ノート
スライド ショー
アウトライン
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裁判員制における
異質性の融和に向けて:
専門家と非専門家の融和と断裂
  • 東京学芸大学教育学部心理学科
  • 杉森 伸吉
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ジフ(ZIPF)構造型の専門化社会からフラット化社会へ
  • ジフ構造とは、元の能力が正規分布していても、positive feedbackにより、きわめてパフォーマンスが高い、ごく少規模のエリート(専門家)集団と、パフォーマンスが低い、一般大衆の大規模集団に分化した構造を指す。
  • フラット化社会とは、こうした分化の 度合いが薄まった社会を指す。
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専門化社会の功罪
  • メリットは、教育コストが少なくて済み、効率的であること。高度な機能分化が、 社会のスピーディーな成長を 支えてきた。
  • デメリットは、部局化が進むことで、 部局間のディスコミュニケーションが増大すること。柳田邦男(2000)は、 こうした日本社会に 共通する問題点を指し「専門化社会のブラックホール」と呼んでいる。
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 専門化社会のブラックホール
(柳田邦男:朝日新聞2000.6.8夕刊)
  • 自分の専門をこなしていれば、社会貢献になるという、視野狭窄
  • 権威や権力を振りかざす
  • 自己防衛、自己利益追求の優先
  • 生身の人間への配慮が希薄化        ……これらの問題点を乗り越えるため、利害関係の当事者である一般市民の主体性・発言力の発揚が重要
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コミュニケーションの変容: 一方向型から双方向型へ
  • 社会の諸領域で、一方向型から、  対等な関係を 前提とした双方向型のコミュニケーションへの移行が見られる(主体性の発揚?)。        *大学:教育労働のサービス業化  *医療:インフォームド・コンセント*製造:製造物責任法       そして……            *法曹界:司法改革→裁判員制導入へ
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医療場面のコミュニケーション
  • 従来は、「先生にお任せします」「すべて私に任せなさい」というパタンが主流
  • 昨今は、「医師も医療過誤を起こす」 という観点に立ち、インフォームド・コンセントが重視される(訴訟回避・保身)
  • 本当に重要なのは、「この医師にはすべて任せられる」という信頼感の確立。
  • e.g.「歯を診て人を見ず」の訴訟リスク
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 官僚・政治家と市民の
 コミュニケーション
  • 親 ー 子型モデル
  •  「お上に任せておけば、何もしなくてもうまくやってくれるはず」という前提があり、いったん事故が起きるとパニックになる。そのとき、政治家は泣く子を黙らせるように、パニック沈静化に専念。 より対等で、問題解決志向のコミュニケーションへの変容が必要。
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心理学的方法論の長所・短所
  • 調査法は短時間で大量のデータを 収集可能。実際の行動とは違う反応バイアスもあり得る(言行不一致)。
  • 観察法は生態が分かるが因果関係は不明。非顕現的観察法もある。
  • 実験法は実際の行動の因果性が分かる。データ収集の労力が必要。  結果の一般化に慎重さが必要。
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裁判員・裁判官への教育
  • 裁判員への教育:短期的・長期的視点裁判員が自信を持って議論できること短期的:事前教育とオン・ディマンドの教育(法と心理学会員のサポート)  長期的:総合的学習の時間などを利用した、小学生からの司法・人権の教育
  • 裁判官への教育:            カウンセリング・マインドの育成     わかりやすい言葉の使用        裁判員からの評価システムの導入
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成員異質性が大きいことの効果
  • メリット:・意見の偏り減少
  • ・複雑な課題に対応しやすい
  • ・状況の変化に対応しやすい
  • ・利用可能な外部人脈が増加
  • デメリット:一人あたりの発話が減少
  • ・疎外される人間の欲求不満
  • ・会話が打ち解けずに形式化
  • ・成員間の誤解・葛藤の増加
  • ・派閥化の促進
  • 発話できない意見を共有する工夫必要
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集団サイズ増大の効果
  • メリット: ・呈示される論点の増大         (大数の法則)
  •  ・集団エネルギーの増大など
  • デメリット:
  • ・少数支配の法則
  • ・凝集性、モラールの低下
  • ・争点の合意を得にくい
  • ただし、G.D.では10人程度は小集団
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集団サイズと異質性の効果

  •        直接効果        間接効果
  •            仕事関係・集団生存力 サイズ・異質   促進効果         性の増加    抑制効果                   人間関係・個人生存力
  •  集団サイズの増加は、直接的には仕事面にメリット、人間関係面にデメリット。 人間関係が必ず悪化という訳ではない
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異質性のデメリットを回避する
  • 裁判官は、専門用語による円滑なコミュニケーションを期待してはいけない。
  • 裁判官は、つねに裁判員が理解できるように話すことに努力を払う
  • 裁判員は、不明な点について質問することで、話の流れを止めることを恐れない。
  • 両者は互いの相違点や未熟な点について理解し、寛容さを心がける
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論点の偏りを避けるために
  • 共有認知の優位性現象(CKE)
  •  集団サイズが大きいほど、多くの成員が共有した情報に話題が偏りがち。
  • ……正確な判断が阻害される可能性
  •    核心司法を補強する工夫が必要
  • この問題点を克服するには……
  •  各人が論点を書いたメモを各討議の事前に交換する。随時メモを更新。
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裁判員数と裁判官数
  • 全体のサイズは、10人前後
  • ただし、適宜効果的にメモを使用するなどし、特定の論点に偏ったり、発言しにくい個人ができる問題を抑制する。発話の系列性をメモの並列性で補完。
  • 裁判官から裁判員への同調圧力を 弱めるために、「裁判官1:裁判員3」程度の比率は確保するのが望ましい
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法律用語と日常用語
  • 一般に、学術用語は訳語が多く、  日常語とは乖離している。法曹家は、こうした乖離を埋める努力が必要
  • また、法学的な推論形式も、大多数の人には、なじみがない。
  • 言語・理性中心主義と、感性・情況 中心主義(一休さん事件)
  • 多くの裁判員や法曹家から見て、  悪法であれば、積極的に改正可能化
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系統的な予行演習の必要性
  • 裁判員制の導入は、「国民のための司法」が大目的である。より開かれた議論が必要。
  • 規範論を裏付ける実証データの収集が必要。心理学的には、法服着用や裁判官の在・不在、質問に対する裁判官の答え方、というミクロな要因も、強い効果を持ちうると予測できる。