「旅」に出る本

2025-06-01 11:41 | by 岡田 |

 本校で一番最初の「旅」は遠足です。横須賀の猿島、奥多摩の鳩ノ巣渓谷、鎌倉、横浜など行き先にクラスの特徴があらわれます。遠足が終わって感じるのは、クラスがまとまり親密さが増し、一段階学校に落ち着きが出ることです。「生徒それぞれに居場所ができる」そんな感じです。一緒に旅をすることにはそんな効果もありますね。今回は授業で使用した本を中心に「旅」をテーマに選びました。

『おじいさんの旅 』アレン・セイ 2002年 ほるぷ出版 ISBN:4-593-50416-3

この絵本はコールデコット賞(1994年),ボストングローブ・ホーンブック賞絵本部門(1994年度)を受賞しています。アメリカに旅したおじいさんの目を通して、二つの国への思いが静かに描かれています。本校では、移民の授業の際に活用したりしていますが、故郷を懐かしく思う人間の普遍的な内容となっています。地域や時代を超えて共感できる旅の絵本です。

『ぼくはたね』甲斐 信枝 2009年 福音館書店 ISBN:978-4-8340-2464-7

旅をするのは人間ばかりではありません。たねも旅をします。様々な種類のたねが、ある時は大胆に、ある時は戦略的に旅をすることが理解できる科学絵本です。わざわざ里山に行かなくても、生物授業の校内観察や近所の公園や川で見かける植物がたくさん出てきます。生命の力強さを身近に感じられる絵本として紹介します。

『ぶどう酒びんのふしぎな旅』 藤城 清治影絵アンデルセン原作 2010年 講談社 ISBN:978-4-06-132424-4

音楽授業でアンデルセンの資料を求められた際に資料提供、館内展示をした絵本です。藤城清治の美しい黒を基調とした影絵にアンデルセン童話の複雑さがマッチした絵本として紹介しました。ぶどう酒びんを中心に人生の目に見えない不思議さをアンデルセンは描きたかった作家なのだと理解できます。没後150年の今年に、お気に入りだった童話の再読もいいと思います。

『漫画方丈記 』鴨 長明 2021年 文響社 ISBN:978-4-86651-407-9

国語の教員からの推薦図書です。漫画なので読み聞かせは最後のページにある、養老孟司の解説を用います。生徒は鴨長明を庵を楽しんだ気楽な風流人と捉えていますが、鴨長明が生きた過酷な時代を災害から捉え、現代の私たちの今と古典授業を結びつける本として紹介します。「すべてのものは移り変わる」旅をするのはそのことを思い出し、自分自身を理解するためなのではないかとの問いは、旅の本質に迫ります。

 

                  (東京学芸大学附属高等学校 司書 岡田和美)


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