〔概要〕 アメリカの南北戦争に従軍した日本人を追究した本書では、その可能性がある人物像として漂流者や密航者、そして使節団からの脱落者を挙げた。本書ではまた、南北戦争におけるマイノリティをめぐる問題の参照軸として、中国人兵士をはじめとするアジア太平洋系移民兵士の存在に光を当てた。検証対象とした史料は、従軍史料に加えて、アメリカ・センサスの調査票、死亡記録、帰化申請記録、新聞記事等々である。これらの史料を通じて、日本史とアメリカ史を名もなき人々を通じてつなぎ、環太平洋の移民・移住史を包括的に描いた。
中原伸之賞は、「日本、アメリカ、あるいは世界のアメリカ研究の水準を高めることに貢献できる、深い知見と新しい視座を提供する特に優れた研究書に贈られる」ものです。地道な実証研究である拙著に対してこのように名誉ある賞が与えられ、身が引き締まる思いです。アメリカ・センサスの迷宮から出ることがまだまだ出来そうにもありません。
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岩波新書〈シリーズ アメリカ合衆国史〉合評会第2回『南北戦争の時代 19世紀』
【著者】貴堂 嘉之(一橋大学大学院社会学研究科教授)
【評者】菅 美弥(東京学芸大学教育学部教授)
【司会】松原 宏之(立教大学文学部教授、アメリカ研究所所長)
【日時】2021年6月12日(土)15:00~16:30
【主催】立教大学アメリカ研究所
【共催】上智大学アメリカ・カナダ研究所、同志社大学アメリカ研究所、南山大学アメリカ研究センター
〔概要〕 アメリカ合衆国のセンサスは、建国後まもなく1790年から始まり、2020年4月1日、「センサス・デー」を通じて第24回センサスが進行中であることが周知された。本書『アメリカ・センサスと「人種」をめぐる境界―個票にみるマイノリティへの調査実態の歴史―』(勁草書房、2020年)は1790年から1890年第11回センサスまでの100年間を対象として、マイノリティへの調査の実態と「人種」分類をめぐるアメリカ・センサスのポリティクスを通史的かつ包括的にとらえる試みである。センサスの「肌の色」、後の「人種」分類の変遷と、「その他」としてひとくくりにされる人々と、公式な分類名がない状況下でのマイノリティへの調査の実態について、膨大な調査票(個票)を史料として検証した。
2010年のセンサスでみると、全米人口は3億874万名強、そのうち「黒人」は12.6%、「アジア系」は4.8%を占めていたほか、「人種」とは異なるエスニック集団としての「ヒスパニック又はラティーノ」人口は16.3%を占めるまでになり、その規模は重みを増した。センサスでは「非ヒスパニック白人」以外の集団が「マイノリティ」と定義されている。2010年センサスでは黒人や先住民にヒスパニックを加えた「マイノリティ」は、全米人口の3分の1以上を占めるようになった。
2020年4月、ニューヨーク州などで黒人やヒスパニック等の「マイノリティ」が人口比よりも新型コロナウイルスによる入院・死亡率が高いことに注目が集まったが、こうしたアメリカ社会の構造的な問題を浮き彫りにするのも、センサスの人種・エスニック別、職業別、教育程度別等のデータである。「マイノリティ」のうち、2000年から2010年までの増加率が43.3%と最も高いのが「アジア系」、次が「ヒスパニック」の43.0%であったが、「非ヒスパニック白人」が半数を切る(数的な意味でマジョリティではなくなる)ことをセンサスが明らかにするのはいつだろうか?2050年までにはそれは必至と予想されているが、そのスピードが予想よりも早いかどうかを占う意味でも2020年センサスへの注目度は大きい。この未曽有の事態のなか、2020年センサスの結果を通じて、アメリカの人種・エスニック状況を我々が確認するまでには、想定をはるかに超えた時間がかかりそうである。
[学部]
英語応用ⅠⅡ、多文化共生地域論演習B、アメリカの歴史基礎演習、欧米歴史論 、教職実践演習(小・中・高)
[大学院修士課程]
地域文化(アメリカ)
Global Citizenship and Education (Omnibus)
Global Education from Intercultural/Interdisciplinary perspective (Co-teaching)
[大学院博士課程]
西洋史研究3 アメリカ移民・移住史
[2005年4月]東京学芸大学教育学部助教授 (地域研究)
[2007年4月]東京学芸大学教育学部准教授 (地域研究)
[2017年4月]東京学芸大学教育学部教授 (地域研究)(現在に至る)
[2020年4月]東京学芸大学 大学院連合学校教育学研究科 担当(現在に至る)
[2020年4月~]現在東京学芸大学学長補佐