『ランカ にほんにやってきたおんなのこ』

2020-06-10 13:53 | by 井谷(主担) |

 今回紹介する本は、この春、偕成社より出版された『ランカ』という絵本です。
主人公はよその国から両親と一緒に日本にやってきた女の子ランカ。言葉も風習も違う日本の学校で過ごすランカは、故郷が恋しくてなりません。わからない言葉、慣れない習慣の中で、ランカはひとりぼっちです。そんなある日故郷を想い出したランカは校庭の木に登ります。するとランカの足を引っぱる男の子が・・・。異国の学校ですごす少女が、少しずつ、友達と心がつながっていく様子がえがかれています。温かい絵で、ストーリーを表現しているのは松成真理子さんです。作者の野呂さんは、小中学校で日本語指導の先生をしていらっしゃいます。 以前の勤務校で野呂先生に学校図書館でお会いしたご縁で、絵本に込めた思いや、外国からやってきた子どもたちのことなどをお電話でお聞きしました。


『ランカ にほんにやってきたおんなのこ』
 野呂きくえ作 松成真理子絵
 偕成社








Q.こんにちはお久しぶりです。野呂先生には昨年度外国から来た子どもたちの日本語指導で学校の図書館を使っていただきました。まず最初に野呂先生が日本語教師を始められたきっかけを教えてください。
A.日本語教師の仕事を始めて25年くらいになります。大学でフィンランド語を専攻していたのでいつかフィンランドで働きたいと考えていました。3人目の子どもを生んで仕事を始めたいと思ったとき日本語教師ならフィンランドで教えられるかもしれないと考え、日本語教師の勉強を始めました。最初は娘の保育園の外国のママたちに教えることからスタートし、東工大にきている日本学術振興会の研究員に10年以上日本語を教えていました。その後公立の小中学校の子どもたちの日本語指導をしています。


Q.『ランカ』の本を出版された経緯を教えていただけますか。
A.最初はフィンランド語の絵本の翻訳を偕成社さんに持ち込んだのですが、そのときに日本語を教えている話をしたところ、「その子どもたちのことを書いてみませんか?」と出版社の方から奨められて、書くことになりました。

Q.先生がこの絵本の中で一番伝えたかったことはなんですか?
A.それは、「お友達が一番大切だ。」ということです。どんなに日本語が上手になってもお友達がいなかったら本当に寂しいんですね。お友達がいたらどんどん日本語ができるようになるし、学校が楽しくなります。この本は外国人児童がいるクラスの先生にもぜひ読んでほしいと思って書きました。外国から来た子どもたちは最初ポツンとしていて、絵本の中に「ちきゅうにひとりぼっちのきぶん」と書きましたが、どの子もそういった気持ちを学校で味わっています。


Q.先生は子どもたちに日本語を教える時間を通して、子どもたちの気持ちが手に取るようにわかるようになるのですね。
A.はい、そうですね。まず信頼関係を築くようにしています。信頼関係が築ければ心を開いてくれるようになりますから。心を開いてくれると、日本語をどんどん覚えてくれます。


Q.子どもたちと信頼関係を築くのに1番大事にしていらっしゃることはなんですか?
A.う~ん、それは「その生徒のことを好きになる」ということですね。


Q.「ランカ」の紹介記事で拝見したのですが、日本語授業の時に教室まで子どもを迎えにいらして、「いってらっしゃい。」と「おかえりなさい。」をクラスのみんなに言ってもらうように先生に頼まれていらっしゃるそうですね。それは、どのような意図でそのようにされていらっしゃるのでしょうか?
A.特に小学生は、本人が「いってきます。」をみんなに言うことによって、クラスのみんなに日本語を習いに行くんだなということをわかってもらえます。帰った時に「ただいま。」「おかえりなさい。」の言葉があると、子どもは受け入れられた気持ちになり教室に戻り易いのです。それがないと、どのタイミングで教室に入っていいのかわからなかったりします。日本語の勉強に行っていることをクラスメイトに知ってもらえると、「じゃあ、○○ちゃん、この色はなに色ですか?」とか、教室での会話もうまれます。日本語を勉強するのはその子の学力をつけるためにすごく大切なことですが、それにプラスして、友達がいるということが子どもにとって大きな支えになるのです。


