2020新型コロナウィルス対策下の 学校図書館活動

2020-07-08 13:07 | by 村上 |

 2020年5月8日、「2020新型コロナウィルス対策下の 学校図書館活動」というサイトが立ち上がりました。立ち上げたのは、青山学院大学准教授の庭井史絵先生です。庭井先生は、2019年3月まで、慶應義塾普通部で司書教諭として長年勤務され、現在大学では図書館情報学と教育学をご専門にされています。


   サイトが立ち上がると、多くの学校図書館関係者から記事が寄せられ、またご自身でも日々情報を収集し、それらを整理発信することで、蓄積されていきました。コロナ禍のなかでご自分の仕事の参考にされた方も多かったのではないでしょうか?

 ちょうど2ヶ月が過ぎたところで、庭井先生にインタビューをお願いしたところ、快く承諾いただいたので、掲載させていただきます。編集部で4つの質問をさせていただきました。

①なぜこのようなサイトを個人で立ち上げようと考えたのですか?

 2020年4月23日に文部科学省総合教育政策局地域学習推進課が公表した「休館中の図書館,学校休業中の学校図書館における取組事例について」を見て,非常に驚きました。例えば,学校図書館の機能や役割のごく一部(貸出しと本の紹介,自主学習の場の提供)しか取り上げられていないこと,読書活動への言及はあっても在宅で学ぶ児童・生徒に対して必要な情報を提供するという役割が想定されていないこと,そもそも「司書教諭」という語が入っていないこと,などです。

 これは,平時における学校図書館活動がいかに知られていないかを表しているわけですが,個人的に見聞きする司書教諭や学校司書の取り組みはこの程度ではなく,教職員と連携しながら自宅学習を支えている,あるいは,授業を配信する先生方をサポートしている例がたくさんありました。これをぜひ可視化したいと思ったのが第一の理由です。


 また,他校でどのようにしているか情報交換できる環境にある人はいいのですが(例えば,研究会に所属しているとか,地域の同業者とSNS等でつながっているなど),そうでなければ,なかなかこの誰も経験したことのない状況で何かに手をつけることは難しいだろうと想像しました。そうすると一番安全なのは,学校図書館を閉じておく(何もしない)ことだと判断してもおかしくないわけですが,それでは,学校教育の一翼を担うことができない。そこで,積極的な取り組みからささやかな試みまで,場に応じた「何か」をするためのヒントになるような情報を提供できたら…と考えたことが第二の理由です。

 サイトを立ち上げた5月初旬の段階では,全国学校図書館協議会(全国SLA)や学校図書館問題研究会などのサイトに有益な情報は公開されていませんでした。もう少し時間がたてば,機関誌等でも取り上げられるはずなので,とりあえず,今,対応を迫られている司書教諭や学校司書になにか役立つことを発信しようと考えて,個人的にこのような情報共有の場を作った次第です。

 もう一つは,第一の理由と重なるのですが,学校図書館の取り組みが知られていないからこそ,きちんと記録しておく必要があると思いました。実際,ネットワーク上のいろいろな場所で(例えば,メーリングリストやFacebookなどSNSで),個々の活動が報告されています。しかし,これらは時間がたつと読めなくなるかもしれないし,そもそもサービスを利用している人しか見ることができません。各団体が集約する情報と,SNS等で発信されている情報のはざまにあるものを集めておいて,将来的にこれらをまとめることができれば,現場の活動を網羅的に残せるのではないかと思いました。


② 寄せられた回答を見て、どのようなことを感じていらっしゃいますか?

