第2回マルチメディア学習教材活用国際コンテスト
−東アジア地区タイ国地域コンテスト開催−
東京学芸大学 篠原文陽児
去る平成18年9月14日(木)午前9時過ぎの便で成田を発ちバンコクに向かい、由緒ある「アンバサダーホテル」に投宿。由緒あるからこそ、である。タイ国教育省関係者は、こと国際会議あるいはワークショップとなると、しばしばここを会場にする。今回のミッションのタイ国側担当者は、アジア工科大学(Asian Institute of Technology、AIT)学長室タイ王国外交部長とタイ国教育相教授学習技術局長である。
写真1 コンテスト参加者
今回のミッションは、東京学芸大学が2004年度からの法人化移行以来いっそう力を入れている国際的な事業の一つとして企画し、メディア教育開発センターと共催し実施する「第2回マルチメディア学習教材活用国際コンテスト」の一環として「タイ国地域コンテスト」を、タイ国側担当者と運営し、1名の「マルチメディアを活用する優秀な教師」を決定することである。なお、この「地域コンテスト」は、タイ国バンコク市のみではなく、中国は北京市と上海市、そして、韓国は釜山市と、東アジア地域4都市で実施し、各地域から1名、計4名を選んでいる。
「第2回マルチメディア学習教材活用国際コンテスト」は、こうして「地域コンテスト」で選ばれた4名と、日本で開催する日本国内応募者を対象とした第一次の書類審査及び第二次の審査によって選ばれる1名、計5名の「マルチメディアを活用する優秀な教師」を平成18年11月3日(金)に東京学芸大学に招待し、彼らによる20分のミニ授業を最終審査会と位置づけ、「国際コンテスト」にふさわしい「マルチメディアを活用する最優秀の教師」を決定する事業である。
実は、このコンテスト、昨年は「全国マルチメディア学習教材活用コンテスト」として、日本国内のみを対象として実施している。この時には、30件の応募に対し、第一次書類審査を通過した6名が、第二次審査会で、それぞれ20分間の模擬授業(ミニ授業)を行い、最優秀賞、優秀賞を競っている。その結果、最優秀賞が小・中・高等学校各校種別に3名、優秀賞に2名、そして、特別奨励賞に1名が選ばれている。
本年度は、第2回目のコンテストとして、先ず東アジアを中心に国際的なコンテストへと、第一歩を踏み出したことになる。
国際コンテスト組織図
マルチメディア学習教材あるいはマルチメディアソフトウェアそのもののコンテストは、かつて、筆者もその審査員を勤めたことのある、財団法人日本放送教育協会がN社とともに実施した「マルチメディアアート大賞」をはじめ、数多く存在する。しかし、自作によるマルチメディア等ソフトウェアであるか、あるいは、企業等によって制作され市販されているマルチメディア等ソフトウェアであるかを問わず、これらマルチメディア学習教材を「活用する授業そのもの」を審査の対象とするコンテストは、皆無である。少なくとも、教師教育を主な目的とする東京学芸大学が「コンテスト」を主催する限り、ソフトウェアの質とともに、あるいはむしろ、「授業」そのものを審査の対象とすることに、異論はない。しかし、それだけに、何を審査の基準とするかについては、審査の方法を含め、多くの観点が考えられ、その上、これらが混沌とし課題にもなっていない、といったら、言い過ぎであろうか。
マルチメディア学習教材を活用した授業の目的、指導および学習の目標はもとより、これら目標の系統性とマルチメディアが内包する「無構造性」による学習者による目標の再構造化、授業の構造、教師の行動、マルチメディア学習教材の位置づけ、目標及び内容と教材の整合性、教師及び学習者とソフトウェアとのインタラクティブの度合い、教授の成果、学習の成果などマクロとミクロの両面から基準の検討の必要は、研究においても実践においても不十分であるし、結論への道筋さえ見えない。
QEつまりQuality Education(質の高い教育)を表題とする国際的な会議や集会が、グローバル化に呼応した国境を越える教育環境の進展の中で、途上国と先進国を問わず、地球の多くの国々や地域で企画され実施されている。例えば、学校教育、公教育、小学校、5年生、理科の授業、授業の目標、教授タクティクス、コミュニケーション、教室設備、実験器具、補助教材、教育メディア、教師、児童、等々と、「限定された研究等目的」に応じて「教育の質」を規定する要因を整理し分類するなどによって、「質の高い教育とは何か」「質の高い授業とは何か」、一つひとつ事例を集めていく努力が、必要である。
そうした中で、タイ国地域コンテストでは、グローバル化の中で期待される、(1)Indigenous KnowledgeあるいはLocal Wisdom(ともに、タイ王国「語り継ぐべき、あるいは、発展させるべき、価値ある独特の文化と智恵」の意)が十分に配慮されていること、(2)学習者の興味関心を的確に捉え彼らの身近な事象や経験との関連性を呼び起こし強化し、これを持続させる教師と学習者のコミュニケーションが効果的であること、(3)環境問題への配慮、(4)家庭と地域の連携の重要性への配慮、(5)他者のもつ価値観の相違を認めることへの配慮、などが「マルチメディア学習教材活用コンテスト」の「優秀な教師」を決定付ける共通の基準とされ、その他、(6)学習者の授業への参加度、(7)学習者及び教師の満足度、(8)発問への回答と理解度など、各審査員に任されることとなった。
幸いにも、92件の応募のうち書類審査を通過した10名によって「ミニ授業」が行われ、タイ国側担当者等と筆者を含め5名の審査員の協議で1名の「優秀な教師」を決定し、クーデターの起こった前日9月18日(月)の夜行便で帰国した。
写真2 コンテスト風景(教師の演示)
写真3 コンテスト風景(生徒の質問)
写真4 コンテスト風景(全景)
平成18年11月3日(金)午後1時過ぎから、東京学芸大学で、いよいよ「国際コンテスト」が開催される・・・・・。
なお、本年度の後援は、文部科学省、日本ユネスコ国内委員会、日本教育大学協会、財団法人日本視聴覚教育協会、ユネスコ・アジア太平洋地域教育局、ほか(順不同、予定を含む)であり、ベネッセ・コーポレーション、ペイパーウェイト・ブックス、エム・ソフト、イー・ステージ、ワック・ドットコム、大新書局、ほか(順不同、予定を含む)が、本事業の趣旨に賛同され協賛いただいている。
本紙面を借りて、お礼申し上げる。
<平成18年10月20日記>