「違いを知った!困った?良かった?ー文化について」(4年生向け)

2025-09-11 08:33 | by 富澤 |

 先日、4年生が「『文化』をテーマに探究学習を行う」と、クラスで来館して、それぞれが思う「日本文化」に関係する事を調べていました。子どもたちの調べ物を手伝いながら、「文化」という概念について、私自身も、ブックトークを作りながら少し探究してみたくなり、シナリオを作ってみました。いずれ、何らかの形で子どもたちにも聞いてもらえたら嬉しいです。


  突然ですが、こちらの写真をご覧ください(資料①、pp.120-121を見せる)。右と左、どちらにも斜めの縞のネクタイが写っています。付箋で隠してあるのは、国の名前と、国旗です。よーく見て、それぞれのネクタイの何がちがうのか、どことどこの国なのか、ちょっと考えてみてください。ちなみに、色がちがうのは、分かりやすいですが、あまり大事なポイントではありません。気づいた人はいますか?
 そう、向かって右上がり(左の写真)と、左上がり(右の写真)で、縞の向きが逆ですね。実は、左の写真は、イギリス式。右の写真は、アメリカ式です(付箋を外す)。この斜めの縞模様は「レジメンタルストライプ」と呼ばれる柄で、イギリス軍の「連隊」の旗が元になったデザインなのだそうです。左の、イギリスのレジメンタルストライプが先にあって、アメリカ式は、それを意識して、あえて反対になるように「ブルックスブラザーズ」という洋服のブランドがデザインしたのが始まりのようです。

【資料①】

『くらべる世界』
(おかべ たかし‖文/山出 高士‖写真、東京書籍、2018)
   ISBN: 978-4-487-81129-8

 こちらの本では、アメリカ式のレジメンタルストライプが「レップ・ストライプ」とも呼ばれていることが紹介されています(資料②、p.188)。

【資料②】

➁『Men'sモダリーナのファッションパーツ図鑑
               -デザインの用語や特徴がイラストでわかる』
(溝口 康彦‖著/福地 宏子‖監修/數井 靖子‖監修、マール社、2021)
 ISBN: 978-4-8373-0917-8

 さて、みなさんのお家にも縞のネクタイがあるようであれば、イギリス式か、アメリカ式か、ぜひ確認してみてください。先生たちが、縞のネクタイをしているときにチェックしてみるのも面白そうです。ネクタイの持ち主は、果たして意識して選んでいるでしょうか?ちょっとインタビューしてみるのも良いかもしれません。
 そう言えば、映画「ハリー・ポッター」シリーズでハリーたちが着ている制服も、縞のネクタイでしたね。当然、イギリス式だと思いますが、どうだったでしょう?イギリスの大学には、その大学独自のレジメンタルストライプの柄もあると書いてあります。だからこそ、「国柄や、出身大学などを暗に示すことにつながるため、公式の場では身につけないほうが無難といわれている」(資料①p.122)とのことで、ネクタイの柄一つとっても、その背景を探ってみると面白いですね。文化的な背景を知っておけば、うっかりまちがったメッセージを発したり、失礼なことをしてしまうことも減ります。

 ということで、長い前振りでしたが、今日は「文化」をテーマに「違いを知った!困った?良かった?」と題して、6冊の本を紹介します。ブックトークを聞きながら、「文化」をテーマに、私がなぜこの題をつけたのか、考えてもらえたら嬉しいです。

 イギリスの洋服の柄と言えば、もう一つ、タータンチェックもありますね。日本では、国の名前として「イギリス」と言いがちですが、正式には「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」が国名で、実はイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドという4つの国が集まってできている連合国なのです。タータンチェックは、もとはその4つの国のうちの、スコットランドの民族衣装だったのですが、やがてイギリス全体の象徴にもなった柄です。スコットランドと、イングランドが戦争を繰り返してきたことが、その過程にはあったようですが、詳しくは、こちらの『すてきなタータンチェック』(資料③)を読んでみてください。1つの柄について、1冊本があること自体、ちょっと驚きです。日本にも、日本を代表するようなデザインや、柄というものがありますね。他の国や地域についても、その文化を代表するような柄やデザインが思い浮かびますか?調べたら、色々知らなかったことを発見できそうです。

【資料③】

『すてきなタータンチェック(たくさんのふしぎ傑作集)』
(奥田 実紀‖文/穂積 和夫‖絵、福音館書店、2021)
   ISBN: 978-4-8340-8627-0

