JSL研修報告

平成27年度 第2回JSL研修の分科会報告(市川先生)

市川先生:

 本分科会では、菅原先生の全体講義を受け、JSL授業の組み立て方について、「トピック型と教科志向型」「体験探求発信型の有効性」「AUとその活用方法」等々、JSLエッセンスのプレゼンから入りました。

 午後は授業活動案作りです。

 参加メンバーは小学校教諭3名、高等学校教諭2名でしたので、自ずと授業内容は異なってきます。そこで本分科会としての共通事項を以下のように定め、授業作りにとりかかりました。

共通事項

① 本授業を受ける児童生徒のイメージを具体化する。(出身国・母語・日本語習得状況)
② 授業のテーマに即した体験活動を取り入れる
③ 授業内容を獲得するためのAUを決め、探究・発信場面で繰り返し活用できるように組み立てる。
④ 本研修会で獲得したいスキルをそれぞれが明確にした上で授業案作りを進める。

 小学校グループは4年算数で「分数」のところを選びました。選んだ理由としては、分数は難解な学習用語が出てくるとともに、ここでの学びが高学年の学習に大きく影響してくると考え選びました。

 高校の現代社会グループは、「選挙権」を選びました。つい最近、選挙権が18歳以下に引き下げられるというニュースが駆け巡り選挙がより身近になったこと。さらに外国人の選挙権制度についても考えられる「今、まさに」という旬のテーマを選びました。

 それぞれのグループで上記の共通事項をもとにしながら、「体験活動とAUをどのように組み合わせていくか。」ということにも前向き取り組んでいただきました。

 JSL授業の可能性が、また一つ広がった研修会になれたと思っております。

報告

① 小学校算数「分数」

 小学校4年生の算数の分数の単元を選んで、指導案の作成をしました。

 想定した子供は3人です。ペルー人、インドネシア人、バングラディッシュ人でそれぞれ3年から5年間の来日で、日常会話はできるけれども、学習の習得が低いということです。

「帯分数の意味の種類、帯分数は整数と真分数で表すことができる」ということを授業の目標としました。

 授業の流れは、既習事項として真分数と仮分数を学習しているので、復習を取り入れながら進めていく授業です。

 本時は、「ドラえもんとジャイアンに祭りに着ていく浴衣の帯を作ろう」という場面設定で児童たちに興味を抱かせながら意欲的に学習に参加できるようにと考えました。

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導入場面

ドラえもんと ジャイアンが 夏祭りに いくことになりました。
そこで、着ていく浴衣(ゆかた)の帯(おび)を プレゼントすることになりました。

 用意する半具体物(テープ)  5/3m

 実際にテープでドラえもん用の帯を作っておく。

 テープを一周すると1メートルになるように作り、黒板にも数直線を作っておき、操作活動を進めていけるようにする。

 実際に児童が操作活動をしながら、3分の3が1、残りの3分の2なので、「3分の5」は「1と3分の2」、というように視覚でとらえて理解ができるように支援していく。

 AUのとしては、「C-6 帯の長さをくらべてみましょう」さらに「C-9 ~と~をくらべて おなじところはどこですか」また「J-2  仮分数と帯分数はどんな関係がありますか」が、考えられます。

 そして、本時の中心AUは、「F-6 新しい方でいうと、帯分数は整数と真分数で表すことができます」いうことを言わせるようにしました。

 本日の研修で勉強になったことは、児童が興味を持って楽しく学習しながら新しいことを学べる課題設定と操作活動を考えたことです。

 それから、AUをどの場面でどのように使ったらいいのかが練習できたことがとても勉強になる一日でした。

おすすめポイント(市川)

 帯という具体物をもちいて、1mと2/3mを表すことにより、仮分数と帯分数を視覚でつなげて印象深く覚えていくことができるように工夫したところです。また、帯(おび)」という言葉を巧みに取り入れているところも実践の価値があります。

② 現代社会 高校

 現代社会の授業案は「皆さんは、選挙にいきますか!?」というタイトルです。

 想定する生徒は中国出身生徒とフィリピン出身生徒、それぞれ2名ずついるといったような取り出しのクラスを想定しました。

 単元は民主制度のところです。

 まず導入で、この間行われたスコットランド住民投票の雑誌を見せて、AU「A-1 これは何でしょうか」と聞きます。生徒から話が出てくると思いますので、それを拾いながら「そうだね、→選挙の話→投票の話」と導き出していきます。

 その次に、日本の年代別の投票率グラフを見せて、「A-1 縦軸は何ですか、横軸は何ですか」と発問を重ねながら「年代別の投票率の変化と差」について考えさせます。

 さらに、そのグラフを読みとらせた結果、誰に向けた選挙活動になりそうかということも考えさせます。しかしながら、若者向けの選挙活動になっていないという意識も考えられますので、「日本はこれから18歳の選挙権になっていく」ということ、「スコットランドは16歳からになった」ということ。しかし、外国人には現在日本では選挙権がないということを伝えます。

 このことにより、生徒たちに動揺が生じると思います。そこで、ほかの国の選挙権はどうなっているのか、母国の選挙権はどうなっているのか、というのを調べさせたり、発表させたりします。

 さらに、「選挙権がないと、どういうことが困りそうなのか」ということを考えて、発表してもらいます。

 このことをうけて、「H-5 選挙権を持っている人は、持っていない人のために何ができるでしょうか。」ということを考えていくことができると思います。

 そのうえで、これまで、選挙権を獲得してきた歴史を紹介し、もしかしたら、選挙権を持っていない生徒たちにもこれからできることがあるかもしれないということで、次の授業につなげていくことができると考えました。

 この授業の面白さは、「取り出し」で現代社会を教えていくうえで、生徒同士には共通語はないが、言語化された情報ではなく、本時で習ったようにAUや画像(動画含む)を積み重ねていくことで、生徒の中に、「知っている」「自分の国のことを説明できる」という自信を持って説明いくという自信へとつなげていく可能性を感じたことです。

 さらに、様々な国の生徒が一つのクラスに集まっているということは、それぞれの国の状況が分かり、「自然と多文化共生に対する意識が生徒に芽生えるじゃないか」という希望を抱きながら、この授業案を作りました。

この授業のおすすめポイント(市川)

 選挙権が18歳以下に引き下げられ選挙がより身近になったこの時期「今、まさに」という旬のテーマを選び、母国の選挙制度と比較したり、選挙権について考えたりしながら現代社会というCALPの高い言語活動を要する教科をより身近にしてきているところです。

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