 厳しい言い方かもしれませんが,やはり平時の学校図書館活動以上のことはできないのだなぁというのが第一印象です。普段,どれぐらい学校の教育活動に関われているか,教職員とコミュニケーションが取れているかが,緊急事態で何ができるかを左右するという当たり前のことを再確認しました。もちろん,電子図書館サービスの導入やメール・レファンレスなど,今後につながる新しい取り組みを始めた方もいらっしゃいましたが,何もないところから始めているわけではなく,それまでのつながりや下準備があってこそのサービス開始だと受け止めました。

 本サイトへの要望として,どうすればいいか指針を示してほしい,正しい情報を提供してほしいという声もいただきましたが,そこは敢えて,事例として記録することに徹して,いただいた情報の取捨選択はしませんでした。一個人としての力量を越えるというのもありますが,どの取り組みが「正しい」かは,私たち学校図書館員が,それぞれの現場で要不要を含めて判断していくしかない,また振り返って検証するしかないと思っています。そういう意味で,この状況は,自分自身の情報リテラシーが試され,またブラッシュアップさせる機会だったと感じています。

③ 庭井先生は、大学に移られましたが、ご自分が現場に立たれていたとしたら、どのような対応をいちばんに考えたと思いますか?

 なかなか想像することは難しいですが,まずは,先生方が何をしているか,何をしようとしているか知ろうとしたと思います。そのうえで,生徒に本を届けるのがいいのか,授業と連携して情報提供するのがいいのか,できることを探ったでしょうか。
ただ,文科省がいうように,郵送による貸出しや本の紹介をしたとしても,読書という観点だけではなく,学習のサポートという役割を強く意識したと思います。また,図書館という場所や,本という物理的存在を介さない活動を認識してもらう機会だと捉えたかもしれません。

 今回,このサイトを立ち上げて,いろいろな学校の取り組みを知り,「本の貸出だけじゃない」という自分の問題意識が,多くの学校図書館員と共有できると分かったことが大きな収穫でした。

④ サイトでの発信は、長期戦で続けていかれるのでしょうか?最終的にはどのようなことをめざしているのでしょうか?

 6月末の段階で,とりあえず情報共有する場を作りたいという目的は達成したと思うので,サイトの更新や情報提供のお願いは終えていく予定です。その後,①の最後に述べたように,この数か月でどこにどんな情報が集まったのかを分析し,それらを集約して,何らかの形でまとめておきたいと思っています。その際,本サイトに情報を寄せてくださった方にインタビューをして,事例報告だけでは伝わりにくい課題や,個々人の試行錯誤を明らかにできればと考えています。

 


 (編集部から)ご回答ありがとうございました。長年、司書教諭として生徒の学びをサポートしてきた庭井先生だからこそ、「貸出しと本の紹介,自主学習の場の提供」にしか言及されていない文科省の発表に大きな疑問を感じたというのも頷けます。サイトに寄せられた個々の取組を読むと、それぞれの学校図書館が、どのような役割を果たしてきたかも見えてきます。そして非常事態のときは、「やはり平時の学校図書館活動以上のことはできないのだなぁ」と第一印象を語られていますが、一方で「『本の貸出だけじゃない』という自分の問題意識が,多くの学校図書館員と共有できると分かった」とも。
  
 そう考えると、多くの学校では、非常事態で思うようにできなかったが、何ができなかったのかも見えてきて、それが学校図書館全体の気づきや変化に通じるなら、庭井先生の立ち上げてくださったサイトの意義は大きいのではないでしょうか?

 東京学芸大学附属学校では、今回、"カーリル発 COVID-19 学校図書館支援プログラム" に大変お世話になりました。それがきっかけで、学校図書館の蔵書が自宅から検索できる意味にも気づきました。できなかったことも多かったこの春ですが、新しいサービスに気づけたこと、そして、実はさらなる可能性も見えてきました。8月1日(土)には、カーリル代表の吉元龍司さんをお迎えして、Zoomで学校司書研修を企画しています。そもそも、貸出がいまだに手書きで、検索の手段がない学校にも、朗報です。貸出は手書きでも、検索はPCやスマホやタブレットでできるサービスが可能だと、吉本さんからお聞きしました。学校図書館がデータの世界でつながることの可能性を皆さんで考える研修会です。

 庭井先生の情報収集は、ひとまずここで一区切りということですが、新型コロナウィルス下の学校図書館運営はまだまだ続きます。これから新たにできたことがあれば、情報はぜひ庭井先生に送られてはどうでしょうか?私たち附属学校司書も、情報を共有できたらと思っています。                   


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