 先ほどのネクタイの例にもありましたが、知らないせいで、うっかり失礼なことをしてしまうなんてことは、どうしても時々やってしまいます。特に、普段は意識しないような、日常的な「当たり前」がちがう文化をもっている場所に行くと、驚いたり、失敗したりの連続になりそうです。
食事の場面なんか、まさに日常だと思いますが、どうでしょう?お友達が、急に給食を手づかみで食べだしたら、さすがに「なんてお行儀がわるい」といやな気持になって、「うわー、やめて!」と叫んだり、「どうしちゃったんだろう?」とすごく心配になってソワソワしたりしそうです。でも、世界には手で食べるのが当たり前、という文化が立派に存在しています。

 この『手で食べる?』(資料④)は、私たちのそんな「えーっ、やだ!お行儀悪くない?」という「なんだか落ち着かない気持ち」に、うまく寄り添った題名ですね。

【資料④】

『手で食べる?(たくさんのふしぎ傑作集)』
(森枝 卓士∥文・写真、福音館書店、2005)
   ISBN: 4-8340-2072-X

 この本によれば「世界中を見渡して、どうやって口に食べ物を運ぶかを見ると、だいたい3種類に分けられる」と書いてあります(p.31)。日本のように、おはしを使うところ、インドのように、手で食べるところ、そして、ヨーロッパのようにフォークとナイフを使うところ、の3つだそう。歴史的にみると、昔はヨーロッパでも、手で食べていたのですって(pp22-23)。フォークが登場するのは、なんと二、三百年前から、遅いところでは、二十世紀に入ってから、と書いてあって、私も驚きました。見てください。十七世紀~十九世紀のイタリアでは、スパゲティをこうやって手で食べている絵が、沢山あるそうですよ(同上)。次のページでは、子どもたちが、実際に手で食べてみています(pp24-25)。すごく食べにくそうで、写真からも手で食べる大変さを感じます。道具を使うようになったのも、納得ですね。この本の良いところは、こうやって、実際にやってみている姿が入っているところだと思います。「そういうことか!」と、すごく納得できると思いません?
 手で食べる文化は、インドや東南アジアの、お米を食べる国々に見られるのですが、私たちがお箸で食べているお米とは種類が違うので、お箸だと食べにくいことも、このページに詳しく紹介されています(pp.8-9)。また、手で上手に、きれいに食べるのが難しいこと、手で食べるときにも気をつけるお作法があることも教えてくれます(pp.32-35)。ヨーロッパや日本は、手で食べるところから、道具を使う方向に進化しましたが、手を上手に使う方向に進化していったインドや東南アジアのような文化もある、ということで、どちらが進んでいる、遅れている、あるいは、どちらが上でどちらが下、のように比べて良い、悪いと言えるようなものではなく、あくまで食べるものがどんなものかによって、より食べやすく、綺麗に食べられる方法を編み出していった、ということのようです。日本やヨーロッパでも、おにぎりやサンドイッチは手で食べている、とも本の中に書いてあって、それも「確かに!」とうなずかされました。

 文化の違いに最初に出会うと、すごく驚いたり、なんだか嫌だ、と否定的な気持ちになったり、要は「ショックを受けがち」なようです。知らないからこそ、うっかりやってしまったマナー違反が、その文化では、とても許されないこととして、大きな反感を買う可能性もあります。さっきの本のように「どうしてそうなんだろう?」と、もう少し深く知ろうとして、実際にやってみたりすれば、納得できて、むしろ「こういう時は、こういうやり方がいいのか!」と、良い気づきを得られたり、「すごいな」と、相手を尊敬したりする気持ちになったりもします。でも、そのまま良く知ろうとしないと、その「嫌な気持ち」が解消されないまま、「あいつらは自分たちとは違う」「分かり合えるわけがない」と決めつけて、関係を悪くしてしまう悲劇も少なくありません。でも、違いを「面白い」「素敵」と思えた場合には、それが最初から良いものをもたらすこともあります。

