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1967年、小学校1年生だった高橋雅栄さんは、渋谷区恵比寿に暮らしていました。ひとつの敷地にふたつの住宅。家族親族が総勢12人です。母屋には祖父母と叔父、離れには高橋さん家族と、上京してきた親戚の青年3人が下宿し、食卓はいつも大にぎわい。母は毎日みなのお世話でてんてこ舞いでしたが、叔父におかっぱの前髪を切ってもらい、祖父と祖母にかわいがられました。樹齢百年を越すと言われる桜の木に見守られ、みんなでわいわい暮らす。この「おばあちゃんち」の原風景が、30年後、高橋さんの子ども支援活動で繰り返し出てくることになるのです。

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高橋さんは、流行と季節を先取りし、時勢を動かすファッション業界に就職しました。つねに自分が震源地となって世の中の動きを作リ出そうと日々を駆け抜けて結婚し、出産します。お産を通じて「自分たちは自然とともに動いていく、生きものなんだなあ」と実感しました。けれども、小金井市に移り住み地域社会の住人となった高橋さんにとって、育児の現場は「なにそれ!?」の世界。経済至上主義の男性社会と都市化の影で、シャドウワークをただただ受け容れるばかりの母親と子どもが街に孤立していました。支援が必要なのは働く母ばかりではない。高橋さんは確信します。

親から子へと代々引き継がれてきた「子育てという文化」。それは、多様な人々がひとところに集まるコミュニティでこそ伝わっていくはず。みんなの居場所「おばあちゃんち」を地域に再建しようと、高橋さんは市の施設・西之台会館に足を運びます。けれども、和室を貸してほしいというと、職員は渋い顔でした。当時の会館は、高齢者層の囲碁将棋の会に用いられていたのです。高橋さんは女性市会議員とともに市役所を訪れ、空き時間の和室を乳幼児親子のために使用したい旨、さっくり話を通します。野川のほとりの広々とした和室に親子が集まってきました。「野川ママの会」のはじまりです。

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2004年、活動を耳にした篤志家が、東町1丁目の居宅の1階部分を提供してくれることになりました。念願の常設が実現し、月1回だった活動が週4回となります。ゆかりの故人にちなんでこの場所を「@SACHI」と呼び、子育ての集いを続けました。このころ、小金井には特徴的な市民主体の動きが見られます。「子育てサロン」と呼ばれる支援活動が群雄割拠していたといいます。緑町「緑児童館で遊ぼう」、貫井南町「てんてこまい」、貫井北町学芸大「ホッとひろば」、前原町「野川ママの会」、そしてこの東町「まんまの会」「@SACHI」。市内5カ所に涌き水のように現れた活発な子ども支援活動は、学術研究者にも注目されました。

その年の1月6日、小金井市貫井北町に小金井市の施設・子ども家庭支援センター「ゆりかご」もオープンします。親子が新築の支援センターに次々と足を運ぶなか、高橋さんは「支援サービス」ということばがどうも腑に落ちずにいました。提供者と受益者の二極化された構図では、受益者が提供者となって子育てを伝承していく流れは起きにくいでしょう。「私なら、お母さんをお客さんにしない」。高橋さんは、支えられた人が支える人へと変わっていく循環こそが「子育て文化の伝承」につながると考え、あえて住宅を舞台に、当事者性を大切にした活動を続けます。

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2006年、高橋さんは、子育て支援活動をすることを前提に、前原3丁目に5LDKの自宅を借りました。小金井には、関東ローム層の影響で、南と北の交通を分断する急な勾配の坂があり、車を持たない親子には南北の移動は困難でした。子育て支援センターまでの坂を登れない南の親子のために、高橋さんは坂下の自宅を住みびらきし、「@SACHI」を続けます。このころの活動を知る母のひとり、カナヤさんは、こう話してくれました。

