篠原 文陽児
Fumihiko SHINOHARA
東京学芸大学教育学部
Development of Curriculum for Basic Informatics in Junior Secondary Schools
〔要約〕情報化の進展は、産業構造や教育の在り方を含めて、社会に大きく貢献する。したがって、これに積極的に対応するためには、産業、社会の各分野で情報化を支える人材の育成及び学校教育におけるコンピュータ利用の促進が急務である。しかし、「高度情報化社会」に伴って生まれた中学校「技術・家庭」の1領域である「情報基礎」は、その対象が義務教育段階の生徒であることから、すでに比較的確立している「情報科学」の基礎・基本の習得というよりもむしろ、コンピュータを中核としながらも「情報」や「しくみ」そのものに目を向けて、「必須」で「教養的」な「情報活用能力」の育成を通した「人間」の営みを教授し学習するところにあることを指摘し、そのための年間指導計画案を提案している。
目次
1 はじめに
2 「情報基礎」新設の経緯と目標
(1)「情報基礎」新設の経緯
(2)「情報基礎」の目標等
3 年間指導計画(案)の開発事例
4 プログラミングの指導事例
(1)プログラミングのねらい
(2)アルゴリズムとその指導
5 まとめにかえて
参考文献
表1 コンピュータ普及率の推移
表2 公立学校教育のコンピュータ設置状況(平成元年3月末現在)
表3 情報基礎カリキュラムの開発事例
*追加参考資料−1998年3月31日現在のコンピュータの普及率等(文部省調べ)
著者注
情報化の進展は、企業活動の合理化や産業構造の高度化、創造的な知識集約化を推進するとともに、ゆとりある国民生活の実現や国際社会の相互理解の増進に大きく貢献する。そして、情報化の進展に伴って多様化・高度化する産業分野、社会分野の情報処理ニーズに対応するためには、産業、社会の各分野で情報化を支える人材の育成及び学校教育におけるコンピュータ利用の促進が急務である。
平成元年3月31日現在で文部省中学校課がまとめた「学校における情報教育の実態等に関する調査結果」によれば、昭和58年5月には
0.6%であった小学校のコンピュータ普及率は、 平成元年3月には21.0%となり、
昭和58年当時の調査結果がない特殊教育諸学校を除いて、 小学校、 中学校、
高等学校の中で最も大きな伸びが認められる。中でも、高等学校におけるコンピュータの普及率は昭和58年以来今日まで、ほゞ一定して高い水準にあり、ほとんどの高校でコンピュータが導入されていることがわかる(表1)。また、
コンピュータを設置している学校における平均台数は、小学校 3.0台、中学校
4.3台、高等学校25.5台、 特殊教育諸学校 3.8台であり、1学校あたりの平均設置台数が、高等学校を除いては少ないと考えられるにもかかわらず、
確かな足どりでコンピュータが浅く広く普及しつつあることがわかる(表2)。
高等学校におけるコンピュータの普及が著しい理由のひとつに、昭和44年の理科教育および産業教育審議会による『高等学校における情報処理教育の推進について(答申)』を指摘することができる。すなわち、
この答申を基礎に高等学校の学習指導要領の改訂が行われ、 「情報処理に関する基礎的な理解を深め、
適切な情報処理を行うための基礎的な能力と基礎的な態度を養うこと」とされる職業教育の新たな分野が現れ、積極的な整備が進められたと考えられる。ただし、ここでいう『情報処理教育』とは、
直接的には、 限られた生徒に要求されるコンピュータを使いこなす能力や、 コンピュータ自体を開発する能力であり、いわば情報処理技術者等の人材、
または専門的な能力の育成が目的である。そのため、今日、一般の児童生徒や人々を対象として考えられているコンピュータ等に「慣れ、触れ、親しむ」「情報教育」等の用語で代表される、あえて言えば「高度情報化社会」における「必須」で「教養的」な『情報活用能力』とは、
その意味がまったく異なっていることに留意する必要があろう。
昭和60年9月に発足した教育課程審議会は、「幼稚園、小学校、中学校及び高等学校の教育課程の基準」について、主として次の4点の在り方について審議し、昭和61年10月に「中間まとめ」を示した。
