授業と学校図書館

授業で役立つ活用事例を「先生のひとこと」として紹介します。
 

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2010/05/19

きっかけはコラボレーション!音楽教師が広げる多文化社会へのまなざし

Tweet ThisSend to Facebook | by 村上

前学芸大学附属竹早中学校 
現学芸大学附属世田谷小学校
 音楽科 居城 勝彦先生

 
 
 
今回は、音楽に多文化理解や国際理解の視点を取り入れた授業をされている居城先生に登場願いました。直接的に学校図書館の資料を活用した授業ではありませんが、授業の先には、歴史や地理・ノンフィクションの本にも手を伸ばす子どもたちの姿が見えるようです。このような授業をされるに至った理由なども含めお伺いしました。

 
 

村上(以後M):先生は、多文化社会米国理解教育研究会の一員とお聞きしました。居城先生がこの会に関わるきっかけはなんだったのでしょう?

 
 
 
 

居城(以後I):今から10年程前になりますが、同僚の中山京子先生(現帝京大学准教授)と一緒に「総合」の活動で世界の文化を調べて、劇をつくるという取組みをしました。初めは音楽専科としての関わりでしたが、子どもたちと一緒に何かをつくりあげていくことで、私自身が知らないことを一緒に学ぶことがとても楽しいという経験をしました。

 
 

M:そういう活動が楽しいのは子どもたちだけじゃないんですね。

 
 

I:その後、みんぱく(国立民族学博物館)の共同研究のメンバーになり、博物館展示を活用した学校教育プログラムの開発に関わりました。そこで、文化人類学や教育学の研究者、学校現場で実践に取り組んでいる方など、いろいろな分野の人たちと接したことも大きな刺激になりました。そして今まで自分は音楽の背後にあるものを教えてこなかったことに気づいたのです。私自身がいろいろなことを知りたいと思い、中山先生も所属している多文化社会米国理解研究会で一緒に活動するようになったのです。

 
 
 

M:中山先生は社会科の先生ですよね。この研究会も、社会科の先生が多いのでは?

 
   

I:ええ、音楽が専門で参加しているのは珍しいかも知れません。

 
  

M:居城先生は2006年から3年間、附属竹早中学校に異動になり、そこで昨年は「日系人和太鼓」を教材に公開研究授業をされました。「日系人和太鼓」を教材にされたのはなぜですか?

 
  

I:研修で出かけたアメリカで、日系二世が中心として結成したサンノゼ太鼓に出会ったのです。魅力的なその演奏に心惹かれ、メンバーに取材をしたのです。メンバーのひとりは子どもの頃、一世の母たちから、学校ではとにかく目立たないようにするようと言われて育ったそうです。そんな彼女が和太鼓に出会ったことでその後の人生が大きく変わっていった話を聞くうちに、日系移民と和太鼓というキーワードで授業ができるのではないかと思ったことがきっかけです。

 
 
 

M:この授業は何年生に行ったのですか?

 
  

I:中学2年生の授業です。2学期の終わりごろで、まもなく冬休みがありお正月もやってくる、伝統的な音楽に触れるにはちょうどいい時期です。社会科の歴史分野でも、第二次世界大戦以前あたりまで学習しているので、日系移民が生まれた背景も学んではいる時期です。まずは何の説明もせず、サンノゼ太鼓の演奏を見せました。そのあとで、6~7人のグループで長銅太鼓と締太鼓によるアンサンブルの創作に取り組んだのです。太鼓は必ず音符や休符を使った楽譜を書くという必要がないですからね。口唱歌(くちしょうが)でも構わないのです。

 

M:.口唱歌ってなんですか?

 
  
 
I:.ドン・ドコ・ドンって、それこそ叩く通りに言葉にするのです。いわばボイスパーカッションですよね。音楽室には1グループが使える太鼓のセットしかありませんし、それほど広い音楽室ではないですから、太鼓が使えないときには口唱歌とか、それこそ古タイヤとかを叩きながらつくっていきました。

練習風景

 

M:それは面白そうですね。中2というちょっと難しい年頃の子どもたちのノリはどうでしたか?

 
 
 

I:和太鼓はどの子も自分なりの技術で参加可能な楽器なんですよ。まず叩けば音がでる。他の楽器に比べて、音が出せるようになるまでの時間を必要としないでしょ。それと、技術のレベルが違っていても、組み合わせ方で楽しめる。リズムがずれたとしてもそれはそれで面白さが出たりしますからね。どのグループも楽しそうに活動していました。

 
 
 

M:グループのなかの誰かがリードしてつくっていくものなのですか?

