山本麻鈴

主観的ジェンダー・コンフリクト低減のための自己定位方略の研究

山本麻鈴
(心理臨床 N99-6139)
key words:ジェンダー・コンフリクト、自己定位動機、性役割態度

【問題と目的】
 高度経済成長期を迎え、先進国の仲間入りをした我が国では、男性と女性の役割の多様化が見られるようになった。しかし、経済的な発展を受けて法律上の男女平等を制定した先進国の中でも、依然として伝統的な性による役割基準は存続しており、それと結びついた性のステレオタイプが存在していることが、多くの研究者によって明らかになっている(Ferenberger,S.,1948:Komarovsky,M.,1950:Sherriffs,A.C.&Jarrett,R.F.,1953:McKee,J.P.&Sherriffs,A.C.,1957:多田,1974)。個人の主義主張に関わらず「社会」から押しつけられることの多い「男らしさ」「女らしさ」に代表されるこれらの伝統的な性役割基準は、性差別を引き起こしかねない。
 確かに、現実には伝統的な性役割基準によって性差別を受けていると実感している人々は少ないようである。「自我は一般化された他者としての役割取得にしたがって相互作用の中で発生・確立する」とするMead,G.H.(1934)に従うのであれば、これら伝統的な性役割基準を元にした社会で成長した人々の中に、既存の性役割基準に違和感がない人が多いのも頷ける。既存の性役割基準に違和感がない人々の構築する社会は、次世代にも同様に伝統的な性役割基準を無意識に要求し、連鎖していくと考えられる。
 だが、一方で伝統的な性役割基準から逸していることで、違和感だけでなく精神的苦痛を感じる人々も確実に存在している。性役割観における葛藤、すなわちジェンダー・コンフリクトを抱える人々は、ジェンダーに関する研究が進み、名称をつけられ定義づけられることで、その存在を認められてきた。学術的に存在を認められても、この社会の中で依然マイノリティ集団に属する彼らは、マイノリティであるがゆえに、社会と共存するためにはマジョリティと異なる適応方略を選択し、対応を選ばざるを得ないのではないだろうか。性役割態度の違いも個性と捉えるのであれば、マジョリティ、マイノリティに関わらず、自然体で生活出来るようにすることこそが、本当の意味で自由な社会なのだと考える。
 マイノリティ集団、マジョリティ集団に属する人々の性役割態度への対応を比較、検討することで、個性重視の社会構築への問題提起が出来るものと考える。
【研究方法】
 方法:インターネットによる質問紙調査法
 尺度@:ジェンダー・コンフリクト尺度(山本,2002)
 予備調査の結果より作成した尺度。ジェンダー・コンフリクトを感じやすいと思われる項目(服装、髪型、ことばづかい、就職したい職業、性的志向(恋愛対象となる性別の傾向)、性自認(自己認識した性別)、結婚に求めるもの、家事への好悪)8項目それぞれに対して、どの程度ジェンダー・コンフリクトを感じるか7段階で評定してもらう。
 尺度A:性役割態度対応尺度(山本,2002)
 予備調査の結果より作成した尺度。マジョリティ集団へ再定位(定位)、マイノリティ肯定(匿名条件)、マイノリティ肯定(積極条件)、マジョリティの再定位、反保守的性役割観の5因子を想定。それぞれの項目について、自分にどの程度あてはまるか5段階で評定してもらう。
【分析】
 尺度@の結果を得点化して三群に分け、高得点群をジェンダー・コンフリクト群、低得点群を非ジェンダー・コンフリクト群として、尺度Aの結果との相関関係を見る。この際に、8項目全ての結果を加算したものと、各項目ごとに出した点数とで分けて分析する。
【仮説】
@   非ジェンダー・コンフリクト群は、マジョリティ集団への再定位/定位との相関が高く、その他の項目との相関、特に反保守的性役割観とは低いだろう。
A   ジェンダー・コンフリクト群は、マジョリティの再定位との相関が低く、反保守的性役割観が高く、その他の項目についてはそれぞれ自己定位の方略が異なるだろう。
B   性自認、また一部の性的志向を主とするジェンダー・コンフリクト群は、その他の群と比較してマイノリティ肯定(匿名、積極)との相関が高いだろう。
【今後の課題】
 予備調査として学芸大生63名(男性21名、女性42名)を対象に質問紙調査を行った結果を元に追加、修正して作成した質問紙調査を本調査として、9月から10月にかけてインターネット上で行う。



(YAMAMOTO marin)

 

 

 

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