(モンゴル語)
ここに、日本国独立行政法人国際協力機構(JICA、Japan International Cooperation Agency)の財政支援による「モンゴル国子どもの発達を支援する指導法」プロジェクトの一環として、その旅路の初めに本書をご提供できることは、私にとって、この上のない喜びと誇りである。
本書は、モンゴル国立教育大学IT教育センター所長チョージョー博士および同ムンフツーヤ博士を中心とし、実験校として快くご参加いただいたウランバートル市第97学校、同第45学校、同Setgemj学校、ドルノド県Khan-uul校、同第5学校、同Matadソム校、セレンゲ県第1学校、同第4学校、そして、同Khushaat学校が、「学習者中心の教育」(Learner-centered ApproachあるいはChild-centered Education)、つまり、「学習者一人ひとりに、個人および集団の中での経験と体験を拠り所とした考えと、発言する自由および行動の自由が与えられ、豊かな学習資料と構造化された環境の中で、彼らの学習過程の自由度を保証し、一人ひとりの知的、社会的、心的各発達の学習過程を最適化する教育」を合言葉に、献身的で緊密な連携および協力のもとに企画され編集された大きな成果の一つである。プロジェクトの日本側支援担当者の一人として、こうした方々が示されている建設的で絶え間ないご努力に、深く頭が下がる思いである。
IT教育は、1960年代から世界各国各地で、実験的に、あるいは、実践的に、進められて来て、大きな成果が蓄積されている。そして、今日、IT教育は、ユネスコが2005年1月以来10ケ年計画として推進するESD(Education for Sustainable Development、「持続可能な開発のための教育」)の中核を担う。一方、これに先立ち、ユネスコは、「Delorsレポート」として知られる報告書「Learning: The Treasure Within」(21世紀教育国際委員会編、1996年、ユネスコ)を出版している。そこでは、21世紀における教育の指針を取りまとめており、ユネスコ加盟国を問わず世界の国々に、「学習の4本柱」(The Four Pillars of Education)を、教育を再構築するための基本的な柱と位置づけることを、期待している。「知ること」「為すこと」「共に生きること」の3本柱とそこから必然的に導き出される第4の柱「人として生きること」である。従来の教育、特に学校教育においては第1の柱を極めて重視し、ついで第2の柱を、そして、第3、第4の柱は前2者の当然の帰結か、あるいは偶然の産物と考えていた。そこで、報告書では4本柱を同時に重視しながらそれぞれが多くの接点をもち、かつ相互に交差して不可分の一体を成すことが強調されている。
教育は個人の全面的な発達に寄与すべきことが基本原則である。IT教育であろうとも、それが教育である限り、精神、肉体、知性、感性、美的感覚、責任感、倫理観等にわたって、生涯学習社会を視野に入れた子どもの発達に、重点が置かれなければならない。また、先行き不透明でグローバル化し、デジタル化および映像化し、多様化する価値観を共有する、質の向上が求められる競争化する社会の中で、国際的な視野に立っていながらも、国や地域あるいは学校の「宝」の数々を守り発展させ語り継ぐ、特色ある、他とは一味も二味も違った、地球市民としての子どもが誇りに思える学習と教育が求められている。
本書は、実験校の教員のみならず、他の学校の教員、市民、父兄を含む家族など、教育の質の向上を求めるすべての方々に活用されることによって、モンゴル国のIT教育をいっそう活性化し、その改善と持続的な発展を推進する原動力となる。
本書は、こうした期待に十分に応えられる構成と内容となっていると確信している。
最後に、本プロジェクトの形成と推進に当たってこられている(株)コーエー総合研究所、東京学芸大学、モンゴル国教育文化省の関係諸氏には、今後のいっそうのご支援とご理解をいただきたいことを記し、初版刊行に当たってのお礼とお祝いの言葉としたい。
2007年1月
東京学芸大学教授
篠原 文陽児