あなたの好きな「おにぎり」は?
2024-12-04 15:04 | by 宮崎 |
今回は、埼玉県富士見市立富士見特別支援学校の学校司書で、絵本専門士としてもご活躍の雪竹ますみさんに、特別支援学校でのよみきかせの実践を書いていただきました。特別支援学校の学校図書館は、全国的に整備が進んでいないことが課題となっています。富士見特別支援学校も、施設も資料も、司書の雪竹さんの勤務条件も決して十分ではないなかで、授業や児童生徒の実態に合わせ、しっかり子どもと本をつないでいることが伝わってくるあたたかい実践です。
(編集部・宮崎伊豆美)
富士見市立富士見特別支援学校は、都内から30分ほどの埼玉県富士見市にある、知的障害のある児童生徒が学ぶ学校です。来年度50周年を迎えます。
私が学校司書として初めて勤務したのが11年前、この学校でした。それから、中3年は別の小学校に勤務していましたが、本年まで8年、ここで勤務をしています。
ここでの勤務が長くなるにつれ、「特別支援学校でのよみきかせは、どのようにやるのですか?」とよく質問を受けます。私としては、「特別なよみきかせ」を行っているという意識はありません。小学校に赴任した際も同じようにやっていたからです。読みながら、相手の反応を観察し、興味が伸びる方向に寄り添って読む。言ってしまえばそれだけなのですが、なかなか端的に説明できないのが悩みでもあります。
わらべうたの中でも、今でも知らない人がいないと言えば『おべんとうばこのうた』(さいとうしのぶ 構成/絵 ひさかたチャイルド 2013)です。支援学校でも小学校でもみんなが一緒に歌ってくれます。最後のページでは擬人化されていたおかずたちが、ちゃんとお弁当に戻って、さあ食べよう!という気にさせてくれます。大型絵本もあり、よみきかせには重宝します。でも、この大型本を読んだ後、必ず小さな本を開きます。その本のサイズは、ちゃんと小さな子のお弁当サイズでそれを手の平にのせると、やっぱり嬉しい気持ちが増して、ほっこりとした表情になります。人数の多い小学校ではなかなかできないことです。
また、♪おにぎり おにぎり ちょいとつめて♪で思い出されるのは、中学部での調理実習です。支援学校では、授業支援の一環として、教員の依頼で授業に関連する絵本をよみきかせることが多くあります。その日は、ご飯を炊飯器で炊き、それをおにぎりにするという授業でした。
その時に読むのは『おにぎり』(平山 英三 文 平山 和子 絵 福音館書店 1992)や、『おにぎりをつくる』(高山なおみ 文 長野陽一 写真 ブロンズ新社 2020)です。どちらも、おにぎりを作る工程が丁寧に追われていて、これからやることがイメージしやすくなっています。さらに、料理の手順書ではないので、ほこほこするあたたかな気持ちと、作りながら美味しくなあれと唱えるような愛情が伝わってきます。授業の事前、事後、繰り返し同じものを何度か読むこともあります。
この2冊の大きな違いは「絵」と「写真」です。おにぎりの工程は単純なので、どちらも同じようなことをしているのですが、生徒によってどちらが意識に入ってくるかがはっきりと分かれます。興味関心の向けられ方が明らかに違うのです。しかし、これは個人個人違うので、様子を見て使う本を判断します。
この絵本を授業の前に読み、授業をし、また後で繰り返し読むことで、決まったものしか食べられず、ご飯を食べられなかった子が、おにぎりにしたご飯を食べられるようになったということもありました。授業と絵本が身体づくりの助けにもなった一例です。
『オニじゃないよおにぎりだよ』(シゲタサヤカ作 えほんの杜 2012)これも、支援学校でも小学校でも読んでいる絵本です。おにぎりが大好きなオニたちが、人間に美味しいおにぎりを食べさせたいと奮闘するお話なのですが、人間はオニを怖がってなかなか食べてもらうことができません。(ネタバレですが…)最後に、オニたちが考えたのは、おにぎりをかぶってツノを隠すこと。タイトル回収です。それで、やっと食べてもらって大団円となります。とても面白くて、みんな笑って聞いてくれるのですが、支援学校でも小学校でも何人かは気が付きます。私もこの本を最初に読んだ時から、笑って終われませんでした。オニたちは、自分のアイデンティティであるツノを隠して仲良くなったのです。この後はどうなるんだろう。本当に仲良くなれるんだろうか。これはだましているんだろうか。少しモヤモヤとしながら、それぞれ考えるのです。人と違うって何だろう。
みんな同じに見えるおにぎりたちの中身は、きっとそれぞれ違う。でもきっと、みんな美味しいし、分け合えたら楽しい。身近なおにぎりを通じて、色々なことを考えてくれたらいいなと思っています。
(文責:富士見特別支援学校学校司書・絵本専門士 雪竹ますみ)