Q.絵本の中で主人公の女の子の国籍ははっきりかかれていませんが、“ランカ”や、故郷のお友達の名前はアジアの国の女の子のポピュラーな名前なのですか?
A. この名前は実はスリランカの女の子の名前です。今回絵本の中で国を限定しなかったの
にはわけがあります。アジアの国の子にこの本を読んだとき、「これ私の国!」と喜んで、色々な事を話してくれるようになりました。実はこの本は今まで教えた様々な国の子供たちのつぶやきをあつめて作った本なんです。たとえばお国ではお昼は外で食べるとか体育の授業の様子とか色々な国の様子がはいっています。


Q.わたしが最初に読んだときはランカちゃんの気持ちの変化を中心に読みましたが、2回目はランカちゃんの故郷の文化が魅力的に描かれていることに目を奪われました。松成さんの素敵な絵と野呂先生の文で、日本の子供たちが外国の学校や文化の魅力を発見できるという面があると思いました。学校の売店でお菓子が買え休み時間に食べられるなんていいなあとか。
A.色々な国の子どもたちが日本に来ていて、それぞれの文化はとても素敵です。そのような他の国の姿を日本の子どもたちにも知ってほしいなとも思います。
また、気づいてほしいのは、日本の子どもたちが海外に行ったときに、自分もランカになるかもしれないということです。現地の学校に入り、言葉も分からず寂しい思いをするかもしれない。でもお友達がいれば元気になれる。そういうことも思ってかきました。


Q.日本語指導を学校図書館でされていらっしゃることが多いと思いますが、学校図書館で授業をするということに関してはいかがですか?
A.実は学校の図書館を使わせてくださいと私の方から学校にお願いしています。何もいわないと会議室や相談室を準備してくださることが多いのですけれど。図書館にはたくさんの本があるんですね。わたしは日本語の文法を教えるときも絵本をたくさん使うんです。ある文法の表現がのっている絵本を使ってその文法を定着させるとか、作文指導で絵本を読んであらすじや感想を書かせるなど絵本を使うことが多いので、学校の図書館を希望するんです。「こういう文法がのっている本はありますか?」と司書の先生にうかがうと、いろいろな本を教えていただけます。少し力がついてきた子どもが厚い本を読みたがったら「中身の文字が少なく絵が多いけれど見かけは厚めの本はありますか?」とか、行事に合わせて、「お芋ほりの本はありますか?」とか。わたしはどういう本があるかわからないので、司書の先生に出していただきます。語彙を増やすにはミッケがいいとか教えていただいたり、わたしは司書の先生からすすめていただいた本で授業をすすめることが多いです。それでいつも学校図書館をおかりしたいと思っています。


Q.このホームページを見るのは学校の先生方や司書の方たちが多いのですが、最後に、先生からみなさんへ伝えたいメッセージはありますか?
A.外国からきたばかりで日本語がわからない子どもたちに、先生方には積極的に笑顔で声をかけていただきたいなと思っています。その子の言葉がわからないからと躊躇されることがあるかもしれませんが、日本語で話しかけてくれたら気持ちは伝わるので。たくさんの方から声をかけていただくと子どもたちはとても幸せな気持ちになれます。
 そしてわたしは、この本を道徳の授業で使っていただけたらと考えています。外国の児童が主役ですが、日本の子どもたちでも学校に行くのが不安で「ちきゅうにひとりぼっちのきぶん」と感じている子がいるかもしれません。そんな時、気にしてくれる友だちが一人でもいたら大きな支えになると思います


S:わたしも今のお話を心にとどめたいと思います。今日は貴重なお話をありがとうございました。

ステイホームの期間での電話越しでのインタビューでしたが、日本の子どもたちが言葉もわからない外の国にいったら、ランカは自分であるかもしれないということに気づいてほしいという野呂先生のお話が大変印象に残りました。学校でこの絵本を扱うときはこのことに読む人も聞く人にも思いがいたるような読み聞かせや本の紹介ができたらと思います。
   

 (東京学芸大学附属小金井中学校 司書 杉本ゆかり)

 


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