組織を割って使う

 不審者侵入に備えて体制づくりや訓練をする学校が増えているらしい。行政も推奨しているのでそれ自体はけっこうなことなのですが、その体制があくまでも平時の体制、号令一下うって一丸不審者に立ち向かう体制であるところに限界を感じます。

 先日テレビで紹介された公立小学校ならこんな感じです。

 教員を統括班(職員室から指示を出すとともに警察に通報する)、対処班(不審者と戦って時間を稼ぐ)、連絡班(対処班に同行して統括班と連絡をとる)、誘導班(児童を安全な場所に避難誘導する)、救護班(怪我人の手当)の5班に編制し、「不審者侵入」の第一報と同時に統括班の指揮の下いっせいに行動を開始。

 よく考えられています。ただし一つ条件があります。

 全教員が不審者侵入に備えて常時待機状態にあること。

 おそらく警察の指導にもとづいて作られた体制なのでしょうが、警察が想定している体制は、110番通報によって出動する警察自体のイメージをベースにしたものだと思われます。いわば「攻め」の陣形です。

 これに対して学校の不審者対策は徹頭徹尾「守り」です。

 教員が各教室に散って授業をしており、不審者に侵入された教室の担任、不審者を発見した教員がその場で「対処班」にならざるを得ない、助けを呼ぶいとまもなく不審者に立ち向かわなければならない、守る側が圧倒的に不利な、全員の練度を高めておかなければ勝ち目のない戦いです。

 そこで重要となるのが、組織を「割って」使うイメージ。古武術を中心とする身体技法研究家甲野善紀氏がみずからの身体技法を説明する時に使う「身体を割って使う」の顰みに倣ってみました。

 「身体を割って使う」とは、「スイミー」に登場するような小魚の大群が、各々の小魚たちが一斉に方向転換することで、同じサイズの一匹の大魚よりも機敏に向きを変えるイメージ、と説明されます。「中心から周辺へ」という順序性によらず、全体が一斉に目的に向かって動き出す、統括班不在でも、否、統括班不在だからこそ機敏に機能する組織が「割れた」組織です。

 具体的に言えば、侵入された教室、その両隣の教室、同じ校舎の同じ階、遠く離れた教室、職員室等々、「その時どこにいるか」に応じて臨機応変に役割分担ができるような組織です。出張もあるし、教室移動もあるし、役割を人に貼り付けてしまったら、緊急時の役には立ちません。もちろん、どの階、どの教室を担任するかによって、おのずから侵入者の第一発見者になりやすい教員もいるでしょうし、同僚の中でもとりわけ腕っ節の強い教員もいるでしょうから、おのずから各人が担う役割は二つか三つに絞られてくるでしょうが、原則的には全員がすべての役割を瞬時の判断で適切に担えるようになる必要があります。

 要はよいチームとして機能する教師集団であれ、ということなのですが。サッカーとかバスケットとか、大まかな役割分担を決めていながら各選手がきわめて自由度高く動く球技のイメージでしょうか。

 ちなみに、テレビ報道では対処班だか連絡班だかがヘルメットをかぶって出動していましたが、あれはいかがなものでしょう。学校に配備されているヘルメットは落下物防止用(工事現場用)のものなので、バットなどで頭部を狙われた時は役に立つかも知れませんが、刃物には無力です。頭部に振り下ろされるバットは、身体の前面に突き出される刃物よりいくらかよけやすいはず。時間の都合で一つしか防具を身につけられないなら、革手袋や革のチョッキなど、刃物の切れ味を止めるものを配備した方がよろしいような気がします。予算が許せば、警察でも使っている防刃ベストや防刃繊維でできた手甲を数着配備しておけば、さすまたよりも有効でしょう。ただしそれを着用した人は最前線に立たなければなりませんから、究極の貧乏クジということになりかねませんが。


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