♪今月の学校図書館♪
東京純心女子中学校の巻
当サイトを運営する東京学芸大学学校図書館運営委員会では、2013年7月26日、東京純心女子中学校図書館を見学させていただくことができました。当日は、岩崎淳子校長先生からもご挨拶をいただき、その後専任司書教諭の遊佐幸枝さんにお話を伺った後、館内を見学しました。そこで「今月の学校図書館」には、この日の見学会で撮影させていただいた写真をもとに構成してみました。
実は、東京純心女子中学校に見学の依頼をお願いしたところ、快諾はいただけたのですが、同時に「学校図書館として、あたりまえのことをしているだけの純心でいいのでしょうか?」と遊佐さんから聞かれました。「もちろんです。遊佐さんの考える当たり前がまだまだできていないのが、学校図書館の現状です。ぜひ見学とお話をお願いします!」と答えました。
当日は、まず東京純心女子中学校図書館開設より関わってきた遊佐さんに、これまでの経緯を伺いました。詳しくは、遊佐さんの著書『学校図書館発 育てます!調べる力・考える力―中学校の実践から 』(少年写真新聞社)をぜひお読みください。
そして話の中心は、「純心スタイル」とも呼ばれる独特の学びに移りました。これは、公立小学校で、本や資料を使っての調べる活動をしてこなかった生徒に、確かな課題を設定し、調査して考え、自分の意見を述べる調べ学習ができるように育てなおすという営みを図書館がハブとなって提案し、各教科で行っているというものです。
社会科主任の中島先生にもおいでいただき、話を伺いました。「社会科においては、資料を調べて自分の意見を組み立て発表するといった一連の活動は必須です。しかし、社会科教員がそのような探究的な学びの経験があるとは限りません。その場合も、図書館に行けば司書教諭のアドバイスがもらえ、一緒に授業に取り組めるというのはとてもありがたいです。」
図書館の生徒への具体的な支援として、課題設定相談、情報活用のための学び方指導(利用教育)、生徒が行うべき課題の見本をつくって、探索のイメージを持たせる、資料案内・紹介、課題解決プロセス中の繰り返しの個別相談・対話等があります。もちろん教科教員と相談しながら行われています。
教員の側の生徒への関わりも、実に丁寧でした。特に課題設定の訓練として、生徒が設定した課題からいくつもの疑問(問い)を作らせ、その疑問に生徒自らが調べて答えていく過程を全てノートに書かせて提出させています。何を使って調べたかも記入させています。先生はそのノートを見て、朱を入れ返すことを何度か繰り返し、テーマ設定の大切さを実感させています。
司書教諭の存在は、それまで各教科がバラバラに行っていた学校図書館を活用した学びを系統だて、重複を避け、スケジュール調整まで行える意味でも、とても重要です。
このような活動を支えている環境としての学校図書館を整えるのも、専任司書教諭である遊佐さんの仕事です。見学者を圧倒したのが、館内の随所にしかけられたメッセージ性の高い掲示・展示です。
そこで、当日撮影させていただいた写真を一部掲載することで、東京純心女子中学校の魅力の一端をご紹介できたらと思います。
① 入口入ってすぐの展示書架 この日は、「一杯のお茶からつなげてみよう」というタイトルがついた展示でした。中学生が自由に調べるテーマを選ぶ場合に、かなりの頻度で選ばれる「お茶」を例に、どんな視点で考えればどういう本が使えるかを、そのまま表した展示です。私たち司書が、生徒にこのような図を配布することはありますが、それを現物で、ここまでセンス良く仕上げる腕はさすが! 展示・掲示は、手先が器用で、センスのいい人が手掛ければ、素晴らしいものができるでしょうが、学校図書館で専任職員の行う展示は、どれも生徒の学びを意識したものであり、それこそが専任の仕事だと考える遊佐さんの思いがしっかりと伝わって来ます。
② 生徒の作品 「美術館レポート」
この丸テーブルは、図書館に入るとすぐに目に付く場所に設置してあります。この日は、例年夏休みの課題として出される「美術館レポート」の模範作品が飾ってありました。先輩の力作レポートを見ることで、課題を出された学年の生徒は、どのようなものを作り上げるかのイメージを作り上げることができます。先輩の作品に創作意欲を喚起され、さらにいいものを目指す生徒が出てくるのも、このような場を設定しているからこそと言えます。
③ 宿題すんだ?