 
 

I:そういうグループもありましたが、相談しながらつくっているグループのほうが多いですね。活動中はずっとサンノゼ太鼓のDVDを流していて、私からは太鼓を叩き方やかっこいいと思うパフォーマンスなどを参考にして、いろいろ工夫してごらんとアドバイスしました。音楽は一緒につくり上げていく楽しさがありますからね。

 

M:できあがった作品はどこかで発表したのでしょうか?

発表風景
 
 

I:ええ、クラスの中で。ビデオにもとって編集してみんなで鑑賞しました。そして、活動のまとめとなる最後の1時間で、これまで見続けた太鼓のビデオはいったい誰がどこで演奏したものかを生徒に問いかけ、それをきっかけに日系移民の歴史や、私自身がつくったサンノゼ太鼓主宰者へのインタビューを取り上げました。このときに、海外移住資料館から借りた紙芝居『海を渡った日本人』をグループに1セットずつ渡し、読んでもらいました。日系移民のことを知るうえでは、写真資料と解説文章でできているので、ちょうどいい資料なんです。

 
 
 

M:こんなふうに、実際に太鼓を叩き、太鼓への思い入れがあるなかで、日系移民の歴史を学び、アメリカという異文化の中で生きていく人々に思いをはせるって、ものすごいインパクトがあることですよね。まさに音楽ならではの学習に思えます。

 
 
 

I:最後に学習感想を書いてもらったのですが、そこからは大きく二つの点が読みとれました。ひとつは和太鼓という楽器の多様性に気付いたことです。音を出すことは簡単でも、演奏のバリエーションは豊かだし、音を合わせることの難しさを痛感しています。もう一点は和太鼓が異文化の中で生きていく日系人たちにとって、それも日本人であることが否定的にとらえられがちな時代のなかでは、アイディンティティを持つための大切な楽器として受け継がれていったことへの気づきです。サンノゼ太鼓の演奏は、アメリカ社会の中で変容を遂げ、新しいロックやジャズも取り入れながらも、その根幹には伝統的日本文化が大切にされていることなどを感じ取ってもらえたのではと思います。

             

M:司書としては、このような魅力的な授業があったのなら、ぜひ日系移民について書かれたさまざまな本も合わせて紹介したいな、とか、せめてそういうコーナーをつくりたいと思ってしまいます。

 
 
 
 

I:そうですね。今回はそこまではできませんでしたが、そういう形の図書館とのコラボレーションもありかもしれませんね。

 
 
 
 

M:直接図書館とは関わらなくても、このような授業をしてもらえると、もっと知りたくなった生徒が、いろいろな分野の本に手を伸ばしてくれるのでは…と思います。今後も先生はこのような授業をされていくのでしょうか?

 
 

I:私自身は、このような授業は今後も行っていくつもりです。でも、一般的な音楽の授業とはちょっと違っていて、音楽科の教員すべてに受け入れられるかといえば、ちょっと難しいかもしれません。中学校は、合唱コンクールに熱心に取り組む学校も多いですよね。合唱によって、仲間と一緒につくっていく楽しさ、それぞれの得意不得意カバーしながらひとつのものをつくり上げていく喜びを体験できることは貴重です。ただ、うまく歌うことだけが大切なのでないと思うのです。たとえばその歌がどのようにしてつくられたのか、あるいはどんな時代に誰がどんな想いで歌ってきたのかを知って歌うのと、知らないで歌うのでは、聞き手に伝わるものが明らかに違ってきます。

 

.:こうしてお話をうかがっていると、教科としての音楽の可能性をすごく感じました。特に音楽や美術は心を揺さぶる体験ができるわけで、その時に一緒に学んだ歴史的背景などは、ものすごく強く印象づけられるのではないかと思います。学校の中で先生たちが教科を越えてつながると、面白い学びができるのですね。

 
 
 

I:私は、音楽の先生と話すより、実は他教科の先生と話すことのほうが多いかもしれません。昨年は日米の教師でパールハーバー(真珠湾攻撃)をどう教えるかというワークショップに参加しました。そこでの単元開発をもとに中学校で、第二次大戦当時、日米でどんな音楽を国民が聞いていたかを比較し、相違点を考えてもらいました。音楽がプロパガンダに使われるのは日米一緒だということに子どもたちは気づきます。

 

M:音楽の授業のなかで、調べたり考えたりすることって、音楽理論や、楽器、作曲家…といった定番のものが思い浮かびがちですが、本当にいろいろな切り口で学べるのですね。図書館や博物館が大いにバックアップできるのだと、あらためて感じました。今日はありがとうございました。

 
 
(記録 2010年5月12日) 
 

*アメリカの移民に関する資料は、近日中にテーマ別ブックリストに掲載予定です。あわせてご覧下さい。


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