とびらを開こう!
2024-07-14 06:44 | by 富澤 |
4年生が、
〇「人類による発見、探検、移住」をテーマにした探求単元に取り組んでいる
〇主に「発見」にフォーカスが当たる内容になりそう
ということを先生から教えていただいたので、「何か子どもたちの興味・関心をひく、関連したブックトークを」と思い、行ったものです。断片的な情報から、司書が勝手に解釈して作成したブックトークなので、どこまで授業ときちんとリンクできていたかはわかりませんが、紹介した本全てに借り手がつきました。特に1冊目として紹介した『ややっ、ひらめいた!奇想天外発明百科』には、3クラス全てで予約がかかり、その後も「あの本は?」と何度も聞かれることになったので、司書としては「しめしめ」とほくそ笑んだのでした。
≪大まかなシナリオ≫
今日は「とびらを開こう!」というテーマで、3冊の本を紹介します。
まずは、文字通りの「とびら」の話から。皆さんは、紀元1世紀、約2000年も前に「自動ドア」があったのを知っていますか?古代ギリシアの神殿のとびらに、ヘロンという人が、自動で開く仕組みを作ったのです。電気もないところで、一体どうやって?と知りたくなりますよね。
その仕組みは、こうでした。
【本のページを見せながら、水と熱を利用した装置についてかいつまんで説明】
『ややっ、ひらめいた!奇想天外発明百科』
マウゴジャタ・ミチェルスカ/文
アレクサンドラ・ミジェリンスカ/絵
ダニエル・ミジェリンスキ/絵
阿部優子/訳
徳間書店、2016年
ISBN:978-4-19-864039-2
もしかしたら、皆さんでも、同じようなものを理科の先生と協力したら作れるくらい、身近な素材でできあがっているしくみです。この仕組みでとびらが自動で開く理由は、完全に科学的に説明できますが、2000年前の人たちはさぞ驚いたことでしょう。しかも、この当時すでに「温まった空気が大きくなる」ことが知られていたことにも、それを使って、このような装置を考えだして形にしてしまったことにも、びっくりです。まずは科学的な発見があって、それを使ったしくみや装置の発明につながった、ということですね。
この本には、この自動ドアのような「すごい!」と思うようなものから「えっ、それ、何の意味があるの?バカじゃない?」と、思わず笑ってしまいたくなるようものまで、色々な発明が紹介されています。ちなみにアメリカでは、長い耳の犬が、食事のときに耳が器に入らないようにするための器具や、「おなら吸収パッド」、「切手なめ器」なんてものにも、大真面目に特許が下りているそうですよ!一見バカバカしく思えるアイディアも、追及してみる価値は大いにあることがわかりますね。
神殿のとびらが自動で開くのを見た人の中から、その仕組みを知りたくなって学ぶことで、さらなる発見のとびらを開く人もいたかもしれません。というわけで、次は、学問のとびらを開いてみましょう。
『雪の写真家ベントレー』
ジャクリーン・ブリッグズ・マーティン/作
メアリー・アゼアリアン/絵
千葉茂樹/訳
BL出版、1999年
ISBN:4-89238-752-5
この本の主人公は、雪の結晶の写真を撮って、その美しさを世界に広めた人です。
1865年にアメリカの農村で生まれたベントレーは、自然が好きでした。特に、雪に魅せられていた彼の転機は、顕微鏡を手にしたことです。顕微鏡で見た雪の結晶の美しさの虜になってしまって「なんとかしてその素晴らしさを沢山の人に知ってもらいたい」という思いにかられたのです。最初はスケッチをしていたのですが、雪はいつもその繊細な美しさを写し取る前に溶けて消えてしまいました。なんとしても雪の美しさを残したかったベントレーは、両親に相談して17歳のとき、乳牛10頭以上の値段のする、当時としては世界で一番性能のいい、顕微鏡つきのカメラを手に入れるのです。
カメラを手にしても、ただシャッターをきればそれで良いということにはならず、満足のいく美しい写真に仕上げるために、寒い部屋の中で地道な作業を繰り返すことになりました。そしてついに、雪を美しく撮影するための効果的なやり方を発見するのです。
けれどベントレーは、その写真によって大金持ちになったわけではありません。それどころか、お金が少しでも入ると、全部より良い雪の写真のためにつぎ込んでしまうような人でした。そして、その素晴らしい写真を集めた本を出版することがようやく叶った1か月後に、肺炎で亡くなってしまったのです。
でも、ベントレーが撮影した写真と残した研究の成果は、雪の研究にとても大きな貢献をしました。日本の研究者で、世界的に有名な雪の研究者である中谷宇吉郎博士も、このベントレーの写真に魅せられて雪の研究に向かった人の一人なのだそうですよ。
ちなみに、ベントレーの雪の写真の本は、英語ですが今でもAmazonで買うことができますし、図書館でも借りることができます!皆さんも、ぜひ手にとってみてくださいね。
“Snowflakes in Photographs”
BENTLEY,W・A
Dover Publication
2000
ISBN:0486412539
最後は、もう少し身近な発見の話をしましょう。『せかいでさいしょの○○○』、あえて題名を隠してみました。さて、一体世界で最初の何の話なのか、推理しながら聞いてください。
『せかいでさいしょのポテトチップス 』
アン・ルノー/文
フェリシタ・サラ/絵
千葉茂樹/訳
BL出版、2018年
ISBN:978-4-7764-0829-1
【本を全て読み聞かせする】
もうわかりましたね、ポテトチップスでした!この絵本は、本当にあったことを元にして作られているそうで、
【著者によるあとがきを見せる】
ここに、コックのジョージ・クラムの写真や、そのお店、ポテトチップスの箱の写真も載っています。この話はもはや伝説となってしまっていて、本当にこの人が最初のポテトチップス開発者かというと、この記録以前に書かれたレシピ本の中に、そっくりのものがあったりするようなので、はっきりと言い切ることはできないようです。でも、ポテトチップスがこれだけ広まる、大きなきっかけを作った人の一人であることは、まちがいありません。
最後に開いたのは、何のとびらだったでしょう?もちろん、新しいお料理や、新しい美味しさへのとびらでもありました。でも、クラムさんが「俺の料理にケチをつける奴は出ていけ!」というような人だったら結果はどうなっていたでしょうか。クラムさんが、いたずら心とユーモアのある人だったことが、新しい発見にとっては重要だったように思います。いじわるなお客さんに対しても広い心で接して、試行錯誤を繰り返すことで、新しいとびらを開いたわけです。
というわけで、最後に開かれたのは「心のとびら」だと、ここは思い切って言うことにします!「10の学習者像」の中にも「心をひらく人」という人物像がありますね。心のとびらを大きく開いて試行錯誤すると、面白くて素敵な新しい発見につながるのではないか、と、私は今日ご紹介した3冊の本を読んでいて感じたのですが、皆さんはどう思うでしょうか。ぜひ、本を読んで教えてください。
(東京学芸大学附属大泉小学校 司書 富澤佳恵子)