♪今月の学校図書館♪
杉並区は、平成21年度から司書配置が始まり、現在はすべての小中学校に専任の司書がいます。原則、月曜日から金曜日までの週5日勤務で、午前8時から午後5時までのうち、1日6時間勤務です。司書資格又は司書教諭の取得は必須で、学校図書館支援室による研修も行われています。今月ご紹介する桃井第五小学校は「『考える力を育てる指導方法の工夫』~体験的な活動と言語教育を重視した 生活科・理科の授業を通して~」という研究に取り組んでいる学校ですが、そこに学校図書館がどのように関わっているのか、司書の大澤倫子さんにお聞きしました。
★異動1年目は、レイアウトの大改造!★
初めて見た図書館は、高い書架が林立している状態で圧迫感があったそうです。そこで少しでも見通し良く開放感があるように書架を一年目に大移動しました。たいへん重い書架のため、移動は先生たち総出で対応!さらに三年目の今年、見通しの悪い場所を改善したことで、理科系の本の展示スペースが生まれました。以前の図書館を知らないのですが、伺った図書館は、明るくて解放感が漂い、随所に司書の工夫を感じました。
もともと背の高い書架が多かったため、低い棚だけを使うと以外と本が入りません。そこで書庫スペースだった場所を絵本コーナーに改造しました。右写真の奥に見えるのが、改造した絵本コーナーです。いずれ、図書館と隔てる壁がとれればいいなと考えているそうです。絵本コーナーは、図書の時間では1,2年生の読み聞かせのスペースになり、休み時間は子供たちがくつろいで読書する場所になっています。
★廊下も含めた読書空間を作る!★
左の写真は、図書館前の廊下ですが、理科に関する子どもの作品や関連した本が展示され、目を惹きました。異動当時、広い廊下に置かれた本棚に古い本詰まっていて、もったいない使われ方が気になったそうです。けれども、一年目は館内で手いっぱいでなにもできず、二年目にようやく棚の本を整理。二年目の夏に司書研修の講師だった、さわださちこさんが、図書館にきてディスプレイをしてくれたのですが、奥行きのある本棚の奥に色画用紙をはったダンボールを入れるだけで、額縁のようになることがわかり、これを廊下の棚にも応用。本を面だしするスペースができたそうです。ここに理科関連の本を置くようになったのは、『地面の下のいきもの』の本をバラしてつなげて展示したいと考えたとき、館内には掲示するだけの長さがなく、廊下に掲示するとちょうどよかったのがきっかけです。作業はボランティアさんにほぼお願いしましたが、図書館が閉まっているときに、よく子ども達に読まれているそうです。
★館内でも理科とのコラボレーション!★
なんといっても、目を惹くのが巨大なカエル君です。毎回企画展示がされるこのコーナー、この時は≪カマキリはいつ孵化する≫というテーマでした。カマキリの企画の発端は図書ボランティアさんが見つけてきたカマキリの卵のう。これをペットボトルに入れて図書館内に置きその脇に関連本も置いて「カマキリはいつ孵化するか?」の日にちを当てさせるもの。見事あてた子にはおまけ(手作りのおもちゃ)が当たるという企画です。
理科の研究校として、理科室前のフロアには飼育ケースが並び本も展示してあったのを見て、同じようなことを図書館でもできるのでは、と思ったのがきっかけだそうですが、図書館はすべての児童が気軽にやってくる場所ですから、効果は倍増ではないでしょうか。これからは、アゲハの幼虫や鈴虫を飼う予定(昨年も展示) ヒマワリの種の数当ても考えているそうですが、化石とか岩石とかもおきたいとのこと。子ども達には大人気のコーナーなのではと思います。この日の見学者から、「図書の時間にそのコーナーに気を取られてしまう子はいないのですか?」と質問が。静かに読む時間とのけじめをつけるようにしっかり指導しているので問題はないそうですが、気を取られたとしてもそれはそれで、教育的効果充分だと思いますが。
大澤さんは大学では地理学を学び全くの文化系人間だそうですが、子育てで科学読み物を読み聞かせしているうちに、理科が苦手な自分でも子どもの本はとてもよく理解できることを発見。それからは、おもしろそうな科学イベントに参加しては、いろいろなものを集めていたそうです。
「以前の学校でも自然の中でのフィールドワークが盛んで、それなりに展示をしていたのですが、図書館から広がっていく手ごたえを感じられませんでした。この学校では理科の校内研究の効果だと思うのですが、図書館から口コミで少しづつ、子どもや先生も含めて情報が広がっていく感じがします」と、おっしゃっていました。理科教育を支える学校図書館や司書の仕事が、きっと先生方にも確実に伝わっているのではないでしょうか。昨年まとめられた研究の資料集には、“桃五小学校の学校司書が、理科の授業での調べ学習に準備した資料の一覧が掲載してあります”と書かれていて、理科研究においても司書の果たしている役割は大きいと感じました。
★授業でも図書館活用★
図書館として、読書への働きかけだけでなく、理科の授業に資料提供するのはもちろんですが、各学年で段階を踏んだ情報活用能力の育成にも関わっています。
そ
の中でも理科授業を意識して利用指導を行っているそうです。
左の写真は、図書館で行われた2年生の図鑑の調べ方で、2時間で目次と索引の指導をします。
右の写真は、3年生の百科事典の使い方指導ですが、わざと理科的な項目を調べさせるような工夫をしているそうです。
ま
た、国語の理科的説明文を読む単元では、図書の時間でも理科系の本を読むテーマ読書に取り組んでいます。これは、理科的な文章を読むことに慣れさせるねらいもあるそうです。
★子ども達ひとり一人にとっての“面白いもの”が見つかる場に★
最後に、大澤さんの目指す学校図書館像を伺ってみました。「私の図書館にもつイメージは、司書になる前に見学した自由の森学園の図書館やまちの小さな書店のイメージです。広い空間でなくても整然としていなくても、本棚を巡っていると面白いものが見つかったりして、思わず借りてみたりする。科学にかぎったことではなく、そういう図書館を作りたいのです。」
な
るほど、納得です。右の写真はさりげなくカウンターの端に置かれた私物の本。そこには「かりていいです 大澤先生の本棚」とありました。おそらく司書配置以前は、雑然と本がある部屋にすぎなかった図書館が、ここまで変貌を遂げ、子ども達の好奇心を育て、先生方の授業を支える無くてはならない場になっていることを改めて感じた見学でした。これは、単に司書を配置したから実現したことではなく、そこに働く司書の思いがあればこそ・・・ということも、同時に強く感じました。
杉並区では、学校図書館支援室が中心となって、司書や司書教諭の研修も盛んです。きっと、桃井第五小学校の取り組みを、杉並区全体の学校司書が共有することで、それが突出したものではなくて、それぞれの学校が自分の学校にあった取り組みをしていくことに繋がっていくのだと思います。また違う楽しさのある杉並区の学校図書館をぜひ見学したいと思っています。本日はありがとうございました。
文責 附属世田谷中学校 村上恭子
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