2013年8月に、絵本『ひらがないろは』の制作のいきさつ を、絵を担当された本学の卒業生 博多(旧姓 手塚)歩さんに書いていただきました。今回はこれを受けて、博多歩さんのご尽力もあり、書道の視点から企画プロデュースした草津祐介さん( 本学大学院教育研究科総合教育開発専攻表現教育コース芸術教育サブコース(書道科)2003年3月修了。現在、都留文化大学非常勤講師 )にも振り返っていただきました。(編集部)
『ひらがないろは』誕生物語
草津祐介
とある展覧会の期間中に大学の先輩と会いました。そこでの先輩のふとした一言がすべてのはじまりでした。
「なにか書道でおもしろい本の企画ない?」
この一言が『ひらがないろは』という絵本の制作物語のはじまりでした。
当時、私は大学四年生。大学院に行くことを決めていたけれども、本の出版ということにとりわけ興味があった時期でもありました。そこで、「よしやってやろう!」という気持ちになり、企画書作成にとりかかりはじめました。
決意をしたものの、企画書などそれまでつくったことのない大学四年生です。昼間は教育と書道の授業を受け、夕方からスーパーでアルバイトをし、夜は大学で作品制作という日々。さらに、目の前には卒業制作と卒業論文というおおきな難関が立ちはだかっていました。当然、企画書はすぐには書けませんでした。
書こうと思っても書けない企画書。そこで、とりあえずどういう本が出版されているのか書店を見て回りました。書店をぶらぶらするなかで、子ども向けの本・絵本がいいのではないかと思うようになります。
当時、自分の研究の方向性について、自分が研究したいことが書道史という範疇に収まらないのではないかと悩んでいました。そんなとき、参加していたとある研究会で、私の研究方向を後押ししてくれた先生から、「文字を中心とした文字文化」というテーマで研究をすすめていけばいいのではないかというアドバイスをもらいました。そのアドバイスが頭にあり「文字」と「文字文化」という書籍のキーワードが思いつきました。ここから、私は研究や作品制作、教育においても書道というよりも文字文化の研究、文字を素材にした作品制作、文字文化の教育普及と「文字」を中心に考えるようになりました。
「文字」と「文字文化」というキーワードが決まったことにより、本の企画が具体化していきます。さらに、書店めぐりをするなかでふと感じました。「子供向けの『文字』に関する絵本が少ないなあ」と。きれいな文字を書くための本――いわゆるペン習字の本や美文字本――や文字を覚えるための本というものはもちろんたくさんありました。けれども、文字文化についての絵本というものが非常に少なく、とりわけ幼児・小学生向けの文字文化に関する絵本、文字の歴史についての絵本というものが非常に少ないなと感じました。