H2729年度科学研究費 研究報告

1.研究テーマ・目的

研究費目:基盤研究(C)平成2729年度(課題番号:15K04544

研究題目:聴覚障害児を対象とした書く力の評価システムの開発に関する研究

目  的:

 近年、インターネットや電子メールの利用は日常化しており、「書くこと」による情報発信の重要性が一層高まっている。聴覚障害者が社会生活を営む上でも、文字情報の活用は必要不可欠であるが、現状では日本語の読み書きを苦手としている聴覚障害児が非常に多く、高等教育機関への進学や幅広い職業選択の困難における大きな要因となっている。それ故、「書く力」の育成は聾学校での指導における重要課題の一つとなっているが、「読む力」に比して「書く力」については、客観的な評価指標が確立していない。学校教育においては、子どもが書いた作文を教員の印象や主観によって評価する場合が多く、評価の観点や基準に教員間の差やズレが生じやすい(勝又・澤, 2000; , 2009)。また、教員による添削が指導の中心であり、その観点も曖昧で客観性や一貫性のある方法が確立していない。特に教員の印象による評価と実際に書かれた文章の特徴との関連性については明確な知見がなく、表現(語彙や文等)の使用や誤りが評価に及ぼす影響については、ほとんど未解明である。それ故、子どもの文章で使用される語彙や構文の特徴から書く力を推定できる評価方法の考案することは、年齢や発達段階に応じた支援を行う上でも有益であると考える

近年、テキストマイニングの手法を利用した文章の多次元的解析の方法や、文章の完成度や発達段階を自動的に評価するための自動作文評価システムの開発などが進みつつある。テキストマイニングの手法は、専用のコンピュータソフトウエアや独自のプログラムを活用することで、大量のデータを対象に語彙の頻度や共起数、助詞などの機能語の使用箇所や頻度、文の長さ等を計測し、各文章の特徴や文章間の差異を量的・質的に分析できるという長所がある。この手法を利用することで、聴覚障害児の書いた大量の文章を様々な観点から分析することが可能となる。聴覚障害児を対象とした作文評価の難しさを解消するために、教員が行う評価結果や評価の際に重視している観点と、実際に子どもが書いた文章の特徴との関連を分析することは有効である。文章の特徴を詳細に分析し、ある年齢段階で子どもが使用する頻度が高い語彙、構文の種類や文の長さ、文章構成のパターンを明らかにし、その結果を教員の評価と対応づけることで、子どもが実際に書いた文章から直接的に書く力を評価できるシステムを開発することができると考える。

本研究では、聴覚障害児の書いた文章の計量的分析の結果と教員による評価結果の関連性を分析することで、聴覚障害児の書く力の評価方法を開発することを目的とした。具体的な検討項目として以下の4点を挙げた。

(1)聴覚障害児が書いた文章をテキストマイニングの手法を利用して語彙の使用、構文の特徴、文章の構成の観点から分析し、その発達的特徴や個人差を明らかにする、

(2)聾学校教員および一般成人を対象として聴覚障害児の文章の多面的評価を行い、(1)で明らかにした文章の特徴や発達との関連について検討する。

(3)聾学校教員を対象に書く力の評価における観点や方法についてアンケート調査を行い、教育指導上有効である評価方法について明らかにする。

(4)聴覚障害児用の文章表記力総合評価システムを試作する。

2.研究の内容(論文等)

1作文評価の観点に関する研究

新海晃・澤隆史・林雄大 2016 聴覚障害児の作文に対する評価の観点に関する一研究−聾学校教員の意識に基づいて− 日本特殊教育学会第54回大会発表論文集, P7-49USBメモリ)

2.教員による作文評価の実際に関する研究

新海晃・澤隆史・林雄大・大川正貴 2017 聴覚障害児の作文評価における評価観点の特徴−印象評定による分析的評価を中心とした検討−.日本特殊教育学会第55回大会発表論文集, P1-31CD-ROM

3.言語要素に基づく作文の分類

澤隆史・新海晃・相澤宏充・林田真志 2016 聴覚障害生徒が書く文章の特徴について:多次元項目に基づく作文の分類.東京学芸大学紀要総合教育科学系U,67,135-144.

4Random Forest法(RF法)による作文の多次元分析

澤隆史・新海晃 2016 多次元項目による聴覚障害生徒の作文力評価に関する研究.東京学芸大学教育実践研究支援センター紀要, 12, 89-96.

5.クラスター分析による作文の多次元分析

澤隆史・新海晃・相澤宏充・林田真志 2017 多次元項目に基づく作文の分類と評価 : 聾学校小学部児童と中学部生徒の作文を対象として.東京学芸大学紀要. 総合教育科学系 Vol.68 no.2 p.193 -202

6言語要素の使用に関する因子構造と評価との関連

澤隆史・新海晃・相澤宏充・林田真志 2018 聴覚障害児が書く作文の特徴と評価との関連 −言語要素の使用傾向が評価に及ぼす影響−.東京学芸大学紀要総合教育科学系U,69,211-220.

3.研究組織等

研究代表  澤 隆史(東京学芸大学教育学部)

連携研究者 相澤宏充(福岡教育大学障害児教育講座)

      林田真志(広島大学大学院教育学研究科特別支援教育学講座)

研究協力者 M田豊彦(東京学芸大学教育学部)  

喜屋武睦(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程・日本学術振興会特別研究員DC

新海 晃(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程)

林 雄大(東京学芸大学大学院教育学研究科)  白石健人(東京学芸大学大学院研究生)

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