本学では,広く人権侵害を対象にした対応組織であるキャンパスライフ委員会を作っています。民主的かつ自由な環境の下で教育・研究が行われるべき大学において,特に問題となるハラスメントについての理解を深め,それを防止するために,以下について説明します。
ことばや視覚的な手段及び行動等により,相手の意に反する性的な性質の言動等を行うことであり,それに伴い(ア)相手に学業及び職務を行う上で利益(単位認定や昇進など)または不利益を与えたり,(イ)就学,就労,教育及び研究のための環境を悪化させたりする場合があります。(ア)のようなケースは代償型,(イ)のようなケースは環境型と呼ばれます。文部科学省は職員を対象としたセクシュアル・ハラスメントの防止等に関する規程を制定し(平成13年3月26日付け),その中で「『性的な言動』とは,性的な関心や欲求に基づく言動をいい,性別により役割を分担すべきとする意識に基づく言動も含み,職場の内外を問わない。」と解説しています。
相対的に強い立場にある者が相対的に弱い立場にある者に対して,その人格を無視して,性的に不快な言動をとることによってセクシュアル・ハラスメントは起こります。
大学において生じやすいセクシュアル・ハラスメントは,成績を評価する力をもつ教員が,学生の意思に反して性的嫌がらせを行う場合です。しかし,社会的地位による権力の強弱に限ったことではなく,学生から学生に,あるいは学生から教員に対して行われる例もあります。以下は,大学で起こりやすいセクシュアル・ハラスメントの例です。
代償型
・講義中に教員が言った卑猥な冗談を笑わないでいると,「君には冗談が通じないね」と言われ
た。抗議したいが成績評価が悪くなるのを恐れて我慢している。
・顔見知りになった職員から何回もデートに誘われた。断ったところ,事務手続きに関して不十
分な情報しか得られず,必要な書類を提出しそこない,不利益を被った。
・実験・実習の個別指導の最中に,教員が女性学生の肩に突然,手をおいた。それからは指導の
最中にじっと見つめるようになり,彼女はストレスから勉学意欲もなくしてしまった。
・教員が合宿でいつも女性学生を自分の隣に座らせ,酒の酌をさせる。学生は成績に影響するの
を恐れ,機嫌を損ねないよう笑顔で受け答えしているが,心の中では激しい嫌悪感を抱いてい
る。
・実習・研修先で指導者から交際を求められた。断ったところ「そういう態度なら,これ以上研修
を続けられないようにしてやる」と脅された。研修は終わったが,納得できない成績をつけら
れた。
環境型
・コンパで,男性学生たちがいつも卑猥な内容を話題にし,不快である。
・サークル部室にヌード写真が貼ってあるが,部活動をするには行かざるを得ず,不快である。
・パソコン室で,インターネットのアダルトページを見ている人がいる。不快であり,パソコン
を利用しにくくなった。
・交際を断った相手が,留守番電話に性的なメッセージを入れたりするようになり,困惑してい
る。
大学の教職員・研究者は,卒業認定や学位の授与,研究教育計画の決定や執行,人事の決定に関する権限を実質的に有しています。アカデミック・ハラスメントとは,教育・研究の場における力関係を不当に利用して,相手の活動の妨害,不利益な取り扱い,人格的な誹謗・中傷や嫌がらせ,暴力等,相手の意欲および教育・研究の環境を著しく阻害する結果となる人権侵害をいいます。受け手の人は組織に理解されないことや更なる不利益を被ることを恐れて,被害を訴え出ることを躊躇し孤立させられる傾向があります。
a.学習・研究活動の妨害
・文献・図書や機器類を使わせないという手段で,研究遂行を妨害された。
・正当な理由がないのに研究室への立ち入りを禁止された。
・研究に必要な物品などを勝手に廃棄され,実験の遂行を妨害された。
b.卒業・進級の妨害
・卒業研究を開始して間もないのに,早々に留年を言い渡された。
・理由を示さずに単位をもらえなかった。理由を聞いても答えてもらえなかった。
・卒業研究は完了しているのに「お礼奉公」としての実験を強要され,それを行わなければ「卒
