事件の後、各地の小中学校に刺叉が配備されているようです。でも、あれは本当に役に立つのでしょうか?
ちなみに刺叉とは、江戸時代の捕物(被疑者確保)に際して用いられた用具の一種です。長い棒の先端に、半径20センチほどのU字形の金具がついていて、この金具で相手の首や胴体を押さえつけて被疑者を取り押さえます。最近では、被疑者を負傷させることのないよう、金具にゴムをかぶせてあるものもあるようです。嗚呼、加害者の人権。
テレビのニュースなどでは、教員がおずおずと刺叉をかまえて「犯人(役)」に向かってゆく様が伝えられています。しかし、U字形の金具で相手を押さえつけるためには、相手を壁に押しつけなければなりません。当然、相手に向かって猛烈な勢いで突進しなければならないでしょう。使いこなすにはかなりの体力が必要です。そして、おそらくは職員室に保管されるであろう刺叉を持って、屈強な教員が駆けつけるまでの数十秒間、各教室の教員は依然としてたった一人で凶漢と対峙しなければなりません。しかも、職員室周辺に屈強な教員が居合わせなかったら、刺叉は無用の長物となります。
その上、学校建築の内部では、壁に向かってまっすぐ突進できることは稀です。何しろ教室には机やイスが置いてあります。整頓された机の間を行儀よく突っ走る以外に突進する方法はありません。凶漢が乱入した教室で、机やイスが整然と並んでいるとは考えられません。また、廊下の幅は狭く、壁に向かって突進するには刺叉の柄は長すぎます。廊下の端から端まで、モップがけでもするように突っ走らなければならないかもしれません。
武装した乱入者を制圧することは、おそらく教員の公的な職務の範囲を越えています。しかし、教員が教え子を放置して逃げることは、社会的にも教員文化的にも容認されにくいことです。つまり、世間の非難を受けるだけでなく、教員自身も長く自分を責め続けることになります。そうなりたくないならば、刺叉の配備のいかんにかかわらず、少なくとも数十秒間は一人で凶漢の相手をする覚悟と用意をしておくことが必要です。刺叉の配備で個々の教員が安心してしまうならば、その配備は逆効果だと言わざるを得ません。
追記2(02.1.15)
後日、刺叉業者の方から連絡を頂戴しました。確かに従来の刺叉は扱いづらく、奪い取られたら危険でさえあると認めてくださった上で、新製品を紹介してくださいました。
新製品の改良点は下記のとおりです。
関係各位の日々の研究に敬意を表します。HPを拝見して驚嘆の声をあげました。なるほどこれは使いやすそうです。私が警察官なら私費で購入して交番やパトカーに常備したいところです。もちろん、仲間内で怠りなく実習することでしょう。
しかしながら、依然として、長すぎて室内では使いにくい、という教員にとっての難点は残ったままです。というよりも、長くなければ刺叉として役に立ちません。また、木刀に関して指摘したように、大仰な武器を取り出すタイミングは、武器の操作方法と同じかそれ以上に難しいものです。
刺叉や木刀の配備のいかんにかかわらず、数十秒間は徒手空拳に近い状態で凶漢と対峙しなければならない、という点に変わりはないように思いました。