これはカウンターの写真と、そのカウンターの左端にあるメッセージです。利用者がすべて女の子ということで、全体に可愛らしい雰囲気なのですが、様々なことばがちりばめられたカウンターです。
④ 課題用のコーナー
どこの学校でも、学年全体に課題が出た場合などは、資料は貸出禁止にして対応しますので、その旨を書いておきますが、こんなふうに、わかりやすいサインをつけるのは、簡単なことなのに、なかなか思いつかないことです。
さっそく自分の学校でも参考にしたい!と思うヒントが満載の図書館なのです。
⑤ 本に反応しよう!
この印象的なフレーズの掲示を見て、「いったいどこからこのような言葉が浮かぶのですか?」と質問が。何かに書かれていた言葉で、オリジナルではない・・・とのことでしたが、「あ、この言葉使える!」とひらめくのも、常日頃の高いアンテナゆえでしょう。とにかく、館内にある掲示物はみな目を引き、参考のために写真を撮らせてもらう見学者続出でした。
⑥ (こども+おとな)÷2=ことな
このコーナーは、以前からの定番のコーナーではありますが、並べられた本は、少しずつ変化しているのでしょう。利用者が中学生女子ということで、まさに彼女たちが読みたくなる本、中学生の気持ちにフィットする作品を遊佐さんが厳選して並べています。ところどころに、遊佐さんの言葉でお薦めの文が。館内の本は責任を持って選んでいるという姿勢が伝わって来ます。
⑦ 課題解決のための6ステップ
前半のお話にも出た6ステップが、このようなわかりやすい掲示物として、学習コーナーの壁に貼られています。口頭で説明もされているのでしょうが、再確認の意味で、このような掲示が館内でいつでも目にすることができると、効果倍増かもしれません。
掲示は、このようにわかりやすさと、デザイン性を重視して作られています。館内の見出し等もコンセプトは、同じだと思われます。見学者が、書店のようだ・・・と感想を述べたのは、目を引く掲示に導かれ、お目当ての場所に自力でたどり着けるような工夫がされていることを言ったのだと思います。
⑧ 年に一度使われる資料の保管
これはどこの場所かというと、最初に紹介した入口付近の展示コーナーの裏側にあたります。図書館を活用した定番の授業が多い純心では、その時だけ使う資料もたくさんあります。それらは常時開架の必要がないので、このように段ボールに入れ、わかりやすいラベルをつけて保管をしているそうです。これもさっそく見習いたいです。
このように、純心の図書館は、隅々まで遊佐さんの仕事ぶりが見える図書館でした。遊佐さんは、数年前、司書職から司書教諭へと任用変えとなり、これまでは自ら若干のセーブをして行っていた教員へのアドバイスや意見を、積極的に行うようになったと言います。図書館の仕事を一手に引き受け、さらに教員に対しても司書教諭として授業の在り方に対し提言できる今の立場は、とても理想的であること、また校長先生の理解により、教諭であっても学校行事の引率や部活の担当からは外してもらい、学校図書館の仕事に専念できているという話もされました。ただ授業に関わる部分がどんどん増えているため、どうしても手が回らない部分も出てきているため、今は卒業生が週に数日、補助的な仕事をカバーしてくれているそうです。
けれども、学校図書館専任職員として、図書館に常駐して図書館を作っていくこと、生徒との日々の会話をとても大切にしていることもよくわかりました。教育のなかにしっかりと根付いた学校図書館を見せていただくことができて、たいへん有意義な一日でした。
図書館の様子は、東京純心女子中学校のHPからも見ることができます。
尚、このデータベース内にも 中学校 音楽事例 と「授業と学校図書館」に当時社会科を担当していた田中麻衣先生のインタビューが掲載されています。ぜひあわせてお読みください。
(文責 東京学芸大学附属世田谷中学校 村上恭子)
続きを隠す<<