Q1 このような授業がどうして必要なのですか。

A1 算数・数学科の学習では、現実場面の問題を扱っていても、教科という自明な枠の中で、価値を付与する隙のない、条件の整った問題に取り組むことが中心になっています。そのため、数学の選択・使用・解釈の背後にある、問題場面に対する社会的価値観や個人的価値観を顕在化し、合意形成をめざし続けることに関する学習の機会がありません。このような学習は社会的分断を防ぐためにも欠かせません。

Q2 このような授業をしてみたいと思いますが、時間がありません。

A2 このような声をよく頂戴します。私たちの研究が新たな学習領域の設定を志向していることもそのためです。当面、算数科や数学科の授業のみですべてを行うのが困難な場合は、扱う問題に関連する他の教科と連携したり、総合や特活等の指導計画とうまく連携することが必要です。

Q3 紹介されている事例を使って授業をしてみたいと思いますが、どのような点に注意するとよいですか。

A3 紹介されている事例の問題場面は、実践対象の子どもにとっては切実な意思決定の場面ですが、それがそのまま他校に当てはまるとは限りません。事例を参考に、似たような問題場面が身近にないか探してみるとよいです。高校生であれば、「ある学校で、こういう場面がありました。あなたなら~」という建て付けにすることも考えられます。授業の基本的な枠組みについては、下記の論文をご参照ください。
山口武志・西村圭一・島田功・松島充・松嵜昭雄.学校教育における数理科学教育に関する開発的研究 -数理科学教育の基本的枠組みについて-.日本科学教育学会誌 科学教育,44(2),2020,104-122
https://doi.org/10.14935/jssej.44.104

Q4 子どもたちにとって自分事になるような教材はどのようにしてつくればいいですか。

A3日頃から、学校生活の中で、児童生徒が何かを決めなければならない機会に対して、アンテナをはっておくとよいでしょう。大切なことは、児童生徒の個人的な意思決定ではなく、学級や学年、学校、地域などの、児童生徒にとっての社会的な意思決定の場面を取り上げることです。

Q5 実践しようとする学年で学習する算数・数学の内容と、子どもたちが用いる内容が対応していない場合はどうしたらいいですか。

A5社会では、どんな算数数学を用いるかはもちろんのこと、そもそも算数数学を用いるのか、用いるのがよいのかも、自分たちで判断しなければなりません。この学習の機会と考え、年間指導計画等に位置づけていただくと実践がしやすくなります。もちろん、考えていく中で必要になった方法や手法を創り出したり学習したりするフェーズを盛り込むことも考えられます。

Q6 子どもたちが何を学んだかを自覚できるようにするにはどうしたらいいですか。

A6子どもたちは自分ごとの問題になればなるほど、問題場面に没入します。学習の最後に、どのようなことを学んだかを振り返らせる時間を設け、その振り返りの内容自体を練り上げていくようにすることが大切です。これを行うために、解決過程の板書は、画像として残しておくなどの工夫も必要です。