1 | 社会の変化に適切に対応する教育内容 |
2 | 児童生徒の能力、適性に応じた教育内容 |
3 | 幼、小、中、高を通じて調和と統一のある教育内容 |
4 | 6年制中学校(仮称)の教育内容 |
その中で、特に中学校「技術・家庭」に関しては、『基礎的・基本的な内容の指導の徹底を図る観点から現行の領域について内容の見直しを行うとともに、時代の進展や家庭の機能の変化等に対応する観点から、新たに情報処理の基礎及び家族や家庭生活に関する領域を加える』と明示し、「情報基礎」(仮称)と「家庭生活」(仮称)の2つの領域を新設することに関して検討していることが示された。
その後、同審議会は、昭和62年12月、 最終的に、「幼稚園、 小学校、 中学校及び高等学校の教育課程の基準の改善について(答申)」をまとめ、公表した。そして、「中間まとめ」で検討方向とした中学校「技術・家庭」の新たな2つの領域が、「情報基礎」「家庭生活」として、明確に中学校教育課程に位置づけられることを文部大臣に求めた。
「答申」では「情報基礎」の目標を、『コンピュータの操作を通して、コンピュータの役割と機能について理解させ、コンピュータを適切に利用する基礎的・基本的な能力を養う』とし、そのための具体的な指導内容として、以下の点をあげた。
1 | 日常生活における情報の役割や、情報化社会における利点・問題点の指導を通して、日常生活や産業の中で果たしている情報とコンピュータの役割について考えさせること |
2 | 五大機能、インターフェイス、2進法などの指導を通して、ハードウェアの基本的な機能と構成について理解させること |
3 | プログラム言語、簡単なプログラミングの指導を通して、ソフトウェアの機能を理解させること |
4 | 日本語ワードプロセッサー、表計算、データベース、図形処理などのソフトウェアの指導と、制御に関したプログラムの作成とその変更及び動作の変化の指導を通して、情報処理の実際を理解させること |
これに対応して、文部省は、昭和63年7月、「臨時教育審議会」の審議結果、「情報化社会に対応する初等中等教育の在り方に関する調査研究協力者会議」の報告等をも考慮した上で、「学習指導要領改善の要点『教育課程講習会・資料』」を公表した。
「資料」のうち、中学校「情報基礎」に関して特に重要と思われる点は、その目標が「答申」とは異なったことである。すなわち、「答申」に示された「情報基礎」の目標はすでに指摘したように『コンピュータの操作を通して、コンピュータの役割と機能について理解させ、コンピュータを適切に利用する基礎的・基本的な能力を養う』であったが、「資料」では、『コンピュータの操作等を通して、その役割と機能について理解させ、情報を適切に活用する基礎的な能力を養う』(下線筆者)になったのである。これは、「答申」が「コンピュータリテラシー」をねらい、「資料」は「情報リテラシー」をねらっていると考えることができ、両者の考え方に大きな違いをみることができる。これによって、文部省としては、「情報基礎」に「コンピュータの操作によるコンピュータについての学習」ではなく、「情報に関する学習と、問題解決の手段としてのコンピュータの活用に関する学習の基礎」という位置づけを与えているとみることができる。
「コンピュータリテラシー」は、コンピュータが先ず我々の目の前にあって、これについて学習し、どのように活用するかという考え方であるに対して、「情報リテラシー」はその一面として、先ず問題や課題があり、その解決のためにさまざまな情報を活用したり、それらの手段の一つとしてコンピュータなどの情報機器そのものやソフトウェアを活用する、という考え方である。この考え方は、C.D.マーリング等が述べている、
『たとえコンピュータがなくても、教師には、学校生活とカリキュラムを通じて、自然に起こる問題解決の学習のさまざまな機会を有効に利用して、柔軟な問題解決技能の発展を生徒に期待できることを認識しておくべきである』をいっそう強く思い起こさせる。そして、『理解すること、計画を立てること、中期目標を立てること、等々のような、問題解決の有意義な過程の数々』は、今日決まり切った方法で学習し、学習させられている生徒たちにとって、一服の清涼剤となると考えられる。
