生態

  いるわいるわ・・・どこでも珪藻

珪藻はどこにでもいる生物です。海、川、湖沼、水槽、水田といった水中はもとより、水がうっすら滲み出している湿った岩の上、コケの表面、湿り気のある畑の土の表面などにも珪藻は生活しています。また水質的には高山の雪解け水の流れのような汚れをまったく知らない水から、異臭を放つドブ川のような非常に汚れた水まで珪藻は出現します。日本にいたるところに温泉がありますが、そんなところの池や川の水はしばしば酸性です。たとえばpH1.2の草津温泉の池からも出現する珪藻の種類があります。またアフリカにあるpH11と強アルカリ性を示すナクール湖にも珪藻はいるのです。またアメリカのグレートソルトレイクは塩分濃度が海水の約3倍もありますが、そんな水にも珪藻はいる。さらに赤道直下の海にも、南氷洋や北極海の氷の下にも珪藻は出現するのです。また、海産ミジンコのに付着して生きているような種類や、クジラの体表面に付着する種類も知られています。このように、珪藻がさまざまな所で生活しているのは、ひとえに珪藻の種類数が多く、その生態的特性も多様に分化しているからなのです。

  小さいけれど大きな生物

珪藻はミクロの生物です。だからといって、その生物量をあなどってはいけません。地球規模で年間360億トンもの有機物を生産しているのです。この量は陸上植物全体が作り出す量にほぼ匹敵します。さらに、珪藻が毎日生み出す酸素の量は、全地球上の光合成生物が放出する酸素の25%にも達するのです。これらの量を考えると、珪藻は我々人類を含めた地球生態系の中で、大きな役割を演じていることがわかると思います。

  珪藻よ、なぜ繁栄する!

地球は水の惑星です。地表の70.8%は水で覆われています。陸上の場合、すべての土地に植物が生えるわけではありません。高山や砂漠には生えませんし、ツンドラ地帯や南極大陸ではほとんど陸上植物はいませんね。ところが、珪藻は水域であればどこでもOKなわけです。海藻はすべて付着生活をしています。このため海藻は沿岸の浅い海域でしか生活できません。しかし、珪藻は付着種のほか浮遊性種がいます。これも大きな強みです。大海のど真ん中や、水深数千メートルある海域でも浮遊珪藻は生きているのです。

  高速細胞増殖

珪藻の増殖速度は種によってさまざまです。大型の付着性種では遅いものでは2週間で1回しか分裂しないようなものもあります。しかし、浮遊性種は一般的に増殖速度が速いものが多いようです。これは珪藻自身が鞭毛などの運動器官を持たず、静置しておけばすべて光合成のできない暗い水深へ沈んでしまう運命を持っていることと関係があります。実際は水の中の流れのために、上方へ巻上がってくるものもあり、全部が全部下方へと沈んでいくわけではありません。そこで、もし増殖速度が高ければ、暗い水中へと沈む細胞数以上の細胞を新しく得ることができます。つまり、沈む以上に細胞数が増えれば、生存戦略上は全く問題はないわけです。1日に2回分裂をする種が知られています。また、培養では1日に3回分裂させた例もあるようです。

  効率の良い栄養とCO2取り込み

珪藻細胞は他の単細胞性の藻類と異なり、球形や楕円球の形をとらずに、複数の面からなる、カドのある形をとっています。これにより、体積あたりの表面積を大きくとることができます。このことは、粘土でボールを作った後、そのボールを手のひらで押して平たくしてみることを考えれば、簡単に理解できると思います。平たく伸した粘土は、グニャリとしてしまいますが、珪藻はガラスのような硬い被殻をもっているので、形を保つことができます。実際、珪藻には細長い種類や平べったい種類がかなり多くあります(付着珪藻ではこの傾向はより高いものとなります)。体積に対する表面積の比が大きくなると、単位原形質あたりに供給する無機塩類などの栄養とCO2値は高くなるので珪藻の形は生存戦略上とても有利です。さらに、珪藻はどの種類も大きな液胞をもつため、核のある中央部を除き、原形質は被殻の内側にへばりついたように配置しています。つまり、被殻の内部は原形質で一杯に満たされていないのです。このことも、細胞における原形質の単位体積あたりに供給される栄養とガスの量を増加させるため、生存戦略上有利に働いているといえるでしょう。

  効率の高い光合成

2000年に米国Reinfelderらは英国の科学雑誌Nature誌上で、珪藻のタラシオシラ・ワイスフロッギー Thalassiosira weissflogii がC4光合成を行っている証拠を報告しました。C4光合成は陸上植物ではトウモロコシなどでお馴染みのフォスフォエノールピルビン酸カルボキシラーゼ (PEPカルボキシラーゼ)経由でRubiscoが炭素を受け取り暗反応が進む光合成で、Rubiscoだけで炭酸固定をおこなうC3光合成よりも効率の良いことが知られています。珪藻のRubisco のCO2半飽和定数 30-60μMですが、海水にとけ込んでいるCO2は10μM程度ですので、珪藻はいつもCO2欠乏状体になっていて、元来もっているRubiscoの能力を目一杯使えていない可能性がありました。ところが中心珪藻のThalassiosila weissflogiiのPEPカルボキシラーゼの生化学的な活性特性と細胞の増殖試験から、この種がC4光合成を行っていることがわかりました。

珪藻は中生代白亜紀以降に登場する、生物進化の歴史の中では比較的新しい生物です。珪藻は生存戦略として、さまざまな最新メカを細胞に搭載した生物といえるのではないでしょうか。

  珪藻の生態学的研究

さまざまなことについて研究が行われています。群落構成、群落の形成過程、季節的消長、生産力のほか、赤潮問題に関する増殖の研究、休眠胞子の研究、海域の湧昇流中における増殖やアイスアルジーとしての生態学的動態などテーマはつきません。ここでは、淡水域の珪藻における水質とのかかわり合い、特に河川の水質汚濁との関係について述べることにしましょう。

  指標生物としての珪藻

珪藻の環境に対する特性は、20世紀に入ってから諸要因に対して調べられてきています。塩分に対する特性は1927年コルベ (R. W. Kolbe) によってハロビオンシステムとして研究が始められました。これは水の塩分濃度によりそこに出現する珪藻をグルーピングしたもので、彼はそれを大きく真塩性、中塩性、貧塩性種の3つに分け、さらに貧塩性を好塩性、嫌塩性、不定性種に細分化しました。

水素イオン濃度に対する特性は測定が簡単なことから比較的昔から行われてきました。近代珪藻学の大御所フステット (F. Hustedt) はドイツ・オーストリアのスンダ列島陸水探検隊の採集品を調査し、1939年にpHに対する珪藻の性質を真アルカリ性、好アルカリ性、不定性、好酸性、真酸性の5つに分けました。

 

真アルカリ性

 Alkalibionte

pH7以上の水域に生育する

好アルカリ性

 Alkaliphile

pHほぼ7の水域に生育するが、多くは7以上の水域に出現する

不 定 性

 Indifferente

pH7付近の水域に出現する

好 酸 性

 Acidophile

pHほぼ7の水域に出現するが 、多くは7以下の水域に出現する

真 酸 性

 Acidobionte

pH7以下の水域に生育し、最適出現水域は5.5以下である

また、チョルノキー (B. J. Cholnoky) は1968年の著書『陸水における珪藻の生態学』の中で、溶存酸素に対する珪藻種のグルーピングや、窒素従属栄養種の考えなどを示しています。

 

  水質汚濁の指標生物としての珪藻

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