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「子育て支援センターは私のうちからは遠かったんです。初めて会う親同士が、子どもの一挙一動に『ごめんなさい、ごめんなさい』と謝り合う、過ぎた気遣いも苦手でした。でも、@SACHIはアットホームで居心地がよかった。曜日ごとにクッキングやパッチワークなどの共通のテーマがあり、親どうしも顔なじみになりました。そのうち、こういうこと、私もやりたいと思うようになりました。」(カナヤさん)

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カナヤさんは0歳と2歳のふたりのお子さんを抱え、高橋さんに教えてもらいながら、支える側としての活動を始めました。手芸家と一緒にフェルトの名札を作る会、アロマで虫除けスプレーを作る会、看護師を招いた産後相談の会……。カナヤさんはそれから10年間にわたり@ SACHIで支援活動を続けてきました。子ども支援活動を通じて、支えられた人が支える人へと循環していきます。

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丈夫で長持ち。しっかり刺してあるからへたりません。2006年ごろ、イラストレーターを志す14歳の中学生がデザインしてくれた絵柄で、以降「@SACHI」のシンボルマークとなっています。フェルト材料にパーツに切りわけ、集まった親子が縫いました。よく見るとひとつひとつ、顔が違います。

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活動拠点は、いつも畳の部屋。
「おさんぽカフェ」はこの後、さまざまなブースが一同に会し、多様な人々が同時に集う「フェスタ」スタイルへと形をかえながら、小金井の地に根付いていきました。ネイル、マッサージなどのワンコイン施術をできる親が、子どもの手をひいて次々と現れ、ブース出展を申し出ました。子連れで仕事ができるのも喜びのひとつです。

人形劇、マッサージ、ネイル……。高橋さんはこうした得意技を持つ個性豊かな仲間を、人気漫画「ワンピース」の仲間「ナミ」や「チョッパー」に喩えます。圧倒的な力で支配するリーダーに従う手下になるのではなく、「ひとりひとりの能力を発揮した結果、世界一の海賊になるんです」。子育ては七つの海。親子は海賊仲間。活動拠点の畳の部屋は、いわば船でした。

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10年間の活動で見つめた親子の自己解決方法を一冊に編み、2007年10月には出版活動も手がけました。けれども高橋さんは活動に来られない親子こそ、支えが必要なのではないかと案じ、2008年には新たな活動を始めます。「ホームスタート」。イギリスに発祥し、世界22カ国に広まった家庭訪問型の支援活動です。小金井市とともに家庭訪問型支援を行うため、高橋さんは2014年、NPO法人ファミリーステーション・SACHIを立ち上げました。「ホームスタート」では個々の家庭のニーズ調査を丁寧に行いますが、質問項目は世界共通でした。「子育ての悩みは世界のどこもそうは変わらない」。日本から世界へ、高橋さんの子育て支援の視野は広がります。

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代表者近影。
高橋雅栄。まるちゃん。
小金井在住歴20年。ファッション業界を経て子育て支援活動へ。

「バブル経済の崩壊を目の当たりにしました。経済的な発展だけが幸せだったでしょうか? 地域は大事な私たちの場所。子どもと共存し、自立できる第3の道があるはず」
「あたしは、おしゃれじゃないことがキライなの!」

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1997年西之台会館で野川ママの会として月1回の活動開始。
2004年以降、@SACHIとして東町1丁目や前原3丁目の住宅で常設展開。
2009年ホームスタート開始、のちにNPO法人ファミリーステーション・SACHI設立。

小金井市前原町3-8-1西之台会館和室A「おさんぽカフェ」(毎月第3水曜10:00-13:30)
ホームスタート・りぼん 080-5008-5977(オーガナイザー直通) / MAIL:nogawa-masae@ezweb.ne.jp
書籍『紙とえんぴつで「わたしの子育て」に自信がつく本〜子育てサロンのリアルな知恵』高橋雅栄著

NPO法人ファミリーステーション・SACHI
http://www.sachimama.jp/

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