その後も、文部省内に置かれた学習指導要領作成協力者会議は、「情報基礎」の内容や指導上の留意点に関する審議を積極的に進行させた。そして、平成元年2月10日、
文部省は「新学習指導要領案」を公表し、次いで、3月10日には、最終的に「新学習指導要領」を告示した。
こうした経緯を経て、「新学習指導要領」の中学校「技術・家庭」に、新たな領域の一つとして、
正式に「情報基礎」が設けられたと考えられる。
「新学習指導要領」における「情報基礎」の目標は、「コンピュータの操作等を通して、その役割と機能について理解させ、情報を適切に活用する基礎的な能力を養う」であり、「対応」で示された目標と同一である。そして、これがねらうところは、すでに指摘したように、単に社会の変化に対応した領域の新設という消極的な考え方に止まるのではなく、「技術・家庭」の目標、
すなわち、 「生活に必要な基礎的な知識と技術の習得を通して、家庭生活や社会生活と技術とのかかわりについて理解を深め、進んで工夫し創造する能力と実践的な態度を育てる」を高次の目標とし、「情報リテラシー」の観点からこれを中学校段階でいっそう具体化する「技術・家庭」の構造を策定するための一つの領域が加えられたと理解すべきであろう。
そして、具体的な指導内容は、
1 | コンピュータの仕組みについて、次の事項を指導する。 ア) コンピュータシステムの基本的な構成と各部の機能を知ること。 イ) ソフトウェアの機能を知ること。 |
2 | コンピュータの基本操作と簡単なプログラムの作成について、次の事項を指導する。 ア) コンピュータの基本操作ができること。 イ) プログラムの機能を知り、簡単なプログラムの作成ができること。 |
3 | コンピュータの利用について、次の事項を指導する。 ア) ソフトウェアを用いて、情報を活用することができること。 イ) コンピュータの利用分野を知ること。 |
4 | 日常生活や産業の中で情報やコンピュータが果たしている役割と影響について考えさせる |
であり、「内容の取り扱い」では、次に示すように、「情報基礎」の指導に当たって最低限配慮すべき事項が示されている。
1) | 内容の1)のアについては、入力、演算、制御、記憶及び出力を取り上げるものとする。 |
2) | 内容3)のアについては、日本語ワードプロセッサ、データベース、表計算、図形処理などのソフトウェアを取り上げ、情報の選択、整理、処理、表現などを行わせるものとする。 |
一方、「技術・家庭」のすべての領域を対象とした「指導計画の作成と内容の取り扱い」では、
1) | (略) |
2) | (略) |
3) | 第2の内容の・・(中略)・・授業時数については、「A 木材加工」「B 電気」「G家庭生活」及び「H 食物」の各領域はそれぞれ35単位時間を標準とし、 それ以外の各領域はそれぞれ20単位時間から30単位時間までを標準とすること。 |
4) | 学習活動は、 実習を中心として、 各領域及び各領域に示す事項が相互に有機的な関連をもち、 総合的に展開されるように計画すること。 |
5) | 第3学年において下限の次数を超えて授業時数を定める場合には、・・(中略)・・補充や深化を図るため学校や生徒の実態に応じ適切な指導を行ったり、未修の領域を履修させたりすること。 |
と記述され、それぞれの領域の履修の内容やその方法が具体的に例示されている。
また、特に「技術・家庭」の目標を「実践的」な側面で支える実習の指導については、次に示すように、実習に伴う管理能力の育成や安全の徹底を図ることを求めている。すなわち、
1) | 用具の手入れと保管、材料の購入と配分などの管理に関する能力を十分養うようにすること。 |
2) | 衛生や事故防止に十分留意し、服装と学習環境の整備、安全規則の励行などの安全の徹底を図ること。 |
である。
さらに、全般的な留意事項として、
1) | 各領域の指導については、知識や技術の単なる習得に終わることなく、習得した知識や技術を積極的に活用する能力を伸長させるとともに、仕事の楽しさや完成の喜びを体得させるように配慮するものとする。 |
