事業委員によるエッセイ①(専修大学教授:野口武悟)

2021-09-05 14:32 | by 富澤(主担) |

【事業委員によるエッセイ①】
 本データベースを運営している、東京学芸大学学校図書館運営専門委員会には、活動を支えてくださる5名の事業委員の先生方がいらっしゃいます。この度、事業委員の一人でもある専修大学教授、野口武悟先生が、「事業委員の先生方が、学校図書館についての考えや思いを、自由につづるエッセイをデータベースに掲載してはどうか」とご提案くださり、先陣を切って、学校図書館司書として押さえておくべきデータや報告書の情報をまとめたエッセイをご執筆くださいました。ぜひご一読ください。


調査データを掴んで学校図書館の運営・活用の改善等に生かそう

 

                                  野口 武悟

 

 文部科学省により2020年度に全国悉皆で実施された「学校図書館の現状に関する調査」の結果が20217月に公表された。前回調査の公表が2016年だったので、実に5年ぶりの公表となる。2020年度の調査では、前回調査と同様の項目とともに、電子書籍やバリアフリー資料などの「児童生徒等の読書環境の整備に資する多様な蔵書等の整備状況」や「授業における学校図書館の活用状況」など新たな調査項目も盛り込まれている。どのような結果なのか気になる人も多いだろうが、今回は調査結果そのものの紹介や解説がねらいではないので、詳しくは下記のリンクから調査結果を各自でご覧いただきたい。

2020年度の調査結果】

【過去の調査結果】
 

 このような行政調査は、現状を把握し、それを今後の行政施策に反映するために実施している。同時に、学校図書館の現場においては、全国的な状況を把握し、自館の環境整備や運営、活用などの評価と改善、今後の方針の検討などに生かせる基礎資料ともなる。

はたして、みなさんが勤務する学校図書館のコレクションの整備状況、ICT環境の整備状況、授業での活用状況、読書活動の状況などは全国の状況からみてどうなのだろうか。そこから見えてくる課題は何で、それを解決するためにはどうしたらよいのだろうか。こうした検討をするミーティングを学校図書館の館長としての役割を担う校長も交えてぜひ行ってもらいたい。

 基礎資料となり得る学校図書館関連の全国的な調査データとしては、ほかにも、次のようなものがある。

1)「子供の読書活動の推進等に関する調査研究」(文部科学省、毎年度実施)

 「子どもの読書活動の推進に関する法律」(2001年制定)及び国の「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」(2018年第四次計画策定)に基づき実施される調査研究である。2020年度は電子図書館及び電子書籍を活用した子どもの読書活動推進に関する実態調査が行われた。結果をまとめた報告書は20216月に公表されている。GIGAスクール構想のなかで学校図書館がそこにどう関わることができるのかを考えるうえでも参考になる事例も紹介されている。(注:「子供」と「子ども」の表記が混在しているが、原文の通り)

【2020年度の報告書】

【過去の調査研究の報告書】(下方に要スクロール。6番目の見出し)


 

2)「学校図書館調査」(全国学校図書館協議会、毎年度実施)

 全国学校図書館協議会が毎年度実施している調査である。調査対象校は抽出ではあるものの、文部科学省による「学校図書館の現状に関する調査」では捕捉しきれない詳細な実態が調査されている。したがって、この調査のデータと文部科学省の調査データを組み合わせることで、日本の学校図書館の“いま”をおおよそ把握できるといえよう。調査結果は、毎年度、全国学校図書館協議会の機関誌『学校図書館』12月号に掲載される。

 

3)「学校読書調査」(全国学校図書館協議会・毎日新聞社、毎年度実施)

 全国学校図書館協議会と毎日新聞社が共同で毎年度実施している調査である。こちらの調査も抽出調査ではあるが、65年以上にわたって継続調査されており、子どもの読書に関する調査では最も歴史がある。調査結果は、毎年度、全国学校図書館協議会の機関誌『学校図書館』11月号に掲載される。子どもの読書関係の統計データは、この調査と(1)で紹介した文部科学省の調査研究、そして(4)で紹介する調査研究などがある。これらをあわせて用いることで、日本の子どもの読書の現状をおおよそ掴むことができる。

 なお、毎日新聞社では、この調査とともに「読書世論調査」を毎年度実施しており、あわせて参考にしたい調査データである。

 

4)子どもの読書に関する調査研究(独立行政法人国立青少年教育振興機構、不定期)

 毎年度ではないが、独立行政法人国立青少年教育振興機構も子どもの読書に焦点を当てた調査研究を実施している。直近の調査は、20213月に公表された「子どもの頃の読書活動の効果に関する調査研究」である。

【報告書】

【過去の調査研究の報告書】

これらのほか、子どもの読書に関しては、ベネッセ教育総合研究所などの民間でも調査研究が取り組まれており、こうした調査データにも注目したい。

 

5)「GIGAスクール構想の実現について」(文部科学省、随時更新)

 情報活用能力の育成やGIGAスクール構想に関する各種の調査データや事例などについては、文部科学省のウェブサイト内にあるGIGAスクール構想の実現について」に最新の情報が随時更新されており、参考になる。本稿執筆時点(202193日)の最新情報は、2021830日公表の「端末利活用状況等の実態調査(令和3年7月末時点)(速報値)」である。

 

 こうした各種の調査データの最新版公表の情報については、国立国会図書館の「カレントアウェアネス・ポータル」同国際子どもの図書館のウェブサイト、文部科学省の「子ども読書の情報館」全国学校図書館協議会のウェブサイトなど日常的にチェックしておくと入手しやすい。

 ところで、ここまで紹介してきた調査データは、全国規模のものであったが、みなさんの勤務する学校図書館が所在する都道府県や市区町村内でも学校図書館関連の調査を行っていないだろうか。毎年ではなくても「子どもの読書活動推進計画」の改訂などのタイミングで調査を行っている自治体は少なくない。より身近な地域での調査データも公共図書館や教育委員会などに確認して把握しておくとよいだろう。


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