『希望の牧場』を読む

2024-09-17 09:53 | by 村上 |

 7月最後の終業式、本校は道徳デーとなっていて、いろいろな先生が半日道徳の授業をしています。家庭科の先生から、『希望の牧場』(森絵都 作 吉田尚令 絵 岩崎書店 2014) は図書館にありますか?と聞かれたのは、その半月ほど前のことでした。

 この本の存在は知ってはいましたが、蔵書にはなかったので、購入することに。届いた本を家庭科の先生に手渡し、当日はできればどこかのクラスに入って、先生の読み聞かせを聞きたかったのですが、都合がつかず…。

 2学期早々、先生が紙の束を抱えて図書館にやってきました。「見て下さい、こんなにぎっしり感想が書いてあって!」とコピーをわざわざ持参してくれました。本校の生徒は、書くことには慣れてるということもあるのですが、書きたくなるような内容だったとも言えます。

 2011年3月11日、東日本大震災による原発事故が起きました。4月になると原発施設から半径20キロ圏内は「立ち入り禁止区域」になり、5月にはそこにいる牛は「殺処分」にすることを政府は決めました。けれども牧場を経営してきた吉沢さんは、政府の命令に背き、避難もせず、牛たちに餌をやり続けます。自身も放射能で健康を害する危険はあるし、餌代は赤字を生み続けるだけだし、やむなく政府の命令に従った者たちからは非難されるなかで、やり続けるたった一つの理由は「オレ、牛飼いだから」。

 今も、希望の牧場で、牛たちは生き続けています。吉沢さんはこう書いています。「俺は牛飼い、命をムダにはしない。牛は、原発事故の生き証人、ここで生き続けることが、原発の存在を問いかけ、命の大切さを訴えることになる」

 いろいろなことを考えさせる絵本です。

(東京学芸大学附属世田谷中学校 村上恭子)


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