 『小公子』(資料⑤)の主人公「セドリック」と、そのお祖父さんの場合がそうでした。

【資料⑤】

『小公子(岩波少年文庫 209)』
(フランシス・ホジソン・バーネット∥作/脇 明子∥訳、岩波書店、2011)
   ISBN: 4-00-114209-9

「セドリック」は、アメリカのニューヨークで生まれました。とても可愛くて気立ての良い男の子で、お父さんとお母さんに大事にされて幸せに大きくなるのですが、まだセドリックが小さいときに、お父さんは病気で亡くなっています。7歳のある日、このお父さんが、実はイギリスの裕福な伯爵の息子だったこと、お祖父さんが亡くなったら、セドリックが伯爵の位を引き継ぐことが急に明らかになり、バタバタとイギリスに渡ることが決定します。
 お母さんと二人、居心地は良くても決して大きくはない家に住んで、質素な生活をし、一番の仲良しは角の雑貨屋さんのおじさん、という日々を送っていたセドリックが、イギリスでどんなところに住むことになったのか、ちょっと紹介します(pp.118-119を朗読)。
 1マイルは約1.6kmですから、3マイル半として計算すると、5.6kmもあることになります。大泉学園の駅から学校までが約0.5kmなので、その10倍以上歩いて、やっと門から玄関につけるというありさまです。これでは、まだ自動車が走る前の時代、「貴族」が自分の馬や馬車を必ず持っていたのは当たり前ですね・・・家から門まで出るだけで、1時間半近くかかるなんて、どこへ行くにも不便でしょうがないじゃないですか。ちょっと家から出れば、すぐに自分の行きたい場所に行ける生活をしていたセドリックが、「門からそんなに遠いところに住むんじゃ、たいへんですね」というのも、本当にもっともです。
 では、もう少し先に進んで、玄関まで行ってみましょう(pp.120-pp.121を朗読)。はい、ようやく着きました。出迎えるのは、お屋敷で働いている沢山の召使たちです。お祖父さんが、玄関で待っているようなことはありません。この後、お祖父さんの部屋へ会いに行くのですが、その時も召使が一人、案内役をしてくれます。
 ついでに、お祖父さんのいる部屋の様子も紹介します(p.123)。なんとも厳めしいですね。このお祖父さんは、この部屋の様子にふさわしい、外見も内面も厳めしい人です。かんしゃくもちで頑固で、人にいじわるな態度をとるのでみんなに怖がられ、嫌われているのです。でも、セドリックはそのことを知らずに、お祖父さんがとても良い、素晴らしい人と信じ込んで会います。アメリカの自由な文化のなかで、身分制度などあることすら知らず、誰とも分け隔てなく付き合ってきたセドリックは、この大邸宅を見ても、お祖父さんに会っても、決して怖がったり、小さくなったりしません。素直に、綺麗なものは綺麗、すごいものはすごいと言いますし、大貴族のお祖父さんにも、仲良しの雑貨屋のおじさんに話しかけるのと同じテンションで話しかけます。今まで、誰からも、そんなふうな態度で、感じよく話しかけられたことのなかったお祖父さんは、孫の様子にすっかり驚いてしまいますが、初対面から「悪くない」と思いはじめ、だんだんにセドリックのことが大好きになってしまうのです。そうなれば、悪い結果にはなりようがありません。
 セドリックが大人たちをびっくりさせて振り回す様子がとても面白いので、ぜひ読んでみてください。イギリスの貴族が「お城」でどんな生活をしているのか、ちょっと憧れる、覗いてみたい、という人にもおススメです。翻訳をした脇さんが、この物語の背景を教えてくれる「物語のまえに」と「訳者あとがき」も、とても面白くて勉強になりますよ。「文化」に興味をもった人は、ぜひそこまで読んで、この本を味わいつくしてほしいです。

 ここまで、「文化」をテーマに本を紹介してきましたが、「人間の生活のもと」という意味もある「衣食住」、つまり、着るもの、食べるもの、そして住むところ、という言葉を意識して、その順番での紹介にしてみました。ある集団が大事にしている価値観や、こだわりが反映されているものに、私は「文化」を感じます。それは、私たちの生活と深く結びついて、普段は案外「当たり前」と思って顧みることもしません。けれど、一たび「違う」ものに出会い、最初のショックを乗り越えて相手と関わり、考え続けたとき、相手の文化、そして自分の文化が、どんなものであるのかが、ようやく見えてくるものなのかもしれません。みなさんは、どんなものに「文化」を感じますか?

 最後に、様々な文化があること、そして、それを広い、開かれた心で受け止めることで得られる豊かさを、私が感じる絵本『おちゃのじかん』(資料⑥)を全部読みます。ぜひリラックスして、楽しんで聞いてくださいね。

【資料⑥】

『おちゃのじかん』
(土橋 とし子∥著、佼成出版社、2013)
   ISBN:4-333-02586-2

 (東京学芸大学附属大泉小学校 司書 富澤佳恵子)


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