1.生物多様性の研究

2.未知なる生物・珪藻

3.真山研:過去〜現在〜未来

4.過去の卒業研究テ−マ


1.生物多様性の研究

 ここ数十年の生物学の進歩は目覚ましいものがあります。旧来、個体レベルでしかとらえることのできなかった現象が、物質レベルで、そして分子レベルで解析することが可能となってきました。「生物の研究なんて人の何の役に立つの?」と言われたのは、もう大昔のこと(昔々、生物研究は雲の上の生活をする貴族の趣味だったそうです)。今や人類への貢献を眼中に入れ、流れは大きくそちらへと傾いています。そんな中、生物の形ある実体、すなわち種そのものの研究は、社会全体の中ではなおざりにされがちです。しかし、近年、地球規模で環境問題の意識が高まるにつれ、この分野の研究の重要性が再認識されるようになってきました。どのような生き物が、どのような場所で、どのように生きているかがわからなければ、絶滅種も絶滅危惧種も話の土俵にのりません。人間を含め、全ての生物は複雑なネットワーク状の関係を保ちながら地球上に生存しているわけですから、このことは当然のことといえるでしょう。しかし、どんな生き物が地球上のどんなところで、どんな生き様をしているかという、大変基本的な事柄は、生物界全体を見渡すと、まだまだわかっていないのが現状です。裏を返せば、それだけ生物は多種多様であるということです。


 

2.未知なる生物・珪藻

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 珪藻は中生代白亜紀以降に出現した比較的新しい生物で、その数は10万種以上あるだろうといわれる多様なグループです。そして、いまだに新種が世界各地から、毎年、数十から多いときは百以上も発見される未知のグループでもあるのです。ところが、この生物は、人目を忍んだ場所に出現するのではなく、海、川、池、水田、水槽、土の上など、とても身近な場所に生育しているのです。珪藻はミクロの生物です。だからといって、その生物量をあなどってはいけません。地球規模で年間360億トンもの有機物を生産しているのです。この量は陸上植物全体が作り出す量にほぼ匹敵します。さらに、珪藻が毎日生み出す酸素の量は、全地球上の光合成生物が放出する酸素の25%にも達するのです。これらの量を考えると、珪藻は我々人類を含めた地球生態系の中で、大変重要な役割を演じていることがわかると思います。ところが、残念なことに、珪藻の生物学は、その多様性に応えられるほどわかっていないのが現状です。


 

3.真山研究室:過去〜現在〜未来

 真山研究室の誕生は1987年です。しかし、私が卒業研究の学生を直接指導するようになったのは1997年4月からです。この研究室は珪藻における多様性研究の空間です。床は分類学、壁は系統学でできており、これらの研究のまとめは比較的長期間を必要とします。しかし、卒業研究といった短期間でみた場合、個々の研究は細胞学、形態学、生態学といった言葉で表すのが適当かもしれません。研究室の中には、そんな椅子と机を用意しています。

<葉緑体の細胞学的研究>

   

 数年前に始めた若い研究です。全ての葉緑体には核様体と呼ばれる独自のDNA含有領域が存在し、それは珪藻の場合、通説では葉緑体周囲に位置するといわていました。ところが、必ずしもそうではなく、様々な珪藻を調べていくと、ドット状に分散するもの、ピレノイド両脇に幾何学模様に配置するものなどが発見されたのです。珪藻における葉緑体研究は20世紀初頭以降進展がほとんどなかったため、葉緑体そのものの微細構造や分裂様式を含め、核様体の種における分布、分裂様式、ピレノイドとの関係について現在研究をおこなっています。珪藻の葉緑体は、原核の光合成生物が共生的に進化した緑色植物のものとは全く異なり、従属栄養生物に共生した真核の光合成生物に起源をもちます。この研究は、今後、系統進化を従来とは異なる角度から解明するためにも大変重要なものです。

<被殻の形態形成の研究>

 

 珪藻は珪酸質でつくられた細胞壁(=被殻)を持っています。この被殻を電子顕微鏡で観察すると、多細胞生物顔負けの複雑な形があり、そこに芸術的とさえ言えるほどの巧妙な刻印模様が存在していることがわかります。これがどのように形成されるのかがわかっている分類群は、ほんのわずかです。「個体発生は系統発生を繰り返す」というヘッケルの有名な言葉がありますが、複雑な被殻形態をとる珪藻では、単細胞であるにもかかわらず、このことがいえることがわかりました。従来、珪藻の系統分類は完成された被殻の観察によっておこなわれていましたが、この研究は進化における祖先形質と子孫形質を考える上で大変重要です。

<生活環の研究>

 

 ほとんどの種子植物では生活環がわかっています。ところが、珪藻の場合これが解明されているものは種全体の1%にも満たないのです。珪藻には形態変異の幅が大きいグループがありますが、生活環を調べたところ、そのグループに安定した形質を見つけだすことができ、正確な分類ができるようになりました。また、有性生殖時のみに現れる特殊なペリゾニウムという構造は大きな系統も反映していることがわかりました。機会があれば、是非、追求したいテーマの一つです。