2) | 第2学年及び第3学年における選択教科としての「技術・家庭」においては、生徒の特性等に応じ多様な学習活動が展開できるよう各領域の内容について学校において適切に工夫した学習活動や地域の実態に即した学習活動を取り扱ったり、未修の領域を履修させたりするものとする。 |
表3は、筆者及び木村捨雄(鳴門教育大学教授)等が東京都千代田区立一橋中学校と研究協力して実践している選択領域「情報基礎」の年間指導計画(案)であり、昭和63年度からこれにそった授業が行われている。なお、
指導計画の策定に当たっては、できるだけ上に示した「技術・家庭」と「情報基礎」の理念や目標にそうように、
1 情報の役割と機能、 2 コンピュータの役割と機能、
3 コンピュータリテラシーの操作と利用を下位目標群の中核に置いている。また、
「情報基礎」を大きく、 1 情報リテラシー、 2 情報システムの設計能力、 3
問題解決能力、 4 コンピュータリテラシーを育成する基礎を担う観点から捉えている。
プログラミングとは、もともと、問題を解決するアルゴリズムを、最終的にコンピュータ上で実行できるプログラム・コードとして、プログラミング言語を用いて表現し作成する過程である。言い換えれば、ある設計仕様のもとに、プログラミング言語などの道具を使って実行形式のプログラムとデータ・セットを作り上げる作業を意味している。
プログラムの作成に限っていえば、 一般には、
1 | その使用者自身が作成する場合や、その使用が短期的なものの場合、 および、 |
2 | 他の人が使用することを想定して作成する場合や、何度も繰り返して使われる長期的な使用目的をもつものの場合 |
とで、それぞれその作成方法は大きく異なる。特に、後者では、仕様の変更に対する改造や保守上の考慮が重要となる。そして、
いずれの場合でも、プログラムが正しいことは自明な前提条件であり、後者の場合は特に、作られるプログラムの読みやすさ、理解のしやすさ、保守のしやすさなどが、いっそう考慮されなければならない、と言われている。また、
プログラミングに使用される言語は、従来、生産性、保守性、機械独立性、読みやすさなどをめざして高水準化がはかられてきているし、諸分野において開発され、使用されている言語の種類や数は、枚挙にいとまがないほどである。
こうした結果、どんなプログラミング言語を使用するかということが、中学校教育課程でのプログラミング教育の目標と大きく関わり議論されている。
例えば、今日の言語開発の傾向は、構造化プログラミングの考え方を反映した技術動向であるため、これを反映したパスカル(PASCAL)のような言語が、
そうでないベーシック(BASIC) 言語よりもいっそう教育用に適しているという主張である。前者のプログラミング技法は、
構造化コーディング(GO TO-less programming)であり、GO TO 命令の使用を制限し、プログラムを「連続」「判断分岐」「繰り返し」の3つの基本制御構造の組み合わせで表現しようとする言語仕様である。
そのため、
1 | 制御構造単位でみると、入口・出口がそれぞれ1つという性質を持ち、その部分だけを独立に理解することが可能となり、 |
2 | プログラム・リストを制御構造単位に、上から下へとシーケンシャルに読んでいくことができ、 |
3 | プログラム・リスト(静的表現)と、実行時の制御の流れ(動的なふるまい)の対応がつきやすく、プログラムの動作をより容易に、正確に理解できる。 |
という効果が期待できると言われる。こうして、例えば、問題解決のアルゴリズムの中に、無条件分岐を導入しないことをひとつの考え方として生徒にプログラミングを指導することが、ひとつの指導法となると考えている。
一方、 中学校教育課程での基礎・基本としてのプログラミング教育を考えるとき、先に記した「設計仕様」を教師が生徒に与えてしまうと考えるか、あるいは、この「設計仕様」を生徒がみずからの過去の知識や経験を再生、組み直し、発展させて、創造していくと考えるかによっても、プログラミングの目標は大きく異なる。また、同じく、実行形式のプログラムを作成するときに必要な、分析的、論理的な思考、また、創造的な思考を評価の対象とするのか、単に命令語を覚え、これを使ってプログラムを作成すること自体を評価するかによっても、その目標が大きく異なるはずである。