業させない」と言われた。
c.選択権の妨害
・指導教員を変更したいと申し出たのに,変更を認められず,嫌がらせをされた。
・自分の希望に反する学習・研究計画や研究テーマを押し付けられた。
・就職や他大学進学に必要な推薦書を書いてもらえない。
・就職活動を禁止された。
d.指導義務の放棄,指導上の差別
・「放任主義だ」といわれ,研究指導やアドバイスをしてもらえない。
・研究成果が出ない責任を一方的におしつけられた。
・論文原稿を渡してから何週間たっても添削指導をしてもらえない。
e.研究成果の搾取
・加筆修正しただけなのに,指導教員が第一著者となる。
・学生が出したアイデアを無断で使われ,論文を書かれた。
・著者の順番を教員に勝手に決められた。また,その研究にまったくあるいは少ししかかかわ
っていない者を共著者に入れることを強要された。
f.精神的虐待
・学生が出したアイデアにまったく検討を加えず,頭から否定された。
・「(論文を指して)幼稚園児の作文だ,こんな物を見るのは時間の無駄だ」と言われた。
・些細なミスを大声で叱責された。
g.不適切な環境下での指導の強制
・午後11時からなど深夜に指導を行う。
・必要のない徹夜実験や休日の実験を強要された。
h.権力の乱用
・指導教員の行う学会発表のデータ作りを,徹夜で仕上げることを強要された。
・家族関係・友人・恋人のことなど,プライベートについて根掘り葉掘り聞かれた。
パワー・ハラスメントとは,職場において職務上もしくは人間関係上,強い立場にある人が弱い立場の人に対しその力関係を利用して,その内容が職務に含まれるか否かを問わず,理不尽な指示・要求を行うことによって生じる人権侵害です。これは,上司と部下の関係だけに当てはまるものではなく,職位が同じレベルにある人同士の間でも起こりうるものですし,部下が上司に対してハラスメント状態を作り出すこともありえます。また,いわゆる「職場いじめ」も含まれます。職場ではありませんが,サークルなど学生が作っている組織の内部での先輩—後輩の間でも似たようなことが起こりえます。
(パワハラの分類;NPOトータルサポートひょうご 参照)
具体的行為の例には,以下のようなものがあります。
・攻撃型:人前で怒鳴る、机や壁を叩いて脅かすなど直接的な攻撃を行う。
・否定型:仕事のすべてを否定する、人格を否定する、能力を低く否定するなど
存在自体を否定する。
・強要型:自分のやり方を押し付ける、責任をなすりつけるなど、上司の権限を誇示する。
・妨害型:仕事を与えない、必要なものや情報を与えないなど被害者の仕事だけでなく
仕事に向かう意欲や向上心をも妨害しようとする。
アルコール・ハラスメントとは,飲酒に関する相手の望まない言動であり,行為者が意図したか否かにかかわらず,それによって相手に何らかの不利益または不快感を与えることをいいます。アルコール・ハラスメントは,地位の上下関係や所属意識などを利用して行われたり,その他の様々な交流の中で生じたりします。大学においては,教職員と学生間あるいは教職員間でのアルコール・ハラスメントだけではなく,サークル活動において学生同士でも起こる場合があります。
a.飲酒の強要
上下関係,所属組織の伝統やしきたり,通過儀礼などといって心理的な圧力をかけ,暗黙のう ちに,また ははっきりとした言動(挑発,侮辱,不利益をほのめかすなど)によって,飲まざる を得ない状況に追い込 む。
b.イッキ飲ませ
飲酒の強要の1つであるが,場を盛り上げるために,イッキ飲み,早飲み競争,罰ゲームなどをさせる。 「イッキ飲み」とは一息で飲み干すことを指す。
c.酔いつぶし
予め酔いつぶすための用意(吐くための袋やバケツ,運び人など)をして飲み会を行う。逃れられない状況 (複数名で取り囲んでゲームに勝つまで飲ませる,靴や携帯品を取り上げるなど)を設定して,何度も飲ま せる。または,大量もしくは度の高いアルコールを早飲みさせる。相手を急性アルコール中毒に陥らせ, 生命の危険にさらす傷害行為になる。
d.飲めない人への配慮を欠くこと
