今月の学校図書館


2023/03/07

東京都 世田谷区立梅丘中学校図書館

Tweet ThisSend to Facebook | by 村上

 今月は、東京都世田谷区立梅丘中学校の学校図書館を紹介します。きっかけは、学校図書館で行った「本のタイトル川柳」の話を同じ世田谷区勤務の学校司書から伺ったことです。本校の国語科教員に伝えたところ、授業でやってみたいと翌日図書館で実施。次の週、クラスでそれぞれの川柳を鑑賞。生徒の反応も上々。梅丘中学校では、日頃から、このような生徒一人ひとりの学びを意識した図書館運営をされていることを伺い、原稿を依頼させていただきました。(東京学芸大学附属世田谷中学校司書 村上恭子)


「生徒一人ひとりが主役になれる学校図書館づくりを目指して」

 

世田谷区立梅丘中学校図書館司書 小濵華子

 

1.学校紹介

 東京都世田谷区立梅丘中学校は、学級数11クラス・生徒数約370人の中規模校です。梅の名所として名高い羽根木公園に隣接し、豊かな緑を身近に感じられる環境の中で生徒たちは学校生活を送っています。部活動が盛んなことでも知られ、特に運動部は強豪校でもあります。

 校内には、「帰国・外国人教育相談室」が併設されていることも本校の特徴です。区立学校に在籍する外国人や海外から帰国した児童・生徒を対象に、日本語指導や教科補習、通訳者の派遣をすることを通して支援をする取り組みで、日本語教育を専門とする先生方が常駐しています。母語が日本語ではない生徒も学校図書館を利用し、カウンターでのコミュニケーションを重ねるうちに、洋書を購入リクエストしてくれたこともありました。

 近隣には、都立光明学園があります。光明学園は日本ではじめての肢体不自由教育を実践した公立学校「東京市立光明学校」にルーツがあり、肢体不自由教育部門・病弱教育部門という2部門を併設していることによる専門性を有する小学部から高校部までの教育学園です。本校は光明学園との交流を昭和53年から継続してきました。本校図書館も、コロナ禍前までは1年に23回程度、光明学園の先生と生徒が授業の一環として利用していました。

 

2.学校図書館紹介

 学校図書館は南校舎の3階突き当たりにあります。南校舎は特別教室が集まる校舎で、学校図書館の隣には理科室があります。生徒たちのホームともいえる各教室が集まる東校舎からは少し離れているため、わざわざ行こうとしないとたどり着かない場所に位置しています。メインとなる開架・閲覧エリアの他、図書準備室もマンガコーナーとして開放しており、昼休みには我先にと生徒達が競って入室する人気コーナーです。蔵書数は約1万6千冊ですが、9類比率が50%近くあるため、蔵書比率を適正に近づけることは課題のひとつです。座席数は45席、1クラスであれば充分に授業利用できる席数ですが、放課後に待機時間がある日などは満席以上になる日もあります。開館は平日5日間と土曜授業日です。

 昨年度、私が着任した当初は「図書館は静かに本を読む場所」という図書館像のもとに運営されている印象がありました。しかし、「学校の教育課程の発展に寄与する」ためという学校図書館に課された本来的な使命を全うするには、必然的に学習指導要領で示されている「主体的・対話的で深い学び」を意識した運営に向かっていくことになります。学校図書館なりの「主体的・対話的で深い学び」を実現しようとすればするほど、「静かに」「本を読む」だけでは済まなくなっていくのは自然な成り行きです。学校図書館を主体的・対話的で深い学びのある場にしていくために、工夫したイベントや日常での取り組みをこれから紹介します。

 

3.イベント紹介

 本校図書館が生徒に利用してもらえるチャンスは主に昼休みと放課後です。この時間を活用して、学校図書館活動をなんとか「主体的・対話的で深い学び」に結びつけられないかと考え続け、試行錯誤して様々なイベントを仕掛けてきました。どのようなイベントを企画するにあたっても、私が常に中心に据えている問いがあります。それは「一人ひとりの生徒が主役になっているか」という問いです。学校図書館を成長する有機体にしていく主体としての生徒の個性・創意・活躍が光る場にしていきたい、そう目指して企画立案したイベントを紹介します。

