民藝ってナニ?
2025-11-10 10:29 | by 中村 |
このクッキー、何が描かれているか分かりますか?
『みんげいクッキー
~かわいくてなごむ47都道府県のほのぼの郷土玩具アイシング~』
Trigo e cana著(誠文堂新光社) 2015年
ISBN:978-4-416-71588-8
(生徒には、いくつかのおすすめページをピックアップして大画面に映して見せます)
岩手県の「チャグチャグ馬コ」、和歌山県の「三猿」・・・かわいいですね。これ、実はすべて、日本各地に伝わる郷土玩具、その地方ならではの伝統的なおもちゃを象ったアイシングクッキーなんです。山形の相良人形「猫に蛸」は、招き猫に蛸(=多幸)がくっついたユニークな縁起物。いやぁ、ギュスターヴくんみたいですね。(分からない人はヒグチユウコで検索してみてください)
この本のタイトルにも使われている《みんげい(民芸、民藝)》という言葉、一度は聞いたことがあると思いますが、具体的に「みんげい(以後、民芸)」とは何を指す言葉なのでしょうか。
「民芸」は大正時代に生まれた言葉・考え方です。この当時、工芸品といえば華美な装飾を施した鑑賞用の作品が主流でした。しかし名も無き職人の手から生み出された日常の生活道具にも美術品に負けない美しさがあると唱え、各地の風土から生まれ生活に根差したものには、用に則した「健全な美」が宿っているとして、新しい「美の見方」や「美の価値観」を提示した人たちがいました。彼らはそのようなものを「民芸(民衆的工芸)」と名付け、美は生活の中にあると語り、その考えは大きなムーブメントとなって日本各地へと広がっていくのです。
さて、民芸という考え方は、一体誰によって提唱されたのでしょう。
「民芸運動の父」と呼ばれた一人の思想家がいました。

『柳宗悦と美』土田眞紀著(玉川大学出版部) 2022年
ISBN:9784472060199
近代日本を代表する思想家の一人、柳宗悦(やなぎ・むねよし)は、1889年東京に生まれ、学習院高等科在学中には武者小路実篤や志賀直哉らと共に雑誌『白樺』を発刊し、神学や芸術に傾倒していきます。東京帝国大学を卒業後、朝鮮を旅した柳は日常使いの陶磁器に関心を持ち、やがて自国の伝統的生活に息づく優れた工芸品の数々を再発見していきました。この本には、美とは何か、なぜ民芸品は美しいのかを追究し続けた柳の生涯が興味深く描かれています。
民芸運動の中心となった同志には、柳のほかに、陶芸家の河井寛次郎(かわい・かんじろう)、同じく陶芸家で後に人間国宝に認定された富本憲吉(とみもと・けんきち)と濱田庄司(はまだ・しょうじ)がいました。
また、柳とともに日本各地を訪ねて民芸品や民具を調査した染色工芸家・人間国宝の芹沢銈介(せりざわ・けいすけ)や、柳が「“無心の美”を体現する芸術家」として高く評価した版画(板画)家の棟方志功(むなかた・しこう)などの作品群は、その個性あふれる独特の魅力で今なお人々をひきつけています。芹澤と棟方について描かれた、メディアセンターにある2冊の本をご紹介します。
『よみがえった奇跡の紅型』 中川なをみ著(あすなろ書房) 2019年 ISBN:978-4-7515-2943-0
琉球王朝時代に完成した沖縄を代表する染色芸術「紅型(びんがた)」。王朝の滅亡、そして太平洋戦争で失われかけた伝統の技を、紅型の魅力に魅せられた3人の芸術家が見事に復興させました。そのうちの一人が芹沢銈介です。
この本では沖縄の歴史をたどりつつ、そこで生まれた紅型がどのような道筋をたどってきたか、中学生にも分かりやすく語っています。紅型だけでなく、現代に受け継がれて私たちが目にすることができる様々な伝統工芸にも思いを馳せるきっかけとなるかもしれません。
『板上に咲く』原田マハ著(幻冬舎) 2024年 ISBN:978-4344042391
こちらは小説です。アートをテーマにした物語を多く描いている原田マハさんが棟方志功を妻の目線でつづった、史実に基づくフィクション。ゴッホに憧れた田舎の青年がいかにして世界のムナカタになったのか。芸術に向かう熱い想いと彼を支える人たちの温かいまなざしを感じながら、その作品を実際に見てみたくなります。
それでは最後に、「実際に足を運んで民芸品をこの目で見たい!」と思った人のために、ガイドブック的な本を1冊ご案内します。
『にっぽんの美しい民藝』萩原健太郎著(エクスナレッジ) 2020年 ISBN:978-4767827858
柳宗悦が初代館長を務めた東京・目黒の日本民藝館をはじめ、全国の民芸館や民芸店を地域ごとに紹介したこの本では、各地に伝わる民芸品の歴史や魅力が分かりやすく説明されています。
一つひとつが魅力的な場所、そして扱っているモノたちがなんとも魅力的な民芸品。パラパラめくるだけでも、頭の片隅に残って、いつか旅に出たときに「あ、そういえばこれは・・・」なんて出会いがあるかもしれませんね。
折しも今年は「民芸」という言葉が生まれて100年目だそうで、各地の美術館などで民芸についての展覧会が開かれています。日本人が大事にしてきた「用の美(=実用性と美が融合した概念)」、芸術の秋にちょっと触れてみませんか。
参考:日本民藝館HP
(東京学芸大学附属竹早中学校 司書 中村誠子)