第2話:「養成」から見た介護問題(2023.7)
東京学芸大学は、学校の先生の養成をしていますが、「養成」を考えることは、とても大事なことだと思います。優れた先生は、優れた養成教育から生まれてくるからです。これは前回の夏目漱石の考えにも通じます。
介護問題でも同じです。介護を担うプロは介護福祉士と呼ばれる人たちですが、大学や専門学校などの様々な養成施設で教育を受けた後、介護の専門家として旅立っていきます。 その介護福祉士の養成現場を考察したのが、阿部 敦 著『変革期における介護福祉士養成教育の現状』(2021年弊社刊、1,980円)です。
この本の中で、阿部氏は介護福祉士の養成のための教科書に注目しています。
たとえば、『最新 介護の基本Ⅰ』(2019)の72頁と、『最新 介護の基本Ⅱ』(2019)の4頁には、「私」の部分にルビが認められる。ちなみに、「私」という漢字は、2020年度学習指導要領準拠では、小学校6年生で学ぶ漢字である。(本書22頁)
介護福祉士養成のための教科書では、ルビがふられている漢字が増えているといいます。この教科書で学ぶ人たちが、小学校レベルの漢字も読めない可能性を想定しているためですが、そこにはいろいろな理由があるようです。介護にどの程度、漢字の読み書きが必要なのかは別に議論をする必要がありますが、いずれにしても日本の社会の大きな変動を示す一つの顕れだと思います。
介護それ自体はもちろん重要な問題ですが、同時にそこには現在の日本社会のもつ諸課題が現れていることを、本書はよく示しています。著者は最近新たな1冊を出しています(阿部 敦著『今、日本の介護を考える』2023年弊社刊、2,420円)。併せて読むと、介護のもつ根深い問題と、現代日本社会の混迷がよくわかります。こうした難問を乗り越えるためには、より具体的に考えることが必要だと思いますが、本書のように介護福祉士の「養成」について考えるというのも、その一つの方法だと思います。
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