 

3-1.読書週間イベント〈本のタイトル川柳コンテスト〉

  

〈本のタイトル川柳コンテスト〉は、昨年の夏休みに「東京学校図書館スタンプラリー」で見学させていただいた明治学院中学校・明治学院東村山高等学校図書館で実施していた同様のイベントから着想を得て
2学期にさっそく実施しました。本のタイトル川柳とは、本のタイトルだけで川柳をつくる、一種の遊びです。例えば、「はじめての ビブリオバトル 周期表」という川柳は、『はじめての』(島本理生ほか著/水鈴社)・『ビブリオバトル: 本を知り人を知る書評ゲーム』(谷口忠大著/文藝春秋)・『周期表: ゆかいな元素たち!』(サイモン・バシャ/エイドリアン・ディングル文/藤田千絵訳/玉川大学出版部)3冊のタイトルから作った一句です。起源をたどると、筑摩書房がツイッター上でちくま文庫に限定した本のタイトル川柳募集をしていたところまではたどることができました。

 イベント実施にあたっては、10月半ばに予定されている読書週間でのコンテスト開催をゴールに設定し、2学期はじまってすぐに学校内での調整をはじめました。9月半ばに募集要項を全校配布し、募集期間は922日~1011日までの約2週間です。その後、応募のあった川柳を1017日~21日の読書週間期間中に図書館内で公開し、来館者にはいいと思う川柳に番号で投票してもらいました。川柳がどのようなものであるかを示す参考資料として、公共図書館から川柳に関する図書を取り寄せ、コーナー展示も同時に行いました。

 〈本のタイトル川柳〉を作るにあたってのルールは、「学校図書館内にある本のタイトルを使うこと」「2冊以上の本のタイトルを使うこと」「作った作品についての一言コメントを書くこと」。誰もが気負わずに学校図書館に足を踏み入れただけでも参加してもらえたらとの意図から、ルールはできる限り簡潔さを心がけました。

 〈本のタイトル川柳〉がイベントとして「一人ひとりの生徒が主役になれる」と思った理由のひとつは、「本を読まない生徒でも参加できる」点にあります。学校図書館という場は、本をたくさん読むのがよいこと、たくさん読んでいる生徒が褒められる、というイメージを持たれている印象が少なからずあるのではないかと思いますが、生徒の読書環境を本当に向上させたいと思うときに意識が向くのは本をそれほど読まない生徒です。読まない生徒でも劣等感をもつことなく楽しんで取り組めるところがこのイベントのよさのひとつだと直感しました。実際、川柳の募集期間中は、普段の読書傾向に関わらず、川柳づくりの材料となるタイトルを探すために、いつもはあまり見ないような棚を端からくまなく背表紙を読んでいっている姿を見ては、見たかった生徒の姿が見られたと思ったものです。

 図書委員を上手に巻き込むことも心がけていることのひとつです。本校図書館では、各クラスの図書委員に週1回の昼休み当番が回ってきます。図書委員には、昼休み当番の仕事としてイベントに取り組んでもらいます。すぐに済ませようとする生徒、イベントの主旨を理解して何日もかけてよい作品を出せるよう高みを目指す生徒、納得のいく作品ができるまで粘り強く考え続ける生徒、なかなか着手しようとしなかったのにいざ着手すると楽しそうにしている生徒、友達と相談しあう生徒、周りの生徒の作品でいいと思ったところから学ぼうとする生徒、静かに自分の中で言葉をかみしめて生み出そうとする生徒。みんなそれぞれがちがう取り組み方です。一文字一文字を数えながら川柳づくりに取り組んでいる生徒たちの姿は、子どもたちはひとりひとりちがうんだということを如実に物語っていました。図書委員たち自身が主体となって取り組むそのような姿や積極的な呼びかけがあったからこそ、図書委員周辺の友人達やカウンターを利用する生徒たちにも川柳づくりを勧めやすくなり、期待に応えて参加してくれた生徒もいました。生徒どうしの影響力はほんとうにすごくて、司書は到底かないません。川柳の募集期間は、生徒たち一人ひとりの個性の輝きに直に触れ合えた時間で、学校司書としてとても幸せな時間でした。最終的には全部で29作品の応募がありました。

 


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