音楽✖文学《ヨルシカの中の文学》
2026-06-09 13:09 | by 中村 |
中高生に人気の音楽ユニット、ヨルシカ。様々な文学作品をモチーフに、心に柔らかく響く音楽を届けてくれます。アニメやドラマの主題歌にもなっているので、それと気づいていなくても耳にしているかもしれませんね。
「文学の要素を組み入れた音楽を作りたい」という想いから生まれた数々の楽曲は、聴くと「モチーフとなった文学作品も読んでみたい」と思わせる力があるようです。カウンターで「最近『老人と海』がたまに貸し出されるようになったな」「『アルジャーノンに花束を』が結構読まれている気がする」などと感じるのは、もしかしたらヨルシカの影響かもしれません。
そんなヨルシカの楽曲に描かれた文学の世界を、ブックトークでご紹介します。ここで採り上げなかった本も含めてしばらく館内に展示もするので、心惹かれるものがあったら手に取ってほしいと思います。
※以下、書誌情報を緑色、楽曲情報をオレンジ色で記述
『檸檬』梶井基次郎著(角川文庫) 2013年 ISBN:978-4041008386
果物屋で一つの檸檬を買った「私」。その檸檬の色、冷たさ、重さ、香りが、陰鬱な「えたいの知れない不吉な魂」に抑圧された「私」の心を一時的に軽くします。その後訪れた書店の本の上に檸檬を置き去り、「私」はそれを爆弾に見立てて、書店が木っ端微塵になるのを愉快に想像しながら、京の通りを下っていきます。
「爆弾魔」(『盗作』収録)の中で歌われる焦燥感や行き場のない苦しみが、『檸檬』の「私」が抱える「不吉な魂」に重なり、それは若者の共感を呼ぶのでしょう。
『夢十夜』夏目漱石著/しきみイラスト(立東舎) 2018年 ISBN:9784-8456-3295-4
「こんな夢を見た」という書き出しが有名な、文豪・夏目漱石による幻想短編集。時代も視点も登場人物も様々な、10の不思議な夢の世界が語られ、その世界観と美しい文体が読後に深い余韻を残します。この「乙女の本棚」シリーズは、文豪の名作に人気イラストレーターが挿絵を添えた、乙女に限らず男子にも人気のシリーズで、『夢十夜』には『刀剣乱舞』のキャラクターデザインなどで知られイラストレーター・しきみが華やかなイラストを描いています。
音楽画集『幻燈』第2章は「第一夜」から「第十夜」までの10作品で構成され、「第一夜」は漱石の『夢十夜』の世界観そのままに、いつかの再会を願う大切な人を歌っています。(「第一夜」以外の楽曲はインストゥルメンタルです)
『尾崎放哉全句集』尾崎放哉著(筑摩書房) 2008年 ISBN:978-4-480-42418-1
一昨年の卒業生で、俳人・尾崎放哉を研究テーマに選んだ生徒がいましたか、彼女が放哉を知ったきっかけがヨルシカでした。
放哉は五・七・五の定型に縛られない自由律俳句で有名な俳人です。「咳をしても一人」という句を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。その生涯もかなり型破りで破滅的だったようですが、貧しさと孤独の中で極限までそぎ落とされた言葉の数々は私たちの心を惹きつけます。この本は俳句だけでなく、日記や書簡も収録されていて、放哉を深く知ることができるでしょう。
「噓月」(『創作』収録)には、「こんなよい月を一人で見てる」など、放哉の句を下地にした歌詞が見られます。聴く人によって様々な受け止め方がされる楽曲だと思います。
『よだかの星』日本の童話名作選 宮沢賢治作/中村道雄絵(偕成社) 1987年 ISBN:4039633806
森の仲間たちから疎まれている醜い鳥・よだかは、生きるために虫の命を奪いつづけねばならないことに気付き、自分の存在に絶望します。太陽に焼かれようと空高く昇るよだかを、太陽も星座たちも拒みますが、よだかは最期の力を振り絞ってさらに飛翔を続け、やがて青い光となりました。
「靴の花火」(『夏草が邪魔をする』収録)はよだかの名前とともに、下界を見下ろしながら彼方へ去っていく「僕」の言葉が綴られています。自分ではどうにもならないことに苦しめられたり、自分の存在を否定して押しつぶされそうになったり・・・そんな思春期の心の揺らめきがよだかと重なるのかもしれませんね。組み木で作られた挿絵のこの絵本で物語を味わってから、ヨルシカの音楽を聴いてほしいです。
ヨルシカの楽曲に散りばめられた文学作品、もっと知りたくなりましたか?ジュール・ヴェルヌ作『海底二万里』、オスカー・ワイルド作『幸福な王子』、井伏鱒二著『山椒魚』、万葉集に正岡子規・・・誰のどんな文学作品がヨルシカの楽曲にオマージュされているか、ぜひ探してみてくださいね。
※参考:『ダ・ヴィンチ』2026年4月号特集「私たちをつなぐ、ヨルシカ」
(東京学芸大学附属竹早中学校 司書 中村誠子)