いずれにしても、 中学校教育段階は、すでに指摘したように、専門家を養成する教育ではないことは自明のことであり、
すべての国民に必要な知識や技能、あるいはものの考え方、等々の基礎を教育することが重要であるため、一般には、プログラムが正しいこと、すなわち、アルゴリズムが正しいことに最大の指導の重点を置き、かつ、将来の生活に必要な技術と、その工夫と創造をみずから求め、問題解決の意欲につながる可能性をもった指導を心掛けるべきであることは論を待たない。もちろん、能力の高い生徒や、適性のある生徒には、後者の考え方を彼らの水準に合わせて、強力に指導し助言することは重要である。
プログラムが正しいことは、すでに指摘したように、アルゴリズムが正しいことが前提条件となる。しかし、中学校教育課程の段階では、このアルゴリズムが正しいことと同時に、生徒がみずからアルゴリズムを創造したり、発見したりするような指導が重要になる。
ここでいうアルゴリズムとは、 例えば数学や精密科学のような分野で、ある演算や処理を実行するために必要な、厳密に定められた手続き、
規則の集まりであり、人間の論理的な思考を定式化したものである。そのため、「決定性」「大量性(一般性)」「結果性(解決保障性)」「形式性」がその特徴である。特に、この中の「決定性」は、ランダによれば、
アルゴリズムに含まれる一連の手順(指図群)がそれに対応する操作の内容と条件を厳密に指示し、操作の選択にお作を一義的に決定することである。すなわち、処方、指令などの方法に含まれる一連の手順は、人間(または機械)がこれを一様に遂行しうるように、十分に要素的な手順に分割されて定式化されていなくてはならない。あるいは、『アルゴリズムの中で定式化されている手順の順序(したがって、操作の順序)は厳密に、その論理的条件によって規定されている』ことである。
こうして、コンピュータのプログラミングとアルゴリズムを作ることとは、「決定性」と、そこに存在する単純な手順や要素(「要素性」)という点からいって本質的には同じことになる。すなわち、いずれも『問題を解く過程を単純な(要素的な)ステップに分解し、飛躍のない手続き(指図)の連鎖で、最初と最後を関連づける』ことになるからである。
一方、ランダは、厳密な数学的な意味でのアルゴリズムを教授学でそのまま使うことは困難があるため、「アルゴリズム型指令」という概念を提案している。これは『ある類(クラス)またはタイプに属する任意の課題の解決のために、ある要素的操作群のシステムの中にどのような諸操作を、それぞれの具体的なケースにおいてどのような順序で行うべきかに関する、正確で誰にでも一義的に理解され得る指令』とされている。そして、「教授学習におけるアルゴリズム化」の構想に2つの局面を設定し、第1は「教授のアルゴリズム」であり、第2は「アルゴリズムの学習」としている。前者は、教師の教授活動のアルゴリズム型指令を作り、これを授業で使用することであり、後者は、正確にはアルゴリズム型指令の教授学習であり、あれこれの方法によってアルゴリズム的思考方法(アルゴリズム的指令)を生徒に学ばせ、学習の結果として、思考のアルゴリズム的過程を形成することであるという。しかし、
彼は、アルゴリズムと教授学概念としての「アルゴリズム的思考方法」は同一ではなく、
1 | アルゴリズム的思考方法は形式性の特質を要さない、また、 |
2 | 決定性の特質は「近似的」に実現される、 |
3 | このことと関わって、指図の「要素性」がいちじるしく相対的なものになる |
とし、 1と 3を重視することによって、これらの相違を強調する。一方、タルイズナは、形式性を2つに分け、「アルゴリズムの記述の形式性」は教授過程にも許され、「行為の形式性」は必ず排除しなければならないが、機械のときは別であるという。すなわち、今日では、アルゴリズム的思考方法の場合、ヒューリスティックス(発見法)の要素を部分的に導入しても一向に差し支えはなく、むしろ、その方が教育学的価値が高まると考えられている。
特に、数学では、アルゴリズムとは、計算力、分析力、および、構想力であると説明されることがある。計算力は、反射的に1つのアルゴリズムを適用して、解く能力であり、分析力は、いくつかのアルゴリズムから適切なものを選ぶ能力、そして、構想力とは、新しいアルゴリズムを発見する能力である。そして、この構想力を養うことこそが教育であると考えられている。
