『子どもと本』

2015-04-19 15:55 | by 村上 |

 東京子ども図書館理事、松岡享子さんが、このほど岩波新書から『子どもと本』を出版されました。初めて出版の話があったのが、30年前というから驚きです。しかし、その後長い年月をかけ、子どもと本との幸せな出会いの場を作り出す努力をし続けてきた松岡さんだからこそ、次の世代に伝えたい思いがあり、このような本になったのだと思います。

 現在、東京学芸大学附属学校司書部会として、司書の研修に役立つブックリストに解題をつけ、サイト内にアップしたいと考えています。そのためにリストアップした本の一覧を見た事業委員の先生から、「実務的な本も大切ですが、学校図書館専門職として、子供にとっての教育や読書の本質をつくような書物も必要なのではないですか?」とアドバイスをされましたが、まさにそのような1冊といえます。

 学校図書館が子どもたちの学びに役立つための場であることは、自明のことではありますが、授業を意識しすぎることで陥りやすい落とし穴もあります。この本は、子どもと本を結ぶ専門職として忘れてはならないことを、あらためて気づかせてくれます。

 特に、中学校の図書館に身を置くものとして、第4章は自分の考えと照らし合わせながら読みましたが、非常に納得のいくものでした。本それ自体に「よい」「わるい」のレッテルをはることはできない、読者がその本をどう受け止めたかによって、よいわるいの評価も生まれると。しかし、一方で 図書館員としては、自館の蔵書を選ばなくてはなりません。目の前の子どもたちがどのような本を喜び、本のどんなところを面白がるのか、どのように書かれていたらよくわかるのか、あるいはわからないのか、どんなことを本に求めているのか、といったことを学んでいけば、子どもの本に関するある種の勘を養うことができる。そして長く経験を重ねるほど、その勘は養われていくという言葉は、私自身の実感と重なります。


 第5章 子どもの読書を育てるために では、子どもたちの豊かで質の良い読書を保証するための社会的な枠組みにも言及しています。そして、子どもと読書を大切に考え、意欲も能力も適正もある若い人たちがいるのに、不安定な身分と、低い給与で使い捨てにするような現在の状況はなんとしても改めなければならない…という思いは、まさに次の世代にこの仕事を手渡したい私の思いでもあります。


 この春、たくさんの学校図書館に「人」の配置が進んでいることと思います。経験を積み重ね、専門職としての学校図書館員をめざす人にはぜひ読んでほしい一冊です。


                                       附属世田谷中学校 村上恭子



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