球電[1-3]とは、大気中における非常に稀な発光現象です。その複雑で奇妙な動きや性質について数多くの目撃証拠例や物理的分析結果などが集めら
れています。球電の成因については、大気中での電磁波干渉説[4]、電磁流体力学説[5]、強落雷の印加磁場説[6]、強落雷時のエアロゲル生成説[7]
など、多くの説が提唱され、何十年にもわたって活発に研究が行われてきました。その中でも、大気中での電磁波干渉説に基づく我々のプラズマ生成実験[4]
は、最も数多くの目撃事実を説明することができます。そこで最近の我々の研究では、このプラズマ生成が電磁波の局在によるものなのか、また、発生したプラ
ズマが目撃事実と同様な複雑な動きをするのは、局在とどのような関係があるのかを、実験、数値シミュレーションにより明らかすることを試みています。
球電は地球上で生じる自然現象ですが、プラズマ物理学や地球物理学のみならず多くの研究分野がからんできます。たとえば我々の研究では以下のようなバック
グラウンドがあります。C.T.R.Wilsonによって構築された雷雲モデルをベースにP.L.Kapitzaが球電は雷雲−大地間における電磁波の定
在波干渉の結果であるという指摘をしました[8]。しかしながらKapitzaが指摘する干渉程度では大気はプラズマ化しません。そこで波の多重散乱で強
い強度を局所的に生じることをさせる現象であるアンダーソン局在(もちろんAndersonは物性物理学における電子の波について言及しているのですが、
これが後の電磁波の局在の研究に影響は及ぼしているのは明らかでしょう)が寄与している可能性が高いことが近年分かってきました。
球電に起因する事故は世界中各地で報告されています。例えば近年日本ではJTAの航空機が新島付近の上空を飛行中、球電の発生により急激な操縦操作を余儀
なくされ、負傷事故を生じさせました[11]。また、球電発生はなかったが電磁波の局在が原因と思われる火災もありました[12]。これゆえ、本研究の進
展は学術的だけでなく社会的意義も極めて大きいと思われます。
[1] スミルノフら: 火
の玉の科学、丸善(1994)
[2] Science
of Ball Lightning (Fire Ball), Ed.Y.H.Ohtsuki, Word Scientific,
Singapore (1988)
[3]電気工学ハンドブック,p.502(「球雷」)電気学会,オーム社(2001)あるいは,気象の事典,p.218(「球電」),平凡社(1985)
[4] Y.H.Ohtsuki and H.Ofuruton, Plasma fireballs formed by microwave
interference in air, Nature, 350, 139-141(1991)
[5] R.Kaiser and D.Lortz, Ball lightning as an example of a
magnetohydrodynamic
equilibrium, Phys.Rev.E, 52, 3034-3044 (1995)
[6] A.F.Ranada and J.L.Trueba, Ball lightning an electromagnetic knot
?, Nature, 383, 32(1996)
[7] J.Abrahamson and J.Dinniss, Ball lightning caused by oxidation
of nanoparticle networks from normal lightning strikes on soil, Nature,
403, 519-521(2000)
[8] P.L Kapitza, (in Russian),Dokl.Nauk.Akad101, 245-248 (1955); On
the nature of ball lightning, English, translation: "Collected Papers
of
Kapitza", Vol.2, ed. D.Ter Haar, Pergamon
[9] M. Kamogawa, H. Tanaka, H. Ofuruton, and Y.H. Ohtsuki, Possibility
of microwave localization to produce a plasma experimental fireball,
Proc.
of Japan Acad. 75B, 275-280 (1999)
[10] A.V. Lavrinenko, S.V. Zhukovsky, K.S. Sandomirski, and S.V.
Gaponenko,
Propagation of classical waves in nonperiodic media: Scaling properties
of an optical Cantor filter, Phys. Rev. E, 65, 33621 (2002)
[11] 航空技術No.541,47(2000)
[12] 朝日新聞2000年3月15日(大阪地方裁判所判決)
H.
Ofuruton, N.
Kondo, M. Kamogawa, M. Aoki and Y-H. Ohtsuki, Experimental conditions
for ball lightning creation by using air-gap
discharge embedded in a microwave Field, J. Geophys. Res., 106, D12,
12367-12370 (2001)
球電の写真と思われるもの(黒姫にて撮影)
Ohtsuki & Ofuruton (1991)の実験で作られたプラズマ球