中国文明を読む 国家形成をめぐる協奏
【概要】
国家って、なんだろう?!
紀元前3500年頃から紀元前200年頃という長い時空に、さまざまな文化・文明が生まれ、いくつもの国家の萌芽が仮定される中国。本書は、中国文明史における国家の形成という遠大な設問に挑む歴史学者の冒険譚である。
【目次】
はじめに
1 本書の問いについて
2 本書の構成について
3 本書の使用する史資料
一 歴史学の可能性
1 歴史学の可能性――事実認識と歴史認識
2 関係がつむぐ知――他分野との交流から
二 中国文明を読む
1 中国文明の書かれ方――中国・台湾・欧米における
2 中国文明の書かれ方――日本における
3 蘇秉琦氏の場合
4 殷代の概要
5 王震中氏の場合――夏王朝・殷代
6 王震中氏の場合――陶寺遺跡の評価をめぐって
三 周代(西周・東周〔春秋戦国〕)時代の見方
◆コラム――地域研究としての中国文明
おわりに
注・参考文献
あとがき
秦帝国と封泥 社会を支えた伝送システム
【概要】
本書は戦国時代後半から、統一秦、楚漢戦争を経て前漢初期にいたる時期を対象としている(中略)
この時期は、文字や制度が社会を管理する中国歴史時代の幕開けでもある。その後は、科挙が象徴するように、ゆたかな識字層に支えられて、中華帝国は二〇〇〇年の歴史を歩むことになる。(中略)
この秦という社会を支えたシステムを、本書では「捺印」にクローズアップしてとらえた。社会を支えたシステムとは、端的にいえば、文字を利用して制度を運用することであり、それを「捺印」にかかわる三つの視座でとらえてきた。一つは、「捺印」の所作や行為を復元することであり、一つは「捺印」が組み込まれた一連の行動様式を評価することであり、一つは捺した印章の文字を評価することである。
それぞれ、「第一部 封泥の実態」、「第二部 文字を書き印を捺す」、「第三部 秦封泥の文字と秦の社会」が該当している。(中略)
方法論や関心の異なる研究者が集い、情報や物資の伝達を検討することは容易ではない。しかし、封泥を共通の資料として、各自が新たな着眼点を見出し、それを共有することで、少しずつ研究は進展した。ことに、理化学分析との協業は大きな役割を担った。X線CTスキャン装置を利用した分析の推進は、各研究者には大きな刺激を与えた。(中略)
新たな研究は、新出資料のみが切り拓くものではない。既存資料の再評価や分野を横断した検討にもその可能性は潜在している。本書で示した、封泥の形態情報の検討、封泥と簡牘資料を対照した検討、あるいは封泥や印章の文字の検討などは、それぞれの分野に新たな影響を与えるものと見受ける。秦封泥研究や戦国秦漢時代の研究、文書行政の日中比較研究等への貢献も望まれる。
本書は、より多くの方の手に届くよう、できるだけ平易な形で示すことを心がけた。内容によっては、専門性が高いもの、あるいは独創性が強いものも含まれている。そこは、秦漢時代の研究の緻密さゆえと、お許しを願いたい。
(本書“後記”より抜粋)
【目次】
第一部 封泥の実態
第一章 秦漢封泥とは 谷 豊信
第二章 観峰館所蔵封泥が提起する秦封泥の検討視点 上野祥史・瀬川敬也
第三章 封泥から復元する「捺印」の所作 外面形態情報と内部透過情報 上野祥史
第二部 文字を書き印を捺す
第一章 秦の文官のリテラシー 封緘という所作をめぐって 籾山 明
第二章 秦漢時代の小官印とその使用 青木俊介
第三章 皇帝の〝手足の指の先〟 秦帝国中央集権の現場 髙村武幸
第四章 官印は誰が捺したのか 実用と象徴の間 髙村武幸
第三部 秦封泥の文字と秦の社会
第一章 秦帝国の形成と秦郡の変遷 鶴間和幸
第二章 秦の郡県と秦封泥 丞印からみた郡と県 下田 誠
第三章 漢字書体ヒエラルキアと秦帝国 書体・書風変遷攷 松村一徳