こうしたことは、中学校「情報・基礎」領域のプログラミングの指導においても言える。
したがって、プログラミング教育においては、数学的な意味での厳密なアルゴリズムの習得に加え、ランダのいうアルゴリズム習得の学習をねらいとするということができる。
そのためには、教師が、 生徒にとって身近な素材を取り上げ、
手順を工夫して、あたかも子どもたちが発見したかのように指導していくことが大切で、押しつけてはいけないということになる。言い換えれば、プログラミングの指導は、
分析的、 論理的、 発見的な1つ1つの操作を、 子どもの創造的な発想を重んじながら確実に行えるように丁寧にすることであり、画一的に押しつけることなく、
生徒がみずから柔軟で構造的な思考方法を同時体得するように指導することが重要である。
中学校「技術・家庭」における「情報基礎」は、「技術・家庭」のみでなく、また、中学校教育全体の目標を達成するために設定されたと考えるに止まってはならない。むしろ、人間の生き方という、人間の教育そのものの目標をできるだけ具現する一つの手段として設定されたと考えるべきであろう。したがって、「情報基礎」は、児童生徒の生き方に活かされるように、その内容、方法とも「教師」が「工夫・創造」していかなければならない。
1)C.D.マーリング等著、ivy 訳「問題解決を教えるためのマイクロコンピュータの使い方 〜論評〜」(第一法規出版編『マイコン・レーダー』1989年1月号所収、pp.46-49)
2)第一法規出版編「情報基礎『座談会 2新学習指導要領と情報基礎をめぐって』」(第一法規出版編『マイコン・レーダー』1989年5月号所収、pp.8 -11)
3)科学技術教育協会編「文部省『教育課程講習会資料』から」(科学技術教育協会編『教育マイコン実践』1989年9月号所収、pp.52-55)
4)西原口伸一・奥山拓雄「『情報基礎』学習指導計画と指導のポイント」(第一法規出版編『月刊教育とコンピュータ』1989年7月号所収、pp.38-45)
5)向平泱「『情報基礎』指導計画設定の基本的考え方」(第一法規出版編『月刊
教育とコンピュータ』1989年7月号所収、pp.46-48)
6)遠山 啓「アルゴリズムと計算」(明治図書編『数学教室』明治図書 1979.10
所収)
7)ランダ著、 駒林訳「アルゴリズムの思考方法」明治図書 1970
表1 コンピュータ普及率の推移
年度 | 58 (58.5.1) |
59 |
60 (60.10.1) |
61 (62.3.31) |
62 (63.3.31) |
63 (元3.31) |
小学校 | 0.6% | 調査 | 2.0% | 6.5% | 13.5% | 21.0% |
中学校 | 3.1 | 資料 | 12.8 | 22.8 | 35.5 | 44.8 |
高等学校 | 56.4 | な | 81.1 | 86.3 | 93.7 | 96.3 |
特殊教育 諸学校 |
し | 21.1 | 40.3 | 49.9 | 62.9 |
表2 公立学校教育のコンピュータ設置状況(平成元年3月末現在)
学校種別 | 公立学校数 (62.5.1現在)A |
設置学校数 (63.3末現在)B |
普及率 B/A |
設置台数 C |
平均保有台数 C/B |
小学校 | 24,658 校 | 5,172 校 | 21.0 % | 15,505 台 | 3.0 台 |
中学校 | 10,585 | 4,740 | 44.8 | 20,519 | 4.3 |
高等学校 | 4,189 | 4,035 | 96.3 | 103,014 | 25.5 |
特殊教育 諸学校 |
869 | 547 | 62.9 | 2,061 | 3.8 |
計 | 40,301 | 14,494 | 36.0 | 141,099 | 9.7 |
(著者注:本稿は、1990年日本科学教育学会研究会で報告した原稿を加筆・修正したものである)
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