本人の体質や健康状態,意向を無視して,しつこく飲み会に誘い,飲酒をすすめる。アルコールでないと 偽って飲酒させようとして飲めないことを侮辱する。飲めないことを理由に,仕事をはずしたり,仕事上 で嫌がらせをする。会席にアルコール以外の飲み物を用意しないことも含む。
e.酔った上での迷惑行為
酔ってセクシュアル・ハラスメント行為をする,しつこく絡む,長々と説教をする,根拠なく批判する, けんかを売る,暴言を吐く,暴力をふるう,騒音を立てる,嘔吐して汚す,一人で盛り上がって酔いつぶ れる。
f.未成年者に飲酒をすすめること
未成年者飲酒禁止法で20歳未満の飲酒は禁止されている。また,上司や教職員は保護監督者として,未成 年者の飲酒を制止する義務がある。
ハラスメントに当たる場合と当たらない場合(例えば,セクシュアル・ハラスメントの場合)
これまで例に挙げてきた発言や行為が必ずハラスメントに相当するかというと,そうではありません。なぜなら,同じ行為でも,築かれている人間関係,状況,本人の意識の違いによって,それが「望まない」不快なものであるかどうかが異なるからです。
セクシュアル・ハラスメントの場合,次のAとBの行為は一見似ていますが,Aはセクシュアル・ハラスメント,Bはセクシュアル・ハラスメントではないと判断されるでしょう。
Aの例:ある教員が理由もなく何度も電話をかけてきたり,突然書物を送ってきたりしたが,なぜ自分だけそのようなことをされるのかが学生にはわからず,親密な関係を強要されているようで怖くなった。
Bの例:普段から相談に乗ってくれていた教員が,勉学意欲を失って休みがちな学生に,何度も電話をかけてくれたり,参考になる書物を送ってくれたりしたので,その学生は大変勇気づけられ,感謝している。
Bの教員の行為は,相互の信頼関係のうえになされたものであり,セクシュアル・ハラスメントとはいえません。しかし,Aの教員の行為は相互の信頼関係が築かれていない上に,学生の意思を無視したものであり,学生はこの行為を教育上の必要性もなく,単に教員自身の性的要求を満たすためのものと受けとめた場合であり,セクシュアル・ハラスメントと判断されます。
また,例えば,実技を伴う授業で,教育上必要な行為として教員から学生に対する身体的接触があり,学生が不快感・恐怖感などを感じた場合は,セクシュアル・ハラスメントかどうか問題となります。ただし,「身体に触ればセクシュアル・ハラスメント」だと固定的に判断することもできません。また,暗示にとどまる微妙な行為であっても,された側が不快に思ったり,恐怖を感じたりする場合には,問題となります。
パワー・ハラスメントの場合,理不尽な指示・要求と正常な業務上の指示・要求との境界は,必ずしも明瞭でない部分もあり,具体的なケースごとに判断する必要があります。一つの観点としては問題とされる指示・要求が業務それ自体に焦点が充てられているのか,その業務を担当している人の人格に焦点が当たっているのかということが考えられます。
例えば,部下がある仕事で失敗してしまったとき,上司が失敗した原因などをそれが起こった状況を考慮して話し合うのではなく,失敗の原因をその部下個人に強く結びつけて,その人の尊厳を傷つけるようなやり方で叱責する場合,その上司の行動はパワー・ハラスメントに当たる可能性があります。
職務の執行にあたっては責任が伴い,上司が部下の職責の未達を厳しく評価することはあり得ますが,その叱責が職場の雰囲気を悪くして,仕事の能率を下げてしまうことになったら,パワー・ハラスメントが起こっている可能性があります。パワー・ハラスメントの加害者が「そんなつもりで言ったのではなかった」とか「この程度のことで・・・・」と思うことは良くありますが,ハラスメントの遠因は,相手の気持ちが理解できないほどの,当事者間のコミュニケーション・ギャップにあります。人権侵害という観点からすれば,「この程度の人権侵害は許されるだろう」という考え方は成り立ちません。
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