作中作から生まれた絵本
2025-10-07 13:59 | by 中村 |
東野圭吾さんによる長編小説『クスノキの番人』(実業之日本社 2020年)が2026年1月にアニメ映画として公開予定です。小説版のシリーズ続編である『クスノキの女神』(実業之日本社 2024年)には、高校生の少女と中学生の少年が共につくる絵本が登場し、物語の大切なキーとなっています。その作中作が、現実の絵本となって今年の5月に誕生しました。『少年とクスノキ』東野圭吾(文)/よしだるみ(絵) 実業之日本社 2025年5月 ISBN:978-4-408-53878-5
大事な人たちを失い、生きることが辛く明日が怖いと嘆く少年に、一人の旅人が語ったのは、未来を見せてくれるという女神の化身であるクスノキの話。行くべき方角を指し示してくれる1本の棒を携え、少年はクスノキを探す旅に出た。遠く険しい道を歩き続けた旅の先でついに出会ったクスノキの女神が、孤独な少年に見せたものとは・・・。
過去の過ちを悔い、自分の不遇を呪い、進む道に迷って不安に飲み込まれてしまう、それが人間です。しかし過ぎた日を嘆き、まだ見ぬ未来を希求するだけでは、何かを渇望する時間が死ぬまで続いていくだけです。
未来をつくるのは「今」の積み重ね。大切なのは「今」を生きること。
今この瞬間生きていることに目を向けて、自分で決めた一歩を踏み出せば、もう行く手を導く木の棒も、未来を示す女神も必要ないのです。
中学生にも人気の作家が初めて手掛けた絵本。中学校でよみきかせれば、きっと生徒たちはいろいろなことを思いながら、それぞれの「今」へと目を向けることでしょう。
(東京学芸大学附属竹早中学校 司書 中村誠子)