小川先生:
中学高校グループは、高校進学を見据えた指導ということで、自分の自治体の高校入試の制度と過去問を分析して、どんな問題が出ているのか調べてきてくださいという宿題を出しました。ともかく敵を知らなければそれを突破できませんから。
まず高校へ行くことの重要性を皆で話しました。高校は3年間なり、4年間ありますから、その時間があれば生徒たちは、日本語も教科学習もできるようになり、年齢相応にいろいろなことを考える力がつきます。それから社会に出てほしいということで、とにかく高校へ行こう、と確認しました。
入試で教科の点数がとれなければ、高校への道は開けないわけです。そのためには入試から逆算して中学校の学習計画を作る必要があります。中3では、教科は在籍の教室で受けられるようになって、進学に向けた指導の部分をこちらで補充する。そこまで持っていくためには、2年生の時には、理科・社会・国語の授業をなんとか分かるようになるところまでもっていこう。したがって、1年生の段階で英語と数学はすぐに教科に取り組んで、教室の授業についていけるようにしておこう。日本語はゆっくりやり直す時間は作れないから、しっかり一発で理解を確実にして進めていこうということになります。日本に来た日から、入試の日まで見通した計画を立てなければならないのだという話をしました。
さて、入試で点数を取ることを考えたら、英語と数学は最初から勉強をはじめなければなりません。英語については、英単語を覚えるなら、その日本語訳も一緒に覚える、というように、英語の教科書を日本語学習にも活用するというところから指導案を考えました。
数学はどこの県の入試でも欠かせません。計算は大丈夫でも、「証明」は実は易しい問題なのに、在籍学級で「証明」をやっただけでちゃんと理解できる生徒はほとんどいません。それは「証明」の単元に入った途端に日本語の説明が増えるからです。ある程度日本語はできるはずなのに、授業で先生が言っていることはわけがわからないということで、みんなここで沈没しちゃうのです。これを一回JSL数学として取り上げておくと結構クリアできて、入試の証明問題も解ける生徒も多くなります。大きな関門なので具体的にどうするか、今日は「証明」で指導案を考えていただきました。では報告をお願いします。
報告
みなさんも日本語のテキストをいろいろご存知だと思いますが、小学生向けと大人向けはいろいろあるのですが、中学生向きというのがなかなかないのです。それで目をつけたのが英語の教科書です。英語の教科書の特徴は、人権・環境・文化など、たいへん知的な内容をシンプルな英語で表してあるというところが特徴なので、じゃあそれを日本語にして、日本語の練習に使ってみることはできないのだろうか考えてみました。
英語の教科書というのは大きく分けて会話文と説明文からできています、会話文の特徴というのは省略が多いのと、文章がとてもシンプルで短いことです。これを使って、理解を確認するために、例えば省略した文章を完全な文にしたり、その中でQ&Aで内容を読み取ったりということに使えるのではないかと思いました。
次は説明文で、ここに提示しているのはガーナの紹介文です。「ガーナはアフリカの西部に位置しています」「ガーナの首都はアクラです。公用語は英語です」とか、「チョコレートはカカオ豆で作られています」みたいなお馴染みの文章です。
この日本語訳を読解教材として扱い、次にこれをモデル文として自分の国を紹介する作文を作ることを考えました。中国籍の子でしたら、「私の国中国はユーラシア大陸の東部に位置しています」とか「中国の首都は北京です」などです。自己表現とか、多文化理解、異文化理解につなげることができるのではないかと思いました。英語の授業で扱う前に日本語の学習で予習的にやっていくと、十分に内容を日本語で味わっているので英語で出て来たときによく分かるようになるでしょう。
【小川補足】英語の教材の中から、「マザーテレサ」についての文章を既習レベルの日本語に訳した文章で、日本語の読解教材として活用した例を紹介しました。また、英語で「受け身文」を学習する単元に入る前に日本語の受け身を勉強しておく必要があることをお話ししました。そうすれば、英語の受け身文を日本語に翻訳することは、そのまま日本語の受け身文の勉強にもなります。
英語の教科書は、中学生の関心・興味に合わせて作られているので、中学生の日本語学習に生かせる「材料」はいろいろありますが、英語の教科書を日本語に直訳すれば日本語の教科書になるわけではないということを確認しておきたいと思います。
次は数学です。中学校2年生の「証明」の問題について考えました。証明する内容は、角の二等分線の作図法は、どうしてそのやり方で角が二等分できたことになるのかを、三角形の合同条件を使って、証明します。
そこで考えた内容を(0)~(3)にまとめましたが、話し合いをしてみて気づいたことを発表します。
(0)、数学は積み重ねの教科なので、生徒たちは日本語は初期でも学習参加をしたほうがいいと改めて確認をしました。実際に「証明」の問題をどうやって教えていくかと考えたときに、
(1)そもそも「証明」とは何ぞやということで、概念の理解を、数学とは離れた日常場面から生徒たちに理解してもらうところからスタートすることにしました。特に非漢字圏の生徒は、「証明」という漢字を見ても、何の勉強をしているのか、わかりません。
(2)「教科書を読解教材として使う」と結論を書きました。
実際には、言葉の理解は難しいところもあるので、「角の二等分線を~」とまず始まった時に、「角」は何か、「二等分線」は何か、二・等・分・線の漢字ひとつずつから漢字の意味を理解するところから始めます。また、二等分線の作図の方法は一年生の学習内容ですが、そこに立ち返って生徒たちに実際に作図させることも必要だと気付きました。
教科書の文章を読んでみると、学習用語でかなり難しいところがあり、その理解の手立てを知りました。日常会話で使う「同じ」「だから」「で」という言葉は、数学の証明で使われるときには、「等しい」「したがって」「何々において」などと表現が変わります。意味を確かめて、生徒たちは実際にこの言葉を使って文章を作ってみます。じゃあそれは教科書の方ではどんなふうに使っているか、教科書を見て証明文の読解に入ります。
読解というと国語のイメージが私自身はあったのですけれど、理論的な読み取りをすることとか、思考の過程を書かせるということが有効だということがわかりました。最後の段階では、自分で証明を書き、それを自分の言葉でみんなに説明をするといった練習もしっかりやって、説明の場面で実際に使える日本語力をつけることが大切です。
理科の教科書も読解教材として有効だということも教えていただきました。