<被殻微細構造に基づく分類学的研究>

   

 珪藻のガラス様のミクロのボディー(=被殻)にはナノメートルのオーダーで、見事な刻印がつけられています。この被殻の形と模様で珪藻は分類されてきました。実は、私の研究歴の中ではこれに関するものが最も多く、そのぶん時間も費やしてきました。走査型電顕を使ってミクロの世界を覗く、最もファンタジックな研究で、幾つかの新種を記載するとともに、分類学的変更をおこなってきました。生物学の「基礎の基礎」となる地道かつ大切な研究です。

<DNAを用いた分子系統学的研究>

 最近手を付け始めた研究です。今は18S rDNAの塩基配列を用い、いまだ手の付けられていない珪藻種について、その系統を調べています。珪藻は被殻の微細構造の研究により、近年分類がたいへん進んだ生物ですが、その結果をもとに作られた新しい分類体系が正しいものかどうかを検証する作業は、まだまだ行われていないのが実状です。分子生物学的手法は、このような状況を打開するための強力な助っ人になります。今後の研究展開上、なくてはならない大切な分野です。

<バイオシリカミネラリゼーションに関する研究>

 珪藻はシリカでできた被殻をもつ生物です。しかし、シリカでできた細胞外被を持つ生物は珪藻以外にもたくさんあります。近年、分子系統学の進歩により、生物間の系統関係が以前にも増して解明されてきていますが、シリカでできた細胞外被をもつ生物は、系統的には必ずしもまとまっているわけではありません。これらの生物の珪化能は共通の祖先に由来したものなのでしょうか、それとも個々の生物が独自に獲得した能力なのでしょうか。珪化能の系統を確かめるため、シリカミネラリゼーションに関わる遺伝子を用いて、その関係を探る研究を始めました。さて、どんな結果が出るやら楽しみですね。

<生物量に関する研究>

 珪藻は多様な環境に出現します。これは、それぞれの環境に適応する多様な種が分化したためです。この性質により、珪藻を環境の指標生物として用いることができます。80年代前半に珪藻の対水質汚濁性を研究していましたが、最近、それをバイオボリュームに結びつけて研究を復活させています。

<生物教育に関する研究>

 珪藻は水圏生態系の生産者として最も重要な生物です。ところが学校教育における認知度は情けないほど低いのが現状です。そこで、手始めに人間生活と生物を結びつけやすい環境学習で利用できるコンピューター教材を開発しています。この教材はモジュールを結合させることにより、よりグレードアップしたものへと変化していくことができるものです。現在は、人間生活と河川水質と珪藻を結びつけた双方向的教材を開発中です。

<細胞内共生藻類の研究>

 原生動物である放散虫や有孔虫の細胞内には、さまざまな種類の藻類が共生しています。共生藻は細胞内では自然状態で暮らしているときのような細胞壁を作らず、裸で球形をしています。私の研究室では放散虫と浮遊性有孔虫から、世界で初めて共生珪藻の単離、培養に成功しました。

<放散虫の分子系統学的研究>

 放散虫は約6億年前の古生代カンブリア紀から化石が出現する、たいへん長い歴史を持つ生物群です。放散虫にはシリカでできた殻があり、その形態によって分類が行われてきました。これは丁度、珪藻の分類の歴史と同様です。ところが、放散虫の分子系統はあまり進んでいないのです。これは放散虫は培養できない、一般的に細胞分裂を行わない、生活環がほとんど知られていない、分子的な方法論がまだ確立していないなどなどの原因が考えられます。私の研究室ではこの方法論の確立に挑戦していますが、その成果を公開できる日が近づいてきました。

<放散虫の分子系統学的研究>

 放散虫は約6億年前の古生代カンブリア紀から化石が出現する、たいへん長い歴史を持つ生物群です。放散虫にはシリカでできた殻があり、その形態によって分類が行われてきました。これは丁度、珪藻の分類の歴史と同様です。ところが、放散虫の分子系統はあまり進んでいないのです。これは放散虫は培養できない、一般的に細胞分裂を行わない、生活環がほとんど知られていない、分子的な方法論がまだ確立していないなどなどの原因が考えられます。私の研究室ではこの方法論の確立に挑戦していますが、その成果を公開できる日が近づいてきました。

<干潟の生物多様性の研究>

 干潟は生物多様性の宝庫と呼ばれて久しくなりますが、そこに棲む底生動物に比べて珪藻の研究はあまりおこなわれていませんでした。東京湾には現在でも幾つかの干潟が残っていますが、その貴重な環境の珪藻を丹念に調べていくと、分類学的にも、生態学的にも、また進化の上からも面白い事象があることがわかってきました。


4.過去の卒業研究テーマ

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