H30〜R2年度科学研究費 研究報告

1.研究テーマ・目的

研究費目:基盤研究平成30R2年度(課題番号:18H01039

研究題目:聴覚障害児に対する個別適応型の日本語文法学習教材の開発に関する研究

目  的:

 聴覚障害児に対する日本語指導では、補聴機器による聴覚活用を基本としながら、手話などの種々の手段を利用したコミュニケーション中心の指導が展開されてきた。一方近年では、聾学校を中心としてコミュニケーション活動に基づく指導に加え、日本語の習得に特化した指導実践がしばしば報告されている(河野, 2013; 木島, 2013)。この方法は、自立活動や朝学習の時間の中で特定の文法項目を取り上げ、理論の説明と反復練習による構成的な指導を行うことで日本語知識の定着を目差すものであり、第二言語習得や日本語学の理論を援用した実践が展開されている。このような取り組みは、視覚教材やプリントなどを活用した学習の工夫によって、基礎的な文法項目の理解力向上に対して一定の成果をあげている(河野, 2012; 坂口・澤, 2017)。しかし、学習が基礎的なレベルにとどまり発展的内容まで扱いにくいこと、指導時間が限られ特定の項目に学習が偏ること、学習した知識が定着しにくく他の文法項目に般化しにくいことなど、様々な問題を抱えている。さらに学習指導要領改訂などにより学校での学習内容が増加したことや、聾学校に通う児童生徒の障害の重度化・多様化が顕著なことで学習グループの編成が難しいなど、指導に要する時間や労力がその効果に反映しにくい状況になりつつある。

学校などで使用されるプリントや市販の問題集では、「格助詞」「動詞」などの文法項目ごとに内容がカテゴライズされていることが多い。また難易度の設定が不明確である、課題に使用される文表現が不自然である、特定の語彙が繰り返し登場するなど、子どもが興味を持って持続的に取り組むことや、日本語の習得状況に応じて文法項目の種類や難易度を柔軟に調整することが困難であると考える。特に聴覚障害児を対象とした教材は、基礎的文法項目の学習に限定されたものが多く、そのことが発展的内容の学習を妨げているともいえるだろう。このような状況を改善するためには、日本語の学習をある程度独力で進められ、自主的・意欲的に学習できる課題設定や、個々の子どもの能力にきめ細かく対応し、文法の基礎的項目のみでなく応用的項目まで扱えるような学習教材の工夫が求められる。さらに作成した学習教材をより広く活用するためには、ICT機器を利用して学習教材を組み替えられることや、プリントなどの形でも使用できるといった柔軟な枠組みが必要であると考える。

本研究では、一人ひとりの聴覚障害児の日本語能力に応じた学習課題を呈示し、自主的に学習が進められる「日本語文法学習教材」を開発し、その有効性と課題について検証することを目的とする。

2.研究の内容(論文等)

1.聴覚障害児のへの日本語指導の観点

澤隆史 2020 聴覚障害児の日本語習得を巡る課題と展望−聾学校での指導の観点から−.東京学芸大学紀要総合教育科学系,71,429-440.

2.聴覚障害児の語彙の理解・産出に関する研究

澤隆史・新海晃・大川将樹・相澤宏充・林田真志聴覚障害児における複合動詞の理解−複合動詞の構造による理解の差異−.東京学芸大学紀要総合教育科学系,70,417-428.

澤隆史・新海晃 2020 聴覚障害児における動詞の使用に関する一研究―意味の限定性との関係から―.東京学芸大学教育実践研究, 16, 141-146.

3.日本語文法項目の使用と難易度に関する研究

澤隆史・新海晃・大鹿綾・村尾愛美・相澤宏充・林田真志(2021)小学校教科書における日本語文法項目の使用傾向−聴覚障害児への文法指導を踏まえて−.東京学芸大学紀要総合教育科学系,72,249-260.

澤隆史・新海晃・村尾愛美・大鹿綾(2021)聴覚障害児の作文における使用からみた日本語文法の難易度─文法指導における難易度段階の提案─東京学芸大学教育実践研究,17,67-76.

4.日本語文法教材の作成

3.研究組織等

研究代表  澤 隆史(東京学芸大学教育学部)

連携研究者 相澤宏充(福岡教育大学障害児教育講座)

      林田真志(広島大学大学院教育学研究科特別支援教育学講座)

研究協力者 大鹿綾(東京学芸大学教育学部)  村尾愛美(東京学芸大学教育学部)

      新海 晃(東京学芸大学大学院連合学校教育学研究科博士課程)

問題作成協力者 岩田明音羽  薄葉優理  小崎ゆり  可児美優紀  栗原真子  佐々木愛海  高橋愛生

        保谷大嬉   西沢 琳 (東京学芸大学教育学部特別支援教育教員養成課程)

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