(東京学芸大学教育学部)

連携研究者 相澤宏充(福岡教育大学障害児教育講座)

        林田真志(広島大学大学院教育学研究科特別支援教育学講座)

研究協力者 大鹿綾(東京学芸大学教育学部)  村尾愛美(東京学芸大学教育学部)

        新海 晃(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程)

問題作成協力者 岩田明音羽  薄葉優理  小崎ゆり  可児美優紀  栗原真子  佐々木愛海  高橋愛生

            保谷大嬉   西沢 琳 (東京学芸大学教育学部特別支援教育教員養成課程)

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